本編 > 第I部 > 第2章 > 第3節 紛争予防・平和構築:平和のために
冷戦終了後、民族や宗教などの違いに根ざす対立が顕在化し、国家間の紛争のみならず、一国内の紛争が頻発していますが、それらの紛争の多くがアフリカをはじめとした途上国において発生しています。
武力紛争は、国際社会の平和と繁栄に依拠するわが国自身の安全と繁栄に関わる問題であり、また、わが国外交の重要な視点の一つである「人間の安全保障」に対する重大な脅威でもあります。グローバル化の進展によって、国際社会における相互依存関係が強くなっている現在、地理的に離れた地域の紛争であっても、対岸の火事として傍観している訳にはいきません。もとより、紛争の予防や解決、紛争後の平和構築に当たっては、政治や安全保障、また軍事的な側面も含めて総合的に取り組む必要がありますが、そうした紛争に対する包括的取組の中で開発援助も大きな役割を果たしうるものです。2000年の宮崎におけるG8外相会合においては、紛争予防への包括的な取組をまとめた「紛争予防に関するG8宮崎イニシアティブ」が発表されましたが、この機会をとらえ、わが国は、紛争予防に関して開発援助による取組をまとめたイニシアティブ「紛争と開発に関する日本からの行動」(アクション・フロム・ジャパン)を発表しました。本節では、このイニシアティブを踏まえた最近の取組を紹介します。
ひとたび紛争が発生すると、それまでの開発の成果は短期間で破壊されてしまう上、その復興には多大な時間と労力、資金を必要とします。まさに、「予防は治療に優る」であり、国際社会全体に「(紛争)予防の文化」をはぐくむことが大切です。
途上国における紛争の背景には、民族や宗教の対立とともに貧困や経済格差、対立する利害を調整できる機能の欠如など不十分な統治システム(ガバナンス)といった側面があります。したがって、開発援助の実施を通じ、これらの要因を助長せず、むしろこれを緩和し改善していくことは、紛争の発生を未然に防ぎ、さらには再発を防止することにも役立ちます。こうした観点から、わが国は、貧困問題に対処するための保健医療、教育、食料といった基礎生活分野(BHN)に対する支援や、途上国の政治・経済・社会システムや法の整備、さらには行政能力強化のための技術協力などを実施しています。また、貧困問題は最終的には産業の発展による経済成長を達成しなければ解決されず、こうした経済成長を可能とするインフラ等の整備は引き続き重要な課題です。今後とも、ODA等を通じ紛争の要因緩和に配慮するとともに、要因除去につながる支援を積極的に行うことによって、紛争予防や再発の防止に貢献していくことが重要です。
不幸にして武力紛争が起きてしまった場合には、早急に緊急人道支援を行うことにより、時とともに加速的に悪化する紛争犠牲者や難民の窮状を緩和することが重要です。わが国は、二国間の協力に加えて、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR:United Nations High Commissioner for Refugees)や赤十字国際委員会(ICRC:International Committee of the Red Cross)等の国際人道援助機関を通じて緊急人道支援を行っています。
緊急人道支援の実施においては、政府や国際機関のみならず、いち早く現地に向かい、現地における多様なニーズに柔軟かつ迅速に応えることができるNGOの活動が、極めて効果的です。また、NGOをはじめとする市民社会がこうした活動に積極的に係わることは、援助主体を多様化し、ニーズに合ったきめ細かい援助を可能にするとともに、より多くの人材や資金を援助に動員することにもつながります。わが国は、こうしたNGOの活動を迅速に支援するため、2000年度より、申請後短期間で、緊急活動資金をわが国NGOに供与する「NGO緊急活動支援無償」を設けました。紛争への対処とは文脈を異にしますが、2001年1月のインドにおける地震災害やエルサルバドル大地震の際には、この仕組みを活用してわが国NGO等の活動に対して支援を行いました。近年、わが国NGOの緊急人道支援活動はめざましく、活発になってきておりますが、こうした活動は、まさに日本の「顔の見える援助」の典型例と言えるでしょう。
