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国際社会における「法の支配」 |
国際社会における「法の支配」の確立は、国家間の関係を安定的なものとし、紛争の平和的解決を図っていく上で極めて重要であり、日本は、外交政策の一環として国際社会における「法の支配」の促進を重視し、様々な取組を積極的に行ってきている。
日本が自国の領土、海洋権益等にかかわる国益を守っていくに当たっても、「法の支配」が国際社会で広く実現することは、関係国との調整・交渉等を円滑に進めることに資する。また、「法の支配」の推進は、経済面を含む個人・企業等の活動のために良好な環境をつくり出し、関連の利益を保護する上でも必要不可欠である。
国際社会における「法の支配」には、新しい国際法秩序の形成・発展に参画するというルールづくりの側面と、国家間の紛争を国際法に基づき平和的に解決していく紛争処理の側面がある。
ルールづくりの側面においては、日本は、日本人委員を擁する国連国際法委員会(ILC)をはじめとする各種国際フォーラムにおける国際法の法典化作業に積極的に参画しているほか、幅広い分野でのグローバルなルールづくりに主要な役割を果たしている。具体的には、経済分野におけるWTOドーハ・ラウンド交渉や、気候変動問題における2013年以降の枠組みづくりに積極的に取り組んでいる。
紛争の平和的処理の側面に関しては、日本は、以前から国際司法裁判所(ICJ)等の国際司法機関の役割を重視し、人材面での貢献を含め、これら機関の活動を強力に支えてきている。7月には国際海洋法裁判所(ITLOS)にロシアに拿捕された日本漁船の早期釈放を求めて提訴するなど、外交における国際裁判の積極的な活用にも努めている。4月にはヒギンズICJ所長、11月にはヴォルフルムITLOS所長を訪日招待し、国会議員、有識者との交流等を通じ、両裁判所の役割や日本の取組に対する内外の理解増進を図った。日本は、10月、国際刑事裁判所(ICC)に加盟し、その直後に日本人裁判官も選出された。ICC規程の見直し作業も進んでおり、今後、日本が国際刑事・人道法の発展に一層貢献していくことが期待されている。
また、日本は、開発途上国における法制度整備の支援も引き続き強化している。
国際海洋法裁判所における日本漁船拿捕事案の審理 |
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刑事分野における取組 |
日本は、10月、国際社会の関心事である最も重大な犯罪(注1)を犯した個人を国際法に基づいて訴追・処罰するための世界初の常設国際刑事法廷である国際刑事裁判所(ICC)に加盟し、11月の裁判官補欠選挙では齋賀富美子人権担当大使がトップ当選を果たした。ICC加盟国として、日本は、「不処罰の文化」を終わらせるべく、最も重大な犯罪を犯した個人を処罰する包囲網の一翼を担うこととなり、今後、他のアジア諸国の加盟促進、「侵略犯罪」の定義等国際刑事・人道法の発展への参画などを通じ、ICCをより普遍的な組織として発展させるための貢献を行っていくことが期待される。
また、刑事事件の捜査、訴追等に必要な証拠の提供等を条約上の義務として規定するとともに、中央当局間の直接の相互連絡を可能とする刑事共助条約については、2006年に発効した米国との条約に加え、2006年12月に批准書の交換を行った韓国との間の条約が2007年1月に発効した。また、香港、ロシア及び中国との間でも刑事共助条約締結のための交渉を行い、そのうち中国との条約については、12月に署名するに至った。こうした取組を通じ、刑事分野における共助の一層確実な実施及び効率化、迅速化に努めている。
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海洋を巡る諸問題 |
海洋国家である日本にとって、正当な海洋権益の確保は国の根幹にかかわる問題であり、国連海洋法条約をはじめとする海洋の国際法秩序の発展が日本の国益を守っていく上でも重要である。日本は、7月、ロシアに拿捕された日本漁船の早期釈放を求める2件の訴えを国際海洋法裁判所(ITLOS)に提起し、同裁判所の判決により紛争は平和的に解決された。このような国際裁判所の積極的利用は、判例の蓄積による海洋法の発展と国際裁判制度への信頼性の向上をもたらし、紛争当事国のみならず国際社会全体の利益にもつながるものといえる。
また日本は、中国との間で排他的経済水域(EEZ)・大陸棚の境界が未画定の東シナ海における資源の共同開発を目指して交渉を継続しているほか、韓国との間でも、EEZの境界画定交渉及び海洋の科学的調査に係る暫定的な協力の枠組み交渉を継続している。
これらの問題に関し、日本は一貫して国連海洋法条約をはじめとする国際法を遵守すべきとの立場を維持してきており、国際法にのっとった解決を目指している。
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経済・社会分野における取組 |
経済分野、例えば、WTOにおける交渉や、各国・地域とのEPA/FTA、租税条約、社会保障協定、投資協定、航空協定等の締結といった取組は、諸外国との経済面での協力関係を法的な枠組みとして規律することで、紛争処理の手続きも含め、予測可能性・安定性を確保することにつながる。すなわち、貿易・投資や、日本国民及び企業の海外における活動を一層拡大・円滑化するための手段としても、「法の支配」の強化が役立っている。
また、日本は、環境・人権等、国民の生活に大きな影響を与える社会分野においても国際的なルールづくりを主導するとともに、積極的に国際約束を締結している。例えば、気候変動に関する2013年以降の枠組みについての議論において、日本及び国際社会全体にとって有益な制度の構築に向けて努力している。また、10月には、必要な国内制度の整備を経て、廃棄物の海洋投棄の制限に関するロンドン条約1996年議定書を締結した。2月及び9月には、積極的に交渉に参加してきた強制失踪条約(仮称)及び障害者権利条約(仮称)に署名した。
(注1) | 集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪(未定義)。 |