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第2節 ODAの透明性・効率性の向上



 厳しい経済・財政状況の下で、国民の理解と幅広い支持を得ながらODAを実施していくためには、ODAの透明性・効率性を高めることが極めて重要です。ODAの成果や実態に関する情報を広く国民に提供し、国民より意見や批判を頂くことが、ひいては、わが国援助を効果的・効率的に実施することにもつながります。ここでは、ODAの透明性・効率性を高めるための具体的取組を、(1)援助政策、(2)事業実施、(3)評価、(4)政府内における調整・連携の4つの側面から説明します。

(1)援助政策における透明性・効率性の向上


 政府は、援助政策の透明性を高めるため、わが国援助の理念や方針を明確にし、ODAに関する政策枠組みの整備に努めています。まず、92年、政府は40年近くに及ぶわが国援助の実績、経験、教訓等を踏まえ、ODAの基本理念(注1)や原則(注2)などをまとめた「政府開発援助大綱」((ODA大綱)第V部資料編に全文掲載)を策定しました。
 その後、「ODA大綱」で示された援助の基本的方向性を具体的に示すものとして、今後5年程度を目途とした政策指針として、99年、「政府開発援助に関する中期政策」(ODA中期政策、第V部資料編に全文掲載)を策定しました。ODA中期政策は、90年代に行われた開発関連の各種国連サミット等での議論なども踏まえつつ、わが国のODAが目指す具体的課題を明らかにするとともに、貧困対策・社会開発や地球規模問題などの重点項目、また地域別の援助課題、援助を行う際の手法や留意点を体系的にまとめた政策文書です。
 さらに、2000年以降、ODA中期政策を踏まえつつ、国ごとに異なる援助需要を踏まえ効果的な援助を実施しうるよう、主要な被援助国に対し、援助の目的、重点分野等を具体的に記した「国別援助計画」を順次策定しています。2001年度には、中国、カンボジア、マレーシアの国別援助計画を策定・公表しました(概要を第IV部に掲載)。
 中でも中国については、近年、わが国の厳しい経済・財政事情の中、中国の軍事費の増大や基本的人権の保障状況等とODA大綱との関係、中国自身による対外援助、中国国内での不十分な広報といった点で対中ODAに対してわが国国内において強い批判があり、さらには中国の経済発展に伴う開発課題の変化等を踏まえ、わが国国内において対中ODAのあり方を巡る様々な議論が行われました。例えば、2000年12月には、自民党の対外経済協力特別委員会・経済協力評価小委員会によって「中国に対する経済援助及び協力の総括と指針」が、また、民間企業、学識経験者、マスコミ、NGO等幅広い分野からの委員で構成された「21世紀に向けた対中経済協力のあり方に関する懇談会」(外務省経済協力局長の私的懇談会、座長:宮崎勇元経企庁長官)よりの提言が相次いで公表されました。
 こうしたわが国国内における様々な議論を受け、政府部内で種々の検討を重ねた結果、2001年10月、今後の対中ODAの基本方針となる対中国経済協力計画が策定・公表されました(注)。同計画は、すでに述べたような対中ODAを取り巻く状況を踏まえて、新たな対中ODAのあり方を指向していくとしています。同計画では、まず、対中国経済協力の意義について述べており、その中で、「我が国の安全と繁栄を維持・強化するためには、平和な国際環境の保持が必要であり、特にわが国が位置する東アジア地域の平和と発展が不可欠である。そのためには、中国がより開かれ、安定した社会となり、国際社会の一員としての責任を一層果たしていくようになることが望ましい。わが国は、中国が国際社会への関与と参加を深めるよう働きかけるとともに、中国自身のそうした方向での努力を支援していく必要がある。」としています。
