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第2節 地球規模の課題への取組:共生のために



 グローバル化の進展とともに、地球温暖化やHIV/AIDSをはじめとする感染症といった地球規模の問題が顕在化する中、国際社会が一体となってこれらの問題に取り組むことは、その解決に不可欠であるのみならず、国際社会すべての利益につながるものです。特に、海外の資源や市場に大きく依存しているわが国にとって、アジアをはじめとする途上国との共生の途を歩み、地球規模の課題にも積極的に取り組んでいくことは、わが国の繁栄と安定を維持する上で不可欠であることは言うまでもありません。
 地球規模の課題としては、下記にとりあげる課題の他にも食料問題や薬物対策等がありますが、ここでは、近年国際社会の取組が目ざましい地球環境問題及び感染症の問題をとりあげます。

(1)地球環境問題


 近年、二酸化炭素等の温室効果ガスの影響により大気中の気温が上昇することで、気候の変化や生態系への影響が生じる地球温暖化の問題など、地球環境問題が脚光を浴びています。実際、従来からの先進国における温室効果ガスの排出に加え、多くの途上国においても急速な都市化や工業化によって温室効果ガスの排出量が増加しています。
 こうした地球温暖化に加えて、開発活動に関連した環境破壊とともに貧困と密接に関連した環境基盤の脆弱化(注1)も、途上国において併せ進行しています。こうした状況を放っておけば、かけがえのない地球の生態系の破壊につながることが危惧されます。
 環境問題への取組に当たっては、このような環境破壊の悪循環を断ち、「持続可能な開発」(注2)を達成していくことが重要であり、途上国と先進国が連携を強化し、国際社会全体として取組を促進していくことが不可欠です。わが国は、戦後の高度成長期において深刻な環境問題に直面しながら、民間部門の技術革新や政府の施策、地方自治体の努力等を通じてそれを克服し、経済成長と環境保全の両立に成功した経験を有しています。日本がODAにより、これらの技術や経験を適切に途上国に伝えていくことは、わが国の比較優位を活かした優れた国際貢献のあり方といえます。
 わが国は、92年に閣議決定された「政府開発援助大綱」(以下、ODA大綱)の原則の一つとして、環境と開発の両立を謳うなど、環境分野への協力を重点課題の一つとして挙げています。また、97年の国連環境開発特別総会において、大気汚染、地球温暖化、自然環境保全など多岐にわたる環境分野において途上国支援を強化する「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD:Initiatives for Sustainable Development toward the 21st Century)」(注1)を、そして、97年12月に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)の機会には特に温暖化対策関連の取組として「京都イニシアティブ」(注2)をそれぞれ打ち出しました。
 環境協力を実りあるものとするためには、途上国自身による主体的な環境対策への取組を強化し、そのために必要な政策の立案・実施能力の向上や人造りを支援していくことが鍵となります。こうした観点から、わが国の環境協力を特徴づける一つの取組として「センター・アプローチ」が挙げられます。途上国においては、しばしば開発が優先され環境保全面が後回しにされがちであることから、環境保全担当部局の能力向上(キャパシティー・ビルディング)が不可欠となりますので、環境行政の核となる「環境センター」に対し専門家派遣や研修員受入れなどの技術協力や機材供与と資金協力を組み合わせた協力を集中的に実施していくものです。具体的には、90年より協力を開始した「タイ環境研究研修センター」を先駆けとして、これまでにインドネシア、中国、チリ、メキシコ、エジプトの計6か国においてセンター・アプローチに基づく協力を実施しています。これらのセンターはまた、環境分野における周辺の途上国への支援(南南協力については本章第1節(3)参照)を進めていくための拠点としての役割も期待されています。なお、メキシコなど幾つかのセンターでは、既にそうした活動がはじめられています。
 2000年度のわが国の環境ODAは4,525億円(約束額ベース)であり、これは日本の援助の約32%にあたります。
 地球温暖化問題については、2001年7月に気候変動枠組条約第6回締約国会議(COP6)再開会合が、同年10、11月には同第7回締約国会議(COP7)が開催されました。わが国は前出の「京都イニシアティブ」に基づき、温暖化対策関連支援で毎年総額24億ドルにのぼる二国間ODA事業を進めており、こうしたわが国の努力については上記のCOP6再開会合においても高く評価されました。またCOP7においては、低排出型の開発の制度(クリーン開発メカニズム(CDM))等を含む京都議定書の運用に関する細目について合意がなされました。途上国の持続可能な開発に資するとともに途上国の温室効果ガス削減に寄与するCDM事業に対しても、ODAを活用していくことが重要です。
 92年の「環境と開発に関する国連会議(UNCED:United Nations Conference on Environment and Development)」(地球サミット)開催から10年後にあたる2002年には、「アジェンダ21」(注1)に基づく国際社会の包括的な取組を見直す「持続可能な開発に関する世界首脳会議」(ヨハネスブルグ・サミット)が南アフリカで開催される予定です。わが国としても、国際社会の直面する地球規模の環境問題の解決に向け、国際社会における議論を積極的にリードしていくとともに、引き続き開発援助を活用しつつ、わが国の経験や技術を活かした貢献をしていくことが重要です。

