10.国際社会における「法の支配」

(1)「法の支配」とは

国際社会における「法の支配」には、新しい国際法秩序の形成・発展というルール形成の側面、国際法に基づき国家間の紛争を平和的に解決していくという紛争解決の側面及び各国国内における法整備の側面がある。

ルール形成の側面においては、日本として、日々形成されている国際ルールに構想段階から積極的に参画し、日本の理念や主張を反映させていくことが重要である。日本は、国連国際法委員会(ILC)及び国連総会第六委員会における国際法の法典化作業や、ハーグ国際私法会議等における国際私法分野の条約作成作業、並びに各種の国際的枠組みにおけるルール形成等に積極的に参加している。また、アジア・アフリカ法律諮問(しもん)委員会(AALCO)やCEにおける国際公法法律顧問委員会(CAHDI)といった地域的な国際法フォーラムにも貢献している。

紛争の平和的解決の側面においては、日本は、国際法にのっとった紛争の解決を重視している。このため、国際裁判所に対しては、国際司法裁判所(ICJ)、ICC、国際海洋法裁判所(ITLOS)に裁判官を輩出し、人材面を含む支援を通じて、その実効性と普遍性の向上に努めている。

国内法整備の側面においては、日本は、特にアジア諸国の法制度整備支援や法の支配に関する国際協力に積極的に取り組んでいる。これらの支援は人間の安全保障の強化にも貢献している。

(2)刑事分野における取組

日本は、国際社会の関心事である最も重大な犯罪を行った個人を国際法に基づいて訴追・処罰する世界初の常設国際刑事法廷であるICCに対し、2007年10月の加盟以来、様々な貢献を行っている。日本はICCの最大の財政貢献国であり、人材面でも、齋賀富美子裁判官の逝去等を受け、2009年11月の裁判官補欠選挙において、尾﨑久仁子政策研究大学院大学教授がトップ当選を果たした。また、「侵略犯罪」の定義を含め、初のICC規程検討会議に向けた議論や3月のAALCOとの共催によるICC加盟促進セミナーの開催など、ICCがより普遍的な組織として持続的に発展するための協力を行っている。さらに、12月にはソンICC所長が訪日し、閣僚や有識者との交流を通じ、ICC及び日本双方の取組に対する内外の理解の増進を図った。今後もこうした活動を通じて、国際刑事法・人道法の発展及び国際社会における重大な犯罪行為の撲滅に積極的に貢献していく考えである。

また、近年の国境を越えた犯罪の増加を受け、刑事司法分野における国際協力を推進する法的枠組みの整備に積極的に取り組んでいる。必要な証拠の提供等を一層確実に行えるようにするとともに、刑事事件の捜査、手続の効率化及び迅速化を可能とする刑事共助条約(協定)の締結は、そうした取組の一例である。ロシアとの間では5月12日に署名が行われ、香港との間では9月24日に発効した。さらに、4月にはEUとの間で交渉を開始し、12月15日に日本側の署名が行われた。

(3)日本の外交・安全保障の基盤の枠組みづくり

日本の外交・安全保障の基盤を強化するためには、日米安全保障条約の円滑かつ効果的な運用が引き続き重要である。また、東アジアの安全保障環境を整備する観点から、重要課題である六者会合や日露平和条約の締結等に向けた交渉に引き続き取り組んでいる。

大量破壊兵器や通常兵器の軍縮及び不拡散も、良好な安全保障環境を形成し、世界全体に平和を築く上で重要な課題であり、日本は、この分野において、国際的な枠組みやルールの設定、それらの普遍化等に取り組んでいる。2009年7月には、不発弾も含めて一般市民に無差別な被害を及ぼすクラスター弾の使用・開発・生産等を禁止するクラスター弾に関する条約の締結に必要な手続を終え、7月に国連事務総長に受諾書を寄託した。同条約は2010年8月に発効する予定である。

(4)海洋をめぐる諸問題

海洋国家である日本にとって、正当な海洋権益の確保は国の根幹にかかわる問題であり、国連海洋法条約を始めとする海洋の国際法秩序の発展が日本の国益を守っていく上でも重要である。このような立場から日本はITLOSの役割を重視しており、裁判官の輩出(現在は柳井俊二判事)や財政面での貢献を通じて同裁判所の活動を支えている。10月にはジーザスITLOS所長を招へいし、政府要人との会見、海洋法関係有識者との意見交換を通じて、日本のITLOSに対する活動や、国際社会における「法の支配」を推進する外交姿勢に対する内外の理解増進を図った。

また、日本は、中国との間でEEZ・大陸棚の境界が未画定である東シナ海において、2008年の了解に基づき、資源開発についての協力を進めるため中国側に働きかけているほか、韓国との間でも、EEZの境界画定交渉及び海洋の科学的調査に係る暫定的な協力の枠組み交渉を継続しており、これらの問題について、一貫して国連海洋法条約を始めとする国際法に基づく解決を目指している。

(5)経済・社会分野における取組

諸外国との経済面での協力関係を法的に規律する国際約束は、貿易・投資の自由化や人的交流の促進につながり、日本国民及び企業の海外での活動の基盤整備に役立つ重要な政策手段である。また、環境、人権等のいわゆる社会分野での国際約束も、国民の生活に大きく影響するものであり、日本及び国際社会全体にとって有益な法的枠組みをこの分野で構築していくことが重要である。こうした観点から、経済・社会分野の国際約束の交渉・締結について、国民のニーズを踏まえた積極的な取組を行っている。2009年には、各国との間で、EPA、投資協定、租税条約、社会保障協定、航空協定等を締結した。多国間の枠組みにおいても、人権、漁業、郵便などの分野で各種の国際約束を締結している。また、日本は、気候変動に関する2013年以降の新たな枠組みに関する議論を始めとした国際的なルールづくりにも積極的に参画している。加えて、日本国民及び企業の生活・活動を守り、促進するために、WTO紛争解決制度の活用を始めとして、作成された国際ルールの適切な実施が確保されるよう取り組んでいる。

岡田外務大臣(右)とマッカリ-・ニュージーランド外相の科学技術協定署名式(10月28日、東京)
岡田外務大臣(右)とマッカリ-・ニュージーランド外相の科学技術協定署名式(10月28日、東京)