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2.分野別イニシアティブの策定

 日本は、ODA大綱、新ODA中期政策に加え、分野別の援助方針を明らかにして、推進していくためにいくつかの分野別イニシアティブを打ち出しています。これまでに、成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN:Basic Education for Growth Initiative)、「途上国の女性支援(WID:Women in Development)イニシアティブ、沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI:Infectious Diseases Initiative)などを策定してきました。2005年には、1月に「防災協力イニシアティブ」、3月に「ジェンダーと開発(GAD:Gender and Development)イニシアティブ」、6月に「「保健と開発」に関するイニシアティブ」を発表したところです。以下では、これらのイニシアティブの概要について説明します。

(イ)防災協力イニシアティブ
 2004年12月26日に発生したインドネシア・スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波は、広範囲に甚大な被害をもたらし、大規模な自然災害が人命や人々の生活基盤を一瞬にして破壊するということを改めて浮き彫りにしました。日本は、これまで数多くの大規模災害を受けた経験により高い防災対応能力を有していることから、それらを活用した積極的な防災・災害復興分野での協力を行っています。今般の地震・津波災害においても、災害発生直後から、資金、知見、人的貢献の3点で最大限の支援を表明し、国際社会にその存在感をアピールしました。
 こうした日本の防災・災害分野での支援をより一層強化するため、2005年1月に兵庫県神戸市で開催された国連防災世界会議の機会には、ODAを活用した災害分野の協力に関する基本方針となる「防災協力イニシアティブ」を発表しました。
 このイニシアティブは、開発途上国の自助努力支援や災害予防の視点を一層強化するとともに、災害の各段階に応じた一貫性のある協力を打ち出しており、地震、洪水・土砂災害、火山噴火、干ばつなどの様々な自然災害に的確に対応するためのアプローチを示しています。今後は、このイニシアティブをもとに、日本が持つ豊富な経験や知識、優れた技術を効果的に活用しつつ、開発途上国との対話を通じて、質の高い協力を引き続き積極的に行っていきます(インドネシア・スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波災害の支援については第II部第2章第1節3、防災協力については第II部第2章第2節3.(6)を参照して下さい)。

国連防災世界会議で、開催国として演説する小泉総理大臣。(写真提供:内閣広報室)
国連防災世界会議で、開催国として演説する小泉総理大臣。(写真提供:内閣広報室)

囲み II-2 防災協力イニシアティブ(概要)

(ロ)ジェンダーと開発(GAD)イニシアティブ(注1)
 日本は、1995年に北京で開催された第4回世界女性会議においてWIDイニシアティブを発表し、開発途上国における女性のエンパワーメント(注2)に対する支援と、開発における女性の参加・受益の確保に取り組んできました。この会議で採択された北京宣言・北京行動綱領を指針とする各国の努力の結果、世界の女性が置かれている状況は大きく改善されてきましたが、依然としてジェンダーの格差は存在しています。また、紛争やHIV/エイズなどの感染症、人身取引(トラフィッキング)、自然災害、環境問題など、脆弱な立場にある女性により深刻な影響をもたらす地球的規模の課題など、新たなジェンダー課題への対応の必要性が高まっています。
 こういった国際社会の変化を踏まえ、日本は、北京会議の開催とWIDイニシアティブの策定から10年目を迎える節目の年に、WIDイニシアティブを抜本的に見直して、新たに「GADイニシアティブ」を策定し、2005年3月に開催された第49回国連婦人の地位委員会の場で発表しました。

裁縫訓練を受ける除隊した女性兵士達(エリトリア:除隊兵士社会再統合プログラム)(写真提供:高橋ユリ)
裁縫訓練を受ける除隊した女性兵士達(エリトリア:除隊兵士社会再統合プログラム)(写真提供:高橋ユリ)

改良かまどを使った研修の様子。男性と女性双方の家事の負担を軽くすることが期待される。
改良かまどを使った研修の様子。男性と女性双方の家事の負担を軽くすることが期待される。

 従来のWIDイニシアティブは、女性の教育、健康、経済・社会活動への参加という3つの重点分野に支援が限られる印象を与えがちでした。そこで、GADイニシアティブはあらゆる分野にジェンダーの視点を反映することを重視し、ODA大綱の重点課題である貧困削減、持続的成長、地球的規模の問題への取組、平和の構築、のそれぞれについて、ジェンダーとの関連と、これに対する日本の取組のあり方を具体的に例示しています。また、日本のODAにおけるジェンダー主流化(注3)を強化するため、ODAの政策立案、計画、実施、評価といったすべての段階にジェンダーの視点を取り入れるための方策を示しています。
 なお、ジェンダーの視点に立った支援を重視する考え方は、「防災イニシアティブ」や「「保健と開発」に関するイニシアティブ」においても反映されています。

囲み II-3 ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのために-日本の支援の例
囲み II-4 ジェンダーと開発(GAD)イニシアティブ(概要)

(ハ)「保健と開発」に関するイニシアティブ
 貧困削減に取り組むにあたっては、MDGsの8つの目標のうち3つを占める保健分野の目標達成が極めて重要です。しかし、多くの開発途上国において保健分野におけるMDGsの達成に向けた進捗状況は充分とは言えない状況にあります。
 このような認識の下、日本は、2000年のG8九州・沖縄サミットの機会に発表した沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)が、当初の5年で30億ドルという目標を大幅に超えて2005年3月で終了したことを受け(2003年度末までの実績で41億ドル以上)、その後継イニシアティブとして、特に保健関連MDGs達成への貢献に重点を置いた「「保健と開発」に関するイニシアティブ」を策定し、2005年6月に東京で開催された「保健関連MDGsに関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラム」においてこれを発表しました。
 同イニシアティブでは、人間の安全保障の視点と分野横断的取組を重視し、開発途上国自身の開発戦略や国際社会と連携した上で、各国の自助努力を支援することを基本方針としています。保健関連MDGsの目標達成に資することを明確な目標として取り上げており、保健指標の改善に直接貢献する取組だけでなく、日本の経験を活かした分野横断的な取組と保健医療制度の強化によって、保健分野全体を改善していくことを目指すものです。小泉総理大臣は、同イニシアティブに基づき、今後5年間で総額50億ドルを目途とした協力を行っていくことを表明しました(IDIの実績については、図表II-18を参照して下さい)。

保健関連MDGsに関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラムの様子
保健関連MDGsに関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラムの様子

「「保健と開発」に関するイニシアティブ」に基づいて50億ドルの支援を表明する小泉総理大臣(写真提供:内閣広報室)
「「保健と開発」に関するイニシアティブ」に基づいて50億ドルの支援を表明する小泉総理大臣(写真提供:内閣広報室)

囲み II-5 「保健と開発」に関するイニシアティブ(概要)


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