(トピックス5参照)
(トピックス6参照)


(2)感染症対策


 HIV/AIDS、結核、マラリア、ポリオといった感染症は、人間ひとりひとりの生命への直接的脅威であり「人間の安全保障」に係わる問題であるのみならず、対策コストの増大や多数の専門家・実務者の死亡などにより途上国の経済・社会発展を阻害する大きな要因となっています。また、人の移動が容易となった現代において、これらの感染症は容易に国境を越え、人類全体に拡がるおそれもあります。
 2000年のG8九州・沖縄サミットにおいて、わが国は議長国として、こうした感染症の問題を開発上の主要課題の一つとして積極的に取り上げたほか、他のG8諸国に先がけて「沖縄感染症対策イニシアティブ」を打ち出しました。同イニシアティブは、個別の感染症対策支援のほか、公衆衛生の増進、研究ネットワークの構築、基礎教育、水供給等の分野において、今後5年間で30億ドルを目途とする協力を行うというものであり、わが国が戦後プライマリー・ヘルス・ケア(注2)の柱となる公衆衛生活動と連携して結核による死亡率を激減させたほか、沖縄でマラリアの撲滅に成功したという経験を途上国支援にも役立てていくこととしています(イニシアティブに基づくわが国取組の詳細については第II部参照)。
 また、九州・沖縄サミットのフォローアップの一環として、2000年12月、わが国は「感染症対策沖縄国際会議」を主催し、感染症への取組を、G8だけでなく官民を含めた国際社会全体に広げていくために、G8諸国、途上国、国際機関、NGOの参加を得て、感染症対策の具体策につき意見交換を行うとともに、あらゆる援助主体の間での連携・協力(パートナーシップ)の重要性を強調しました。
 感染症に対する国際社会の一致した取組の成果の具体的な例として、2000年10月、世界保健機関(WHO:World Health Organization)、厚生省、外務省が「西太平洋地域ポリオ根絶京都会議」を開催し、西太平洋地域におけるポリオ根絶を宣言しましたが、ここに至るまでには、WHOや国連児童基金(UNICEF:United Nations Children's Fund)をはじめとする国際機関による「全国一斉ワクチン投与の日(NID:National Immunization Day)」を中心とした活動や、わが国を含む援助国によるポリオワクチンの供与、そして現場でのポリオワクチン接種拡大への取組を進める途上国や市民社会による連携・協力の積み重ねがありました。
 その後も九州・沖縄サミットを契機として、2001年4月には「HIV/AIDS、結核、その他感染症に関するアフリカ・サミット」(ナイジェリア)、6月の国連エイズ特別総会、そして7月のG8ジェノバ・サミットでの議論と、感染症対策についての議論が深められた一連の国際会議が開催され、国際社会の取組が強化されています。特に6月の国連エイズ特総では、感染症に関する基金の迅速な設置を求める機運が高まり、G8ジェノバ・サミットの機会には国連事務総長とG8首脳によりHIV/AIDS、マラリア、結核と闘うための国際的な保健基金を発足させることが表明されました。これまで感染症対策分野で指導力を発揮してきたわが国としては、2002年1月に発足した「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」への2億ドルの拠出を含め、感染症対策への具体的取組を一層強化していく考えです。

(トピックス7参照)



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