7.テロの防止、根絶のための取組

(1)国際社会のテロ対策の取組の進展

2009年を通じ、国際社会はこれまでに達成された成果を基礎に、多国間及び地域的なレベルでの協力を推進し、国際テロ対策を一層強化してきた。

G8ラクイラ・サミットでは、「テロ対策に関する宣言」を採択し、情報共有とテロ対策能力向上支援分野における協力の必要性、テロリストの移動や資金調達の阻止に関する国際的な制裁実施の強化の重要性などを宣言した。

国連においては、12月に国連総会が「国連グローバル・テロ対策戦略」注1の実施に関連して、国連のテロ対策の調整と一体性を確保するために、国連テロ対策実施タスクフォースの組織化を求める決議を採択し、また、国連安保理がタリバーン及びアル・カーイダ関係者に対する制裁制度の改善を盛り込んだ決議を採択した。

そのほか、テロ資金対策分野ではFATF注2が、また、テロ対処能力向上支援に関してはテロ対策行動グループ(CTAG)注3が活動を展開するなど、様々な分野でテロを予防・根絶するための多国間協力が進められている。

地域レベルでは、5月に第7回「テロ対策及び国境を越える犯罪に関するARF会期間会合」(於:ベトナム)が開催され、[1]不法薬物、[2]バイオテロ・バイオセキュリティ、[3]サイバーテロ・サイバーセキュリティの分野における具体的プロジェクトの実施が奨励された。ASEMでは、6月に第7回「ASEMテロ対策会議」(於:フィリピン)が開催され、パキスタン情勢、過激化対策等についての議論が行われた。11月の第17回APEC首脳会議(於:シンガポール)では、貿易の安全、航空保安、エネルギー・インフラのテロ攻撃からの保護、テロリスト向け金融対策、サイバーテロなどへの取組の重要性が表明された。

(2)日本のテロ対策の取組

イ 人材育成、能力向上など

国際テロの防止、根絶には、幅広い分野で国際社会が一致団結し、息の長い取組を継続することが重要である。

日本は、G8等におけるテロ対策の議論に積極的に参画するとともに、テロリストに対する制裁措置を定める国連安保理決議を誠実に履行し、外国為替及び外国貿易法に基づいて、アル・カーイダ、タリバーン関係者等に対し、資産凍結措置を実施している。また、2006年に改正された出入国管理及び難民認定法に基づき、テロリスト等を退去強制措置の対象としている。

国際的なテロ対策協力として、開発途上国等に対する能力向上支援を重視しており、東南アジア地域を重点として、ODAを活用した支援を継続・強化している。具体的には、[1]出入国管理、[2]航空保安、[3]港湾・海上保安、[4]税関協力、[5]輸出管理、[6]法執行協力、[7]テロ資金対策、[8]CBRN(化学、生物、放射性物質、核)テロ対策、[9]テロ防止関連諸条約注4等の分野で技術協力や機材供与等の支援を実施している。

特に、開発途上国によるテロ・海賊等に対する治安対策への支援を強化するためのテロ対策等治安無償資金協力の枠組みにより、3月、マレーシアの海上警備能力強化のための無償資金協力を決定し、E/Nに署名した。また、同じく3月、マレーシアの海上密輸等取締強化、8月、ヨルダンの空港治安対策強化、9月、ベトナムのハイフォン港における税関機能強化のための無償資金協力をそれぞれ決定し、E/Nに署名した。

さらに関係国・機関とテロ情勢やテロ対策協力についての協議・意見交換を行っており、ASEANとの間では、8月にベトナムで第4回日・ASEANテロ対策対話を開催した。また、7月に東京において韓国との二国間テロ協議、12月には東京で日米豪テロ協議、シンガポールで日・シンガポール・テロ対策対話を実施した。

核物質や放射線源を用いたテロ(核テロ)は、2001年9月11日の米国同時多発テロ以降、国際社会全体として取り組むべき新たな課題として注目されている。核テロを防止するための核セキュリティ強化については、IAEAや国連等を中心に様々な取組が行われており、日本は、IAEAの核物質等テロ行為防止特別基金への拠出、「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GI)」注5への参加等を通じ、積極的に貢献している。

