5. |
国連 |
国際連合(国連)は、唯一の普遍的かつ包括的な国際機関であり、その目的は、総会や安全保障理事会(安保理)をはじめとする諸機関の活動を通じ、国際の平和と安全を維持し、諸国間の友好関係を発展させ、経済的、社会的、文化的、人道的な問題の解決や人権の促進に関する国際協力を達成することにある。今日の国際社会は、気候変動、テロ、大量破壊兵器の拡散、貧困、感染症等、個別の国家・地域のみでは対応が困難な多くの課題に直面しており、国連の役割は以前にも増して重要となっている。
このような中で、1月に就任した潘基文(パンギムン)国連事務総長(元韓国外交通商部長官)は、国連が抱える国際的課題に対して、より効果的に対処すべく、国連事務局の改編・強化に努めるとともに、中東・アフリカ地域をはじめとする紛争の解決や気候変動問題等にも精力的に取り組んでいる。
高村外務大臣は、就任直後の9月に行われた第62回国連総会一般討論において演説し、気候変動やアフリカをはじめとする国際社会の諸課題に、日本と国連が緊密に協力して取り組む重要性に言及し、こうした課題に国連が効果的に対処するためには、安保理改革をはじめとする国連改革が必要であることを訴えた。さらに、高村外務大臣は潘事務総長と会談し、日本と国連の関係を更に深めていくことで一致した。
また、第62回国連総会の際に、森喜朗総理特使及び町村外務大臣もニューヨークを訪問し、それぞれ潘事務総長と会談を行ったほか、8月には、正式就任を控えたスルジャン・ケリム第62回国連総会議長(元マケドニア外相)を日本に招聘するなど、日本と国連の協働に向けたハイレベルでの対話を行っている。
日本は、今後とも、国際協調を外交の主要な柱の一つに位置付け、国連を通じた積極的な外交を展開するとともに、財政的・人的貢献を行っていく。また、日本は、引き続き安保理改革の早期実現及び常任理事国入りを目指す考えである。
潘基文国連事務総長(右)との会談に臨む高村外務大臣(左)(9月28日、米国・ニューヨーク) |
(1) |
安全保障理事会 |
安保理は、国連憲章上、国際の平和と安全の維持に関し、主要な責任を負うとされており、常任理事国5か国と、地域別に選出される任期2年の非常任理事国10か国により構成されている。その具体的任務は、特に冷戦の終結以降、国際の平和と安全の維持のため、[1]国連平和維持活動(PKO)の設立、[2]多国籍軍の承認、[3]テロ対策委員会、不拡散に関する委員会の設立、[4]制裁措置の決定等多岐にわたっており、PKOについても停戦監視等を中心とした活動(ゴラン高原等)から、民主的統治、復興等の平和構築を含む活動(東ティモール等)までその任務を拡大している。また、大量破壊兵器の拡散、テロ等の新たな脅威に有効に対処するために安保理の機能強化が求められている。
(2) |
安保理改革 |
今日、国際社会は平和と安全に対する様々な脅威に直面しており、国連において平和と安全の維持を主要な任務とする安保理は、一層重要な役割を果たすことが期待されている。安保理が活動範囲を拡大し、かつ新たな課題に直面する中で効果的に行動するためには、国際の平和と安全の維持に主要な責任を担う意思と能力を有する国が安保理の決定に常時関与するような形で安保理の構成を改革すべきであるという認識は、今や多くの国々の間で共有されている。また、安保理の構成は、国連発足後60年以上の間、基本的には変化していない。このため、今日の世界の実情を反映し、21世紀の課題に効果的に対応するためにも安保理を改革する必要がある。安保理改革は、日本だけでなく、全世界の喫緊の課題である。
日本にとって安保理改革と日本の常任理事国入りは、国連外交の最も重要な課題である。2007年1月の安倍総理大臣による第166回国会における施政方針演説及び福田総理大臣による同年10月の第168回国会における所信表明演説においても、その旨言及されている。
日本は常任理事国となることにより、主要な国際問題に関する意思決定過程に深く、恒常的にかかわることが可能となる。例えば、日本は2005年から2006年末まで安保理非常任理事国を務めたが、この間、2006年の北朝鮮によるミサイル発射及び核実験実施発表を受け、安保理決議の早期採択を主導することができた。また、日本は、アフガニスタン問題や東ティモールに関し、安保理決議の採択を主導した。
こうした主要な国際問題への主体的な取組は、安保理に議席を有することで初めて可能となるものである。常任理事国であれば、日本の立場の表明を通じて、国益を恒常的かつ効果的に実現するとともに、様々な情報を入手することが可能となる。
