目次 | 前の項目に戻る |  次の項目へ進む

 7.

軍縮・不拡散(科学技術・原子力分野の国際協力を含む)


【総論】


軍縮・不拡散は、良好な安全保障環境を形成し、平和な世界を創るために、日本が国際社会の一員として当然取り組むべき課題である。また、平和な世界を創ることは、日本及び日本国民自身の安全を確保する上でも不可欠である。

日本は、世界で唯一核兵器の悲惨さを経験した国として、核兵器や紛争のない平和な世界の実現を目指して、一貫して国際的な軍縮・不拡散体制の維持・強化を訴えてきている。

2007年は、北朝鮮及びイランの核問題をはじめとする、国際的な核軍縮・不拡散体制が直面する種々の挑戦に対し、国際社会が一致協力して取り組むことが求められた年であった。日本も、核軍縮・不拡散体制の維持・強化に向けて積極的に取り組み、日本が国連総会に提出した核軍縮決議案は、圧倒的支持を得て採択された。

そのほかにも、生物兵器や化学兵器を禁止する条約の強化や、通常兵器の軍縮にも取り組んだ。

また科学技術面では、原子力分野での二国間協力、原子力・宇宙・核融合分野等の多国間協力を通じ、国際社会の繁栄に向けて取り組んでいる(注1)



【各論】


 (1) 

核軍縮


2007年は、2010年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議第1回準備委員会が開催され、天野之弥ウィーン国際機関日本政府代表部大使が議長を務めた。特に北朝鮮及びイランの核開発問題を解決するための国際的な努力が展開する中で、激しい意見の対立もあったが、同準備委員会で採択された議題案は、第2回、第3回の準備委員会の議題として用いられ、今後の運用検討プロセスの円滑な推進に貢献すると考えられる。

日本は、2007年も国連総会に核軍縮決議案(注2)。を提出し、同決議案は圧倒的支持を得て採択された。また、G8等の主要国との軍縮・不拡散に関する二国間協議も開催している。いまだ発効していない包括的核実験禁止条約(CTBT) (注3)の発効促進については、9月にウィーンにおいて第5回CTBT発効促進会議が開催された際に、日本政府代表として木村外務副大臣が未批准国・未署名国に対し早期の批准を呼びかけた。CTBTの国際監視制度(注4)は、北朝鮮による核実験実施の際に改めてその有用性が認識されており、日本としても引き続き整備に取り組んでいく方針である。

ジュネーブ軍縮会議(CD)においては、過去10年間にわたり、多数国間の軍縮条約に関する実質的交渉が行われていない。2006年及び2007年においては、それぞれの年の議長を務める6か国(P6)大使によるイニシアティブの下で、CD主要事項に関し活発な議論が行われた。その結果、2007年には、カットオフ条約(注5)の交渉開始を含めたCDの作業に関する提案が同年のP6によりなされたが、加盟国の合意が得られず、実質的作業開始に至らなかった。日本は、議論に積極的に貢献するとともに、3月、浜田外務大臣政務官がCDに出席し、CD停滞の打開と同条約の早期交渉を訴える演説を行った。

米露間では、モスクワ条約の下で、配備戦略核弾頭数が引き続き削減されるとともに、12月に米国は、貯蔵核弾頭数を冷戦終結時の4分の1に削減することを発表し、日本もこれを歓迎した。また、米露間ではSTART-I(注6)の後継条約について交渉が行われている。

NPTにいまだ加入していないインド、パキスタン(注7)及びイスラエルに対しては、引き続き、粘り強くその加入を働きかけていく必要がある。2007年には、1月の日・イスラエル外相会談、7月の日・パキスタン軍縮・不拡散協議等の機会に働きかけを行った。また、インドに対する民生用の原子力協力の実施を内容とする米印間の合意(注8)については、インドの戦略的重要性、エネルギー需要の増大への手当ての必要性も踏まえつつ、NPTを礎とする国際的な核軍縮・不拡散体制に与える影響等を注意深く検討する必要があり、そのような観点から日本は国際的な議論に参加している。

