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(3) わが国の対応
わが国をはじめ国際社会にとって今後の最も重要な課題の一つは、言うまでもなく、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向け一連の会議における合意を着実に実施に移すことです。そのためには、国際社会全体が、それぞれの合意に関し、具体的戦略を検討することが必要です。わが国も主要援助国として途上国の開発をODAにより支援するとともに、国際社会における議論に積極的に参加していく方針です。そのため、今政府に何よりも求められていることは、ODAに対する国民の理解と支持を得ること、また国際的なODAの新しい潮流にも対応できるようにODAを改善することであると言えます。ODA改革の詳細は第3章以下に譲りますが、ここでは、既述のような開発援助を巡る新たな動きの関連でわが国ODAの方向性を説明します(なお、MDGsの達成に向けた、わが国の取組については第2章第5節参照)。

援助の重点化・優先順位付けの明確化
限られた資金を活用して、より効果的な途上国支援を行っていくためには、これまで以上に援助を重点化し、優先順位付けを明確にしなければなりません。わが国は、ODA大綱、中期政策等に従い、経済成長を通じた貧困削減に重点をおき、経済・社会インフラ整備、人材育成・知的支援、地球規模問題への取組などを積極的に行ってきました。東アジアの経済発展はまさにこうした取組が貿易・投資を呼び込んだ結果であると言えます。同時に最近では、わが国は、国際的な援助に関する動向も踏まえつつ、平和の定着、国際的な開発目標などに関してイニシアティブを策定・公表しています。2002年には、アフガニスタン、パレスチナ、スリランカなどについて平和の定着支援に対するわが国の考えを内外に明らかにしました。また、6月のG8カナナスキス・サミットに際しては、わが国のアフリカ諸国への包括的な支援策を取りまとめて発表し、さらに、6月に教育支援策を発表したほか、8月にヨハネスブルグ・サミットに先立ち、わが国の環境協力に関するイニシアティブを発表しています。また、ヨハネスブルグ・サミットにおいては、米国と共同で水と衛生に関するイニシアティブを発表しました。

援助のさらなる効率化
わが国は、より効果的に開発を進めるには、被援助国政府のオーナーシップの下、援助国や国際機関との間で、密接な情報共有と意見交換を行い、各自の支援計画と被援助国の開発政策との間に整合性を確保することが重要であると考えています。このような考え方は多くの援助国の共有するところであり、各被援助国において貧困削減戦略文書(PRSP)、セクター開発計画などの策定や、その効果的実施のために、被援助国政府、援助国・機関やNGO等の関係者が集まって協議を行う機会が増えています。わが国は大使館、JICAやJBICの海外事務所が連携して協議に積極的に参加しています。
また、わが国の援助が他の援助国や被援助国の開発の取組と密接に連携し、より高い援助効果を生むためには、わが国の援助方針を明らかにするとともに、被援助国との政策対話を通じてわが国の援助方針が理解されるよう努める必要があります。このため、わが国はより精緻な国別援助計画を策定し、政策対話を強化すべく様々な努力をしています。
わが国は、成果を重視し、より効率的、効果的にODAを実施するため、事前から中間、事後に至る一貫した評価の確立に努めています。評価は、事業の効率性の向上のみならず、被援助国政府や他の援助国・機関との間で共有することにより、他の機関の開発努力との有機的連携を進めることにも役立ちます。
わが国は、援助手続きの簡素化や調和化にも積極的に取り組んでいます。具体的には、被援助国側のオーナーシップの尊重、被援助国側のニーズを踏まえた現実的で柔軟なアプローチ(国別アプローチと多様性の確保)が重要との考えに基づき、ベトナム等の国において、円借款の実施手続きを世界銀行やアジア開発銀行(ADB)の融資手続きと調和化させる方向で努力し、また、技術協力や無償資金協力の手続きについてもなるべく簡素化し、被援助国の負担の軽減に繋がるよう努力しています。
なお、援助の効果的実施には、援助国側の努力だけではなく、被援助国側の能力の向上が不可欠です。このため、わが国としては引き続き積極的に被援助国の能力向上のための技術協力を行っていく方針です。その際、わが国自身による技術協力のみならず、ある程度の開発を成し遂げた途上国から未だ発展途上にある国への技術協力(南南協力)を促進し、幅広い援助資源を活用して各途上国の多様なニーズに対応した効果的な支援を行うよう努力しています。

