本編 > 第II部 > 第2章 > 第2節 各地域へのわが国援助の現況
ODA中期政策は、途上国の各地域についてのわが国援助のあり方を述べています。次に、各地域ごとの援助実績を概観します。
2000年のわが国の東アジア地域への二国間援助は38.56億ドルで、二国間援助全体に占める割合は40.0%です。
東アジア地域は、わが国と歴史的、地理的に深いつながりがあるだけでなく、政治・経済的に相互依存関係にあることから、わが国ODAの重点地域として、これまで積極的に支援を行ってきています。わが国の経済・社会インフラ整備や人材育成を中心とした協力は、「東アジアの奇跡」と称されるこの地域の発展に大きく寄与したといえます。
しかしながら、同地域には、所得水準、市場経済化の段階、社会・自然状況等が異なるさまざまな国が存在し、開発の遅れた国々(モンゴル、インドシナ諸国等)や、他の途上国に対して援助を始めた「新興援助国」もあり、異なる開発ニーズに対応する支援・協力が必要となっています。こうした事情は、近年ASEANにおいても、加盟国間の「経済格差の是正」が重要な課題と掲げられていることに示されています。
こうした状況の下、わが国は、各国の開発ニーズ・要望を踏まえた二国間支援を行うとともに、域内協力や南南協力の促進に積極的に協力しています。また、第三国研修制度や第三国専門家制度の拡大を図りつつ、「21世紀のための日本・シンガポール・パートナーシップ・プログラム」や、「日本・タイ・パートナーシップ・プログラム」を設け、専門家の共同派遣、第三国研修のコース数や費用負担等に関する中期的な目標・計画を設定し協力を実施しています。その他、「国際寄生虫対策」として、世界保健機関(WHO)とも協力して人造りと研究活動のためのセンターをタイのマヒドン大学に設置し、周辺諸国の人材研修等、同地域における南南協力推進の拠点としています。
また、同地域において比較的開発の遅れているベトナム、ラオス、ミャンマーの各国については、長期的視点から各国の市場経済化への移行支援を実施しており、加えて貧困削減、基礎生活支援といった社会分野における援助を重視しています。
一方、より発展の進んだ諸国については、円借款を通して経済・社会インフラ整備を引き続き支援するとともに、特にアジア通貨・経済危機への対応として、新宮澤構想、特別円借款等を活用した支援策を実施しており、通貨危機の影響を最も大きく受けたインドネシアに対しては、2000年4月に開催されたインドネシア債権国会合(いわゆる非公式パリクラブ)での合意により、わが国は約1,455億円(円借款分)の債務繰り延べに応じました。
中国については、わが国の厳しい経済・財政事情の中、対中ODAに対しわが国国内において強い批判があること、さらには中国の経済発展に伴う中国側の開発需要の変化等を踏まえ、対中国経済協力計画が策定され、2001年10月に公表されたのはすでに述べたとおりです(第I部第4章第2節(1)参照)。近年の対中ODAの主たる特徴としては、環境保全に重点的に取り組んできていることが挙げられます。例えば、2000年度の対中円借款総額のうち86%が環境案件でした。主要な取組としては、21世紀に向けた日中環境協力の枠組の下で行われている「日中環境開発モデル都市構想」、「環境情報ネットワーク」等が挙げられます。「日中環境モデル都市構想」では、モデルとなる都市を選定した上で大気汚染対策を中心とする環境対策に重点的に取り組み、さらに、その成果が他の都市へ波及することを想定しています。2000年度は貴陽、大連、重慶の3都市に対し、火力発電所への排煙脱硫装置の設置等、146.6億円の円借款を供与しました。また、「環境情報ネットワーク」では、中国全土で発生する環境問題の情報を集約し共有するためのネットワーク構築を無償資金協力により支援しています。
南西アジア地域においては、貧困削減や貧困層の生活にかかる援助需要が大きく、保健医療や初等教育といった分野での支援に力を入れており、また感染症、人口問題といった地球規模問題への対応にも配慮しています。この地域の大国であるインド及びパキスタンについては、98年5月の核実験以来、新規の円借款及び緊急・人道的性格の援助及び草の根無償資金協力以外の新規の無償資金協力を停止しました。一方、ポリオ対策等人道的性格の無償資金協力については引き続き実施してきており、また、2001年1月のインドにおける地震災害に対し、わが国は緊急無償援助等の支援を実施しました。