日本は軍縮・不拡散と日本海周辺の環境汚染防止の観点から、日露非核化協力委員会を通じてロシア極東地域に残された退役原子力潜水艦の解体支援(注9)を実施している。また、現在ロシアによって進められている原子炉区画陸上保管施設建設(注10)に対して協力していく方針である。


大量破壊兵器、ミサイル及び関連物質等の軍縮・不拡散体制の概要

大量破壊兵器、ミサイル及び関連物質等の軍縮・不拡散体制の概要

写真・日本の協力によって解体中のヴィクターIII級原潜

日本の協力によって解体中のヴィクターIII級原潜



 (2) 

不拡散


 イ  

地域の不拡散問題

北朝鮮の核・ミサイル等を巡る問題は、日本のみならず東アジア及び国際社会の平和と安全に対する重大な脅威であり、核兵器不拡散条約(NPT)に対する重大な挑戦となっている。2002年10月、米国政府の訪朝団に対し北朝鮮がウラン濃縮計画の保有を認めたことを契機として、北朝鮮の核問題が再び深刻になった。2003年1月には、北朝鮮はNPTから脱退することを通告し、同年2月の国際原子力機関(IAEA)特別理事会では、北朝鮮のIAEA保障措置協定の更なる違反が認定され、国連安全保障理事会に報告されるに至った。その後、北朝鮮は、「合意された枠組み」の下で凍結していた5メガワットの黒鉛炉を再稼働させ、使用済み燃料棒の再処理を再開した。2006年に至って北朝鮮はテポドン2を含む7発の弾道ミサイルの発射を強行し(7月)、さらに核実験実施を発表した(10月)。2007年においては、こうした状況の中、六者会合をはじめ、北朝鮮の核問題の平和的解決に向けた様々な外交努力が行われており、2月の六者会合成果文書「共同声明の実施のための初期段階の措置」を踏まえ、7月には、寧辺等の5つの核施設の活動停止がIAEA要員により確認された。日本は9月、IAEAの北朝鮮における活動に対して50万米ドルの貢献を行っている。日本は、2005年9月の第4回六者会合共同声明に明記された北朝鮮のすべての核兵器と既存の核計画の放棄に向けた措置が着実に実施されるよう、引き続き米国をはじめとする関係国と共に努力していく考えである(2007年における北朝鮮問題への対応の詳細については、第2章第1節1.「朝鮮半島」を参照)。

イランの核開発問題は、中東地域のみならず、国際的な安全保障を揺るがしかねない問題であり、国際的な核不拡散体制への重大な挑戦となっている。イランは、過去20年近くにわたり、IAEAに申告せずに拡散上機微な核活動を行い、2003年以降、累次のIAEA理事会決議により、信頼回復のために濃縮関連・再処理活動の停止等を求められてきた。イランはこれに応じなかったため、2007年末までに国連安保理は、これらの要求事項を国連憲章第7章下で義務付ける3本の決議(注11)を採択した。2007年8月以降、イランは、過去の「未解決の問題」の解明に関し、IAEAとの間で一定の協力は行っているが、イランの核活動の経緯は、その範囲と性格も含め、いまだ明らかになっていない点もあり、活動が専ら平和的なものであるとの信頼は得られていない。濃縮関連活動は、軍事転用を防ぐための措置が十分にとられない限り、核兵器開発能力の獲得につながりかねないとの疑念を伴うものであるが、イランは、2007年を通じて、濃縮関連活動を継続・拡大するなど、依然として国際社会の要求事項にこたえていない。日本は、イランの核開発問題を深刻に懸念しており、関係各国と緊密に協力しつつ、国連安保理決議の要求事項に応じ、問題の平和的・外交的解決を実現するよう、イランに対し粘り強く働きかけている(第2章第6節「中東と北アフリカ」を参照)。


 ロ  

大量破壊兵器等の拡散防止の取組

日本は、大量破壊兵器等の拡散防止に向け、各国と協力しつつ様々な側面から外交努力を行っている。

IAEAの保障措置(注12)は、核物質等の軍事転用を防止するための検認制度であり、国際的な核不拡散体制の中核的な措置である。日本は、より多くの国が「追加議定書」(注13)を締結するよう、二国間・多国間の協議の場で各国に締結を求めるほか、IAEAと協力し、追加議定書締結に向けた地域セミナーへの人的・財政的支援を実施してきている(2007年は8月にベトナムにて開催)。また、日本は、保障措置の効率化の観点から、「統合保障措置」(注14)がより多くの国に適用されることが重要と考えている。