 また、今後の重点分野・課題としては、沿海部の経済インフラ整備は基本的に中国自らが実施するとの考えのもとに、わが国のODAはわが国にも重大な影響を及ぼす酸性雨や黄砂対策等の環境保全や貧困問題を抱える内陸部の民生の向上と安定・社会開発・人材育成などを中心とする分野をより重視していくこととしています。さらに、従来の支援額を所与のものとすることなく、中国の新たな開発需要に適切に対応しつつ、重点分野・課題を中心に、わが国の厳しい経済・財政事情をも勘案し、個別具体的に案件を審査の上、実施する「案件積み上げ方式」に基づいて供与することとしています。すなわち、従来の実績ではなく、一つ一つの案件を精査して、実施するかどうかを決定するということです。対中ODAは、有償資金協力(円借款、2000年度の実績は約2,144億円)が大宗を占め、無償資金協力は約48億円ですが、特に円借款については、従来の多年度にわたって供与額を約束する方式から、透明性を高めるため円借款案件候補リスト(ロング・リスト)に基づく単年度供与方式に移行することとしました。
 2001年度の対中円借款については、対中国経済協力計画の趣旨を踏まえ、わが国の財政事情、中国の経済発展と国力の増大、個別案件のわが方重点分野との整合性等を総合的に勘案し慎重に検討した結果、供与額が約1,614億円となり、前年度の実績と比較すると、金額にして約530億円、比率にして約25%の減となりました。また、個々のプロジェクトについても、全15案件中、環境案件が7件、内陸案件が13件を占めています。
 また、前述のとおり、中国における近年の国防費の大幅な増大や、核・ミサイル開発、武器の輸出入、さらには民主化の進展及び人権の保障状況などとの関連で、わが国国内には、対中ODAが「ODA大綱」の「原則」に則していないのではないかとの指摘がなされています。この点については、わが国としては引き続き、中国の軍事支出や武器の輸出入の動向などを注視し、民主化の促進や基本的人権及び自由の保障状況などについても十分注意を払うよう努めるとともに、ODA大綱原則の考え方について中国側の認識と理解を更に一層深めるよう最大限の努力を払っていきます。なお、対中ODAの評価についても積極的に進め、具体的には、これまでの個別案件の評価のみならず、包括的視点から整合性のある評価を適時適切に実施していきます。政府としては、今後、この計画に基づき、また、国民各層からの御意見にも常に耳を傾けつつ、国民の理解と支持が得られるような形で対中ODAを実施していく考えです。なお、政府は、現在までに他に9か国(バングラデシュ、タイ、ベトナム、ガーナ、タンザニア、フィリピン、エジプト、ケニア及びペルー)について、国別援助計画を策定・公表しています。
 加えて、政府は、感染症や環境、紛争予防等、特定の開発課題に応えるべく、分野・課題別政策イニシアティブも順次策定しています。2000年の九州・沖縄サミットに際しては、わが国独自のイニシアティブとして向こう5年間で30億ドルの支援をすること等を盛り込んだ「沖縄感染症対策イニシアティブ」や紛争予防強化のための開発協力のあり方についてわが国としての考え方を示した「紛争と開発に関する日本からの行動(アクション・フロム・ジャパン)」を発表しました。
 このように、わが国のODAはODA大綱の下、ODA中期政策、国別援助計画、分野・課題別政策イニシアティブという政策枠組みに基づき実施されており、途上国への援助の実施に際しては、各プロジェクトひとつひとつを相手国の開発計画や日本の国別・分野別援助計画等にしっかりと位置づけるとともに、資金協力や技術協力(専門家派遣、研修員受入れ等)の各種事業を連携させる等援助のプログラム化(注)に努めるなど援助資源の効果的投入に努めています。なお、実施機関レベルでも、こうした政府の政策枠組みを踏まえた事業実施計画等を策定して、事業の方向性を明確にしています。
 なお、JBICでは、海外経済協力業務実施方針を3年に1度改訂することになっていますが、2002年4月に策定・公表された新しい実施方針については、パブリック・コメントを募集し、多方面より寄せられたコメントを極力反映させるなど策定プロセスの透明性の確保に努めるとともに、分かりやすい記述とするよう配慮しました。

