2. |
文化外交 |
(1) |
文化事業 |
日本の様々な文化、価値観等を諸外国に紹介し、日本の姿を世界の人々に十分理解してもらうことは、グローバル化した世界において日本人が国際的に活動し、世界の人々との交流を円滑に進めていく上でも非常に重要である。そのような観点から、外務省は、在外公館や国際交流基金を通じ、公演・展示事業、ワークショップ、映画祭、日本語普及などといった日本文化の紹介事業を実施している。
現在、日本のアニメ・マンガ等のポップカルチャーは海外でも人気が高く、日本の現代文化を理解する上で不可欠の要素となっている。外務省ではこうした新しい文化への関心を日本そのものに対する理解、関心へとつなげていくために、在外公館及び国際交流基金を通じて、各国の特性を踏まえた文化交流を促進している。ポップカルチャーを通じた文化外交の一環として、5月には海外で漫画文化の普及に貢献する漫画作家を顕彰する「国際漫画賞」(International MANGA Award)を創設した。7月2日には、第1回国際漫画賞(最優秀作品)、奨励賞(その他の優秀な3作品) (注5)の授賞式を行った。本事業の実施により海外の漫画愛好家の日本文化に対する関心及び理解を一層高めることが期待される。
また、外交上の戦略的観点から、節目となる年に規模の大きい総合的な文化事業(周年記念事業)を政府関係機関や民間団体・企業等と連携して行い、重点的な交流を行うことで、より一層効果的な対日理解を目指している。2007年は、日中国交正常化35周年を記念した日中文化・スポーツ交流年(注6)、日印文化協定締結50周年を記念した日印交流年が行われた(注7)。
「世界コスプレサミット2007」(外務省後援、外務大臣賞付与)参加者の表敬を受ける浅野外務副大臣(8月2日、東京) |
「日中文化・スポーツ交流年」オープニングイベント「日中スーパーライブ in 北京」(3月、中国・北京) |
国際漫画賞授賞式(7月2日、東京)における麻生外務大臣及び授賞者(上)、トロフィー(左)、国際漫画賞受賞作「孫子攻略」(右) |
「江蘇 Japan Week in 南京」に参加する中山外務大臣政務官(11月、中国・南京) |
(2) |
人物、教育分野での交流 |
人物交流は、異なる文化間の相互理解を増進し、諸外国との関係を強化する上で重要な施策である。日本は、諸外国の政府要人や有識者から青年までの多様な人々を対象とした人物交流事業を実施し、日本に対する正しい理解の増進に努めるとともに、知日家・親日家の育成を積極的に推進している。
イ |
JETプログラム(注8) |
2007年には、米国、英国をはじめとする41か国から5,119人の外国青年を招致した(注9)。
中学生に英語を教えるJETプログラム参加者(5月、福島県内の中学校) |
ロ |
留学生交流 |
日本の高等教育機関で学ぶ外国人留学生在籍者数は、2007年5月現在11万8,498人、日本語教育機関で学ぶ就学生は2007年7月現在3万1,663人に達した。留学生が日本での学業を終えて帰国した後も、母国において知日家・親日家として活躍できるよう、各国にある「帰国留学生会」に対する支援(注10)を行っている。
母国で活躍する元日本留学生(「元日本留学生の集い」で招聘)と歓談する小池外務大臣政務官(11月、東京) |
ハ |
スポーツ交流 |
国境・民族を越えて広く親しまれているスポーツは、国際交流の手段として効果の高いものである。日本は、世界的にも関心が高い柔道・空手・剣道など日本の伝統スポーツをはじめとしたスポーツ分野での交流によって、対日理解促進・親日家育成の一層の推進を図っている。
JET参加者招致人数及び参加者の推移
留学生数の推移及び出身国(地域)別留学生
(3) |
知的分野の交流 |
イ |
日本研究 |
諸外国における日本の政治、経済、社会、文化に関する研究に協力することは、各国における対日理解を促進するとともに、次世代の知日派を育てる上で非常に重要である。2007年度は国際交流基金を通じ、中国の北京日本学研究センターなど日本研究の拠点となる世界32か国53機関を対象に、専門家の派遣、会議への助成、図書寄贈を行ったほか、39か国から120名の日本研究者を招聘した。