輸出管理レジームとは、兵器やその関連汎用(はんよう)品の供給能力を持ち、かつ不拡散に同意する国々による輸出管理の協調のための枠組みであり、核兵器、生物・化学兵器、ミサイル、通常兵器のそれぞれに関する輸出管理レジームが存在する。また弾道ミサイルに関して、その開発・配備の自制などを原則とする「弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行動規範(HCOC)」(注15)がある。日本はこれらすべてに参加・貢献している(注16)

また、日本は、大量破壊兵器等の拡散阻止のため、各国が国際法・各国国内法の範囲内でとり得る措置を実施・検討するための取組である「拡散に対する安全保障構想(PSI)」(注17)にも、積極的に参加している。2007年10月には、伊豆大島沖、横須賀港及び横浜港において、PSI海上阻止訓練「Pacific Shield 07」を主催し、アジア大洋州及び中東諸国を含む40か国が参加した(注18)。拡散阻止に向けた日本及び国際社会の意志を内外に示すとともに、同訓練を通じ各国の連携強化が達成された。


写真・PSI海上阻止訓練「Pacific Shield 07」の模様(容疑船に乗り込む海上自衛隊乗船チーム)

PSI海上阻止訓練「Pacific Shield 07」の模様(容疑船に乗り込む海上自衛隊乗船チーム)(写真提供:防衛省)


核燃料供給保証とは、非商業的理由による核燃料の供給途絶が起こらない仕組みを構築して供給不安を解消し、もってウラン濃縮等の機微技術を新たに獲得する動機を低下させ核不拡散を促進しようとする考えであり、各国から様々な提案がなされている(注19)。2007年6月のIAEA理事会において、これら諸提案に関するIAEA事務局長報告が提出され、今後の検討に付されることとなった。

このほか、日本は、不拡散体制への理解の促進と取組の強化を目指す他国への働きかけ(アウトリーチ活動)にも熱心に取り組んでおり、2003年度からアジア不拡散協議(ASTOP)(注20)を、また、1993年度から、アジア輸出管理セミナー(注21)をそれぞれ開催するなど積極的な活動を行っている。



 (3) 

原子力の平和的利用のための国際的な枠組み


近年、国際的なエネルギー需要の顕著な増大と地球温暖化問題への対処の必要性等を背景に、原子力発電が再評価され、その拡充及び新規導入を計画する国が増加している。このような「原子力ルネッサンス」と称される趨勢の中で、ウラン資源を巡る競争も激化し、日本企業が関与する原子力関連企業の国際的な合従連衡(がっしょうれんこう)も進んでいる。一方、原子力発電に利用されている技術や機材、核物質は軍事転用が可能であり、原子力の利用の拡大に伴い、核の拡散や原子力施設における事故、核テロリズムといった危険への対応が国際社会の大きな課題となっている。

日本は、原子力の平和的利用においては、核不拡散、原子力安全及び核セキュリティー(注22)の確保が不可欠との立場であり、二国間、多国間の枠組みを通じて、核不拡散等を確保・強化した形での原子力の平和的利用を可能とするための枠組みづくりを積極的に行っている(注23)

二国間においては、ロシア(2月)、カザフスタン(4月)との間で原子力協定の締結に向けた交渉を開始することで合意し、現在交渉が行われている。また、多国間においては、核不拡散等の要請と原子力の平和的利用の拡大の両立を目指す国際的なイニシアティブである「国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)(注24)」などに積極的に参加している。



 (4) 

生物、化学、通常兵器


 イ  

生物兵器

生物兵器禁止条約(BWC)(注25)は、生物兵器の開発・生産・保有等を包括的に禁止する唯一の多国間の法的枠組みであるが、条約の実施を確保する手段に関する規定が十分でないため、条約をいかに強化するかが課題となっている。

