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(4)地球規模問題への取組
(イ) 環境保全
わが国は、既に第I部で紹介しました「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD)」に基づき具体的な支援を進めてきました。
また環境保全を推進するための新しい制度の創設に努め、2001年度には、CO2排出削減・抑制に資するエネルギー関連施設整備、植林、水質汚染等に対応するための施設整備や機材供与を実施する「地球環境無償」を一般プロジェクト無償の内枠として新設しました。2001年度の実績は7件で約41億円(交換公文ベース)になりました。
[1]大気汚染、水質汚濁、廃棄物対策
わが国は、国内の公害問題に取り組む過程で多くの経験と技術を蓄積しており、それを活用して途上国の公害問題に協力しています。
例えば、東アジア酸性雨モニタリングネットワークの推進や、中国の貴陽市大気汚染対策計画調査や西安市などで環境整備計画を実施しています。また、大気汚染防止対策支援基礎調査による対策マニュアルの策定・提供、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)を通じて開発途上国固有の技術開発課題に即した研究開発への支援を行うなど、調査研究部門の協力も盛んに行っています。
また、オゾン層保護対策では、モントリオール議定書多数国間基金への拠出や二国間協力プロジェクトの実施、オゾン層保護対策・代替技術セミナーを通じた途上国への人材育成支援を行いました。
[2]地球温暖化対策
この分野のODAは「京都イニシアティブ」(第I部第2章第5節(3)参照)に基づいて実施しており、2001年度には、技術協力を通じ約1,800名の人材育成(JICAベース)、円借款の最優遇条件(金利0.75%、償還期間40年。「特別環境金利」)の適用による温暖化対策関連案件7件、約1,046億円(交換公文ベース)を実施しました。また、政策対話に基づいた環境・エネルギー分野の協力としてグリーン・エイド・プランをアジア7か国で実施しており、改善のモデル事例をつくるとともに、成果の普及のための制度構築支援を行っています。
2001年11月に開催された気候変動枠組条約第7回締約国会議では、京都議定書の運用細目が定められました。クリーン開発メカニズム(CDM)は温室効果ガスを削減して開発途上国の持続可能な開発の推進に寄与するとともに、わが国の排出削減目標を達成する上でも大切なメカニズムです。2001年度は、温暖化対策関連ODAの評価調査、JICAの連携促進委員会、開発途上国との脱温暖化対策共同実施等支援事業、NGO等の民間による植林協力推進等を図るための国際フォーラムなど、CDMを推進するための取組が実施されました。
[3]自然環境保全
地球環境保全に関する関係閣僚会議(2001年3月)において、新しい「生物多様性国家戦略」が決定されました。その中で、日本と世界、特にアジア地域は自然環境、社会経済両面から深い関係があることから、わが国はアジア地域等の生物多様性保全に積極的に貢献していく必要があることが述べられています。
この分野の具体的な取組として、フィリピンの北部パラワン持続可能型環境保全計画などの生物多様性保全、東アジア海地域地球規模サンゴ礁モニタリングネットワークの推進、インドネシアの北スラウェシ地域サンゴ礁管理計画の策定調査などのサンゴ礁保全、砂漠化防止対策推進支援及びモデル事業調査、パナマ運河流域保全計画、地域住民森林管理実証調査事業、ITTOを通じた違法伐採問題克服に向けた熱帯林経営強化推進事業及びFAOを通じたミャンマーなど4か国における持続可能な森林経営の推進などを実施しました。
[4]環境意識の向上
開発途上国において環境保全のための対策が進まない社会的な背景として、他の開発分野に比べて政策上の優先順位が低くなりがちであることや、国民に環境問題の重大さを十分知らせることができないなどの理由があります。わが国は開発途上国との政策対話を通じて、環境保全の重要性について理解を求めるとともに、環境分野の案件形成を促しています。2001年度には、中国に対し環境政策対話の強化等を目的とした事業を実施しました。
囲みII-2.ISDの実施状況
(ロ)人口・エイズ
人口・エイズ問題に対するわが国の支援は、人口・家族計画等に直接資する協力に加え、保健医療、基礎教育、WID/ジェンダー等を含めた包括的なアプローチをとっています。保健医療、基礎教育、WID/ジェンダーについてはすでに本章第1節で紹介したとおりです。ここでは、第I部第2章第5節(2)において紹介した沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)に沿った支援の一環であるHIV/AIDS対策、及び家族計画への支援を紹介します。