ロ 旧テロ対策特別措置法注6及び補給支援特別措置法に基づく取組

2001年9月11日の米国同時多発テロを受けて、米国や英国を始めとする諸外国は、「不朽の自由」作戦(OEF:Operation Enduring Freedom)の下、アフガニスタン国内においてアル・カーイダ等のテロリスト掃討作戦を行い、また、インド洋において海上阻止活動注7を行っている。

日本は、2001年12月以降、旧テロ対策特別措置法に基づく協力支援活動として、この海上阻止活動に参加する各国艦船に対し、海上自衛隊による燃料等の補給支援を実施してきた。海上自衛隊による補給支援は、諸外国の軍隊等がこのような海上阻止活動を行う上での重要な基盤となり作戦効率向上に大きく寄与してきた。2007年11月1日、旧テロ対策特措法の失効に伴い、6年間続いた活動は一時的に中断したが、2008年1月にテロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法(補給支援特別措置法)が国会で可決され、海上自衛隊の艦船はインド洋での活動を再開した。その後、同年12月に同法を2010年1月15日まで1年間延長する改正法が成立した(2010年1月15日に、補給支援活動は終了した)。

アフガニスタンでは、約40か国もの国々が尊い犠牲を払いながらも国際的なテロリズムの防止・根絶に向けて取り組んでおり、日本はこれまで民生支援や補給支援活動を通じたテロ対策への貢献により、アフガニスタンを含む各国や国連から評価と信頼を得てきた。

日本は、国際社会の信頼の重みも踏まえ、11月10日に発表したテロの脅威に対処するための新戦略(第2章第1節4.(2)、第6節3.参照)の実施を始め、引き続き国際的なテロリズムの防止・根絶に向けた取組に積極的に貢献し、国益の実現につなげていく方針である。

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バグダッドの住宅街近くにある外務省の建物前で、爆発による穴の周りに立つ治安部隊と救助隊ら(8月19日、イラク・バグダッド 写真提供:AFP=時事)
2009年に発生したテロ事件の例(報道等に基づく)
3月3日
パキスタン・クリケット代表チーム襲撃事件
パンジャブ州都ラホールで、クリケットのスリランカ代表チームを乗せた車両が待ち伏せ攻撃を受け、警官6人と民間人2人の計8人が死亡、選手2人が負傷した。
3月15日、18日
イエメン・シバーム等における爆弾テロ事件
ハドラマウト州の観光地シバーム遺跡付近において韓国人旅行客に対する自爆テロにより5人が死亡した。18日、首都サヌア近郊において同テロ被害者遺族等が乗った車両も自爆テロの標的となったが死傷者はなし。アラビア半島のアル・カーイダが犯行声明を発出した。
5月27日
パキスタン・ラホール警察関連施設自爆テロ事件
ラホール中心部にある警察及び統合情報局(ISI)支部付近で、武装集団による襲撃と自動車を用いた自爆テロが発生し、少なくとも23人が死亡、約250人が負傷した。
6月9日
パキスタン・パール・コンチネンタル・ホテル自爆テロ事件
ペシャワルの「パール・コンチネンタル・ホテル」にて、自動車を使った自爆テロが発生し、少なくとも18人が死亡、52人が負傷した。
7月17日
インドネシア・ジャカルタ連続爆弾テロ事件
ジャカルタのマリオット・ホテルのロビー及びリッツ・カールトン・ホテルのレストランで連続自爆テロが発生し、9人が死亡、53人が負傷した。本件テロ事件の首謀者とされるジャマ・イスラミーヤのヌルディン・トップは、9月にインドネシア当局により射殺された。
8月19日
イラク・バグダッド連続爆発テロ事件
イラク外務省の近傍及び財務省の外側でトラック爆弾が爆発し、95名が死亡、約1,200名が負傷。 23日、イラク軍当局はバース党支持者の容疑者が自白する映像を公開したが、25日には、アル・カーイダ系組織「イラク・イスラム国」がウェブサイト上で犯行を認める声明を発出した。
8月25日
アフガニスタン・カンダハール爆弾テロ事件
アフガニスタン南部カンダハール市内に所在する国家治安局(NDS)庁舎付近で複数の自動車爆弾が爆発し、約40人が死亡、60人以上が負傷した。爆発現場付近には、日系建設会社事務所があり、同社のアフガニスタン人、パキスタン人職員数名が死傷した。
8月27日
サウジアラビア内務次官に対する自爆テロ事件
ムハンマド・ビン・ナーイフ内務次官に対し、ジッダにある同次官私邸においてサウジ人青年による自爆テロが行われ、同次官が軽傷を負った。
10月5日
パキスタン・イスラマバードWFP事務所自爆テロ事件
イスラマバードにあるWFPの事務所ロビーで、自爆テロ攻撃があり、イラク人職員を含む5人が死亡し、数人が負傷した。パキスタン・タリバーン運動(TTP)報道官が犯行を認めた。
10月8日
アフガニスタン・カブールにおける自爆テロ事件
カブール市内の内務省及びインド大使館付近で自動車自爆テロが発生し、17人が死亡、80人以上が負傷した。タリバーン報道担当は、インド大使館が主な攻撃対象だったとする犯行声明を発出した。
10月10~11日
パキスタン・ラワルピンディ陸軍総司令部襲撃事件
首都近郊ラワルピンディにあるパキスタン軍総司令部で、武装集団8~10人による襲撃・人質事件が起こり、兵士6人、特殊部隊員2人、人質3人の計11人が死亡した。
10月25日
イラク・バグダッド連続テロ事件
バグダッド市内のイラク司法省及びバグダッド県知事事務所の近傍でトラックに積載した爆弾が爆発し、150人以上が死亡、700人以上が負傷した。
10月28日
パキスタン・ペシャワル市場での爆弾テロ事件
ペシャワル中心部の市場で、路傍に駐車してあった車両に仕掛けられていた爆弾が爆発し、少なくとも118人が死亡し、200人余りが負傷した。
12月8日
イラク・バグダッド連続テロ事件
財務省、労働社会問題省付近等で自動車爆弾が次々に爆発し、これらの爆発で127人が死亡し、448人が負傷した。
12月25日
米国行航空機内における爆破テロ未遂事件
アムステルダム発デトロイト行航空機内において、ナイジェリア国籍の被疑者が所持していた爆発物を爆破させようとしたが、未遂に終わった。
12月28日
パキスタン・カラチ爆弾テロ事件
カラチ市中心部で、イスラム教シーア派の行進を標的とした爆弾テロ事件が発生し、45人が死亡し、100人以上が負傷した。TTPが犯行声明を発出した。

