日本は、国際的な組織犯罪を防止し、これに対処するための協力を促進し、国際組織犯罪分野における国際的な法的枠組みの整備に協力していくため、国際組織犯罪防止条約及び補足議定書の締結について検討を進めている。また、贈収賄、公務員による財産の横領等の腐敗に関する問題が、持続的な発展や法の支配を危うくする要因となっていることから、これに有効に対処するための措置や国際協力等を規定した国連腐敗防止条約、情報技術(IT)の急速な発展・普及に伴って深刻化したサイバー犯罪に対する国際協力を進めるためのサイバー犯罪条約の締結についても検討を進めている。
国際社会では、国連の犯罪防止刑事司法委員会が、犯罪防止及び刑事司法分野における政策形成の中心機関として活動している。日本は、1992年の同委員会の発足以来連続して委員国に選出されている。4月に開催された同委員会では、2つのテーマ別議論(「経済的詐欺及びID関連犯罪」及び「刑罰改革及び刑務所過剰収容の縮小(刑事司法制度における法律扶助の提供を含む。)」)について、日本の事例を紹介したほか、6本の決議案についての共同提案国となった。
2010年4月にブラジルのサルバドールにおいて開催される予定の第12回国連犯罪防止刑事司法会議(コングレス)に向けたアジア太平洋地域準備会合(7月、於:バンコク(タイ))では、「青少年と犯罪」等の各議題について、日本の取組等を紹介し、積極的に議論に参加した。
また、日本は不正薬物、犯罪、テロの問題に包括的に取り組む国連薬物犯罪事務所(UNODC)に設置されている犯罪防止刑事司法基金を通じて、UNODCが実施するアジアにおける人身取引対策プロジェクト及び腐敗対策プロジェクトを支援している。
10月には、ベトナムで犯罪防止刑事司法基金に対する日本の拠出金の一部を利用して、腐敗対策セミナーが実施された。同セミナーでは、ベトナムが締結した国連腐敗防止条約の効果的な実施促進が図られ、日本のODAの被供与国における腐敗対策の取組が強化された。
G8の枠組みにおいても、刑事法制から具体的捜査手法に至るまで、実務的な観点から専門家レベルで幅広い議論が重ねられており、日本もこれに積極的に参加している。これらの成果は、5月に開催されたG8司法・内務大臣会議(於:ローマ(イタリア))に報告され、7月に開催されたG8ラクイラ・サミットの首脳宣言においても、組織犯罪や腐敗等との世界的な闘いについてのG8の専門家によるイニシアティブが支持された。
資金洗浄(マネーロンダリング)及びテロ資金供与対策については、その国際的推進等を目的とした政府間機関である「FATF」(注1)において、国際的基準の策定及びその実施状況の審査、また、当該取組が不十分な国・地域に対して、是正の要請や懸念を表明する声明の発出、さらに、深刻な問題・高リスクが認められる国・地域の特定等の活動が精力的に行われている。また、大量破壊兵器の拡散につながる資金供与の防止など、新たな視点からの対策についても議論が進められており、日本もこれらの取組に積極的に参加している。
近年、偽装結婚やなりすまし等、人身取引の手口がより巧妙化・潜在化してきている現状及び国際的な関心が引き続き高いことを踏まえ、12月、政府の犯罪対策閣僚会議は、「人身取引対策行動計画」を改定し、新たに「人身取引対策行動計画2009」を策定した。同行動計画に基づき、日本は、国際捜査共助や被害者の帰国支援、ODAを活用した国際支援などの面で国際的な取組へ積極的に参画していく考えである。日本は、2004年以降人身取引の被害者の送り出し国となっている国を始めとする延べ15か国に政府協議調査団を派遣し、相手国政府機関、NGO及び国際機関等との間で日本の施策の周知及び情報交換を行っており、3月には韓国へ同調査団を派遣した。また、タイとの間では、人身取引対策に関する日・タイ共同タスクフォースを設立し、定期的に会合を開催している。さらに、日本は、被害者の安全な帰国及び帰国後の支援のためのIOMによる「トラフィッキング被害者帰国支援事業」への拠出や、不法移民・人身取引及び関連する国境を越える犯罪に関する地域協力の枠組みである「バリ・プロセス」への支援を行っている(注2)。
薬物分野における国際的な政策形成の中心機関である国連麻薬委員会は、薬物関連諸条約の履行を監視し、薬物統制の強化に関する勧告等を行っている。日本は、1961年以降2009年まで連続して委員国に選出されており、3月に開催された同委員会では、条約上、規制の対象となっていない大麻種子について、各国、国際機関に、取締強化、情報共有、調査を促す「大麻種子決議」を提案し採択されるなど、積極的に議論に参加した。また、同委員会に先立ち、国連麻薬委員会ハイレベル会合においても、日本は、国内の予防対策を一層推進するとともに、日本の経験と知見に基づく国際協力(代替開発支援、合成薬物対策、薬物乱用防止政策)の推進を表明した。
このほか日本は、引き続き、UNODCに設置されている国連薬物統制計画基金を通じて、国際的な薬物対策を支援している。これにより日本は、ミャンマーにおける不法栽培モニタリング・プロジェクト、全世界的な覚せい剤を始めとする合成薬物の供給削減を目的としたモニタリング及び法執行機関の能力向上のためのプロジェクト並びに東アジア地域において押収された違法薬物の分析能力の向上と結果の共有のためのプロジェクトなどを支援した。
また、3月には、2008年度の補正予算により、アフガニスタンの麻薬対策のために300万米ドルを拠出した。これにより、国境管理、刑事司法分野の能力強化、麻薬患者対策などのプロジェクトが実施された。
(注1)1989年のG8アルシュ・サミットにおいて、国際的な資金洗浄(マネーロンダリング)対策の推進を目的に招集された国際的な枠組みで、日本を含め、OECD加盟国を中心に33か国・地域及び2国際機関が参加。現在では、テロ資金対策についても指導的役割を果たしている。
(注2)日本は、「バリ・プロセス」のホームページの維持運営費を拠出。本ホームページは、IOMバンコク事務所により管理され、「バリ・プロセス」参加国の取組の情報や専門家会合の成果物等が掲載されている。