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 6.

平和構築への取組


【総論】


武力紛争は、国家と国民に多大な惨害をもたらす。平和構築、すなわち、紛争の再発を防ぐことを念頭に置いた、和平プロセスの促進から治安の確保、復興・開発に至る継ぎ目のない取組は、「テロとの闘い」や大量破壊兵器の拡散等の防止などとともに、世界が直面する重大な課題である。こうした中、国連安全保障理事会や国連平和構築委員会をはじめ国際社会の取組は、紛争予防、和平の仲介、平和維持活動、人道支援、行政組織の整備や復興支援といった面で、質・量ともに拡大している。近年のG8サミットでも、平和構築が毎年重要課題の一つとしてとりあげられている。

国際社会の平和と安定は、日本自身の発展にとって不可欠である。このような考えから、2008年1月、福田総理大臣は、第169回国会における施政方針演説において、世界の平和と発展に貢献する「平和協力国家」として、国際社会において責任ある役割を果たしていく考えを表明した。日本は、平和構築を主要な外交課題の一つとし、国連平和維持活動(PKO)等への貢献、政府開発援助(ODA)を活用した現場における取組、知的貢献及び人材育成を3本柱に、具体的な取組を推進している。


平和構築分野での日本の取組

平和構築分野での日本の取組


【各論】


 (1) 

現場における取組の強化


 イ  

国連PKO(注1)等への人的貢献(2008年2月現在)

2007年に入って新たに2つ(スーダンのダルフール、チャド・中央アフリカ共和国)の国連PKOが設立され、現在世界各地で17の国連PKOが活動中である。ダルフール国連・AU合同ミッション(UNAMID)は、国連とアフリカ連合(AU)が初めて合同で行うもので、最大約26,000人の要員規模を有し、性格・規模ともに類を見ないPKOとなっており、このように国際社会の平和維持のための取組は強化されてきている。


写真・国連ネパール政治ミッション(UNMIN)での活動風景

国連ネパール政治ミッション(UNMIN)での活動風景(写真提供:UN Photo/UNMIN)


日本は国際平和協力法に基づいて国際平和協力のための様々な活動を行っている。国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)、国連ネパール政治ミッション(UNMIN)の2つの国連ミッションに計51名の要員を派遣している(2008年2月末現在)ほか、2007年4月から7月にかけて、東ティモールにおける大統領選挙及び国民議会選挙に36名の選挙監視要員を派遣した。また、11月にはダルフールで被災民の救援を行っている国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の要請に基づき、毛布やスリーピングマット等の物資協力を行った。さらに、12月には、国連等からの緊急の要請にこたえ、9月に国連安保理が承認した「人道的保護のためのチャド警察(PTPH)」の活動立ち上げのための、約220万米ドルの支援供与を行った。


国連PKO等への派遣状況

(上位5か国、G8諸国及び近隣アジア諸国)
世界順位 国名 派遣人数
 1位  パキスタン 10,603名
 2位  バングラデシュ 9,717名
 3位  インド 9,316名
 4位  ネパール 3,674名
 5位  ヨルダン 3,572名
 9位  イタリア 2,432名
 10位  フランス 1,942名
 13位  中華人民共和国 1,819名
 19位  ドイツ 1,121名
 36位  大韓民国 400名
 37位  英国 366名
 42位  米国 320名
 44位  ロシア 290名
 56位  カナダ 157名
 82位  日本 38名(注)
(注)日本は、このほか15名の自隊管理要員を派遣している。
出典:国連ホームページ( 2007年10月末現在)

 ロ  

平和構築に向けたODA支援等の協力

平和構築に向けた取組は、ODA大綱や、「国際協力企画立案本部」が策定した「平成19年度国際協力重点方針・地域別重点課題」 (注2)において、「平和の構築」が重点課題の一つとして位置付けられている。日本は、紛争の予防や緊急人道支援とともに、紛争の終結を促進する支援から平和の定着や国づくり支援に至るまで、平和構築支援に積極的に取り組んでいる。

イラクについては、2003年10月に表明した最大50億米ドルのイラク復興支援のうち、紛争後のイラク国民の生活基盤の再建及び治安の改善に重点を置いた15億米ドルの無償資金協力については、既に全使途を決定した。イラクの中期的な復興需要に対する円借款による支援については、最大35億米ドルの支援を実施することを決定し、2007年末までに、イラク側との協議や各種調査等を踏まえ、電力、運輸、石油、灌漑等の分野の10案件(総額約21億米ドル)に関する交換公文の署名を行った。また、これら最大50億米ドルの復興支援に加えて、約60億米ドルの債務救済支援を表明し、実施してきている。2007年2月には国づくりに取り組んでいるイラク新政府を支援すべく、約1億米ドルの新規無償資金協力を決定し、11月には約518万米ドルの人道支援を決定した。こうした資金協力との一層の連携を図りつつ、技術協力による人材育成も継続している。