また、アフガニスタンからは、2001年9月に発生した米国における同時多発テロに伴い、それ以前からパキスタン等周辺国に逃れていた約350万人の難民に加え、新たな難民が周辺国に流入する事態となったことを受け、わが国は同月、パキスタンに対して47億円の二国間支援を含む緊急の経済支援を行うことを表明し、その中で、17億円のアフガニスタン難民支援を行うこととしました。このほか、わが国は、国連のドナー・アラートを踏まえ、国連機関等の行うアフガニスタン難民支援活動に対し今後の具体的拠出要請に応じて全体として20%程度、最大1億2千万ドル(約145億円)までの支援を行う用意があることを10月に表明し、2001年1月までに国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連開発計画(UNDP:United Nations Development Programme)、世界食糧計画(WFP:World Food Programme)、赤十字国際委員会(ICRC)、国連児童基金(UNICEF:United Nations Children's Fund)、国際移住機関(IOM:International Organization for Migration)、国連人道問題調整事務所(OCHA:Office for the Coordination of Humanitarian Affairs)に対して、合計約1億221万ドル(約109億円)を支援しました。さらに、緊急人道支援分野でNGO、経済界、政府が協力して活動を実施する「ジャパン・プラットフォーム」の枠組みの下で活動するNGOは、政府拠出の初動活動用資金(5億8千万円)を利用してアフガニスタン難民支援活動を行うこととなりました。これにより、草の根レベルでのわが国の「顔の見える援助」にもつながることが期待されます。
図表-2 プラットフォーム組織図

紛争終了後は、国際社会が一致団結して、紛争の再発を防止するための環境を整備するため、速やかに被災国に対する復旧・復興支援を行うことが重要です。また、破壊されたインフラを直し、荒廃した人心をいやすことによって、被災国及びその国民が一刻も早く自ら開発努力を進めていけるようにしていくことが必要です。そのためには、緊急人道支援段階と開発支援段階の間のギャップを埋め、援助国、人道支援機関及び開発機関がNGO等の市民社会とも協力しつつ有機的に連携して支援を行う必要があります(注)。
最近の例では、アフガニスタン復興に対するわが国の積極的な貢献が挙げられます。わが国は、2001年11月、米国と共同でアフガニスタン復興支援高級事務レベル会合の共同議長を務め、その後の同国復興支援運営グループ第一回会合(2001年12月、於:ブリュッセル)、同国復興支援国際会議(2002年1月、於:東京)という一連の国際社会によるプロセスの道筋をつけました。ブリュッセルにおける同運営グループ第一回会合においては、復興に係わるニーズ調査の中間報告と優先分野の特定がなされたほか、12月にボン合意によって設立されたアフガニスタン暫定政権への緊急支援のため創設された行政基金に対し、わが国も100万ドルの拠出を発表しました。
2002年1月に東京で開催されたアフガニスタン復興支援国際会議では、わが国は、米国、EU、サウジアラビアとともに共同議長を務めました。同会議には、カルザイ・アフガニスタン暫定行政機構議長が出席したほか、閣僚級を含め61の政府及び21の国際機関からの参加がありました。また、多くの参加者よりアフガニスタン復興を支援する国際社会の強いメッセージが発出されるとともに、カルザイ議長等より同国の復興と開発に関するビジョンと政策について発表がなされたほか、2002年分として18億ドル以上、総計45億ドル以上のプレッジと貢献が表明されるなど、同国の復興と開発に向けた第一歩が成功裏に踏み出されました。
わが国は、同会議において、和平プロセス・国民和解及び人造りに対する支援を重視しつつ、具体的には「難民帰還・再定住」、「地雷除去」、「メディア・インフラ」、「教育」、「保健・医療」、「女性の地位向上及び国造りへの参画」を重点分野として今後2年半で5億ドルまで、その内最初の1年間で最大2億5千万ドルまでの支援を行う旨表明し、2002年4月までに約4,500万ドルの具体的拠出を決定しています。
また2002年2月より、わが国が3百万ドルを拠出した国連開発計画(UNDP)による「アフガニスタンの復旧及び雇用に係るプログラム」(REAP:Recovery and Employment Afghanistan Programme)による難民・国内避難民等の雇用創出及び基礎的インフラの復旧に対する支援が行われており、高い即効性を有する点でアフガニスタンの人々にとても感謝されています。
さらに、わが国は、UNICEFが主導する「Back to School」キャンペーンを積極的に支援しており2001年秋から現在までに、ドナー国による拠出の内、約4割にあたる約2,741万ドルを拠出しました。また政府のみならず、わが国国民からも、アフガニスタンの子どもたちに大きな関心が寄せられ、1千万ドルを超える募金が寄せられており(全世界の市民社会からの寄付の内、約37%)、わが国総体として積極的な支援を展開しています。なお、同キャンペーンの実施には、日本のNGOも参加しています。