また、日本はこれまでも、気候変動、軍縮・不拡散、平和の定着、人間の安全保障、開発等様々な面で国際社会に貢献してきており、さらに、国連分担金の世界第2位の拠出国として、財政面における国連への貢献も極めて大きい。常任理事国となることにより、日本は、これらの貢献にふさわしい地位及び発言力を得ることが可能となる。
この安保理改革を実現するために、日本は、2005年にドイツ、インド、ブラジルと共同でG4(日本及びこれら3か国を合わせG4と称される)枠組み決議案を国連総会に提出したが、同決議案は投票に付されることなく廃案となり、具体的な結果に結び付かなかった。しかし、この取組により、国連の全加盟国を巻き込んだ具体的な改革論議が喚起され、安保理改革に向けた機運が高まった結果、安保理改革の早期実現が国連改革全体にとって不可欠であることが加盟国の共通認識となった。
2007年の安保理改革の実現に向けた動きとして、日本は、1月に安倍総理大臣、麻生外務大臣がそれぞれ欧州4か国(総理大臣:英国、ドイツ、ベルギー、フランス/外務大臣:ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、スロバキア)を訪問し、安保理改革の早期実現の必要性について各国と認識の共有を図るとともに、これらの国々から日本の常任理事国入りに対する支持を改めて取付けた。米国との間では、4月及び11月に行われた首脳会談の中で、ブッシュ大統領より日本の常任理事国入りへの支持が再確認された。また、中国とは4月及び12月に首脳会談を行い、12月の首脳会談では、温家宝(おんかほう)総理より、「日本の国連における地位と役割を重視しており、日本が世界の平和と安定のためより多くの貢献を行うことを望んでいる」旨発言があった。同月には外相会談も行った。さらに、日本は、ロシア及び英国とは5月に外相会談、ドイツとは8月に首脳会談を行った際にも本件をとりあげるなど、多くの国との首脳会談、外相会談をはじめとして、あらゆる機会をとらえて、安保理改革の早期実現の必要性と改革推進へ向けた日本の意志を各国に示し理解と支持を訴えている。
イ |
第61回国連総会会期(~2007年9月)における動き |
国連においては、2月に、ハリーファ第61回国連総会議長(元バーレーン王宮法律顧問)が、自らのイニシアティブにより、安保理改革の論点を5分野(注1)に分けた上で5か国の国連大使を各分野の調整者(facilitator)に任命し、分野ごとに非公式会合を開催する「調整者プロセス」を立ち上げた。この「調整者プロセス」の開始により、安保理改革に向けた協議プロセス設置の機運が生じた。4月には、5つのテーマごとに開催された非公式協議の結果を踏まえ、調整者から総会議長へ報告書が提出された。同報告書は、安保理改革なくして国連改革はあり得ず、また、現状維持は加盟国の大多数によって受け入れられないものであることを確認した上で、今後の協議の進め方について、多くの加盟国が主張する常任・非常任議席双方の拡大の考え方に加え、いわゆる「中間案」の考え方にも言及する等、幾つかの検討材料を提供した。
4月の調整者による報告書を踏まえて、5月には、安保理改革に関する作業部会(OEWG:Open-ended Working Group)が開催された。日本の大島賢三国連大使は、安保理改革なくして国連改革はあり得ないという認識を再確認するとともに、安保理改革は一般的な議論の段階は終わり、今や交渉の段階であること、日本はこれまでも加盟国から幅広い支持を得られる案を見出すよう努力しており、柔軟性をもって交渉に関与していくことを表明した。その後、同報告書の発出を受けて、5月に新たに2名の調整役が任命され、改革の進め方について加盟国の意見を聴取した上で、6月に総会議長に報告書が提出された。調整役の報告書は、安保理改革の早期実現の重要性を確認しつつ、4月の調整者報告書で言及された様々な考え方のうち、中間案にも触れつつ、国連加盟国に対して今後の検討材料を提供した(注2)。
7月には改めてOEWGが開催され、6月の調整役報告書に基づき議論が行われた。日本からは大島国連大使が、常任・非常任双方の議席の拡大を通じて早期改革の実現を引き続き目指すこと、国連加盟国は次期国連総会会期中に行動し成果を出すべきこと等の呼びかけを行った。