ロ |
知的交流 |
多層的、多角的な相互理解を推進し、世界の発展と安定に向けた日本の知的貢献を促進するため、日本は、多国間の共同作業・交流を重視した事業を企画・実施・支援している。12月には2007年度から開始した「21世紀東アジア青少年大交流計画」(注11)の一事業として「東アジアの異なる文化・社会・宗教間対話」を行い、ASEAN10か国と中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランド、日本の計16か国の若手知識人が地域の共通の課題について意見交換を行い、解決の方途を探った。
さらに、2007年11月の日米首脳会談の際、日本側は日米関係を強化するための一環として、知的交流、草の根交流及び日本語教育の3本柱からなる「日米交流強化のためのイニシアティブ」を発表した。今後は特に米国シンクタンクとの関係強化、日本研究の拠点となる米国の大学等への支援に重点を置いた日米の知的交流を行っていく方針である。
ハ |
国際連合大学との協力 |
外務省は、日本に本部を置く国際連合大学と連携・協力を進めており、3月には、国際連合大学にて「国際シンポジウム~アフリカにおけるキャパシティ・ビルディングと日本の役割~」が、外務省、国際連合大学、早稲田大学国際戦略研究所の共催により開催された。
(4) |
日本語普及 |
海外における日本語普及は、日本との交流の担い手を育てるものであり、日本の政治、経済、社会、文化などについての理解を深め、諸外国との友好関係の基盤をつくるものとして重要である。現在、海外では133か国・地域において、298万人余りが日本語を学習しており(2006年国際交流基金調べ)、学習者数は前回の調査と比べ、3年間に26.4%増加している。近年では学習目的も多様化し、従来の就職・留学のような実利志向の強い目的のみならず、異文化理解やアニメ・マンガなどポップカルチャーへの関心を動機とする学習者が増加している。また、学習者の約6割弱が初等・中等教育機関に所属していることから、国際交流基金日本語国際センターでは、このニーズにこたえるための取組として、若者向けの映像教材「エリンが挑戦!にほんごできます。」を制作した。このほか、国際交流基金を通じて、日本語教育専門家の海外派遣、海外の日本語教師及び外交官らの訪日研修、日本語能力試験の海外実施、日本語教材の開発・寄贈等を行い、日本語普及に努めている。
さらに、現地での日本語教育支援のために、国際交流基金の海外事務所及び国際交流基金日本語教育専門家等が派遣されている諸大学を中心に、今後2年~3年で世界100か所以上の日本語教育拠点を開設するための準備が進められている。
海外における日本語学習者数
「エリンが挑戦!にほんごできます。」(Vol.1~Vol.3) |
(5) |
文化無償資金協力 |
開発途上国における文化・高等教育の振興のための取組を支援し、日本とこれら諸国との相互理解及び友好親善を深めるため、政府開発援助(ODA)の一環として文化無償資金協力を実施している。2007年度には全世界で14件の一般文化無償資金協力を実施した(総額17.9億円)。同様に、NGOなど草の根レベルを対象とした小規模できめ細やかな文化協力(草の根文化無償資金協力)として、全世界で35件の協力活動を実施した(総額約2億円)。
(6) |
文化協力 |
優れた文化遺産は、次の世代に受け継いでいくべき人類共通の遺産であると同時に、その遺産を有する国の国民にとっては、誇りであり、アイデンティティの根源に深くかかわるものである。日本は、高い技術と豊富な経験をいかし、海外の文化遺産の保存修復に協力を行うとともに、文化遺産を保護していく国際的枠組みにも積極的に貢献している。
イ |
国連教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ))を通じた文化協力 |