2001年9月に発生した米国における同時多発テロ事件を受け、わが国は、アフガニスタン周辺国支援を含めた7項目の措置を発表しました。なかでも難民の流入、経済状況の悪化等で緊急を要するパキスタンに対し、わが国は緊急の経済支援として、47億円の二国間支援、公的債務の繰り延べ、国際金融機関を通じた融資への支持・支援を行うことを発表、すでにそのほとんどを実施しました。11月には、パキスタンに対し、教育・保健分野を含む貧困削減支援のため、前述の47億円の二国間支援を含み今後2年程度で3億ドルの無償資金協力を行う等の追加的経済支援を発表し、テロに対する国際的取組に協力する同国への支持・協力姿勢を改めて表明しています。12月は、その一環として「ポリオ撲滅計画」に対し、9億9,700万円を限度とする無償資金協力を行うこととし、2002年1月には、50億円の無償資金協力を行う旨表明しました。
また10月には、インド及びパキスタン両国の核をはじめとする不拡散上の進展において、わが国の措置が相応の効果を上げたと考えられること、パキスタンを中長期的に支援する必要性、インドに対し積極的な関与を深めていく必要性等、種々の要素を総合的に考慮し、両国への上記措置の停止を発表しました。
なお、2000年のわが国の南西アジア地域への二国間援助は11.30億ドルで、二国間援助全体に占める割合は11.7%です。
中央アジア・コーカサス地域の国々は、91年に旧ソ連邦から独立して以来、程度の差はあるものの、それぞれに民主化、市場経済化に取り組んでいます。わが国としても研修員受入れや専門家派遣等を通じ、民主化、市場経済化に不可欠な人造り支援やノウハウの提供といったソフト型支援のほか、保健・医療を中心とした基礎生活分野への支援を実施しています。また、この地域ではイスラム過激派の動向を注視しつつ地域の安定に資する支援を目指しており、タジキスタン支援国会合では和平達成後の国際収支支援を中心とした約25億円の支援パッケージを発表しました(本章第1節(3)(ハ)参照)。
また、米国における同時多発テロ事件に関連し、周辺国支援の一環として、2001年10月、タジキスタンに対し、約2.4億円の難民支援を実施しました。さらに、12月には、ウズベキスタンとタジキスタンに対し、ユニセフを経由し、総額5億4千万円を限度とする無償資金協力を行うこととしたほか、2002年1月にはアフガニスタン復興支援国会合に先立って、アフガニスタン周辺国支援の一環として、ウズベキスタン及びタジキスタンにそれぞれ10億円の無償資金協力を行うことを発表しました。
なお、2000年のわが国の中央アジア・コーカサス地域への二国間援助は2.73億ドルで、二国間援助全体に占める割合は2.8%です。
わが国は、98年以降5,200万ドル以上に及ぶ対アフガニスタン支援を実施していましたが、2001年9月の米国における同時多発テロ事件以降のアフガニスタンにおける状況の変化に対応して、アフガニスタン及びその周辺国への積極的な支援を表明しました。2001年9月に発表された難民・避難民に関する国連のドナー・アラート(5億8,400万ドル)に対し、わが国はその約20%、最大1億2千万ドルまでの支援を行う用意があると発表し、すでに国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連児童基金(UNICEF)、国連人道問題調整事務所(OCHA)、赤十字国際委員会(ICRC)、国連開発計画(UNDP)等の国際機関からの緊急支援の要請に対する約1億ドルの支援等を実施しています。
また、わが国は中東和平プロセス進展のための取組の一環で、パレスチナ支援としてインフラ整備、学校、病院の整備、人材育成のための技術協力等、これまでに6億ドル以上に及ぶ支援を行っています。特に、2000年9月末のイスラエル・パレスチナ間の衝突発生後は、パレスチナ人の経済的苦境を緩和するために、緊急医療支援、緊急雇用創出支援、食糧支援、食糧増産支援等緊急のニーズに応えた支援を行っています。さらに、他の和平当事国(エジプト、ヨルダン、シリア、レバノン)についても開発援助を行っています。
ICT協力に関しては、わが国のICT包括的協力策の一環として、2001年7月、ヨルダンにおいて世銀との連携により「遠隔教育センター」を立ち上げました。
さらに、湾岸産油国への環境分野における技術協力も実施しています。ODA卒業国のカタールより、カタール政府が派遣費用を負担する前提で、「地下水排水対策」分野の専門家派遣要請があり、2000年4月、2名の短期専門家を派遣しました。同じくODA卒業国であるアラブ首長国連邦においても、湾岸諸国を対象とした第三国研修「水産資源評価管理セミナー」を、99年度以降実施しています。なお、同国がODA卒業国であることから、同研修開催にかかる費用については、わが国と折半する形をとっています。
また、アジアとアフリカとの交流を促進するのみならず中東和平の促進にも資するとの観点から97年度~2000年度の無償資金協力にて実施した、スエズ運河架橋建設計画による「日・エジプト友好橋(ムバラク平和橋)」が完成し、ムバラク大統領及び橋本元総理の臨席の下、2001年10月に橋の開通式典が行われました。