その後、9月には、第61回国連総会の会期終了に当たり、その間のプロセスをまとめるとともに、直後の第62回国連総会会期において具体的な成果を達成する目標を掲げた報告書が無投票で採択された。それに先立ち、インドやブラジルをはじめとする約30か国が共同提案国となり、政府間交渉の開始の手続きに焦点を当てた決議案を国連総会に提出したが、前述の報告書にその要素がある程度反映されたこと等もあり、同決議案は投票に付されず17日の会期末をもって廃案となった。
ロ |
第62回国連総会会期(2007年9月~)における動き |
9月25日から10月3日まで国連総会にて189か国の首脳・外相等が一般討論演説を行い、多くの国が安保理改革に言及した。日本からは高村外務大臣が、常任・非常任双方の議席の拡大を通じて安保理の早期改革を目指すこと、改革の機運の強化の必要性、今次総会会期中に具体的な成果を達成するために、すべての加盟国が協働すべきであることを強く訴えた。また、米国からはブッシュ大統領が演説を行い、「日本は安保理常任理事国としての資格を有していると考えており、他の国々も同様に検討されるべきと考える。米国は、すべての良いアイデアに耳を傾ける考えであり、より広い国連改革の一環として安保理を変えることを支持する。」旨述べた。
11月には安保理改革に関する総会審議が行われた。日本からは高須幸雄国連大使が、常任・非常任双方の議席拡大を支持し、日本の常任理事国入りを目指すこと、今次総会会期中に具体的な成果を出すべきであり、政府間交渉に積極的かつ柔軟性を持って参加していくとの考えを示した。日本のほか、発言した国の約3分の2が常任・非常任の双方の議席の拡大に賛成する発言を行い、大多数の国が次のステップとして「政府間交渉」に入るべきであることを表明した。
安保理改革は、1993年以来、様々な枠組みで検討されており、改革の必要性については、多くの国が認める一方で、改革を巡る議論が具体化するにつれて、各国の様々な利害・思わくの対立が表面化し、いまだに実現に至っていない複雑かつ困難な課題である。しかし、2005年のG4決議案以降、現在に至る粘り強い継続した議論の結果、安保理改革の実現に向けた機運は維持されている。日本は、引き続き安保理改革の早期実現及び常任理事国入りを目指す考えであり、主要国をはじめ各国と検討を進めるとともに、国連での議論にも積極的に参加していく。
(3) |
2008/2009年度国連予算 |
イ |
国連予算 |
国連の活動を支える予算は、分担金(通常予算、PKO予算、旧ユーゴスラビア及びルワンダ国際刑事裁判所予算、国連本部庁舎修築計画予算)と各国が政策的に拠出する任意拠出金から構成されている。
2008/2009年度の国連通常予算(注3)は、2か年で41.7億米ドルであり、2006/2007年度予算と同水準を維持している。また、安保理が派遣を決定するPKOは単年予算であり、2007年(7月~翌年6月)は67.5億米ドルである。このほか、旧ユーゴスラビア及びルワンダ国際刑事裁判所の予算が2008/2009年の2か年で6.1億米ドルである。さらに、ニューヨークにある国連本部ビルが老朽化しているため、修築計画のための総計18.8億米ドルの予算が組まれている。
日本は、厳しい財政事情の中で、16.624%(2008年国連通常予算分担金は約3.0億米ドル、2007年国連PKO予算分担金は約10.8億米ドル(注4))と加盟国中2番目の財政貢献を行っており、国連が行財政の観点からもより一層効率的に運営されるよう働きかけを行っている。
ロ |
事務局改編 |
2007年、潘事務総長の就任以降、国連が国際社会の諸問題により適切に対応できるよう改革努力が続けられている。特に同事務総長のイニシアティブにより、拡大するPKO活動を支える国連本部のPKO局が再編・強化され、現場支援のための部局が新設されるとともに、人員の大幅増強が総会で承認された。
こうした改編に伴い、国連の財政規模が拡大することに関し、加盟国への事務局の説明責任や効果的マネジメントの在り方について更に議論していく必要がある。また、増大する国連の業務の整理が今後の大きな課題となっている。
国連予算の推移
国連関連機関に対する主要国の任意拠出金と分担金等の比較(2005年)
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※シェアは世界全体に占める割合。 出典:国連資料A/61/203, ST/ADM/SER.B/673等 |