そのほか、これまでにわが国よりアフガニスタンにニーズを把握するための調査団を派遣してきました。その結果を踏まえ、学校や医療施設の応急の復旧をはじめ、できるところから復興・開発支援を早急に進めています。
その他の地域については、わが国は、コソボにおける和平成立後の国際移住機関(IOM)による元コソボ解放軍(KLA)兵士の社会再統合計画や国連開発計画(UNDP)による公共放送局設立計画及び住宅・電力復興計画、東チモールにおける国連開発計画(UNDP)による道路、水道施設、港湾施設、電力施設及び灌漑施設の復旧計画及び国連児童基金(UNICEF)による小学校修復のための計画への支援等のハード面の協力とともに、中長期的には新しい国造りに不可欠な人材育成のため、ソフト面の協力を実施しています。また、2001年8月に実施された憲法制定議会選挙に対して、選挙が公正かつ円滑に実施されることを支援するため、国連開発計画(UNDP)を通じ、東チモール人選挙管理員の訓練、有権者登録の精度向上のためのICT支援等の目的で、119万1千ドル(1億2,743万7千円)の緊急援助を行いました。また、選挙広報用の教材の作成を支援するために、専門家を派遣しました。さらに、わが国の拠出により国連事務局内に設置された「人間の安全保障基金」は、国連諸機関の紛争後の緊急人道支援から中長期的な開発支援への円滑な移行に係わるさまざまな活動の支援に活用されています。
(トピックス8参照)
また、国際機関を通じてのみならず、二国間の援助においても、かつての紛争国・地域に対して支援を行っています。例えば、コソボに関して、その周辺国であるマケドニア、アルバニアに対し、医療器材の整備、食糧増産援助等に無償資金協力を行いました。
さらに、紛争後に、または紛争が起こりがちな国で支援を行う場合には、開発援助の中から紛争を助長させる可能性のある紛争要因を、事前に取り除くことが重要です。わが国はカナダと共同で、紛争要因の評価方法の確立を目指し、両国政府及びNGOからなる調査団をグアテマラ(2001年2月)及びカンボジア(同年11月)に派遣し、両者のプロジェクトについて合同評価を行いました。
紛争に係わる大きな問題として、広範に使用されている対人地雷と小型武器の問題があります。これらは、紛争後も人々に脅威を与え続けるものであり、国際社会による早急な対策が求められています。対人地雷は、無差別に人々を殺傷するため、武器として人道上の問題が指摘されていますが、生産コストが安く、依然として多くの国で使用されています。しかし、一度埋設されると半永久的に機能し続けるのみならず、除去に大変な労力と時間がかかり、住民の出身地への帰還や他の地への再定住や農業等開発の妨げとなるなど、復興の大きな障害となっています。こうした観点から、97年12月に行われた「対人地雷禁止条約」の署名式において、小渕外務大臣(当時)は「犠牲者ゼロ・プログラム」を提唱し、普遍的かつ実効的な対人地雷禁止の実現と犠牲者支援の強化を車の両輪とする包括的なアプローチを打ち出しました。現在、わが国は、98年から5年間を目途に100億円程度の地雷関連支援を行うことを目標に据え、地雷除去、犠牲者支援、犠牲者の社会復帰支援等広範な支援を行っています(注)。地雷問題が復興・開発の深刻な妨げとなっているアフガニスタンに対しても、地雷除去や地雷犠牲者への支援のため、2002年1月、国連開発計画(UNDP)や国連人道問題調整事務所(OCHA)、赤十字国際委員会(ICRC)に対し、総額1,922万ドル拠出することを決定しました。これも既に紹介した「犠牲者ゼロ・プログラム」の一環です。
けん銃、自動小銃等の小型武器については、対人地雷と同様、製造及び入手が容易な上、取り扱いが簡単なため、武力紛争を助長したり、再発、長期化させる大きな要因となっており、国際社会は、その非合法な製造や取引を禁止し、紛争後は速やかに回収する努力を求められています。わが国は、2000年7月、九州・沖縄サミットにおいて、小型武器問題に積極的に取り組むべく、国連に小型武器基金として、200万ドルを目途に拠出することを表明しました。これまで187万ドルを拠出しており、小型武器関連セミナー、小型武器回収プロジェクト等を支援しています。また、「紛争予防のためのG8宮崎イニシアティブ」や国連総会決議を通じ、小型武器問題への国際世論の喚起につとめ、2001年7月の国連小型武器会議開催に積極的な役割を果たしました。なお、同会議に提出された報告書は、わが国の堂之脇外務省参与が議長を務めた国連パネル・グループの報告書が基調となっています。開発の現場においても、カンボジアで小型武器の回収・廃棄に取り組む地域コミュニティーにおいて、回収の対価として学校、地方道路など基礎的インフラ整備を行う「Weapons for Development」を草の根無償協力により実施しており、今後さらにこのプロジェクトを拡大していくつもりです。
図表-3 対人地雷問題に関連する援助実績

(トピックス9参照)