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人権 |
1993年6月のウィーン宣言及び行動計画にもあるように、民主主義、発展並びに人権及び基本的自由の尊重は、相互に依存しつつ、かつ補強しあうものである。人権・民主主義基盤が各国において十分に整備されることは、平和で繁栄した社会の確立、ひいては、国際社会の平和と安定に直結する。
国際連合では、2005年9月の国連総会首脳会合において人権分野の重要性が人権の主流化の流れの中で再認識され、2006年 3月の国連総会で、従来の人権委員会に替えて人権理事会を総会の下部機関として設置することが決定された。人権理事会は47か国で構成され、日本も2006年5月の選挙で当選し、2008年5月までの任期で理事国を務めている。
民主主義分野に関しては、基本的価値を重視する日本の外交政策を推進するとの観点から、国連民主主義基金(UNDEF)に対し、2007年3月に1,000万米ドルの拠出を行った。さらに11月、有馬龍夫政府代表が第4回民主主義共同体閣僚級会合(於:マリ)に出席し、日本の経験も踏まえ、民主主義が平和や繁栄に不可欠であることや、当該国のオーナーシップを尊重した日本の民主化支援の取組を紹介した。
日本は、国連をはじめとする多国間の場における人権・民主主義にかかわる取組と、人権対話や開発援助等を通じた二国間の場における取組を相互に連携させつつ、開発援助を通じた人権・民主主義基盤の整備から包括的に人権・民主主義外交の強化を図っていく考えである。
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国連の場における取組 |
人権理事会は2006年6月に第1回会合を開催し、その後1年かけて組織・活動方法の見直しを行った。その中で、国連加盟国すべての人権状況を平等に審査する枠組みとしての普遍的定期的審査(UPR)の新設や、国別特別報告者や国別人権状況決議の今後の方針、人権理事会でとりあげる議題等が決定されたが、日本は、人権理事会が国際社会の人権問題に対し、遅滞なく、より実効的に対処できる機関となるべきであるとの理念の下、制度構築の議論に積極的に参加した。
2007年は合計4回(3月、6月、9月、12月)の人権理事会通常会合が開催され(ただし12月は9月の再開会期)、10月にはミャンマーの人権状況に関する特別会合が開催された。3月にジュネーブで行われた第4回人権理事会ハイレベル・セグメントには、日本から浜田外務大臣政務官が出席し、日本の人権政策や、拉致(らち)問題を含む北朝鮮の人権問題等に言及するステートメントを行った。また、同時期にジュネーブ市内で開催された人権映画祭の一環として、日本は映画「めぐみ」の上映会と「拉致問題写真展」を開催し、北朝鮮による拉致問題の早期解決を各国に訴えた。
また、2月には日本が起草段階から積極的に作成交渉に参加してきた強制失踪条約(仮称)に日本を含む57か国が署名した。本条約により、拉致を含む強制失踪が犯罪として処罰されるべきものであることが国際社会において確認されるとともに、将来にわたって同様の犯罪が繰り返されることを抑止する意義がある。今後は早期の締結に向けた検討を行っていく考えである。
9月、日本はその起草段階から交渉に積極的に参加してきた障害者権利条約(仮称)に署名した。今後は可能な限り早期の締結を目指して検討を行っていく。
10月から11月にかけて開催された第62回国連総会第3委員会では、国別やテーマ別の人権問題に関して議論が行われ、60本以上の決議が採択された。日本は、拉致問題への言及も含む北朝鮮人権状況決議をEUと共に提案し、採択に向けた働きかけを積極的に行った。その結果、前年の決議と比較し、より多くの人権上の問題に言及するなど内容の充実が図られた。拉致問題については、前年までの決議で言及されていた懸念の表明に加え、北朝鮮当局に対し、拉致被害者の即時帰国を含め、拉致問題の早急な解決を強く要求することが明記された内容の決議が採択された。同決議は、国連総会本会議においても、多数の支持を得て採択された。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、国連における人権分野での取組の重要性にかんがみ、今後更に強化されることが2005年の国連首脳会合で決定された。日本としても、国際社会での人権分野の活動に積極的に関与するという姿勢に基づき、2007年度分として前年度の約2倍に当たる約3,560万円を同事務所に拠出した。また、2007年1月にはルイーズ・アルブール国連人権高等弁務官が来日し、塩崎恭久官房長官や麻生外務大臣等と活発な意見交換を行い、日本とOHCHRの協力強化につながった。
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二国間人権対話 |
人権の保護・促進のためには、二国間の対話を通じた相互理解の醸成も効果的な手段であることから、日本は二国間の人権対話の実施を重視している。7月にはイランとの間で4回目となる人権対話を行った。同対話では、人権問題に関する基本的立場を述べ合うとともに、女性の人権問題や司法制度改革を含め、個別分野の人権状況や改善に向けた取組に関してイラン側から説明が行われ、また、日本による今後の協力の可能性についても意見交換が行われた。また、同月に行われた第1回日・ウズベキスタン外務省間実務者協議において、ウズベキスタン側から、同国の人権・民主化の状況やその改善に向けた取組などについて説明が行われ、日本側からは、一層の改善努力を働きかけた。
第62回国連総会本会議における北朝鮮人権状況決議の採択(12月19日、米国・ニューヨーク) |
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弱者保護への取組 |
世界の多くの地域では、多数の児童が武力紛争の被害を受けており、深刻な人権侵害が続いている。こうした状況を踏まえ、2月には、浜田外務大臣政務官が児童兵に関する国際会議「子どもたちを戦争から解放しよう」(於:パリ)に出席し、各国代表スピーチセッションにおいて、児童兵の問題への取組の重要性を訴えた。
また10月には、平和の定着における女性の役割をテーマとする「女性・平和・安全」に関する国連安保理公開討論が開催された。日本は「人間の安全保障」の理念に基づき、引き続き女性のエンパワーメントを支援していく旨発言した。
難民問題に関しては、1983年に設立され、インドシナ難民等に定住支援を行ってきた国際救援センターが2006年3月に閉所したが、同年4月には東京都内に後継施設「RHQ支援センター」が新設され、引き続き、条約難民(注1)等に対する生活支援や日本語教育、職業相談等を通じた定住支援を実施している。
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国際人道法 |
8月に東京において、紛争犠牲者の保護等に関する国際人道法の現状と課題を検討するため、「慣習国際人道法東京セミナー」を国際法学会及び赤十字国際委員会と共催した。また、同月には国際人権・人道法をテーマとする国際法模擬裁判「2007年アジア・カップ」を東京で開催した。
児童兵に関する国際会議「子どもたちを戦争から解放しよう」においてスピーチを行う浜田外務大臣政務官(2月5日、フランス・パリ) |