前頁  次頁


本編 > 第III部 > 第2章 > 第2節 > 1.東アジア地域


第2節 各地域への日本の援助の現況
1.東アジア地域

 日本の東アジア地域に対する2002年の二国間ODAは、約26億2,000万ドルで、二国間ODA全体に占める割合は39.0%です(注)
 日本は、東アジア地域に対して、1999年に策定された「政府開発援助に関する中期政策」(以下、中期政策)にもあるとおり、以下の点を重視して支援を行っています。
[1]経済構造調整をはじめとした経済危機克服と経済再生のための支援
[2]国民生活及び国内の安定に資するための社会的弱者への積極的支援
[3]裾野産業育成や適切な経済・社会運営のための人材育成と制度づくり等の支援
[4]貧困対策、経済・社会インフラ整備、環境保全対策、農業・農村開発における各国の実情に応じた援助の実施
[5]地域における広域的な開発(ASEAN域内協力、APEC地域協力、メコン河流域開発等)の取組及び「南南協力」への支援

 東アジア地域は、日本が伝統的に重点としてきた地域です。新しいODA大綱も、ASEANを含む東アジア地域を重点地域としています。これは、東アジア諸国が日本と政治・経済・文化等あらゆる面において緊密な相互依存関係にあり、東アジアの発展と安定が日本の安全と繁栄にとって重要な意義を有しているからです。日本は、このような考え方の下、従来ODAによる経済インフラ基盤整備等を通じた民間投資や貿易の活性化を図るなどODAと投資・貿易が有機的に連携した経済協力を進めることにより、同地域の目覚ましい発展に貢献してきました。
 東アジアにおいては、高い経済成長を遂げ、既に韓国やシンガポールのように被援助国から援助国へ移行した国も現れている一方で、カンボジアやラオスなどの後発開発途上国が依然として存在しています。また、中国のように、著しい経済成長等を背景に日本としてODAの重点分野を変更する動きもあります。日本は、このような各国の経済社会状況の多様性、援助需要の変化等に十分留意しつつ、援助を行っています。
 日本は、ODAを積極的に活用して加盟国の増加に伴い顕在化したASEAN域内の格差の是正とともに、民間貿易・投資を円滑化するための制度整備、経済社会基盤の支援、人材育成、環境保全の推進、経済構造改革のための政策形成、地方分権化支援とガバナンス支援、テロ・海賊その他国境を越える問題への支援等の分野での協力を実施しています。その際、東アジアにおける経済連携強化等に十分配慮しています。
 ASEAN域内においては、国ごとの開発状況を踏まえつつ、経済・金融危機からの完全な脱却と域内の格差是正を目標としつつ協力を行ってきています。特にカンボジア、ラオス、ベトナムといった比較的開発の遅れている国に対しては引き続き市場経済への移行のための支援を実施するとともに、貧困削減、基礎生活分野支援といった社会開発分野における援助を実施したほか、道路、配電網など各種の経済インフラ基盤整備等の支援も実施しました。また、域内格差是正に資するメコン地域開発にも積極的に取り組んでいます(第I部囲みI-6参照)
 一方、インドネシア、フィリピン、タイ、マレーシアに対しては、主に円借款を通じた経済・社会インフラ基盤整備を中心に引き続き支援したこともあり、域内の物流、人的交流、情報の流通等はスムーズになりつつあります。
 さらに、日本は、二国間援助とともに、ASEAN統合の強化の観点から、域内協力やシンガポール、タイ、フィリピン各国のパートナーシップ・プログラム*1に基づく南南協力を積極的に推進しています。また、アジア・アフリカ協力の促進も重視しており、例えば、アフリカ諸国を対象として第三国研修による生産性向上などの支援を実施しています。
 モンゴルについては、これまでに同国の民主化及び市場経済化を積極的に支援してきており、人材育成などを行っています。また、モンゴルの広大な土地に住み、同国国民の過半数を占める遊牧民に広く裨益する案件として、無償資金協力により「短波ラジオ放送網整備計画」への資金供与を決定しました。このプロジェクトにより、モンゴルの国家政策や気象・災害情報等の情報を遊牧民を含む国民に広く提供可能となることが期待されます。
 なお、中国については、2001年10月に策定された対中国経済協力計画に従って援助を行っています。2002年度の対中国円借款は大部分が環境案件に充てられ、金額的にも対前年度比約25%減(交換公文ベース)となっています。(詳細は第I部2章1節4-(2)参照
 また、日本の新たな取組としては、東アジア開発イニシアティブ(IDEA)があげられます。日本の提唱により2002年8月に東京で開催された第1回閣僚会合では、日本と中国、韓国、ASEAN諸国が東アジア地域の経済連携と地域協力の方向性について率直に話し合うなど非常に有意義な議論がなされました。そのフォローアップとして、日本は、2002年8月末のヨハネスブルグ・サミットの機会にIDEAの内容を紹介するサイド・イベントを開催し、ODAを活用した貿易・投資の促進による成長志向の東アジアの開発手法がアフリカ政府関係者からも注目を集めました。なお、同会合については、第II部2章1節2-(2)も参照してください。
 東アジア地域における文化面での協力としては、世界的にも卓越した普遍的評価を有するアンコール遺跡の保存修復分野で、日本はUNESCOを通じて1994年から文化遺産保存日本信託基金による「アンコール遺跡保存修復プロジェクト」(現在第2期)を実施しており、遺跡の保存修復のみならず、カンボジア人の育成にも取り組んでいます。日本の支援は、文化面でのカンボジア復興に役立っており、国際社会からも高い評価を得ています。

■東アジア地域におけるテロ対策及び平和の定着への支援
 東アジアは、国際的なテロ活動根絶の観点からも重要な地域です。2002年10月には、インドネシアのバリ島で爆弾テロが発生したほか、フィリピン等でもテロ事件が発生しており、イスラム過激派の伸長が指摘されています。日本は、この地域におけるテロ対策支援を重視しており、インドネシアやフィリピンに対する警察支援や機材供与などを通じてテロ対策に協力するとともに、テロの温床を排除するとの観点からも、日本は東アジアの貧困削減に対する協力を実施しています。
 また、東アジア地域においてもインドネシアのアチェ問題やフィリピンのミンダナオ問題など「平和の定着」が求められる諸問題が存在しており、日本としてもこれらの和平への動きに対して支援を行っています。(第III部2章1節5-(1)参照)

図表III-17 東アジア地域における援助実績

東アジア地域における援助実績


前頁  次頁