わが国はIDIに沿ったHIV/AIDS対策として、第I部で紹介した地域的取組の強化とともに、二国間援助による無償資金協力や技術協力を実施しています。また、地域住民に直接的にきめ細かな援助を実施できるNGOとの連携も図っています。わが国支援によりNGOが実施する活動には、さまざまな形態があります。HIV/AIDSの罹患率が世界第2位というカリブ地域に位置するセントルシアでは、若者が多く集まる美容院の理髪師に対しHIV/AIDS問題に関する研修を行うNGOの活動を草の根無償により支援しました。その結果、研修を受けた理髪師が日常生活の中で若者にHIV/AIDSに関する啓蒙教育を広げていくという効果が期待されています。
さらに、わが国は、国連合同エイズ計画(UNAIDS)による世界レベルのHIV/AIDS感染状況の動向把握、ワクチン開発及び新治療薬開発の促進、各種予防対策等のガイドライン開発等を支援しました。
家族計画については、国連人口基金(UNFPA)や世界保健機関(WHO)等の国際機関を通じた支援を中心に実施しています。わが国は、UNFPAと連携しつつ、開発途上国の家族計画の向上や妊産婦・新生児死亡率の改善を目的とした二国間の特別機材供与を実施しており、2001年度は約2億2千万円の機材供与を実施しました。
また、人口・エイズ分野は「人間の安全保障」に係わる問題であることから、わが国が国連に設置した人間の安全保障基金を通じた支援も実施しています。2001年度は、アジア、アフリカ、中南米地域をそれぞれ対象とした「HIV/AIDSに関連するジェンダー平等を通じた人間の安全保障の促進計画」など計15事業に対し総額約12億8千万円の拠出を行っています。
(ハ)食料
96年の世界食料サミットでは、世界の食料安全保障の達成を目的として2015年までに栄養不足人口を半減させることなどを目指して各国が協調行動をとることが宣言されました(ローマ宣言)。その5年後の2002年6月に開催された世界食料サミット5年後会合では、ローマ宣言の具体的目標を更新し、その行動計画の実行を強化するとともに、政府、国際機関、市民社会、民間セクターなどすべての関係者がそれぞれ努力することを求める等を宣言した「飢餓撲滅のための世界的連帯」という政治文書が採択されました。
わが国は、このような国際社会による取組を踏まえ、持続可能な食料生産を目指して、農業及び水産業に対する食料生産向上に資する支援を中心に実施しています。
農業分野では、作物の耕作に欠かせない肥料や農業機械、農作物種子等の購入資金の供与、農業技術向上のための研修員受入れ・専門家派遣・青年海外協力隊派遣等の技術協力、さらに、灌漑施設整備、市場へのアクセスを可能にするインフラの整備や流通システム強化への協力等を実施しています。
また、わが国は、農業分野におけるアジアの経験をアフリカに活かす観点から、西アフリカ稲開発協会(WARDA、コートジボワール)に対し、アジア稲とアフリカ稲を交配したネリカ米の開発のため、研究者・専門家の派遣とともに、国際農業研究協議グループ(CGIAR)への拠出金及びUNDPの人造り基金を活用した支援を行っており、2001年度は81万ドルの支援を実施しました。引き続き、ネリカ稲の研究・普及を推進することにより、アフリカ地域の食料安全保障に貢献するために取り組んでいきます(ネリカ米については、コラムI-6も参照)。
さらに、わが国は、貧困地域(大部分が農村部)における農民の食料安全保障の確立を目的とした事業を世界食糧計画(WFP)への拠出金を通じて実施しています。この事業は「Food for Work」と呼ばれ、農民、特に女性や脆弱な人々の参加を促しつつ、農村の生活基盤づくりに関する諸活動を行い、参加者に対し労働の対価として食料を配布しています。わが国は、政府米を拠出し、住民参加型の小規模水田開発や灌漑排水事業をコートジボワールやカンボジア等で実施しています。この事業は、農業生産性向上や女性や脆弱な人々の自立・自給手段の確保等により持続可能な農村開発を図り、食料安全保障の達成や貧困の削減に貢献すると期待されています。
水産分野においては、漁港や水産施設整備・供与等のインフラ整備、漁業職業訓練センターや水産学校への機材供与、漁業技術指導等の技術協力のほか、草の根無償資金協力により地域漁業団体等を通じた零細漁民の生活向上のための支援などを実施しています。
わが国は、DAC統計で、2001年に農業分野において約3億2千万ドル(二国間ODAの2.7%)、水産分野においては約1億3千万ドル(二国間ODAの0.9%)の支援を行いました。
(二)エネルギー
