第2節地球規模課題への取組と国際協力 |
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環境・気候変動 |
気候変動や生物多様性の損失等の地球環境問題は深刻であり、日本はこれらを人類の生存に対する脅威と位置付け、国際社会が連帯して取り組むことを呼びかけてきている。2007年は、地球温暖化の急速な進行が認識されて、9月の国連「気候変動に関するハイレベル会合」、12月の気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)等で、気候変動問題に大きな国際的関心が集まる年となった。とりわけ、2012年で終了する京都議定書第一約束期間後の次期枠組みに関する議論は大きな焦点となっている。
こうした中にあって、安倍総理大臣は、日本が次期枠組みづくりにおける国際的議論を主導すべく、5月に気候変動に関する提案「クールアース50」を発表し、世界全体の温室効果ガスの排出量を、現状に比して2050年までに半減することを全世界の共通の目標とする必要性等を強調した。安倍総理大臣は、6月のG8ハイリゲンダム・サミットにおいて、「クールアース50」を各国首脳に紹介し、気候変動問題に関する議論に積極的に参画した。さらに、日本は、12月のCOP13において、すべての主要排出国が参加する交渉の場を設け、長期目標や緩和対策等について議論することを提案し、同提案も踏まえた新たな作業部会の立ち上げが決定されるなど、国際的議論を主導する役割を果たした。
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気候変動問題 |
気候変動問題は、先進国、開発途上国を問わず、国境を越えて人間の安全保障を脅かす喫緊の課題であり、国際社会の一致団結した取組の強化が急務である。とりわけ、2012年で終了する京都議定書第一約束期間後の次期枠組みに関する議論は大きな焦点となっている。
11月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書統合報告書でも、各国が現在の政策を継続する場合には、世界の温室効果ガス排出量は今後20年~30年増加し続け、その結果、21世紀末には20世紀に観測されたものより大規模な温暖化がもたらされると予測しており、この問題の深刻さと速やかな対応の必要性を示唆している。
2007年には、気候変動問題が、国際社会が直面する大きな課題として首脳レベルで議論されるなど、取組に向けて大きな政治的機運が生まれた。例えば、4月には国連安全保障理事会において公開討論のテーマに初めて気候変動がとりあげられた。また、9月に潘基文(バンギムン)国連事務総長のイニシアティブにより開催された国連「気候変動に関するハイレベル会合」は、首脳級で気候変動問題を集中的に議論する初めての会合として、国際的な取組機運を高める大きな契機となった(同会合には日本から総理大臣特使として森元総理大臣が出席)。また、12月にインドネシア・バリで開催された気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)及び京都議定書第3回締約国会合(COP/MOP3)では、気候変動枠組条約の下に設置された次期枠組みについて議論する「新たな検討の場(作業部会)」が設置されるなど、大きな動きが見られた1年であった。
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「クールアース50」と日本の取組 |
こうした中にあって、日本は次期枠組みづくりにおける国際的議論を主導すべく、5月に安倍総理大臣は、気候変動に関する提案「クールアース50」を発表し、その中で、世界全体の温室効果ガス排出量を現状に比して2050年までに半減するとの世界共通の長期目標や、2013年以降の国際的な枠組みの構築に関して、[1]米国、中国、インド等の主要排出国がすべて参加し、世界全体での排出削減につながること、[2]各国の事情に配慮した柔軟かつ多様性のある枠組みとすること、[3]省エネなどの技術をいかし環境保全と経済発展とを両立することという3原則を提示した。
また、これらの原則を実現していくため、日本は温室効果ガスの排出の抑制と経済成長を両立させようとする志の高い開発途上国を支援することを表明した。
6月にドイツで開催されたG8ハイリゲンダム・サミットでは、安倍総理大臣より、「クールアース50」を紹介し、世界全体の温室効果ガスの排出量を、現状に比して2050年までに半減することを全世界の共通の目標とする必要性を強調するなど、積極的に議論に参画した。その結果として、日本の提案を軸に議論が行われ、「2050年までに世界全体の温室効果ガスの排出量を少なくとも半減させることを含む、EU、カナダ及び日本による決定を真剣に検討する」との文言が首脳文書に盛り込まれた。
日本は、世界全体としての温室効果ガス排出削減につながるような枠組みを目指して、こうした外交的働きかけを二国間、多国間の場を通じて積極的に行ってきている。特に、実効性のある国際的枠組みづくりにおいては、米国、中国、インド等の主要排出国の参加をいかに確保するかが重要であり、そうした国々も含め二国間の環境・気候変動関連文書に署名をしてきている。また、9月の第15回APEC首脳会議(於:シドニー)や11月の第3回東アジア首脳会議(EAS)(於:シンガポール)など、多国間外交の場においても、気候変動問題を含む宣言の発出に積極的に貢献した。さらに、日本は、12月のCOP13において、2013年以降の枠組み構築のため、すべての主要排出国が参加して、単なる対話ではなく、交渉を行う場を設け、そこで長期目標や緩和対策等について議論することを提案し、これを受けて気候変動枠組条約の下に次期枠組み構築について議論する新たな作業部会を設置することが決定された。2013年以降の枠組み構築を議論するこの作業部会の立ち上げに日本は大きな役割を果たした。
さらに、福田総理大臣は、2008年1月、世界経済フォーラム年次総会(「ダボス会議」)に出席し特別講演を行い、サミット議長として「クールアース推進構想」を発表した。その中で、IPCCが、破局を避けるためには地球全体の温室効果ガスを次の10年から20年の間にピークアウトし、2050年には少なくとも半減しなければならないと警告を発していることに言及し、日本としては主要排出国と共に、今後の温室効果ガスの排出削減について、国別総量目標を掲げて取り組む決意を示した。その際には、各国間の削減負担の公平さを確保するため、セクター別アプローチを活用し、エネルギー効率や今後活用される技術など、科学的かつ透明性の高い尺度を用いた積み上げ方式による作業を進めることを提案した。
