本編 > 第I部 > 第1章 > 第2節 国際的開発パートナーシップの構築
冷戦終了後、世界的規模で見たODAは、94年をピークとして97年まで減少し、それ以降、国際開発目標達成に向けた一部ドナーの取組強化やわが国のアジア経済危機支援策等もあり再び増加に転じていますが、90年代以前のような「右肩上がり」の増加は当面期待できる状況にはありません。
しかし、途上国における開発ニーズは依然として大きく、限られた援助資源をいかに動員し、また効果的・効率的に活用していくか、どの分野でどのような成果を上げていくかが不断に問われています。現在、援助国、被援助国、国際機関、NGOを含む民間部門などが有するあらゆる資源を効果的に組み合わせ、多様な主体間の連携・協力(パートナーシップ)を強化しながら開発援助を進めていくことが、国際社会全体の大きな流れとなっています。
これに加えて、途上国の開発を実現するためには、貿易や投資の役割が大きくなっていることから、開発援助とこれらの政策が一貫性をもって進められていくことの重要性が強く認識されるようになっています。
90年代を通じ、国連を中心として、多くのサミットや国際会議が開催され、主要な開発課題ごとに、国際社会としての取組を議論し、具体的な目標を定めました。主なものを挙げれば、子どものための世界サミット(90年、於:ニューヨーク)、万人のための教育世界会議(90年、於:ジョムティエン、タイ)、国連環境開発会議(92年、於:リオデジャネイロ)、国際人口・開発会議(94年、於:カイロ)、世界社会開発サミット(95年、於:コペンハーゲン)、第4回世界女性会議(95年、於:北京)、第2回国連人間住居会議(96年、於:イスタンブール)、世界教育フォーラム(2000年、於:ダカール)、感染症対策沖縄国際会議(わが国主催)(2000年、於:沖縄)、第3回国連後発開発途上国(LDC:Least Developed Countries)会議(2001年、於:ブリュッセル)、国連エイズ特別総会(2001年、於:ニューヨーク)、開発資金国際会議(2002年、於:モンテレイ、メキシコ)などですが、これらの会議の結果、世界の貧困人口の半減、初等教育の普及、教育における男女格差の解消、乳幼児死亡率の低減、持続可能な開発の達成などについて具体的な数値目標が掲げられるとともに、国際社会が一体となってこれらの目標の実現に取り組んでいくとの決意が示されました。
図表-1 90年代以降の主な国際会議

一方、先進援助国のグループである経済開発協力機構(OECD:Organization for Economic Cooperation and Development)開発援助委員会(DAC:Development Assistance Committee)は、96年、わが国が主導的な役割を果たして、7つの具体的な国際開発目標(IDGs:International Development Goals)を掲げたDAC新開発戦略(「21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献」)(注1)を発表しました。これらの目標(IDGs)達成に向けた決意は、その後の主要先進国首脳会議(G8サミット)において、繰り返し確認されているほか、2000年9月に開催された国連ミレニアム・サミットにおいても、参加した150か国以上の首脳によりIDGs達成に向けた決意が改めて確認されるなど、国際社会の共通の目標として定着しています(注2)。先進国の中には、国際開発目標の達成も念頭に開発援助予算を増加させている国も出始めています。
90年代を通じてグローバル化の流れが勢いを増す中で、援助国政府や国際機関だけでなく、企業や財団、あるいは国際的NGOなどさまざまな主体が、重要な開発援助の担い手として活躍しています。加えて、開発努力が効果を挙げ、かつ持続的であるためには、途上国住民の参画が不可欠であり、そのためには、途上国政府のみならず、現地の市民社会やNGOの役割も大きくなっています。さらには、途上国の中には、開発が進み、援助を受けつつも、特定の地域や分野については自らの開発経験を踏まえて援助を行うことができる国も出てきています。特にASEAN(東南アジア諸国連合)諸国では、加盟国間の格差是正、すなわち新たに加盟した後発国への開発協力が大きな課題とされているなど、途上国間の協力(南南協力)も脚光を浴びています(注3)。
このように、開発に関わる主体が多様化し大幅に増加していることも、近年の顕著な傾向です。