アフガニスタンでは、2002年に発表した「平和の定着」構想に基づき政治プロセス・ガバナンス、治安の維持及び復興の3つの柱を中心に、2006年1月のアフガニスタンに関するロンドン国際会議で4.5億米ドルの追加支援を表明するなど、これまで総額12億米ドルを超える支援を行ってきている。また、2007年6月には、東京で「アフガニスタンの安定に向けたDIAG(非合法武装集団の解体)会議(警察改革との連携)」を開催した。このように日本の支援は幅広く展開しており、選挙支援や元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR:Disarmament, Demobilization and Reintegration)から難民・避難民の定住支援、インフラ整備まで包括的な支援が行われている。

こうした日本の一連の支援に対しては、9月に行われた町村外務大臣とカルザイ・アフガニスタン大統領との会談の際にも、カルザイ大統領より謝意の表明があった。


写真・カルザイ・アフガニスタン大統領と会談する町村外務大臣

カルザイ・アフガニスタン大統領(右)と会談する町村外務大臣(左)(9月22日、米国・ニューヨーク)


アフリカ地域については、2003年の第3回アフリカ開発会議(TICAD III)以降、日本は「平和の定着」を対アフリカ支援の柱の一つとして位置付け、支援を強化してきている。2007年3月の、TICAD「持続可能な開発のための環境エネルギー」閣僚会議の際には、対アフリカ平和の定着のための新たな措置として、アフリカ4か国(ウガンダ、シエラレオネ、ブルンジ、リベリア)における平和の定着を支援するため、国連児童基金(UNICEF)、国連開発計画(UNDP)、国連人口基金(UNFPA)等の国連機関を通じ、西アフリカや大湖地域を中心に計約4,571万米ドルの支援を発表した。さらに、近年のG8サミットではアフリカの平和維持能力向上支援の重要性が主張されており、日本は、2008年2月、アフリカ各地のPKO訓練センターに対する支援を行うこととした。なお、2008年5月に日本の主催にて横浜で行われる第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)においても、平和の定着・民主化を重点事項の一つとしてとりあげる予定である。

このほか、日本は、アジア、アフリカを中心とする紛争被害国において、人道上大きな問題となるのみならず、復興・開発活動を妨げる対人地雷・不発弾及び小型武器の廃棄・回収を積極的に支援している。最近では、例えば、ラオスにおいて、国家機関であるUXOラオスの不発弾処理活動支援(約2億990万円)を実施しているほか、コンゴ共和国においては、小型武器回収及び元兵士の社会復帰計画(2億4,700万円)を実施している。



 (2) 

知的貢献の強化―国連平和構築委員会


日本は、創立メンバーとして国連平和構築委員会の活動に貢献してきたが、平和構築分野全般における取組が各国から評価され、2007年6月に同委員会の第2代議長に就任した(任期1年)。同委員会は、紛争後の平和維持から復興・開発まで継ぎ目ない支援を行うことを目的とし、安全保障理事会及び総会と緊密に連動しつつ、関係諸機関や市民社会の知見も活用しながら、対象国の平和構築上の優先課題を特定し、支援を呼び込む役割を担っている。最初の対象国となったブルンジ及びシエラレオネについて、日本は、これまでの平和構築支援の経験と知見を最大限活用し、「人間の安全保障」の理念の共有を含め、両国における平和構築戦略の策定にイニシアティブをとった。また、同委員会には、目に見える具体的成果として、現地における支援の呼び込みが期待されているが、日本は、例えばシエラレオネでは電力供給、ブルンジではインフラ整備等、平和構築に不可欠な分野で具体的な支援を行っている。さらに、同委員会の活動を確固たるものにするため、新規検討対象国の選定方法や安保理をはじめ関係機関との協力強化の在り方といった重要な論点についても、議長として議論をリードしている。


写真・国連安全保障理事会で平和構築委員会の第1回年次報告を行う高須国連大使(平和構築委員会議長)

国連安全保障理事会で平和構築委員会の第1回年次報告を行う高須国連大使(平和構築委員会議長)(10月、米国・ニューヨーク 写真提供:UN Photo)



 (3) 

平和構築分野の人材育成事業(注3)


