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第2節 課題別の取組状況
1.貧困削減
貧困は、単に所得や支出水準が低いといった経済的な側面に加え、教育や保健などの基礎社会サービスを受けられないことや、ジェンダー格差、意思決定過程への参加機会がないことといった、社会的、政治的な側面もあります。MDGsは、多くが教育・保健といった社会セクターに関する目標です。同時に、東アジアにおける開発の経験が示すとおり、持続的な経済成長は貧困削減のための必要条件です。それぞれの国の貧困を形成する要因は、その国の経済構造、政治、文化、社会、歴史、地理などの諸要因が複雑に絡み合ったものであり、各国の個別状況を十分踏まえて支援することが必要です。以下では、日本のこのような考えに立った貧困削減への支援について説明します。
(1)教育
世界では依然として1億300万人以上の子どもが教育を受けられない状況にあります。また、世界で約8億人の成人が非識字で、そのうち約3分の2(64%)を女性が占めています。
教育は、経済社会開発において重要な役割を果たし得るとともに、人間一人ひとりが自らの才能と能力を十分に伸ばし尊厳をもって生活することを可能にし、異文化共存や国際平和の基礎ともなり得るものです。なかでも、基礎教育について、国際社会は「万人のための教育(EFA:Education for All)ダカール行動の枠組み」*1及び、MDGsにおいて2015年までの初等教育の完全普及などを目標として設定し、この分野での取組を強化しています。
日本は、2002年に向こう5年間で低所得国に対する教育分野のODAを2,500億円以上実施することを表明し、2003年度末までに無償資金協力、技術協力、国連教育科学文化機関(UNESCO:United Nations Educational Scientific and Cultural Organization)やUNICEFなどの国際機関に設置している信託基金などにより約1,051億円の支援を実施しました。日本はまた、2002年に成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN)を発表し、教育の「機会」の確保に対する支援、教育の「質」向上への支援、教育の「マネジメント」の改善を重点分野とし、新たな取組として紛争終結後の国づくりにおける教育支援などを掲げて、開発途上国の「万人のための教育」の達成に向けた努力を支援しています。
教育の「機会の確保」に関する取組として、日本は学校施設建設を通じた開発途上国における教室数の不足の緩和や学習環境の改善、男女別トイレの設置などによる女子の就学促進などに大きく貢献しています。学校不足のみならず、教育に対する親や地域住民の理解や意識の低さも開発途上国における低就学率の要因です。世界でも初等教育の就学率が最低レベルにあり、ファスト・トラック・イニシアティブ*2の被支援国の一つと認定されているニジェールにおいて、日本は、親や地域住民の意識の向上と学校運営への参画促進を支援しています。具体的には、学校運営委員会を構成する校長、教師、保護者、地域住民への研修や地方教育行政官のキャパシティ・ビルディングを実施することによって、教育機会の拡大のみならず教育マネジメントや質の改善にも貢献することが期待されています。また、日本のプロジェクトで開発された研修マニュアルは、ニジェール政府の公式マニュアル作成の基礎となるなど、ニジェールの教育政策策定にも貢献しています。このような地域住民の学校運営への参画とそれを継続的に支える地方教育行政の能力強化を両輪とする教育改善支援は、エチオピアやインドネシアでも展開中です。
また、「万人のための教育」の実現のためには、世界の成人人口の18%を占める非識字者に対して教育の機会を提供することも不可欠です。日本は、長期にわたる内戦により教育システムが破壊され、成人識字率が世界最低水準にあるアフガニスタンにおいて、「社団法人日本ユネスコ協会連盟」と協力し、日本の寺子屋の経験をもとに、コミュニティ学習センターを通じた識字教育の普及を支援しています。このプロジェクトは、日本がUNESCOに設置している「ユネスコ人的資源開発信託基金」*3により行われている識字教材開発との連携も行っています。このような正規の学校教育を受けていない人を対象とするノン・フォーマル教育は、非識字者の必要とする教育を提供する有効な教育手段です。
多くの開発途上国では、教育の機会のみならず、教育の「質」の改善が大きな課題です。教育の質は教師の質に大きく影響を受けることから、教員養成や現職教員研修などの教師研修の充実と制度化が重要です。日本は、ホンジュラス、エジプト、ケニア、南アフリカ、インドネシア、ガーナ、フィリピン、カンボジア、バングラデシュなどにおいて、基礎学力の修得と科学技術の振興に不可欠な理数科を中心に、実践を通じた現職教員研修のモデルの開発を支援しています。
図表II-13 世界の基礎教育の現状(未就学児童の数と成人識字率)