2006年の第6回運用検討会議(5年に1度開催)において、条約の強化のために、次回運用検討会議(2011年)までの年次会合プロセスが合意された。2007年は、この初年度に当たり、8月の専門家会合及び12月の締約国会合では「国内実施の強化手段」と「BWC履行の地域的協力」について議論された。日本は、作業文書の提出やプレゼンテーションを行い、議論の活性化に貢献した。


 ロ  

化学兵器

化学兵器禁止条約(CWC)(注26)は、化学兵器の生産・保有・使用等を包括的に禁止し、既存の化学兵器の全廃を定めるとともに、条約の遵守を検証制度(申告と査察)により確保するものであり、大量破壊兵器の軍縮に関する条約としては画期的な条約である。最近では、米国・ロシア等の化学兵器の廃棄が遅延し始めていること、締約国の国内実施措置を強化すること及び普遍化の促進(締約国数の増加)が大きな課題となっている。

日本は、国内実施措置強化及び普遍化促進の課題に対し、主としてアジア地域諸国を対象として取り組んでおり、2007年には、インドネシア及びフィリピンでのセミナーの開催や、イラクの条約締結促進を支援するなどした。また日本は、CWCに基づき、中国に遺棄された旧日本軍の化学兵器について、国内の老朽化化学兵器と同様に、廃棄義務を負っており、中国と協力しつつ、一日も早い廃棄の完了を目指して最大限の努力を行っている。


 ハ  

小型武器

近年、国際社会には過剰な小型武器が存在し、大きな問題となっている。2008年7月には、国連小型武器行動計画隔年会合の開催が予定されており、国連小型武器行動計画(2001年策定)の履行状況や今後の取組について議論が行われる。

日本は、アジア、アフリカなど各地で、小型武器の回収と地域社会の開発等を組み合わせたプロジェクトを支援している。「カンボジアにおける平和構築と包括的小型武器対策プログラム」では、2007年末までに2万8,000丁を超える小型武器が回収された。


写真・カンボジアにおける小型武器破壊式典の模様

カンボジアにおける小型武器破壊式典の模様
(写真提供:日本小型武器対策支援チーム(JSAC))


 二  

対人地雷問題

日本は、国際社会全体での実効的な対人地雷の禁止と、被害国への地雷対策支援の強化を「車の両輪」として包括的な取組を推進している。前者については、より多くの国が対人地雷禁止条約(オタワ条約)(注27)を締結するように、アジア太平洋地域の未締結国を中心に働きかけを行っている。

後者については、1998年以降、地雷除去、犠牲者支援、地雷回避教育等のため、30か国以上に310億円を超える支援を実施している。


 ホ  

武器貿易条約(ATT)構想(注28)

通常兵器の「責任ある輸入、輸出や移譲」を確保するため、ATT構想が注目を集めている。2008年には、ATTの実現可能性、対象、条約の要素等を議論する政府専門家会合が開催される。


 ヘ  

クラスター弾(注29)

クラスター弾の不発弾等による人道上の懸念については、特定通常兵器使用禁止・制限条約(CCW)の枠組みで議論されてきたが、2007年2月、ノルウェーがその枠外で国際会議を開催し、クラスター弾を禁止する国際約束を2008年中に策定する旨のオスロ宣言を発出した。11月のCCW締約国会議(於:ジュネーブ)では、クラスター弾の問題を交渉する政府専門家会合の設立が決定された。日本は、CCWでの国際約束作成に努力するとともに、他の国際的議論にも参加しており、被害国の現場においてもクラスター弾を含む不発弾処理に協力している。



 (5) 

科学技術分野の国際協力


科学技術の二国間協力推進のため、日本は、各国との科学技術協力協定に基づく定期的な政府間会合等を通じて、科学技術政策等に関する意見交換や、共同研究案件を協議している。2007年には、ノルウェー、フランス、オランダ、ポーランド、米国、カナダ、ハンガリー、イタリアとの間で会合を開催し、テロ・犯罪対策、宇宙、海洋、ライフサイエンス、研究者交流等多岐にわたる分野の科学技術協力について議論した。

多国間の国際協力プロジェクトについては、以下の分野で日本は積極的に取り組んでいる。

資源エネルギー分野では、核融合エネルギーが将来のエネルギー源の一つとして期待されている中で、日本は国際共同プロジェクトであるイーター(ITER、国際熱核融合実験炉)計画を推進している。10月24日にはイーター国際核融合エネルギー機構設立協定が正式発効し、11月27日の第1回理事会において、池田要前駐クロアチア大使が初代の機構長に任命された。