国際社会においては、途上国の開発目標を明確にしつつ、さまざまな援助主体がその活動を協調させながら効果的・効率的な開発協力を進めていこうという動きがますます顕著になっています。このような動きを援助協調といいます。これまでは、援助国や国際機関が行う援助の間で調整が必要となる場合には、対象となる途上国自身の援助調整能力が不十分なこともあり、援助国や国際機関との間の調整に重きがおかれるきらいがありました。しかしながら、ここ数年、途上国自身の主体的な取組を前提として、途上国と援助国・機関等の援助主体がともにパートナーとして開発目標の達成に向け努力していくことが不可欠であるとの考え方が強まっています。この背景には、96年にOECD/DACで採択された「新開発戦略」において、途上国自身の自発的な取組(オーナーシップ)と先進国の協力(パートナーシップ)の重要性が基本理念として掲げられたことがあります。
このような中で、以下のような注目すべき援助協調の動きが、特に世界銀行(世銀)、国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)等を中心として進展しつつあります。
まず第一に、これまで市場経済(民営化)を推進するための構造調整に重点を置いてきた世銀が、その政策に修正を加え、経済開発のみならず、社会セクターの開発をも視野に置いた包括的な開発アプローチを打ち出したことが挙げられます。これは「包括的開発のフレームワーク(CDF:Comprehensive Development Framework)」(注1)と呼ばれていますが、世銀はこのアプローチにおいて、途上国政府の主導の下に、開発に携わるさまざまな援助主体(援助国、国際機関、NGO、市民社会等)の参加を得て、10~15年の期間を念頭に置いた総合的な枠組み作りを目指しています。特に、このアプローチでは、途上国のオーナーシップを最重要視し、各課題への取組のペース等についても途上国自身が決定すべきであると強調していることが注目されます。
次に、90年代の後半以降、貧困削減が途上国援助の最大の課題としてクローズアップされるに至り、世銀、IMFにおいて、同問題に対応していくために新たなアプローチがとられるようになったことです。具体的には、上記のCDFの考え方に基づき、途上国政府と幅広い援助主体が共同で貧困削減に関する戦略書を策定し、それぞれの役割を明確にした上で、効果的な貧困対策のための援助を進めようという動きです。この戦略書は「貧困削減戦略書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)」と呼ばれており、世銀・IMFが、重債務貧困国(HIPCs:Heavily Indebted Poor Countries)に対し拡大HIPCイニシアティブ(注2)に基づく債務救済措置を適用・実施する際、国際開発協会(IDA:International Development Association)の融資供与を行うIMFの貧困削減成長融資(PRGF:Poverty Reduction and Growth Facility)(注)供与の際に、同戦略書の作成・提出が条件づけられています。
更に、最近サブ・サハラ・アフリカを中心として、教育、保健・医療などの分野(セクター)ごとの全体的な開発計画を途上国政府と援助国・機関などが協議・調整して策定し、多様な援助主体がそれぞれの援助をその計画に沿って実施しようとする動きが拡大していることが挙げられます。 これは、「セクターワイド・アプローチ(SWAps:Sector-wide Approaches)」と呼ばれるものであり、最近では、計画の策定のみにとどまらず、更に協調を一段と進めて援助資金を一括プールする方法(「コモン・ファンド」の設立)もタンザニア等の一部のアフリカ諸国で試みられています。
以上の動きが、途上国と援助国・機関等の協調を通じて援助の効率・効果を高める努力とすれば、これに加え最近顕著になりつつあるのが、政府資金のほか、民間の援助資金も導入して地球規模の課題に対する国際社会の対応能力を強化しようという動きです。2001年7月のジェノバ・サミットに際して設立が宣言され、翌2002年1月に発足した「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」は、そうした動きを代表するものです(第2章第2節(2)感染症対策も併せて参照)。
このように援助協調は、国際的規模での援助資源の伸び悩みを背景としながら、開発援助のより効果的・効率的な実施を目指してさまざまな形で試行されつつあります。しかし、国際社会が一体となって、あるいは協調して目標の達成に努力するとはいっても、主要な援助国や国際機関にとって、従来の援助のやり方を一時に変更することは容易ではありません。また性急に事を進めては現在行われている開発援助に混乱を生じかねません。わが国としては、今後とも援助協調の推進に努めていく方針ですが、その際には、対象となる途上国の現状等を十分に勘案しつつ、途上国政府を含めた開発当事者間の協議を踏まえ、可能な分野から着実に実施していくことが肝要であると考えています。