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第3節 援助手法に関する取組の現況



 本節では、ODA中期政策で援助をより効果的・効率的に実施していくために配慮すべき手法として掲げているわが国政府部内におけるODAの調整・連携の強化、ODA以外の公的資金(OOF)や民間部門、さらにはNGO等市民社会、他の援助国や国際機関とのそれぞれ固有の目的を踏まえた役割分担と連携強化、南南協力への支援につき、第I部との重複を避けつつ、2000年度の実績を紹介します。

(1)ODAの政府全体を通じた調整及び各種協力形態・機関間の連携


 1府10省にまたがるODAを政府全体として効果的・効率的に実施していくためには、省庁間の緊密な連携及び調整が重要です。外務省はODAに関する政府全体を通じた調整の中核としての機能を果たすための諸施策を行っています。例えば99年11月の閣議口頭了解に基づき、2000年3月に、関係省庁の連携・調整を強化し、援助の政策及び実施について外務省と関係省庁の間で審議・意見交換を行う「政府開発援助関係省庁連絡協議会」を立ち上げ、年に2回のペースで協議を実施しています。加えて、技術協力については、97年4月に「技術協力事業関係省庁連絡会議(現技術協力事業関係府省連絡会議)」を立ち上げ、各事業の効果的な連携や重複の回避を図り、政府全体としてより効果的・効率的な技術協力を行っていくことを目的に情報・意見交換を行っています。今後、こうしたODAに関する関係省庁間の連絡・連携を通じ、関係省庁・機関や地方自治体の知見、情報、ノウハウの交換、共有が進み、ODAがより効果的、効率的に実施されるよう努めていきます。
 また、スキーム間の連携も図られています。資金協力と技術協力との連携強化策としては、98年度に始まった「円借款連携実施設計調査」があります。これは、円借款案件の実施設計調査(D/D:Detail Design)をJICAの開発調査事業の一つ(贈与)として実施し、わが国から派遣するコンサルタントが相手国と共同で案件の設計を行うものです。これによって、事業実施が迅速になるだけでなく、相手国政府への技術移転を進め、「顔の見える援助」を促進することにもなり、また相手国の負担を軽減することが可能となります。2000年度は、スリランカ、インドネシア等において6件の調査が行われました。
 対象国の特定セクタ-全体を対象として計画を策定の上、わが国の有する種々の援助スキームを活用して援助を実施する新しい支援形態として、2001年度に開始された「セクタープログラム開発調査」があります。これは、相手国の特定分野(セクター)を選択して相手国政府や他ドナーとの調整を行いつつ、具体的な開発政策を策定するとともに、その分野に対するわが国の技術協力・資金協力の総合的な調整を行うものです。これによって、日本の援助の全体的な効果の向上とより顔の見える援助が実現できるよう努力していきます。

(2)ODA以外の政府資金(OOF)及び民間部門との連携


 途上国への資金の流れを世界的に見ると、92年にはODAが全資金流入量の約3分の1を占めていたのに対し、99年になるとODAは約5分の1となり、その間に民間資金がおよそ倍増しています。したがって、ODAを実施する際には、ODA以外の資金、すなわち国際協力銀行(JBIC)による公的輸出金融などODA以外の政府資金(OOF:Other Official Flows)や貿易保険の付保、更には民間セクターからの海外直接投資(FDI:Foreign Direct Investment)や銀行貸出などの資金の流れも見据え、特にJBICのアンタイド・ローンとのそれぞれ固有の目的を踏まえた役割分担と連携を図りつつ、効果的な開発援助を進めていくことが必要です。
 また近年、援助のアンタイド化の進行による本邦企業の受注率の低下、プロジェクト型援助からプログラム型援助への移行に伴い、従来プロジェクトの案件形成に携わってきたコンサルタント企業からより政策志向の強いソフト系コンサルタント企業へのニーズが高まってきたこと等の理由により、民間企業やコンサルタント企業の中にはODAに対する熱意が低下しているケースも見られます。しかしながら、効果的・効率的な援助、国民参加型援助の推進のためには、これら民間企業、コンサルタント企業の関与がより必要となってきています。こうした官民連携のあり方については、今後とも民間の関係者も交えつつ議論を深めていきたいと考えています。
 また、民間部門との新たな連携の試みも進められています。2000年度に導入された「民間提案型プロジェクト形成調査」はそうしたものの一つです。これは、途上国の開発において民間部門による経済基盤の整備やNGOによる地域住民への社会サービス提供のための協力が重要な役割を担っている現状を踏まえ、民間部門や市民社会からのアイデアをODA事業に採り入れるため、NGO・民間企業の提案に基づいてプロジェクトを発掘・形成するために行う調査です。2000年度には、途上国の現場で保健医療活動に携わる日本のNGOからHIV/AIDS感染予防に関する調査が、また、本邦の電力企業からは南太平洋地域の国における再生可能エネルギー(風水力及び太陽光など)による未電化地域の電化に関する調査が提案され、それぞれ採択されています。