宇宙分野では、日本は、国連宇宙空間平和利用委員会に参加し、国際的な法的枠組みづくりを進めるとともに、宇宙での実験を行う研究所を建設する国際宇宙基地協力計画(ISS計画)に各国と共同で参加している。ISS計画の中で、日本初の有人実験棟(JEM:Japanese Experiment Module、 通称「きぼう」)が2008年3月以降順次3回に分けて打ち上げられる予定であるほか、日本は、ISSへの物資輸送手段の一つとして、宇宙ステーション補給機(HTV:H‐II Transfer Vehicle)の開発に取り組んでいる。

地球環境科学分野では、日本は各国と協力し、アルゴ計画(高度海洋監視システム)(注30)、統合国際深海掘削計画(IODP)、東・東南アジア地球科学計画調整委員会(CCOP)等を中心的に推進している。また、地球観測に関する政府間会合(GEO)では、全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画に積極的に取り組んでいる。

不拡散分野では、ソ連崩壊に伴う大量破壊兵器関連技術の拡散防止のための国際科学技術センター(ISTC)に参加し、旧ソ連諸国で大量破壊兵器の研究開発に従事していた研究者・技術者の民生分野への転換を支援している。日本は、ISTCのプロジェクトに対し、これまで約6,100万米ドルの支援を行っている。



コラム  

NPT運用検討プロセスへの日本の貢献

 

核兵器不拡散条約(NPT)は、現在の核問題を全般にわたって討議する基礎であり、それは条約の運用検討プロセスとして継続的に行われている。具体的には条約が1970年に発効して以来、5年ごとに運用検討会議が開催され、1995年に条約が無期限に延長されてからは、さらに運用検討会議の前の3年にわたり、毎年準備委員会が開催されている。

2010年の運用検討会議のための第1回準備委員会が、2007年4月~5月にウィーンで開催され、私は日本政府代表団の一員として参加した。準備委員会では議長に日本の天野之弥ウィーン代表部大使が選出された。日本がこのポストをとったのは、1995年に準備委員会の制度が正式に導入されて以来、初めてのことである。

2005年の運用検討会議が米国対エジプト・イランの対立で、特に議題の内容に関する対立で失敗に終わったため、天野大使は早くから準備を開始し、各国と協議を行い、様々なセミナーに出席して、すべての国に受入れ可能な議題案を準備した。

ところが、準備委員会の初日にイランは議長の議題案に対案を提出し、その変更を要求した。そのため実質的な討議を開始することができず、議長は非公式協議を続けることで事態の打開を図った。会議は3日間空転し、実質的な議論の時間は予定の半分になった。しかし議長は、各国の発言時間を制限しながらも、実質的な討議を可能とするような会議運営を行い、その結果、多くの問題点が明確になり、今後の方向が示された。

準備委員会の最終日になって、イランが再び議長の提案に反対したため、会議の成功が危ぶまれた。しかし、ここでも天野議長は非公式協議を粘り強く行い、ほとんどすべての国が議長を支持していたこともあり、報告書の採択に成功した。

これにより2008年及び2009年の準備委員会の議題は確定し、2010年の運用検討会議に向けていいスタートが切られた。その成功のかなりの部分は議長の会議運営能力によるものと思われるし、このような重要な会議で日本が議長のポストをとったことは、日本の軍縮外交を積極的に進める上でも極めて有益なことであった。


写真・第1回準備委員会議長を務める天野ウィーン代表部大使

第1回準備委員会議長を務める天野ウィーン代表部大使


大阪大学大学院国際公共政策研究科教授  黒澤 満
(2007年に開催されたNPT運用検討会議準備委員会に日本政府代表団の一員として参加)