(2)事業実施における透明性・効率性の向上


 個々のODA事業に関しては、プロジェクト・サイクルのはじめ(案件選定段階)から終わり(事後評価)に至るまで、あらゆる段階において透明性を確保し、不正が行われないように最大限の努力を図ってきています。
 具体的には、案件選定に際し、円借款の候補案件リスト(ロングリスト)の公表、無償資金協力における案件選定のための調査報告(基本設計調査)の入札後の公表等を行っています。また、事業の実施に際しては、入札が適正に行われたかについて実施機関が厳正にチェックを行うとともに、入札結果については、落札業者名、落札金額のみならず、応札業者名、応札額も含めて公表することとしています。その際、不正行為が行われた場合における罰則を策定し、実施しています(ODA事業の調達に係わる不正防止については、さらに第II部2章4節(6)(イ)を参照)。さらに、事業実施後については、第三者による適切な監査制度を導入することについても今後検討していきたいと考えています。
 円借款の候補案件リストについては、これまで4か国(ベトナム、チュニジア、モロッコ、中国)について公表されています。同リストは複数年にわたる候補案件のリストですが、作成後は、リストに掲載された案件から各年度ごとに正式要請を受け、案件を選定の上、供与が決定されることになります。リストの作成・公表の利点としては、中長期的観点からの円借款案件のより効果的・効率的な発掘・形成、援助の透明性の向上、技術協力などの各種スキームとの連携の促進、他の援助国・国際機関・民間との連携の促進などが挙げられます。なお、リストに掲載されている案件は、あくまで候補案件であり、リストへの掲載をもって円借款の供与をいかなる意味でも約束するものではなく、また、作成後は、案件の追加、削除等の改訂が随時行われていくことになります。
 ODA事業を行う際には、環境・社会面の配慮の視点から、ODA事業が環境・社会面に与える影響が事前にチェックされていることが必要です。この点、すでにJICA、JBICにおいて、いわゆる環境ガイドラインが策定されています。JICAについては、相手国の意向をも踏まえつつ、開発を持続可能なものとするために、開発計画の出来るだけ早い段階から十分な環境配慮の検討を行うとの基本的考え方に基づき、分野ごとに具体的な作業手順等を取りまとめた環境配慮ガイドラインを整備しており、90年より順次、2002年3月までに農業、鉱工業、水産業等20セクターについて策定しています。JBICについては、2002年4月、海外経済協力業務(ODA)と国際金融等業務(OOF)の環境ガイドラインを統合し、新たに「環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン」を策定・公表しました。策定にあたってJBICはパブリック・コメントを募集したほか、有識者、NGO、産業界、国会議員、関係省庁等から幅広くコメントを聴取するなど、策定プロセスは透明度の高いものとなりました。新ガイドラインでは、事業の影響を受ける現地住民などステークホルダー(利害関係者)の参加を重視し、事業の計画段階からステークホルダーの参加を事業実施主体に求めています。また、JBICが確認すべき内容には環境面に留まらず、住民移転、先住民族・女性への配慮などの社会配慮も含まれています。さらに、融資決定に先立つ対象事業のカテゴリ分類及びJBICが行う環境社会配慮確認の結果等の公開などJBICが積極的に情報公開を行っていくことが定められており、従来のガイドラインからの拡充が図られています。

(トピックス13参照)