(3)NGO等への支援及び連携


 NGO等市民社会による援助活動は、多様化する途上国の開発ニーズにきめ細かく応えることができ、また、緊急人道支援が必要な際にいち早く現地入りすることができるといった利点を有しており、政府としてもその支援と連携強化に努めています。96年以来、外務省はNGOとの定期協議会を行ってきましたが(その他、JICAは98年から、またJBICは2001年からNGOとの定期協議を実施)、政府とNGOとの対話は着実に進展しています。さらに最近では、対話のみならず、事業実施レベルでの協力も本格化しています。
 わが国のNGO支援策は多岐にわたっており、「NGO事業補助金」(注1)や「草の根無償資金協力」(注2)に加え、2000年度には、迅速な審査と概算一括払いでの資金拠出により、NGOが緊急事態時に素早く現地で展開することを可能にした「NGO緊急活動支援無償」(注3)が新たに設けられる等、わが国の支援策は多様かつNGOにとって利便性の増したものとなっています。
 99年度から始まったJICAの「開発パートナー事業」は、「21世紀に向けてのODA改革懇談会」の提言(98年1月)を踏まえて開始されまし。これは、小規模かつきめ細かい対応が求められるプロジェクトを日本のNGO、地方自治体、大学などが請け負う(コントラクトアウト)もので、2000年度はNGOが提案した9案件が採択されました。
 しかしながら、わが国のNGOの多くは歴史も浅く、欧米諸国の主要NGOに比べると依然として組織や活動基盤が脆弱であることは否めません。このため、現在政府は、日本のNGOの組織基盤を強化するための支援策も種々講じています。例えば、99年度より導入した「NGO活動環境整備支援事業」では、以下の3つの制度を柱として組織運営能力強化のための支援を実施しています。(1)1つ目は、NGOや国際ボランティア活動に関する市民からのさまざまな質問や相談にも応じられるよう全国各地のNGOに相談員を置く「NGO相談員制度」です。2000年度では、20団体(21名)が相談員として配置されました。また、国際協力に関するイベントやセミナーの際のNGO相談員による「出張相談サービス」といった新たな試みも行われています。(2)2つ目は、NGOの組織強化のための改善策を具体的に提言することを目的とした「NGO研究会制度」です。2000年度では、NGO研究会の委員として15団体が選出され、「NGOの自己評価の指標」をテーマとし9回の研究会を開催、この中では、米国NGOの幹部を招いて意見交換や一般公開の研究会(大阪で開催)も行うなど活発な議論が行われました。また、「NGO研究会」の初年度からの研究成果を国内各地域のNGOに広く普及するために、2000年度においては、NGO活動の基礎となるアカウンタビリティー(社会や協力者に対する説明責任)を高める上で必須となる財務・会計などをテーマとし、各地(横浜、福岡、東京)のNGO関係者に対して小規模の実務者セミナーを実施しました。(3)3つ目は、国際的なNGO活動に必要な専門性を有する人材に、個々のNGO団体の実際の業務や活動に参加してもらい、その組織としての機能強化や専門性向上を図ることを目的とする「NGO専門調査員制度」で、2000年度では、17名の調査員が17のNGO団体に派遣されました。
 以上、3点の組織強化支援策に加え、2001年度からは、ODAの重点分野である「保健・医療」、「教育」、「農業」の3分野で活動するNGOを対象とした研修を行う「キャパシティー・ビルディング支援」を実施し、日本のNGOの水準向上に努めています。
 多様な援助需要にきめ細かく応えていくためには、日本のNGOを支援するだけでなく、途上国のNGOや地方自治体に対する支援も重要です。そのため、途上国のNGOや地方自治体などが実施するプロジェクトに対しては草の根無償が供与されており、2000年度は、全世界で1,523件、計約85億円の援助が実施されました。
 また、援助を受ける途上国側のNGOや地方自治体の参加を得た「住民参加型援助」の有用性にも注目が集まっています。例えば、2000年に始まったバングラデシュにおける「住民参加型農村開発行政支援計画」では、地方行政機関と村落住民のつながりを強化することを通じて、「住民参加型農村開発」モデルを確立することを目指しており、国連開発計画(UNDP)を始め国際機関や他のドナー諸国から注目されています。

(トピック18参照)


