国連人権理事会は、2006年6月にジュネーブにおいて初回会合が開催されて以降、2009年末までに計12回の通常会合及び計12回の特別会合が開催された。
2009年は、人権理事会通常会合が3月、6月及び9月に開催された。3月の第10回人権理事会においては、日本は北朝鮮の人権状況について調査・報告を行う特別報告者の任務を延長する決議案をEUと共同で提出し、この決議案は賛成多数で採択された。9月の第12回人権理事会においては、カンボジア政府との建設的な対話と協力を経て同国の人権状況に関する協力決議案を作成・提出し、全会一致により採択された。
ハンセン病差別撤廃に関し、日本は、9月の第12回人権理事会において、ハンセン病差別撤廃決議案を提出し、60か国による共同提案の下、全会一致により採択された。この決議は、8月の第3回人権理事会諮問(しもん)委員会において策定されたガイドライン案に対する各国、NGOによる意見表明の機会確保を主な内容とする。これに先立ち、1月にジュネーブにおいて、国連主催の「ハンセン病差別撤廃に関する国際会議」が開催された。日本からは、笹川陽平ハンセン病人権啓発大使等が出席し、開会式でスピーチを行ったほか、日本の施策について紹介するなど積極的に会議に貢献した。また、上記ガイドライン案の策定に当たっては、日本の坂元茂樹人権理事会諮問委員会委員が中心的な役割を果たした。
通常会合に加え、1月及び10月には東エルサレムを含むパレスチナ占領地における人権状況についての特別会合が、5月にはスリランカの人権状況に関する特別会合が開催された。日本は、パレスチナにおける人権状況に関し、イスラエル側とパレスチナ側の双方が中東和平実現に向けて真剣に対応するよう、両当事者に積極的に働きかけており、スリランカに対しても、5月の内戦終結以前から、累次の機会に、人権・人道上の問題点を指摘し、改善の働きかけを行ってきている。
2006年の人権理事会創設に際し、国連加盟国すべての人権状況を平等に審査する枠組みである普遍的・定期的レビュー(UPR)が新たに導入された。2009年は、同作業部会が2月、5月及び12月に開催され、合計48か国が審査を受けた。12月に開催されたUPR北朝鮮審査においては、日本は拉致(らち)問題の早急な解決、食糧等にアクセスする権利の確保、脱北者に対する処罰の停止、国連人権メカニズムとの対話と協力等に取り組むよう北朝鮮に勧告した。
10月から11月にかけてニューヨークで開催された第64回国連総会第3委員会では、国別やテーマ別の人権問題に関して議論が行われ、日本がEUと共同で提出した北朝鮮人権状況決議案を含め約60本の決議が採択された。
北朝鮮人権状況決議は、5年続けて賛成多数で採択された。この決議は、北朝鮮における組織的で広範かつ重大な人権侵害に対して極めて深刻な懸念を表明し、北朝鮮に対してすべての人権と基本的自由を完全に尊重するよう強く要求するものである。特に拉致問題については、北朝鮮当局に対し、拉致被害者の即時帰国を含め、拉致問題の早急な解決を強く要求することが明記されている。同決議案は、12月の国連総会本会議においても多数の賛成票を得て採択された。
児童と武力紛争の問題に関しても進展が見られた。1998年に本件が正式に国連安保理の議題として取り上げられ、議長声明が採択されて以来、これまでに6本の決議が採択されている。2009年8月には、児童に対する深刻な人権侵害として指摘されている6つの侵害([1]児童の徴兵・使用、[2]児童の殺傷、[3]レイプその他の性的暴力、[4]児童の誘拐、[5]学校・病院への攻撃、[6]人道アクセスの拒否)のうち、紛争当事者を国連安保理による監視の対象とする基準を、[1]のみならず、[2]及び[3]にも拡大することなどを内容とする新しい決議、国連安保理決議1882号が全会一致で採択された。なお、同決議の採択にあたり日本を含む46か国が共同提案国となった。
9月には、第63回国連総会において、女性の地位向上・ジェンダーの主流化の分野で活動する4つの機関を統合し、新たな機関の設立を支持する決議が全会一致で採択された。
また、2010年は、1995年の第4回世界女性会議で北京宣言及び北京行動綱領が採択されてから15周年を迎える。これに先立ち、11月、バンコクにおいて国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の主催により、同綱領等の実施状況を評価するための会合が開催された。目黒依子国連婦人の地位委員会(CSW)日本代表から、アジア太平洋諸国における男女共同参画社会の実現に向けた取組の参考となるよう、日本政府の制度・機構整備や国際協力等の取組を公式声明として紹介するなど、積極的に議論に参加した。
