本編 > 第I部 > 第3章 > 第1節 新たな官民の連携(パートナーシップ)
援助実施においてわが国の技術やわが国自身の経験に根ざしたノウハウを活用し、また国民各層の幅広い参加を得て援助を進めていくことは、今後、わが国ODAをより一層効率的・効果的に実施していく上で不可欠です。また、それは同時にODA事業に対する国民からの積極的な理解と支持を得るとともに「顔の見える援助」を進めるものであり、さらに、国際協力を通じたわが国社会の活力増進にもつながるものです。加えて、ODA事業への参加を通じ、国民が途上国の人々が直面するさまざまな課題を理解し、途上国の人々との交流を行うことは、わが国国民の国際社会に対する理解の促進にもつながります。
特にNGOの活動は、開発途上国・地域の多様なニーズに応じたきめ細かな援助や、迅速かつ柔軟な緊急人道支援活動の実施という観点から、極めて重要です。これまで政府は、対話や連携、支援を通じてNGOとのパートナーシップを深めてきました。
96年以降、外務省やJICA (JICAは98年以降)はNGOと定期的に協議の場を持ち、対話の促進や連携の強化を図ってきました。政府は、こうした場を利用して、NGO支援策やODA政策全般に関して、NGOの意見がさまざまな形で政策に反映されるよう努力してきています。また、94年以来「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ (GII)、沖縄感染症対策イニシアティブ (IDI) に関する外務省とNGOとの懇談会」のようなテーマ別の対話の場も設けられています。また、東チモールやコソボなどでもみられるように、援助の現場においても、政府とNGOの緊密な連携が行われるようになってきています。例えば、2001年11月、デンパサールにて開催された東チモール支援政策戦略会議においては、外務省、国連、NGOを含む民間の関係者が一堂に会して東チモールの国造りに対して官民の枠を越えた支援を実施していくための議論が行われたのは画期的でした。
しかし、こうした対話や連携を通じてNGOとの関係が深まるにつれて、2002年1月のアフガニスタン復興支援国際会議におけるNGOの出席問題に見られるように、政府とNGOの協力のあり方に不一致あるいはすれ違いが生ずることもあり得ます。外務省としては、そうしたことを乗り越えてNGOとのパートナーシップを強化していく必要があると考えており、すでにNGOとの定期協議会のあり方の見直しを進めるなど、意思疎通を一層緊密にするよう努力しています。
わが国援助を実施する上で国民の参加と理解の増進を図るためには、政府としてまだまだ努力すべきことが多くあります。以下では、これまでの政府の取組と今後の方向について、新たな官民の連携(Partnership)、国民各層の幅広い参加(Participation)、官民双方向の交流(Public-Private Interaction)という3つのキーワードに整理して説明していきます。
多様化、複雑化する途上国の援助需要に適切に応えていくためには、政府のみならずわが国の民間部門の有する資源を活用していくことが不可欠となっています。
2001年1月のインド西部地震に際して、前でご紹介した、ジャパン・プラットフォームを通じた緊急人道支援が実施されましたが、その際活用された超軽量大型テントは、本邦企業が開発した製品をメンバーNGOが、製造元の企業と協力して、緊急援助の現場で適応・活用しやすいように改良したもので、現地ではその性能と品質が高く評価されました。わが国の民間部門が有する優れた技術・ノウハウを国際貢献に役立てることは、「顔の見える援助」実現のための重要な方途を提供するものと言えます。
また、すでに紹介した「ベトナム国市場経済化支援計画策定調査」や第II部で触れる「ミャンマー経済構造調整支援」、「ラオス経済政策支援」といった知的支援の分野では、産・官・学が共同でその国の経済セクターの改革に協力しており、政府のみならず、学界・産業界の有する知見や経験が援助において具体的に活かされています。さらに、こうした知的支援を通じて得られた知識や経験は、わが国学界や産業界の活性化にもつながっていくことが期待されます。
さらに、2000年度からは、NGOや民間企業の知見を活かして協力案件の発掘を行う「民間提案型プロジェクト形成調査」が導入されています(詳細は、第II部第2章第3節(2)を参照)。円借款の実施機関である国際協力銀行(JBIC)においても、NGOを含む幅広い国民各層から、円借款案件形成の道標となる知見を得ることを目的とした調査について提案を募集する「提案型案件形成調査」や、円借款の案件発掘・形成に資する調査を高度な専門性を持つ多様な専門家集団の参画を得て実施する「発掘型案件形成調査」を導入しています。
こうした民間セクターの経験、技術に裏打ちされた独自の発想、視点をわが国のODA事業に積極的に取り入れていく試みは、官民連携の推進という観点からもますます重要になると考えられ、今後そういった工夫を強化していくことが必要です。
国際社会においても、官民連携(パートナーシップ)の旗印の下に、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」の設立などに見られるように、政府資金であるODAに加えて、民間の資金や他のリソース(物資や人材、ノウハウ等)の動員を図りつつ地球規模の課題に対処しようとする動きが顕著になっています。
図表-4 外務省と地方公共団体との関係