(3) 評価体制の充実


 ODAの公正、適正な実施のためには、評価体制を更に強化していくことが必要です。2001年2月、河野外務大臣(当時)に提出された「ODA評価研究会」の報告書(注1)では、(1)政策レベル評価の導入及びプログラム・レベル評価の拡充(指標設定、モニタリング手法の決定など)、(2)評価のフィードバック体制の強化(評価の結果をODAの更なる改善につなげるための「評価フィードバック委員会」の設置など)、(3)評価人材の育成と有効活用(国際機関や他の援助国との人事交流、「評価人材データベース」の構築など)、(4)(事業実施の)事前・中間・事後を通じた評価の一貫性確保(「事前評価表」の作成など)、(5)ODA関係省庁間の連携推進(定期的な意見交換・議論の場としての学識経験者やNGOの参加を得た「ODA関係省庁評価部門連絡会議」の設置など)が提案されています。
 こうした提言を踏まえ、政府レベルでは、個別プロジェクトの上位に位置するODAのプログラム・レベル及び政策レベルでの評価活動の拡充、並びに事前から中間、事後に至る一貫した評価プロセスの確立に向けた取組が行われています。JICA及びJBICにおいては2001年度以降、従来の事後評価の公表に加え、プロジェクト方式技術協力や無償資金協力、円借款の各個別プロジェクトについて、事前の調査結果等をとりまとめ、事業の必要性、目的、事業内容、成果目標等を記載した「事業事前評価表」の作成・公表を開始しました(注2)。また、評価結果をより適切に政策にフィードバックするために、2001年1月、「ODA評価内部フィードバック連絡会議」を外務省内に設置(JICA、JBIC関係者も参加)しました。さらに、外務省が行っているODA評価結果を独立した第三者機関によって整理、検証することを通じ、より公平性・客観性の高いODA評価体制の確立を図ることを目的とし、2001年12月、経済協力局長の諮問機関として「外部有識者評価フィードバック委員会」を設置しました。
 なお、評価制度の充実に不可欠な要素である評価人材の育成とネットワーク化との関連では、援助評価検討部会からの提言に呼応する形で2000年9月に設立された「日本評価学会」が年2回の定期会合を開き、会員間の情報交換、評価技術の向上に努め、評価の研究者、コンサルタント、政府関係者など評価を実践していく実務家の意見交換の場となっています。外務省としても、これら会合に積極的に参加すること等により、同学会と連携してODA評価の担い手となる人材の発掘と育成に努力しています。
 現在は、評価ガイドラインやマニュアルの改訂のための準備を進めており、今後もODA評価をより公平かつ客観的なものにする努力を続けていく考えです。

(4) 政府内における調整・連携の強化


 現在、わが国政府においては、1府10省がODA予算を有しています。予算額の大半を占めるのは、外務省、財務省、経済産業省、文部科学省であり、外務省及び財務省を除いた各府省のODA予算の大半は技術協力予算です。そうした事業が全体として整合性を保ち、効果的・効率的に実施されるよう、ODAに関係する府省庁間や各種制度間での連携・調整を強化することが重要です。
 98年6月に制定された「中央省庁等改革基本法」は、こうした問題認識を踏まえたODA実施体制に関する改革の方向性を示しました。99年7月に制定された新しい外務省設置法では、2001年1月以降、外務省が政府開発援助全体に共通する方針に関する関係行政機関の行う企画の調整並びに政府開発援助のうち技術協力及び有償の資金供与による協力に関する関係行政機関の行う企画・立案の調整を所掌することとされた(注1)ほか、JBICの事業のうち海外経済協力業務の主務大臣が外務大臣となりました。
 従来より、ODAに関し関係省庁との連携が十分図られるよう、さまざまなチャンネルが用いられてきましたが、以上の動きを背景として、2000年3月、外務省と関係省庁との間で新たに「政府開発援助関係省庁連絡協議会」が設けられました(詳細は第II部第2章第3節)。この協議会では、その時々のODAを巡る重要課題について関係省庁間で協議が行われており、2001年10月には、米国における同時多発テロへの対応に関するわが国の措置について、また2002年3月には、アフガニスタン復興支援を議題として取り上げました。
 技術協力については、ODA予算を有するすべての府省が実施しており、政府全体として効果的・効率的に事業を実施することが必要であるとの認識の下、97年4月に「技術協力関係省庁連絡会議」(注2)が立ち上げられました。連絡会議は、2001年度末までに14回開催されており、各府省が実施する技術協力の効果的連携や重複の回避等を図るための情報・意見交換が行われています。
 評価についても、2001年7月、政府全体としてのODA評価体制の一層の充実を目指し、ODA関係省庁の課長レベルを委員として、学識経験者、国際機関、NGO関係者等をオブザーバーとする「ODA関係府省評価部門連絡会議」が設置されました。同会議は、2002年3月、各府省が展開しているODA事業活動のうち、特に研修員受入れ事業および専門家派遣事業について、評価を行う際の参考とするために「ODA関係府省による技術支援評価のための参考手法」を採択しました。


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