冷戦終結後の世界においては、世界各地において国内紛争が増加していること等により、紛争終結から復興まで包括的に取り組む必要性が増大している。同時に、平和構築分野で活動する人材、特に非戦闘員である文民に対するニーズが高まってきている。日本はそのような潮流をとらえ、2007年、将来の平和構築分野への更なる人的貢献を行っていくために「平和構築分野の人材育成事業」を立ち上げ、平和構築の現場で必要となる実践的な能力を備えた文民人材の育成を開始した。

本事業は日本人及びアジア人の文民を対象に、[1]国内研修、[2]海外実務研修、[3]就職支援を3つの柱として世界第一級の文民専門家の養成を目指すものである。本事業により日本の国際平和に対する人的貢献を更に強化するとともに、日本のアジア協力のための取組を推進していく。




コラム  

「研修の経験、大きな財産に」
―平和構築分野の人材育成事業―

 

「平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業」は、2007年度から始まった外務省の事業だ。この事業は、国内研修と海外実務研修から構成され、私はこの事業の海外実務研修の一環として、現在(2008年1月)、3年前に紛争が終結した南スーダン・ジュバの国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で難民の帰還支援をしている。トラックで到着した難民の集団を右から左へと帰路につかせることもあれば、家族離散など事情を抱えた難民一人ひとりと対峙することもある。研修目的の派遣とはいえ、要求される内容はほかの職員となんら変わらず、学ぶことは多い。

特に、受益者のことを第一に考えて行動することの大切さを実感している。国連では複数の組織がかかわると物事が進むのに時間がかかる。連携の狭間で取り残されるのだ。ある難民の家族は、子供を巡る問題から故郷に帰れず、ジュバで1か月間足止めされていた。3日以内の出発が原則なので、異例の長期滞在だ。私は他部署・他組織との連絡、説得を重ねて2週間、何とか彼らの帰郷の手はずを整えた。ほっとした顔の父親との別れの握手では、インフラも産業もない南スーダンで彼ら自身が復興の礎となっていく事実を思い、感慨深いものがあった。「自分の仕事は何か」ではなく、「彼ら(受益者)のために何ができるか」というスタンスで仕事に向かうことで、自分も、また地域も報われるのだと実感した。

しかし生活環境は楽とはいえない。水道が止まれば、汲み置きのバケツ一杯の水で体を洗うこともある。出勤時にはバッテリーが弱った車のエンジンを4、5人がかりで思い切り「押しがけ」する。マラリアに倒れる同僚もいる。この事業の運営を委託された広島平和構築人材育成センター(HPC)の講師からは出発前、こうした厳しい生活で生き残っていけることを示すこと自体も、平和構築のキャリアには大切だと指摘された。

この事業の研修員となる以前、約6年半、報道記者をしてきた私にとって、今回の派遣はポスト紛争国では初めての「現場経験」となる。こうした研修で得た経験は、今後、平和構築の現場で働いていくうえで大きな財産になるだろう。現在、私の同期の日本人15人、アジア人14人の多くが、同様に各地の現場で汗を流している。5年後、10年後、彼らとともに日本の、そしてアジアの平和構築の一端を担っていきたい。


写真・2008年1月、スーダン・ジュバにて

2008年1月、スーダン・ジュバにて


「平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業」2007年度研修員  古本 建彦



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(注1) United Nations Peacekeeping Operations:UNPKOまたは単にPKOという。PKOとは本来、国連安保理決議または総会決議に基づき、停戦合意の成立後に国連が紛争当事者の間に立って停戦や軍の撤退等を行うことにより、事態の沈静化や紛争の再発防止を図り、紛争当事者による対話を通じた紛争解決を支援することを目的とした活動である。しかし、現在のPKOはこれらの伝統的な任務に加え、選挙、文民警察、人権、難民帰還の支援から行政能力強化や復興開発までも任務とする複合的なPKOが増加しており、任務の多様化、複雑化の傾向が進んでいる。
(注2) 「国際協力企画立案本部」、「平成19年度国際協力重点方針・地域別重点課題」については、第3章第2節4.「国際協力の推進」を参照。
(注3) 2006年12月の日・フィリピン首脳会談及び2007年1月の東アジア首脳会議(EAS)において、安倍総理大臣は、日本の東アジア地域協力の一つとして「平和構築分野の人材育成構想」を表明し、それを受けて内閣に「平和構築分野の人材育成に関する関係省庁連絡会議」が設置され、政府一体の取組として本事業を実施していくことが決定された。事業初年度となる2007年は、国立大学法人広島大学を委託先として、同大学が設立した「広島平和構築人材育成センター」を中心に[1]平和構築の第一線で活躍する内外の講師陣による国内研修(約1.5か月)、[2]平和構築支援に携わる国際機関やNGOの現地事務所での海外実務研修(最大約5か月)、[3]就職支援を柱とするパイロット事業を実施した。

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