日本は、2009年7月、「強制失踪(そう)からのすべての者の保護に関する国際条約」(強制失踪条約)の批准書を国連事務総長に寄託した。本条約には、拉致を含む強制失踪が犯罪として処罰されるべきものであることを国際社会において確認するとともに、将来にわたって同様の犯罪が繰り返されることを抑止するという意義がある。日本は同条約の批准により、拉致を含む強制失踪に立ち向かう強い意思を国際社会に示した。
また、同月、日本が2008年4月に提出した「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(女子差別撤廃条約)に関する第6回政府報告について、女子差別撤廃委員会による審査がニューヨークで実施された。この審査を踏まえ同委員会が8月18日に公表した最終見解の中には、民法の改正(婚姻適齢、離婚後の女性の再婚禁止期間等)、女子差別撤廃条約選択議定書の批准に向けた検討の継続等、多岐にわたる事項について、同委員会としての関心事項及び勧告が含まれている。
さらに12月には、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(社会権規約)に関する第3回政府報告及び「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)に関する第5回政府報告に対する、自由権規約委員会の最終見解についての日本政府コメントを、それぞれ国連に提出した。
人権の保護・促進のためには、二国間の対話を通じた相互理解の醸成も効果的な手段であることから、日本は二国間の対話の実施を重視している。2009年7月には、第5回日中人権対話を東京で開催し、両国の人権分野における政策と実践や国連における人権分野での協力について意見交換を行った。また、10月に東京で開催された日・スーダン政策対話において、日・スーダン人権対話を再開することが合意された。
日本における難民認定申請者が近年増加傾向にある中、真に支援を必要としている人へのきめ細かな支援に取り組んでいる。
また、国際貢献及び人道支援の観点から、2008年12月の閣議了解により、2010年度から3年間のパイロットケースとして、タイの難民キャンプから1年当たり約30人(家族単位)のミャンマー難民を第三国定住により日本に受け入れることが決定された。これを受け、受入れ対象難民の選考作業や、出国前の健康診断や研修、入国後の定住支援プログラム等の準備が進められている。
日本は、国際法に関心を有するアジア諸国(日本を含む)の大学生の能力向上を支援するとともに、広く国際人権・人道法についての知識の普及及び理解の増進等の啓発を行うため、「国際法模擬裁判」を開催している。7回目となる2009年は、先住民の権利問題をテーマに、アジア7か国(インドネシア、シンガポール、タイ、中国(香港)、パキスタン、フィリピン、ベトナム)から約30人の学生が来日し、日本の学生とともに、英語による書面陳述及び弁論能力等を競った。これには、国際法を専門とする大学教授や実務家などが裁判官として審査に参加した。
近年、国際結婚が増加した結果、結婚生活で困難に直面した、国籍が異なる父母の一方が子供を現地の法律に反して母国に連れ去り問題となる事案が発生している。このような問題については、米国、英国、フランス、カナダ等から日本に対し、個別事案への対応及び「国際的な子の奪取の民事面に関する条約(ハーグ条約)」締結の申入れがなされている。この条約は、子に対する監護権の侵害を伴う国境を越えた移動について、そのような移動自体が子の利益に反しており、また、監護権の所在を決着させるための手続は移動前の常居所地国(注1)で行われるべきとの考えに基づき、子を常居所地国に戻すための国際協力の仕組み等を定めるものである。日本政府はこの問題の重要性を認識し、ハーグ条約を締結する可能性につき検討するとともに、予防的な措置等を講じてきている。昨今の子の親権をめぐる問題の広がり等を踏まえ、外務省では、この問題への取組を強化し、省内業務全体の統括・調整を行うため、2009年12月に「子の親権問題担当室」を設置した。また、同月には第1回日仏連絡協議会、2010年1月には第1回日米協議を実施し、関係国間で生じている事案についてそれぞれの国における現行の法制度の下での可能な解決を目指し、情報交換を行った。
同年2月には、本件問題についての日本の取組に対する理解を深めるため、関心のある国の在京大使館に対して説明会を開催した。