-
(注1) 軍縮・不拡散分野については、外務省が別途発刊する「日本の軍縮・不拡散外交」(外務省ホームページ http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/gun_hakusho/index.html)を参照。
(注2) 日本は、1994年以降毎年、核廃絶に向けた漸進的・現実的アプローチにのっとり、「全面的核廃絶」に至るまでの具体的「道すじ」を示した核軍縮決議案を国連総会に提出し、国際社会の圧倒的支持を得ている。2007年は、核軍縮決議案「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意」を提出し、国連総会で賛成170、反対3(米、印、北朝鮮)、棄権9の圧倒的多数(1994年以降、過去最多の賛成)の支持を得て採択された。
(注3) 地下核実験を含むあらゆる「核兵器の実験的爆発又は他の核爆発」を禁止する条約。1996年国連総会にて採択。現時点では未発効。2008年1月現在、批准国数144か国(署名国数178か国)。
(注4) 世界321か所に設置される4種類の監視観測所によりCTBTで禁止される核兵器の実験的爆発または他の核爆発が実施されたか否かを監視する制度。
(注5) 兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT:Fissile Material Cut-off Treaty)。核兵器及びその他の核爆発装置用の核分裂性物質(プルトニウム及び高濃縮ウラン等)の生産を禁止する条約。1993年9月にクリントン・米国大統領によって提案された。ジュネーブ軍縮会議にて行われる予定の条約交渉はいまだ開始されていない。
(注6) 「第1次戦略兵器削減条約(Strategic Arms Reduction Treaty I)」。大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)及び重爆撃機の運搬手段の総数、配備される戦略核爆弾頭数の総数等を制限する米ソ(露)間の条約。1994年12月に発効し、2001年12月に米露両国は義務の履行を完了した。条約の有効期限は発効から15年後の2009年。
(注7) パキスタンでは2004年2月に「核開発の父」と呼ばれるカーン博士を含む科学者が、核関連技術の国外流出にかかわっていたことが明らかになった。これは国際社会の平和と安定、核不拡散体制を損なうものであるとともに、流出先の一つと見られている北朝鮮への流出は、日本の安全保障上の重大な懸念である。日本はパキスタンに対し、累次の機会に遺憾の意を伝えるとともに、本件に関して日本に情報を提供し、再発防止策を講ずるよう強く求めている。
(注8) 2005年7月及び2006年3月、米印首脳間で合意。インドへの民生用原子力協力を制限している原子力供給国グループ(NSG)(本節7.(2)ロ「大量破壊兵器等の拡散防止の取組」を参照)のガイドラインの調整を追求すること等を米国が約束。インドは、すべての民生用原子力施設をIAEA保障措置下に置くことに合意。
(注9) 本事業は2002年6月のG8カナナスキス・サミットにおいて、大量破壊兵器及びその関連物質の拡散防止を主な目的として、首脳レベルで合意された「G8グローバル・パートナーシップ」の一環として実施されているもの。「希望の星」と命名されている。
(注10) 極東地域において、海上保管されている解体原子力潜水艦原子炉区画を陸上において長期間安定して保管するための施設。
(注11) 2006年7月31日、安保理は国連安保理決議第1696号を採択し、IAEA理事会決議の要求事項を憲章第7章下で要求している。決議第1737号(2006年12月23日採択)及び決議第1747号(2007年3月24日採択)は、決議1696号が定めるイランへの要求事項に加え、核物質の禁輸や資産凍結等の憲章第7章41条下のイランに対する制裁措置を国連加盟国に課している。
(注12) IAEAが各国と個別に締結した保障措置協定に基づき、「査察」等の手段により検認活動を行うもの。NPT締約国たる非核兵器国は、NPT第3条に基づき、IAEAとの間で保障措置協定を締結し、国内のすべての核物質について保障措置を受け入れる(包括的保障措置)ことが求められている。
(注13) 包括的保障措置協定に追加してIAEAとの間で各国が締結する議定書。この締結により、IAEAに申告すべき原子力活動情報の範囲が拡大されるなど、検認活動が強化される。2007年12月現在、85か国が締結。