なお、2000年のわが国の中近東地域への二国間援助は7.27億ドルで、二国間援助全体に占める割合は7.5%です。
アフリカは、世界で最も貧困人口の割合が高く、また紛争や飢饉、感染症、さらには累積債務など困難な課題が集中している地域であり、開発援助の世界で最も大きな課題を抱えた地域であると言えます。また、近年では情報通信革命などにより加速しつつある世界経済統合の流れから取り残され、他の地域との格差が拡大するおそれも指摘されています。
90年以降、日本の二国間援助の約1割がこの地域に向けられており(2000年は9.69億ドル、二国間援助の10.1%)、スキーム別では、有償資金協力が約6%で、残りは無償資金協力と技術協力となっています。無償資金協力では基礎生活分野を中心に、技術協力では開発を支えるさまざまな分野での人造りを中心とした支援を実施しています。
2001年1月森総理(当時)は、現職総理として初めてサハラ以南アフリカ(南アフリカ、ケニア、ナイジェリア)を訪問し、「アフリカ問題の解決なくして21世紀の世界の平和と繁栄なし」との基本認識の下、開発支援と紛争予防・難民支援を車の両輪として対アフリカ協力を一層推進していくこと、また、双方向の交流を強化して新たな日本・アフリカ関係を発展させていくことを表明しました。
また、わが国は2回にわたるアフリカ開発会議(TICAD)の開催(93年と98年)を通じ、アフリカ諸国の自助努力(オーナーシップ)と、それを支援する国際社会のパートナーシップの重要性を提唱するとともに、98年に開催された第2回アフリカ開発会議(TICADII)で採択された「東京行動計画」の実施に向けさまざまな施策を講じています。
具体的には、東京行動計画を踏まえた新たなイニシアティブとして、教育・保健医療・水供給分野で98年10月から向こう5年間を目途に無償資金協力により総額900億円の支援を表明し、2001年9月までに合計約531.86億円の支援を実施しています。こうした分野に加え、現在、新たな重点分野としてHIV/AIDS等感染症対策と情報通信技術(ICT)への支援、並びに「アジア・アフリカ・フォーラム」に代表されるようなアジア・アフリカ協力を中心とする南南協力の推進に取り組んでいます。
こうした中、アフリカの開発に向け、7月のアフリカ統一機構(OAU)首脳会議において、アフリカ諸国自身のイニシアティブにより策定された「新アフリカ・イニシアティブ(NAI:New African Initiative)」(その後「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD:New Partnership for Africa's Development)」と改称)が採択されましたが、わが国としてもTICADプロセスの基本理念であるオーナーシップを具体化するものとして評価しています。こうした観点から、2001年10月のムベキ南アフリカ共和国大統領訪日の機会に開催された日・南アフリカ首脳会議では、2003年の第3回アフリカ開発会議の準備として、2001年12月に開催されるTICAD閣僚レベル会合(於:東京)において、NAI(NEPAD)を主要な議題の1つとすることで合意しました。TICAD閣僚レベル会合では、TICADIIレビューとNEPADを中心とした議論が行われ、その結果、2003年後半に開催することが表明されたTICADIIIへの方向性を示す議長声明が採択されました。
また、TICADプロセスは、こうしたアフリカ自身のオーナーシップを育むだけでなく、国際社会にアフリカ開発への関心と関与を喚起し、アフリカとのパートナーシップを強化することにも寄与しております。現在、多くのアフリカ諸国で貧困削減戦略書(PRSP)やセクター・プログラムの策定がアフリカ諸国の主導(オーナーシップ)の下、国際社会の支援(パートナーシップ)により進められております。わが国は、これらプロセスにも積極的に参画しており、効果的・効率的な開発援助を目指して他ドナーとの連携を図りつつ、対アフリカ支援を進めております。
わが国は、アフリカ地域における南南協力を推進し、アフリカ諸国への技術協力を第三国と連携・協力して実施するため、98年10月にはエジプトと、99年3月にはチュニジアと、それぞれ三角技術協力枠組み文書への署名を行いました。右に基づき、2000年度には、エジプト人溶接技術者等専門家5名をタンザニア工業開発機関及びザンビア・ルサカ職業訓練センターへ派遣したほか、チュニジアにおいて、リプロダクティブ・ヘルス分野や債務管理セミナーなどの第三国研修を実施しました。