(注1)2006年9月、国連総会第99回本会議において全会一致で採択。「テロとの闘い」における国連の能力を強化するための具体的かつ実践的なテロ対策措置を包括的にまとめたもの。

(注2)1989年のG8アルシュ・サミットにおいて、国際的な資金洗浄(マネーロンダリング)対策の推進を目的に招集された国際的な枠組みで、日本を含め、OECD加盟国を中心に32か国・地域及び2国際機関が参加。現在では、テロ資金対策についても指導的役割を果たしている。

(注3)2003年6月のG8エビアン・サミットにおいて採択された「テロと闘うための国際的な政治的意思及び能力の向上G8行動計画」により創設が決定され、その主たる目的は、テロ対策のための能力向上支援に関する要請の分析や需要の優先付け及びこれらの被援助国におけるCTAGメンバーによる調整会合の開催。2009年12月までに計16回開催されている。

(注4)テロ防止関連条約については、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/terro/kyoryoku_04.htmlを参照。日本は13本すべてのテロ防止関連条約を締結している。

(注5)2006年、米国、ロシアの両大統領が、核テロリズムの脅威に国際的に対抗していくことを目的として提唱。参加国は、核テロ対処能力を強化するためのセミナー、ワークショップなどを実施。2010年1月現在、76か国及びオブザーバーとして4機関(EU、IAEA、ICPO-interpol、UNODC)が参加。

(注6)2001年9月11日の米国同時多発テロが国連安保理決議第1368号で「国際の平和と安全に対する脅威」と認められたことなどを踏まえ、日本が国際的なテロの防止・根絶のための国際社会の取組に積極的かつ主体的に寄与することを目的として制定。2001年10月29日成立、11月2日に公布・施行。

(注7)海上阻止活動とは、テロリストの移動や武器、麻薬等の関連物資の移動を阻止、抑止するために、インド洋を航行する不審船舶等に対し無線照会や乗船検査等を行う活動。テロリストや関連物資の移動、資金調達等の制約要因になることによって、アフガニスタンの治安・テロ対策や復興支援の円滑な実施を下支えしている。