また、100億米ドル規模の資金メカニズムである「クールアース・パートナーシップ」の構築を提案し、省エネ努力など、開発途上国の排出削減への取組に積極的に協力するとともに、気候変動で深刻な被害を受ける開発途上国に対して支援の手を差し伸べることで、開発途上国とも連帯を強化し、地球全体での温室効果ガス削減を目指す考えを示した。さらに、日本自身が、大幅な排出削減に不可欠な革新的技術開発を加速するとともに、日本社会を低炭素社会に転換するための検討に着手し、低炭素社会づくりに向けた先導役を果たしていく決意を示した。
クールアース推進構想
一方、日本以外の国・機関も独自の気候変動政策を決定・提案するなど、積極的な動きが見られた。まずEUは、3月に開かれた欧州理事会(EU首脳会議)において、温室効果ガスの排出量を先進国として2020年までに1990年比で30%、2050年までに同比60%~80%削減する等の目標を合意した。また、米国は5月に、長期目標の設定や各国の事情を反映した中期の国別目標、強固で透明性の高い各国のパフォーマンス等の評価システム構築などのために、主要経済国による会合を開催することを提案した。この提案に基づいて、9月に開催された米国主催の「エネルギー安全保障と気候変動に関する主要経済国会合」では、ブッシュ大統領が演説を行い、2008年夏までに首脳会合を開催し、排出削減に関する長期目標等につき一致することを提案するなど、気候変動問題に真剣に取り組む姿勢を示した。
2008年には、次期枠組みに関する交渉が本格的に開始され、第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)(5月)やG8北海道洞爺湖サミット(7月)など、気候変動が主要な議題となる重要な国際会議が日本で開催される。日本は、特にサミット議長国としての立場も活用しつつ、すべての主要排出国が参加する、実効性のある国際的な枠組みづくりに向けて、引き続き国際的な議論を主導していく考えである。
気候変動が主要な議題となる今後の外交日程
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森林保全・違法伐採対策 |
日本は、多様な便益を提供する森林の重要性を認識し、国際熱帯木材機関(ITTO)やアジア森林パートナーシップ(AFP)等を通じて、違法伐採対策を含む持続可能な森林経営に向けた取組を推進した。3月には、日本が主催した違法伐採国際専門家会議において、世界の主要木材生産国・消費国政府、国際機関等の専門家が違法伐採問題について地域の枠を越えて議論を行った。6月のG8ハイリゲンダム・サミットにおいては、違法伐採問題を世界の森林保護に対する最も困難な障害として位置付け、この問題の解決に向けた取組を引き続き支援することが確認された。
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水と衛生 |
日本は、水と衛生問題への対応として、「水と衛生に関する拡大パートナーシップ・イニシアティブ(WASABI)」に基づく取組を行うとともに、国連事務総長の諮問委員会である国連「水と衛生に関する諮問委員会」の活動を支援している。同委員会議長であるオランダ国皇太子殿下は、3月及び12月に訪日し、総理大臣をはじめとする政府要人との間で水と衛生問題に対する意見交換を行った。また、11月には日本の皇太子殿下が同委員会の名誉総裁に就任された。12月には、日本のNPOのイニシアティブによる地域的取組として、大分県別府市において第1回アジア・太平洋水サミットが開催された。同会合には皇太子殿下が御参加になったほか、福田総理大臣も参加するなど、政府としても協力を行った。
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防災 |
津波・地震からの復興をテーマとして、日本は、1月、国際津波・地震フォーラム(於:神戸市)を国際機関等と共催した。また、国連国際防災戦略(UN/ISDR)は、10月、神戸市に兵庫事務所を開設した。
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生物多様性 |
生物多様性の保全と持続可能な利用に関する国内外の関心が高まる中、日本は、2010年開催予定の生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)を名古屋市に招致すべく、各国への働きかけを行っている。
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オゾン層の破壊 |
オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書は2007年に採択20周年を迎え、9月に開催された第19回締約国会合において代替フロン(HCFC)の削減スケジュールの前倒しが決定された。先進的な法制度や技術を有する日本は、オゾン層保護に向けた国際的な取組を引き続きリードしていく。
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ワシントン条約 |
6月、オランダのハーグにおいてワシントン条約第14回締約国会議が開催された。同会議では、日本が南部アフリカ4か国政府保有の象牙の取引相手国となることが確定したほか、遵守ガイドラインが採択され、ヨーロッパウナギ等の附属書掲載が決定された。
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北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP) |
NOWPAPは、海洋・沿岸環境の持続可能な管理・利用を通じ、悪化する世界の海洋・沿岸地域の環境問題に取り組むことを目的とした国際機関である。海洋漂着ゴミ問題に関し、2006年9月の山形県での開催に引き続き、2007年6月には中国で初のNOWPAP主催国際海岸クリーンアップキャンペーン(ICC)を開催した。日本は財政面も含めてイニシアティブをとり、海洋漂着ゴミ専門家も派遣した。