わが国は、途上国におけるエネルギー供給のための支援に際しては、持続可能な開発の観点から、省エネルギー及び環境保全に留意して実施しています。また、近年、この分野への協力は民生向上や貧困対策のための地域電化や送配電施設の整備といった案件が増えており、比較的規模が大きく、経済効果も高いことから、有償資金協力(円借款)による支援が中心となっています。2001年度には、エネルギー分野における有償資金協力として7か国に対して計11件、約1,489億円の事業を実施しました。この中には再生可能エネルギーを活用した支援があり、フィリピンの「北ルソン風力発電事業(2001年度)」に対して約59億円の特別円借款を供与しました。この事業により、島国であるフィリピンの潜在的エネルギーである風力を利用した電力不足解消とともに、化石燃料への依存を減らし地球温暖化防止にも貢献することが期待されています。
さらに、再生可能エネルギーを活用した協力としては、例えば、太平洋島嶼国の強い太陽光や風など気候の特性を活かした再生可能エネルギー供給システムの研究及び実用化を行っている太平洋ハイテクセンター(PICHTR)への支援を行っています。同センターの実施する事業の中で特に成果が望めるプロジェクトに対して、5万200ドルを拠出しました。
無償資金協力においても地域電化や配電整備など同分野への支援を行っています。例えば、キリバスの「タワラ環礁電力供給施設整備計画(2001年度)」に対して約12億円の供与を行い、住民生活に不可欠な電力インフラ整備を実施しています。特に、老朽化し電力損失が20%を超える配電設備を改善することにより化石燃料の使用量が削減され、省エネルギー化による地球温暖化防止にも貢献しています。また、ギニアの「沿岸地方給水計画(2001年度)」などの事業においても、小規模給水施設の取水ポンプの電力源にソーラーシステムを利用した太陽光発電を利用する等の工夫がなされています。
また、技術協力プロジェクトを通じた省エネルギー分野の技術協力にも取り組んでおり、現在、タイの「エネルギー管理者訓練センタープロジェクト」などを実施するとともに、個別専門家の派遣や研修コースなどを通じた人材育成を実施しています。
DAC統計におけるわが国の2001年のエネルギー分野への支援は約9億2,300万ドル(同7.7%)です。
(ホ)薬物
わが国の薬物対策への支援は、世界最大級のアヘン及びヘロインの生産拠点である「黄金の三角地帯」と呼ばれるインドシナ地域を中心として、その他にも中南米地域、さらに最近ではアフガニスタン等に対して実施しています。薬物問題の背景には貧困問題があることから、基礎生活インフラの整備や原料作物栽培に頼らないで生活出来るよう麻薬代替作物栽培への支援等を実施しています。また、途上国における法整備強化や薬物関連犯罪の捜査能力向上のための研修員受入れや専門家派遣、第三国研修等の技術協力を実施しているほか、住民教育、中毒者リハビリや職業訓練のためのNGOの活動に対して草の根無償等を活用して支援しています。さらに、国連薬物統制計画(UNDCP)注1)等の国際機関を通じた薬物対策への支援も実施しており、わが国の拠出は総額326万5千ドルで、そのうちUNDCPへの拠出が304万ドル、コロンボ計画麻薬アドバイザリー計画(DAP)注2)への拠出が7万ドルなどとなっています。また、わが国は、世界保健機関(WHO)を通じた麻薬乱用防止対策の支援を行っています。
わが国は、インドシナ地域の中でも特にミャンマーに対する麻薬対策に取り組んでおり、「ミャンマーそばプロジェクト」として、そば栽培に関する専門家派遣や研修員受入れによる技術協力等を行っています。さらに、ミャンマーの麻薬生産地域住民に対する麻薬啓蒙教育や中毒者のリハビリなどNGOの活動を草の根無償により支援するとともに、麻薬生産地域における貧困削減のため、2001年度には無償資金協力により「シャン州北部コーカン地区電化計画」及び「同地区道路建設機材整備計画」を無償資金協力(総額8億円)により実施しています。さらに、シャン州ワ地区においては、人間の安全保障基金を通じてUNDCPの活動を支援しています。
また、薬物問題に対しては、国際社会全体での協力が不可欠であり、わが国は、国際社会との連携という観点から、各種国際会議やセミナーなどの開催を積極的に行っています。例えば、2002年2月に東京で、アジア・太平洋薬物取締会議(ADEC)が「薬物犯罪の地球規模化に対する闘い」をテーマに、29か国2地域2国際機関から約130名の参加を得て開催されました。さらに、2002年4月には、東京において「国際麻薬統制サミット2002」をわが国政府、麻薬・覚せい剤乱用防止対策推進議員連盟(日本)及びUNDCPの3者が共催して開催し、35か国、1地域及び6国際機関が参加し、薬物問題について有益な議論を行いました。