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第3節 MDGs関連の社会セクターにおける日本の貢献

 前節で見たとおり、MDGs達成のためには持続的な経済成長が必要です。インフラ整備や投資環境整備、民間活動の活性化などに向けた支援は、開発途上国の経済全体に貢献します。一方、このような支援とともに、貧困地域に焦点を当て、所得向上だけでなく基礎社会サービスへのアクセスを支援することも必要です。そこで以下では、特にMDGsの目標2から7までの各目標に関連する社会セクターにおける日本の取組について、日本が実際に協力を行った案件を取り上げつつ紹介していきます。

図表I-9 現行の分野別イニシアティブ一覧

図表I-9 現行の分野別イニシアティブ一覧


1 初等教育の完全普及の達成(目標2)

 教育は人間一人ひとりの能力強化を促進するとともに、国の発展をもたらす主要な要素です。日本は2002年に、向こう5年間で低所得国に対する教育分野のODAを2,500億円以上実施することを表明するなど、開発途上国の人材育成に積極的に貢献してきました。中でも基礎教育(注)は人々が生存し、自らの能力を充分に伸ばし、尊厳をもって生活するための知識、価値観、技能などを習得するために不可欠です。こうした観点に基づき、日本は人づくりを国づくりの基本としてきた経験を活用してきました。2002年には「成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN:Basic Education for Growth Initiative)」を発表するなど、教育促進の取組への支援を強化しています。

■ホンジュラスの教員の能力強化
 国連教育科学文化機関(UNESCO:United Nations Educational Scientific and Cultural Organization)などの調査によれば、中南米諸国では、初等教育の純就学率(注)は平均して90%を超えています。その一方で、留年・中途退学の問題は深刻であり、教育の実態も地域・階層・人種により格差が大きいなどといった課題を抱えています。ホンジュラスでは、2000年時点で、初等教育課程を正規の年数で修了できた児童の割合が31.9%と、低いレベルに止まっています。こうした状況に対し、同国政府は、「2015年までに男女すべての就学年齢児について、6年間の初等教育の完全普及と修了を達成する」という目標を掲げ、ドナー国・国際機関の協力を得ながら様々な取組を実施し、日本も積極的に協力してきました。
 ホンジュラスではとりわけ国語(スペイン語)と算数の成績不振による留年・中途退学が多く、その要因の一つとして教員の指導力不足が挙げられます。日本は1989年より青年海外協力隊員を派遣し、現職教員の研修を実施するとともに、教員研修のための国立教育研究所を無償資金協力で設立するなど、教員の指導力の向上を支援してきました。さらに2003年より、算数科教師用指導書及び児童用算数ドリルの作成、それらを用いた教員の基礎学力・指導力向上に向けた教員研修、教育評価法の整備を主な要素とする「算数指導力向上プロジェクト」を開始しました。
 プロジェクト実施2年を経た2005年には、小学校1年生から6年生までの算数科教師用指導書・算数ドリルを完成させ、国定教科書としての全国配布が可能となりました。

完成した指導書・ドリル
完成した指導書・ドリル

 こうした成果は現地に駐在する他の援助関係者の関心を集め、技術協力面での連携が始まりました。例えば指導書・ドリルの全国配布については、ホンジュラス政府の主導のもと、スウェーデンとカナダが費用を支援することになりました。また、中核教員研修については、スペインがこれまで独自に研修してきた現職教員を日本の「算数指導力向上プロジェクト」の研修に参加させ、また、米国国際開発庁(USAID:United States Agency for International Development)もホンジュラス人スタッフを同プロジェクトに参加させています。ホンジュラス教育省次官は、このプロジェクトについて、「ホンジュラスで、教育省及び教育大学というホンジュラス側と、日本をはじめとするドナーが一体となって取り組んだ初めての事例であり、ホンジュラスとドナー間の連携関係が強化された」と評価しています。

青年海外協力隊による教員指導の様子。講義だけでなく、実習も組み合わせた内容になっている。
青年海外協力隊による教員指導の様子。講義だけでなく、実習も組み合わせた内容になっている。

 さらに、「算数指導力向上プロジェクト」の成果は周辺諸国の教育関係者にも伝わり、2003年の中米教育大臣会合でも取り上げられました。その結果、ニカラグアやエルサルバドルなどの周辺諸国からも同様の協力要請があり、2005年度案件として実施することになりました。また、すでに案件の実施が決まっていたドミニカ共和国からも、複数国にまたがる広域協力としての実施が要望されたため、広域案件として実施することが決まりました。こうして、算数指導力に対する日本の協力は、中米地域の広域的協力として認知されるようになりました。
 以上のように、この案件は、教育分野の重要課題の一つである指導力の向上に焦点を合わせ、15年以上にわたる青年海外協力隊の地道な活動を基礎として開花しました。そして、周辺諸国を取り込んだ広域協力として、中米地域のMDGs達成に貢献するまでになりました。この案件は、教育分野での日本の協力が他のドナーにも広まり、また、ホンジュラスのみならず中米各国に広まっていった好事例となりました。


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