日本は、海外の文化遺産の保存修復に関する協力の一環として、ユネスコに有形・無形それぞれの文化遺産保護を目的とした日本信託基金を設置している。有形の遺産に関しては、カンボジアのアンコール遺跡やアフガニスタンのバーミヤン遺跡保存事業を、日本の専門家が中心となり、現地の人々と力を合わせて実施している。無形遺産については、主にアジア・アフリカ地域を中心に、音楽・舞踊等の伝統芸能や伝統工芸等を次世代に継承するための事業を支援している。
また、10月に開催された第34回ユネスコ総会において、「持続可能な開発」のためには教育が重要な役割を担うとの認識から、日本主導により国連総会決議で採択された「国連持続可能な開発のための教育の10年(DESD)」の推進のため、日本はドイツと共に「持続可能な開発のための教育(ESD)」促進のための決議案を提出、大多数の支持を得て採択された。
ロ |
世界遺産条約 |
世界遺産条約は、文化遺産や自然遺産を人類全体の遺産として国際的に保護していくことを目的として、1972年のユネスコ総会で採択された。日本は1992年にこの条約を締結し、2003年から2007年まで条約の運用を担う世界遺産委員会の委員国を務めた。
2007年7月、ニュージーランドのクライストチャーチで開催された第31回世界遺産委員会において、日本が推薦した「石見(いわみ)銀山とその文化的景観」が新たに世界遺産となり、日本の世界遺産は文化遺産11件、自然遺産3件の計14件となった。
ハ |
無形文化遺産条約 |
無形文化遺産条約は、2003年のユネスコ総会で採択され、2006年4月に発効した(日本は3番目の締約国)。この条約により、伝統芸能や伝統工芸等の無形文化遺産も国際的に保護する体制が整った。無形文化財の保護において豊富な経験を持つ日本は、この条約の作成に当たっても牽引役となり、条約発効後、条約に基づき設置された政府間委員会の委員国に選出された。2007年9月には第2回政府間委員会を東京で開催し、今後条約を運用するに当たって核となる重要な諸ルールの採択に議長国として大きく貢献した。
この政府間委員会の決議により、最初の無形文化遺産代表リストは2009年秋に作成される予定である。
石見銀山遺跡とその間歩(まぶ)(坑道)内部(島根県大田市) |
(注5) | 国際漫画賞 | 作家名:李志清 | 中国(香港) | 作品名: | 『孫子兵法』(Sun Zi’s Tactics)(原題:孫子攻略) |
奨励賞 | 作家名:Madeleine Rosca | オーストラリア | 作品名: | 『HOLLOW FIELDS』 | |
作家名:BEN | マレーシア | 作品名: | 『Le.Gardenie』 | ||
作家名:KAI | 中国(香港) | 作品名: | 『十五二十』 | ||
(注6) | 日中文化・スポーツ交流年については、第2章第1節アジア・大洋州2.「中国等」を参照。 | ||||
(注7) | 日印交流年については、第2章第1節アジア・大洋州4.「南アジア」を参照。 | ||||
(注8) | JETプログラム:「語学指導等を行う外国青年招致事業」(The Japan Exchange and Teaching Programme)は、日本の小中学校・高校における外国語教育の充実や、地域の国際交流の発展を図ることを目的として、日本の地方自治体をはじめ、外務省、総務省、文部科学省及び(財)自治体国際化協会(CLAIR)が協力して実施している。1987年に開始。詳細はhttp://www.mofa.go.jp/jet/(外務省)またはhttp://jetprogramme.org/((財)自治体国際化協会)を参照。 | ||||
(注9) | 招致者累計は4万8,000人を超える。 | ||||
(注10) | 名簿・会報の作成、懇談会開催などの帰国留学生相互のネットワーク形成を支援し、留学生会が実施する日本文化紹介事業を支援している。 | ||||
(注11) | 「21世紀東アジア青少年大交流計画」については、第2章第1節「アジア・大洋州」を参照。 |