アフガニスタンにおける女性のノン・フォーマル教育の様子。タリバン政権下では女性は教育を受けることができなかった。(「ノンフォーマル教育強化プロジェクト」)(写真提供:JICA/日本ユネスコ協会連盟)
サブ・サハラ・アフリカにおいては、ケニアで1998年に開始された「中等理数科教育強化(SMASSE:Strengthening of Mathematics and Science in Secondary Education)プロジェクト」を通じて得られた経験やノウハウを共有するためにケニア一国を超えた地域連携ネットワークが設立されました。同ネットワークは、アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD:New Partnership for Africa's Development)(注1)やアフリカ教育開発連合(ADEA:Association for Development of Education in Africa)*4との連携も開始するなど地域開発機関からも評価されており、理数科授業改造運動のアフリカ周辺諸国への波及が期待されています(算数教育の案件については、第I部第2章第3節1も参照して下さい)。
教育は、紛争終結後の開発途上国の国づくりにおいて復興の基盤となるばかりでなく、相互理解を促進し平和の礎ともなるもので、また子どもを様々な危険から守る保護的役割も果たしています。日本は、国際機関やNGOと連携し、紛争終結後の教育復興支援を実施しています。UNICEFと連携し、紛争終結後のアフガニスタンで「バック・トゥー・スクール・キャンペーン」を支援したのに続き、イラクにおいて合計4,000万ドル以上の初等・中等教育の復興支援を実施しています。2004年5月に開始したUNICEFを通じたイラク小中学校強化計画では、150の小・中学校の修復や約540万人の児童及び約26万人の教師に対する教材や学習用品の供与などを実施しています。
日本の教育分野の協力に関する国内体制を強化するために2003年4月に発足した「拠点システム」*5では、広島大学や筑波大学を中心に、教育分野における取組に関する「協力経験の共有化」や現職職員の支援の強化などを行っています。また、2001年度に創設された「青年海外協力隊(JOCV:Japan Overseas Cooperation Volunteers)現職教員特別参加制度」(注2)のもと、4年間の累計で266名の現職教員が派遣され、多くの国で活躍しています。

ブータンのリンチェン・クンペン小学校を視察する河井外務政務官
図表II-14 基礎教育分野に対する日本の主な支援事例

拠点システム事業の一環として、文部科学省と外務省の共催により、国際教育協力日本フォーラムを2003年度より実施しており、2005年2月に開催された第2回フォーラムでは、南アフリカ教育大臣、ルワンダ初等・中等教育担当閣外大臣、ユネスコ基礎教育局長などを招聘し、開発途上国の視点から効果的な女子教育の在り方について意見交換を行いました。
このほか、日本が2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD:World Summit on Sustainable Development)において提唱し、その年の国連総会で採択された「国連持続可能な開発のための教育の10年」が2005年1月から始まっています。日本は2004年3月、10万ドルを拠出し、国連持続可能な開発のための教育の10年の推進機関であるUNESCOによる国際実施計画の策定を支援したほか、2005年度からは、UNESCOによる持続可能な開発のための教育に関する教材開発やコミュニティ・学校レベルでの活動などを支援するため、「持続可能な開発のための教育信託基金」を設置しました。また、2004年6月に東京において開催したアジア協力対話「環境教育」推進対話の実施など、あらゆる機会を活用して、その推進に取り組んでいます。