前頁前頁  次頁次頁


本文 > 第II部 > 第2章 > 第1節 > 1.新ODA中期政策の策定

第1節 2004年度の大きな動き

1.新ODA中期政策の策定

 日本のODA政策は、日本のODAに関する理念や原則を明確にするODA大綱を最上位の政策として、その下に3年から5年を念頭においた援助に関する基本的な指針であるODA中期政策、さらに各国毎に援助を実施していく上で指針となる国別援助計画、また分野ごとの援助の実施指針となる分野別政策(分野別イニシアティブ)によって枠組みが定められています。このうち、ODA中期政策は、旧ODA大綱下で1999年8月に策定されたものであり、策定後5年が経過していました。2003年8月にODA大綱が改定されたことを踏まえ、これまでのODA中期政策を抜本的に見直し、2005年2月、新ODA中期政策(本文は第II部第3章2参照)を策定しました。新ODA中期政策の策定は、ODAの使い方に関して日本国民に対する説明責任を果たすとともに、被援助国や他の援助国・機関に対して、日本のODAに関するアプローチや比較優位のある援助活動を提示する重要な意味があります。
 具体的には、2003年7月から新ODA中期政策の策定準備に着手しました。まず、ODA中期政策評価検討会を開催し、旧ODA中期政策の評価を行い、新ODA中期政策の策定に向けての提言が作成されました。この提言をもとに、2004年7月には、ODA総合戦略会議において論点整理、議論を開始し、以後5回にわたり同会議で検討を重ねたほか、NGO(Non-Governmental Organization:非政府組織)や経済界などと方針策定の段階から数多くの非公式な意見交換を行いました。そうして出来上がった原案をパブリック・コメントに付すとともに、新ODA中期政策に関する公聴会を各地で開催するなど幅広く一般国民の方々とも議論を行った上で、2005年2月4日の閣議において、新ODA中期政策を報告しました。
 新ODA中期政策は、ODA大綱のうち、考え方や取組などを内外に対してより具体的に示すべき事項を中心に記述しています。具体的には、ODA大綱の基本方針の一つである「人間の安全保障の視点」、重点課題である「貧困削減」、「持続的成長」、「地球的規模の問題への取組」、「平和の構築」、そして「効率的・効果的な援助の実施に向けた方策」の各項目を取り上げ、これらの課題に対する日本の考え方やアプローチを国内外に示すとともに、現地ODAタスクフォースの具体的な役割を明記しており、ODAを一層効率的、効果的に実施することを目指しています。以下では、新ODA中期政策で取り上げている「人間の安全保障の視点」、「重点課題」、「効率的・効果的な援助の実施に向けた方策」について、その概要及び特徴を記述します。

ODA中期政策に関する公聴会の様子
ODA中期政策に関する公聴会の様子

図表II-12 日本のODAの政策的枠組み

図表II-12 日本のODAの政策的枠組み


(イ)「人間の安全保障」の視点
 「人間の安全保障」の視点は、2003年8月に改定されたODA大綱に基本方針として新たに加えられた事項です。新ODA中期政策では、「人間の安全保障」の視点をODA全体にわたって反映させるべきものとして位置づけた上で、「人間の安全保障」の視点に基づくアプローチを記述しています。一言で説明すれば、「人間の安全保障」は「一人一人の人間を中心に据えて、脅威にさらされ得る、あるいは現に脅威の下にある個人及び地域社会の保護と能力強化を通じ、各人が尊厳ある生命を全うできるような社会づくりを目指す考え方」です。新ODA中期政策では、「人間の安全保障」をODAに反映させるにはどのような援助を行う必要があるのかという観点から、人々を中心に据え、人々に確実に届く援助、地域社会を強化する援助、人々の能力強化を重視する援助、脅威にさらされている人々への裨益を重視する援助、文化の多様性を尊重する援助、様々な専門知識を活用した分野横断的な援助を具体的に例示しています。

(ロ)重点課題
 新ODA中期政策では重点課題として、ODA大綱が掲げる貧困削減、持続的成長、地球的規模の問題への取組、平和の構築の4つの課題に関して、日本のアプローチや具体的取組を記述しています。以下では、その特徴を簡単に紹介します。
・貧困削減
 ミレニアム開発目標(MDGs:Millennium Development Goals)達成に向け積極的に貢献することを改めて明らかにしています。そのために開発途上国の発展段階に応じた分野横断的な支援を行う方針です。また、貧困層を対象とした直接的な支援のみならず、国全体ないし地方全体の経済成長を促進して貧困削減につなげるための政策支援やインフラ整備などを通じた投資環境整備、中小企業育成などを支援する方針です。これらは、東アジアの経験に根ざした、日本が常々その重要性を主張しているアプローチです。
・持続的成長
 日本は、従来、経済成長の下支えとなる経済・社会インフラの整備を円借款などを通じて積極的に支援し、アジア地域を中心に経済成長の基盤整備に大きな役割を果たしてきました。新ODA中期政策では、こうした日本の経験、考え方を明記した上で、インフラ整備、貿易や投資に関する政策・制度整備、人づくり支援、経済連携強化のための支援を行う方針です。
・地球的規模の問題への取組
 環境問題への取組及びインドネシア・スマトラ沖大規模地震及びインド洋津波災害を踏まえた災害対策を取り上げています。日本には、環境問題や地震・津波などの自然災害を克服してきた経験・ノウハウがあり、いずれも日本が比較優位を有する分野です。そうした日本に蓄積されたノウハウを活用しつつ支援を行っていく方針です。
・平和の構築
 平和は開発の前提条件であるとの認識に基づき、平和と安定を実現するために、段階に応じた、かつ一貫性のある支援を迅速かつ効果的に行います。例えば、紛争後の緊急人道支援からその後の復興開発協力への円滑な移行を確保し、両者の間で生じやすい空白(ギャップ)を極力解消していく方針です。こうした支援は、特に人間の安全保障を確保する観点からも極めて重要です。

(ハ)効率的・効果的な援助の実施に向けた方策
 効率的・効果的な援助の実施に向けた方策については、「現地機能の強化」に重点を絞って記述しています。具体的には、現地日本大使館、国際協力機構(JICA:Japan International Cooperation Agency)、国際協力銀行(JBIC:Japan Bank for International Cooperation)現地事務所などで構成される現地ODAタスクフォースが国別援助計画といった援助政策の立案・検討や案件の形成・選定などにおいて、一層積極的な役割を果たしていくことを明記しました。こうした現地機能の強化は、開発途上国のニーズを的確に把握し、一貫性のある援助を行う上で極めて重要です。

囲み II-1 人間の安全保障の取組例


前頁前頁  次頁次頁