ODAの適正な事業規模の確保
いかに援助の効率化を図ったとしても、MDGsを始めとした開発目標を達成するためには、ODAの適正な事業規模の確保が欠かせません。わが国は91年より2000年まで10年にわたり世界最大のODA供与国であり続け、その間、平均して年約120億ドルのODAを供与してきました。厳しい経済・財政状況や厳しさを増す国民のODAに対する見方もあり、わが国のODA予算は過去5年間で20%以上減少し、2001年には米国にODA供与額世界第1位の座を譲りましたが、依然としてわが国は世界最大級のODA供与国であり、途上国や国際機関のわが国ODAへの期待は極めて高いものがあります。また、国際貢献に際し、軍事的手段を使うことに一定の制約のあるわが国にとって、ODAは、最も重要な外交手段の一つです。緒方貞子前国連高等弁務官は、ODAを「国の品格」と表現しています。政府としては、今後も、厳しい経済・財政事情を十分踏まえつつ、わが国ODAについて国民の皆さまの理解を得られるよう、さらに努力をして行きたいと考えています。

債務問題への取組
また、債務問題については、債務救済が貧困削減に繋がることを確保しつつ引き続き拡大HIPCイニシアティブを迅速かつ着実に実施に移していくことが重要です。わが国は、既に述べたとおり、同イニシアティブの下、G8諸国中最大の貢献を行っており、今後、同イニシアティブを進めていく上では、こうした各債権国のこれまでの債務救済への貢献を考慮してバランスのとれた対応を取る必要があると考えています。なお、わが国は、2002年12月、ODA改革の一環として、2003年度より、わが国の債務救済の方式を、途上国の事務負担の軽減、債務削減等に向けた債務国の努力を国際的にモニタリングする仕組みの進展等を踏まえ、従来の債務救済無償の供与による債務救済に代えて、円借款の債権を放棄する方式を導入することを決定しました。(詳細は、第3章第1節(5)を参照)。

市場アクセスの改善と貿易関連技術支援を通じた貿易・投資の活性化
わが国は、従来途上国の開発においてODAのみならず、貿易、投資などあらゆる資金の動員が必要であり、途上国が持続可能な貧困削減を達成するためには、自らの手で貿易、投資を通じた経済成長を果たすことが重要であると主張してきました。この点、わが国は、市場アクセスの拡大による途上国の貿易の活性化に向けた努力に努めています。具体的には、2001年4月、LDC産品に対する市場アクセスの改善を行い、その結果、鉱工業産品についてはほぼ100%に近い品目について無税・無枠の市場アクセスを提供できるようになりました。さらに、2003年4月に向けてわが国はLDCに対する農水産品における特恵対象品目の拡大を行う方針を決定しました。この結果、LDCからの輸入額に占める無税・無枠の割合は93%に上昇することになります。また、わが国は、ODAや国際機関に対する拠出を通じた貿易関連技術支援を行っています。例えば、WTOの枠組みにおいて、2001年11月のドーハ閣僚宣言をうけ、途上国の貿易関連技術支援のため、ドーハ開発アジェンダ・グローバル・トラスト・ファンド(DDAGTF)が設立されました。WTO事務局は、同基金を活用して年度毎の「技術協力計画」を作成・実施したり、これまでの技術支援データベースを構築する等、幅広い活動を行っており、わが国も積極的に貢献してきています。また、わが国は、貿易を途上国の開発政策の主要な柱に位置付けていく必要性を訴えていく考えです。

NGO等とのパートナーシップの強化
わが国は、国際会議の場や援助の現場におけるNGO等とのパートナーシップの強化に努力しています。例えば、ヨハネスブルグ・サミットに、本邦NGOが多数参加したほか、政府代表団顧問としてNGO関係者5名が会議に参加しました。また、コラムでご紹介した通り、周辺行事の中心となった日本パビリオンはまさに官民合同で取り組んだものでした。
援助の現場では、わが国政府は、緊急人道危機など迅速に支援活動を開始する必要がある場合やきめ細かい援助の実施にNGOが果たす役割の重要性が高まっていることから、様々な形でNGOとの協力を深めています。具体的には、外務省、財務省、JICA、JBICがそれぞれNGOとの定期協議会の場を持っているほか、NGOの活動環境を整備するため、NGO相談員を国内各地に配置するといった取組を行っています。なお、NGO支援関連予算は、ODA予算の中でも特に拡充・強化が図られている分野であり、99年度時点から比べると2002年度の本邦NGO関連予算は、18.6億円から56.5億円と3倍強の伸びを示しています(NGOとの連携については、第3章第3節(1)を参照)。

人物I-1.ヨハネスブルグ・サミットに日本政府代表団顧問として参加したNGO関係者:ジョイセフ高橋秀行氏


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