(4)他の援助国及び国際機関との協調


 世界全体のODA資金総額が減少している中、国際社会においては援助の効率性や効果を高めることを目的として、他の援助国や国際機関との援助協調を進める傾向が強まっています。こうした援助協調の動きについては、第I部第1章第2節(3)において概説しましたが、わが国もこうした動きの目指す目的は支持しており、DACや現場レベルでの議論に積極的に参加しています。2001年4月には、DACにおいて、援助の効果を高めるための手段として、後発開発途上国(LDC:Least Developed Countries)向けODAのアンタイド化を実施するという合意がなされました(注)。もっとも、一部ドナーの主張に見られるような援助実施面で過度な画一化を求める動きについては、わが国は、その結果として多様な協力主体の提供しうる技術やノウハウの選択の幅を狭めることになりかねないとの観点から、慎重な対応が必要であると考えています。
 わが国は他のドナーとの政策協議を積極的に行っており、2000年度に二国間援助協議を行った国は9か国にのぼりました。また、主要ドナー国との援助協調の途を具体的に模索するため、特定分野での援助計画を策定し実施の共同化を進めようとする「セクター・ワイド・アプローチ(SWAps)」に関し、英国国際開発省(DfID:Department for International Development)との間で共同学習ミッションをアフリカに派遣しました。このミッションでは、タンザニア及びガーナの保健SWApsのケース・スタディを通じてそのメリット・デメリットにつき学習し、SWApsの構成要素の一つであるコモン・バスケット・ファンドを含む公共財政管理について互いの考え方をすり合わせるための意見交換も行われました。そのほか、日米間の協力の一環として、人口・保健、環境分野における日米連携協力プログラムの発掘・形成を目的として、米国と合同でタンザニアの保健医療分野やメキシコの環境問題に関するプロジェクト形成調査団を派遣しました。さらに、国際機関との協調(マルチ・バイ援助協調)に関しては、2000年度、世界銀行と2回の政策対話を行ったほか、ポリオ撲滅をはじめとする予防接種拡大計画や微量栄養素欠乏症対策等の分野でわが国との協力が順調に進展している国連児童基金(UNICEF)との政策対話を行いました。国際機関との協調事業(マルチ・バイ援助協調)に関しては、UNDPとコソボや東チモールにおいてわが国がUNDPを通じて行った緊急支援、復興支援の合同評価を行ったほか、UNDPに設置された人造り基金(注1)の活用、国連合同エイズ計画(UNAIDS:Joint United Nations Program on HIV/AIDS)との共催によるエイズセミナーの開催等を実施しました。

(5)南南協力への支援


 従来開発援助の受け手であった途上国の中には、一定の経済発展を果たした結果、引き続き援助を受けつつも更に開発の遅れている他の途上国へ支援を行う国(「新興援助国」)が現れてきています。こうした国による開発の遅れた国への援助に代表される、「途上国同士の協力」のことを「南南協力」と呼びますが、こうした途上国間の開発協力は、被援助国の発展段階により適した技術の移転を可能にするだけでなく、開発援助主体を広げ、援助にかかるコストを下げる効果があります。わが国はそうした途上国の努力を積極的に支援してきており、今では南南協力への支援を最も積極的に推進している援助国の一つとなっています。
 特にアジア・アフリカ間の南南協力は、98年のTICADIIで採択された「東京行動計画」(注2)でも重点とされており、その具体的実施策として2000年5月にはUNDPの主催によりマレーシアで第3回アジア・アフリカ・フォーラムが開催され、アジアとアフリカの民間企業の間で民間レベルでの南南協力に関する活発な意見交換が行われるとともに、アジアとアフリカの企業間においてビジネスの可能性が追求されました。さらに、2001年7月、南アフリカ共和国のダーバンにおいてUNDPと共にアフリカ・アジア・ビジネスフォーラムを開催しましたが、そこではアジア・アフリカ各国より多くの企業が参加し、交渉、取引の成立を促す機会となりました。
 わが国は、南南協力を積極的に進める「新興援助国」との間で、第三国研修のコース数や費用の分担、専門家の共同派遣等に関する中期的な目標・計画を設定し、総合的な南南協力の枠組みを定める「パートナーシップ・プログラム」を結び、これら諸国がより主体的な援助国へと移行できるよう支援しています。これまでのところ、シンガポール、タイ、エジプト、チュニジア、ブラジル、チリ、アルゼンチンとの間でこのような枠組みに基づく協力を実施しています。また、フィリピンとの間でも、2001年9月に行われた日・フィリピン首脳会談において「日・フィリピン・パートナーシップ・プログラム」の原則合意がなされ、現在署名に向けた協議が行われているところです。また、わが国は南南協力に関する国際会議も開催しており、国際社会において南南協力の重要性をアピールしてきています。最近では、「南南協力支援会合」(外務省/JICA共催、98年5月)、「21世紀の開発協力―南南協力支援のあり方」(JICA/UNDP共催、2001年9月)が開催されました。



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