なお、G8サミット・プロセスにおいては、わが国は、2000年の九州・沖縄サミットにおいて開発問題を主要な議題として取り上げ、また、首脳会合の前日には途上国首脳とG8首脳の対話の機会を設けるなど、アフリカを含む途上国の問題に大きく焦点を当てました。この流れは2001年のジェノバ・サミットにも引き継がれ、ジェノバでの首脳会合においては「アフリカのためのジェノバ・プラン」が採択されました。来年のサミットに向けて、このプランに基づき、G8の行動計画を策定することとなっており、わが国としてもこのプロセスに積極的に関与していく考えです。
図表-22 21世紀に向けたアフリカ開発:東京行動計画 - 概要 -

2000年のわが国の中南米地域への二国間援助は約8億ドルで、二国間援助全体に占める割合は8.3%です。
わが国は、中南米諸国が取り組んでいる民主化、経済改革努力に対しODAを通じて積極的に支援しています。また、中南米は経済成長が進んでいる反面、地域間の貧富の格差が大きく、貧困問題緩和のための支援と開発の基盤となる環境の保全を図るための支援等も重要です。
中南米諸国にはチリ、ブラジル、アルゼンチンなど周辺諸国と比べてより開発の進んだ途上国があり、それらの国が新たな援助国として他の途上国の支援を行っています。わが国は、それら新興援助国とパートナーシップ・プログラムを結び、南南協力を積極的に進めています。なお、98年のハリケーン災害により甚大な被害を受けた中米・カリブ諸国に対しては、復旧・復興活動への支援にも取り組んでいます。
また、カリブ共同体(カリコム)諸国は、国連などの国際場裡において14票を有し、発言力を一層高めています。国連改革などを推進するためには、これらカリコム諸国の協力が極めて重要です。2000年11月に初の日・カリブ閣僚レベル会議を東京で開催し、協力の枠組みに署名しました。この枠組みには、雇用創出と産業多角化、職業訓練などの人材育成、保健衛生・エイズ対策、環境保全、自然災害対応能力強化、観光、ICT促進、水産新興など広範な分野における協力が盛り込まれ、わが国はこの枠組みの実施に努めています。
2000年度のわが国の大洋州地域への二国間援助は1.51億ドルで、二国間援助全体の約1.2%となっています。
大洋州地域の国々は、国家規模が小さく、地理的にも分散していること、気候温暖化などによる海面上昇の結果、国土喪失の危機に直面していること、サイクロンやエルニーニョなど自然災害に対して脆弱であること、一次産業依存型経済であること、若い独立国であること等の共通の特徴を有する一方で、国ごとには経済規模、天然資源の有無、発展段階に格差があり、地域の特殊性に起因する共通問題と、各国に特有な事情の両面を勘案しながら支援を実施しています。
また、2000年4月に宮崎で開催された「太平洋・島サミット」の森総理(当時)による基調演説において「太平洋フロンティア外交」を提唱、その具体化のために「太平洋諸島各国の持続可能な開発」「地域及び地球規模の共通の課題」「日本と太平洋諸島各国間のパートナーシップの強化」という3つの分野での協力を盛り込んだ「宮崎イニシアティブ」を表明し、具体的案件の実施に努めているところです。
同地域に対する代表的な案件としては、域内12か国に係わる「南太平洋大学通信体系改善計画」(98年度無償資金協力)や、アジア大洋州地域の珊瑚礁研究の拠点として建設された「パラオ国際珊瑚礁センター」があります(トピック5参照)。これらは地域の共通の問題の克服と、援助の効果的活用を目的とした複数の国に裨益する案件として実施されたものであり、特に後者は日米協力案件でもあります。
また、同地域では、民主化に対する支援も重視しており、2001年8月~9月に実施されたフィジーの総選挙に対して10人の日本人国連選挙監視要員の派遣を含む37万ドルの協力を実施しました。また同年12月に実施されたソロモンの総選挙に対して、選挙機材等約18.4万ドルの支援を実施したほか、5名の日本人選挙監視要員を派遣しました。
フィジーの総選挙で活躍する日本人選挙監視委員
2000年のわが国の欧州地域への二国間援助は1.18億ドルで、二国間援助全体に占める割合は1.2%です。
中・東欧諸国の一部及び欧州地域の旧ソ連邦諸国の多くは、依然として市場経済への移行段階にあり、わが国はこれら諸国の努力を開発援助を通じて支援しています。また、旧ユーゴスラビア地域の安定の確保は国際的な課題であり、わが国も難民支援等の人道支援、復旧・復興のための経済社会支援、基礎生活分野支援、選挙支援等を通じて積極的に南東欧諸国の努力に協力しています。
2001年6月に実施されたユーゴスラビア支援国会合においては、わが国は、2000年の大統領選挙の結果、同国に民主政権が成立したことを評価し、5,000万ドルの無償援助等の実施を表明しました。また、アルバニア系武装勢力とマケドニア政府軍との戦闘が続いていたマケドニアにおいて停戦合意及び枠組合意が成立したことを受け、9月に難民・国内避難民支援として100万ドルの緊急無償援助を行うことを決定しました。