(注14) 包括的保障措置協定及び追加議定書双方の下で利用可能な保障措置手段を最適に組み合わせ、最大限の効率性を達成するためのもの。追加議定書の実施を通じ、「未申告の原子力活動及び核物質の不存在」の結論がIAEAより得られた国を対象に、査察回数の削減などにより保障措置を効率化するもの。これまでこの「結論」が出された国は、2007年6月現在で日本を含め32か国。
(注15) HCOC(Hague Code of Conduct against Ballistic Missile Proliferation):2002年に採択された弾道ミサイル不拡散についての初めての国際的政治合意(法的拘束力は持たない)。2007年6月現在127か国が参加。
(注16) 例えば、日本は在ウィーン国際機関日本政府代表部が原子力供給国グループ(NSG)の事務局機能を引き受けている。
(注17) PSI(Proliferation Security Initiative):2003年5月に発足。各国は、活動の基本原則を定めた「阻止原則宣言」を支持するなどの方法で参加表明を行う。活動に際しては、特定の事態や対象国を想定はしない。2007年12月現在80か国以上が、同宣言を支持し、PSIの活動に参加・協力している。
(注18) 前回2004年の「Team Samurai 04」に続き、日本が主催するPSI訓練としては2回目。洋上における容疑船の捜索・発見・追尾及び乗船や、港における船内立入検査・貨物検査などの訓練を行った。日本からは外務省、警察庁、財務省(税関)、海上保安庁、防衛省・自衛隊が訓練に参加したほか、豪、仏、NZ、シンガポール、英、米が装備・人員を派遣し、これらの国を含む40か国からオブザーバーが参加した。
(注19) 日本も2006年9月のIAEA総会において、「IAEA核燃料供給登録システム」に関する提案を行った。同提案は、濃縮ウランの供給を現在行っている6か国(米、仏、英、露、独、蘭)による2006年6月の提案「核燃料供給保証に係る6か国構想」(保障措置協定違反がなく、原子力安全、核物質防護上の基準を満たし、機微技術を放棄した国を、核燃料供給保証の対象とする内容)が、より幅広く受け入れられるよう、各国が濃縮ウランに限らずその核燃料供給全般についてIAEAに登録するというもの。
(注20) ASTOP(Asian Senior-level Talks on Non-Proliferation):ASEAN10か国、日、中、韓、米、豪、加、NZの局長級の不拡散政策担当者が一堂に会し、アジアにおける不拡散体制の強化に関する諸問題について議論を行うもの。
(注21) アジア諸国政府の輸出管理担当者、民間企業、研究者等を日本に招待して、日本をはじめとする輸出管理先進国の取組を紹介するとともに、アジア地域における輸出管理強化の意義を共有するもの。
(注22) 核セキュリティー:テロリスト等による核兵器の盗取や盗取された核物質を用いた核爆発装置の製造、汚い爆弾(放射性物質の発散装置)の製造等が現実とならないように講じられる措置のこと。
(注23) 核セキュリティー確保については、本節2.「テロとの闘い」への取組」を参照。
(注24) 国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP:Global Nuclear Energy Partnership):2006年2月に、米国が核燃料サイクルによる原子力エネルギーの供給を図りつつ、エネルギー需要、環境、開発、不拡散上の諸問題への対応を図ることを目的として提唱したもの。これまでに19か国(2007年12月現在)が「原則に関する声明」に署名してパートナー国となるなど、国際的な体制が確立してきている。
(注25) 1975年3月発効。生物兵器の開発、生産、貯蔵、取得及び保有を包括的に禁止するとともに、保有する生物兵器の廃棄義務を規定する。締約国数は159か国(2007年12月現在)。
(注26) 1997年4月発効。締約国数は182か国(2007年12月現在)。
(注27) 対人地雷の使用、生産等を禁止し貯蔵地雷の廃棄、埋設地雷の除去等を義務付ける条約で、1999年3月に発効した。2007年12月現在の締約国数は、日本を含め156か国。
(注28) 2006年には、英国を主導とする7か国(日本を含む)が作成した国連決議案が国連総会で採択された。
(注29) 一般的に、多量の子弾を入れた大型の容器が空中で開かれて、子弾が広範囲に散布される仕組みの爆弾及び砲弾等のこと。不発弾による民間人の被害が問題となっている。
(注30) 海面から水深2,000メートルまでの水温・塩分データを観測・通報するフロートを全世界で約3,000個展開する海洋監視システムの構築計画。

テキスト形式のファイルはこちら

▲このページの上へ