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 4.

地域安全保障


【総論】


アジア太平洋地域では、政治・経済体制や文化・民族の多様性等を背景として、欧州における北大西洋条約機構(NATO)のような多国間による集団防衛的な安全保障機構は発達せず、米国を中核とした二国間の安全保障取極の積み重ねを基軸として地域の安定が維持されてきた。日本は、自国を取り巻く安定した安全保障環境を実現し、アジア太平洋地域の平和と安定を確保していくためには、この地域における米国の存在と関与を前提としつつ、二国間及び多国間の対話の枠組みを重層的に整備し、強化していくことが現実的で適切な方策であると考えている。

二国間の枠組みとして、日本は、近隣諸国等との間で、安全保障に関する対話や防衛交流を行い、相互の信頼関係を高め、安全保障分野における協力関係を進展させるよう努めている。

また、多国間の枠組みとして、日本はアジア太平洋地域の主要国が参加する全域的な政治・安全保障の枠組みであるASEAN地域フォーラム(ARF)を活用している。



【各論】


 (1) 

ASEAN地域フォーラム(ARF)の概要


ARFは、[1]信頼醸成の促進、[2]予防外交の進展、[3]紛争へのアプローチの充実という3段階のアプローチを設定して漸進的な進展を目指している。これまでの会合を通じて、参加国自身を当事者とする問題(朝鮮半島情勢、ミャンマー情勢等)を含めて、率直に意見交換する慣習が生まれつつある。また、参加国が地域の安全保障に関する自国の情勢認識等を作成して、ARF議長国がとりまとめる「年次安全保障概観(ASO:Annual Security Outlook)」の刊行やテロ対策等の各種会合の開催などの具体的な取組を通じ、参加国間の信頼関係の醸成に大きく貢献している。第2段階である予防外交の進展についても具体的な取組に向けて議論されており、ARFはアジア太平洋地域における政治・安全保障に関する唯一の政府間対話と協力の場として、緩やかではあるが着実に進展している。

8月に行われた第14回閣僚会合(於:マニラ)では、27番目のメンバーとしてスリランカが新たに参加した。また、議長声明において、朝鮮半島の非核化がアジア太平洋地域の平和と安定の維持のために極めて重要であることが強調された。また、国際テロの予防・抑止・撲滅、海上の安全、大量破壊兵器等の拡散問題、災害救援等に協力して取り組むことの重要性等が確認され、「異文明間の対話の促進に関するARF声明」、「国連安保理決議第1540号(注1)の各国の国内実施支援に関するARF声明」、「災害救援協力に関するARF一般ガイドライン」等が採択された。


写真・第14回ARF閣僚会合に出席する麻生外務大臣

第14回ARF閣僚会合に出席する麻生外務大臣(8月2日、フィリピン・マニラ)


ASEAN地域フォーラム(ARF)

1.目的・特色
1994年から開始されたアジア太平洋地域における政治・安全保障分野を対象とする全域的な対話のフォーラム。ASEANを中核としている。
政治・安全保障問題に関する対話と協力を通じ、地域の安全保障環境を向上させることを目的とする。外交当局と国防・軍事当局の双方の代表が出席。
毎年夏に開催される閣僚会合(外相会合)を中心とする一連の会議の連続体。
コンセンサスを原則とし、自由な意見交換を重視する。
[1]信頼醸成の促進、[2]予防外交の進展、[3]紛争へのアプローチの充実という3段階のアプローチを設定して漸進的な進展を目指している。
2.参加国・機関

ASEAN10か国(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、シンガポール、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジア)、日本、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、北朝鮮、中国、ロシア、パプアニューギニア、インド、モンゴル、パキスタン、東ティモール、バングラデシュ、スリランカの26か国及びEU(EU加盟国が個々には参加せず、EU議長国、欧州委員会等がEU代表として諸活動に参加)。

3.現在までの経緯
1991年7月、ASEAN拡大外相会議(ASEAN・PMC)
中山太郎外務大臣より、PMCの場を活用して政治対話を開始すること及び同対話を効果的なものとするための高級事務レベル会合を設 置することを提案(いわゆる「中山提案」)。
1993年7月、ASEAN・PMC
1994年から開始されるARFに中国、ロシア等5 か国を参加させることに合意。
1994年7月、第1回ARF閣僚会合(於:タイ)
ARFメンバーである18か国・機関の外相等が出席し、アジア太平洋地域の安全保障情勢等につき意見交換。
1995年8月、第2回ARF 閣僚会合(於:ブルネイ)
ARFの中期的アプローチとして、[1]信頼醸成の促進、[2]予防外交の進展、[3]紛争へのアプローチの充実という3段階に沿って漸進的に進めること、当面は信頼醸成措置を重視することに合意。
2001年7月、第8回ARF 閣僚会合(於:ベトナム)
予防外交について、予防外交の概念と原則、ARF議長の役割の強化、専門家・賢人登録制度に関する3つのペーパーを採択。
2002年7月、第9回ARF閣僚会合(於:ブルネイ)

・テロ対策に継続して取り組むことが確認されるとともに、テロ対策に関する会期間会合の設置を承認。

・国防・軍事関係者の関与の強化や、ASEAN事務局を通じてARF議長の支援の強化を含む9つの提言を採択。

・閣僚会合に先立って、ARF国防・軍事当局者会合を初めて開催。

2004年7月、第11回ARF 閣僚会合(於:インドネシア)
ハイレベルの軍及び政府関係者による「ARF安全保障政策会議(ASPC)」の開催を決定(第1回会議は、2004年11月に中国で開催、第2回会議は、2005年5 月にラオスで開催)。
2006年7月、第13回ARF閣僚会合(於:マレーシア)
北朝鮮が、2006年7月5日にミサイルの発射実験を行ったことに懸念を表明するとともに、関係するすべての当事者に対し、前提条件なく六者会合を再開するよう求めた。
2007年8月、第14回ARF閣僚会合(於:フィリピン)
朝鮮半島の非核化が、アジア太平洋地域の平和と安定の維持のために極めて重要であることを強調。


 (2) 

ARFの将来の方向性


ARFは「信頼醸成」から「予防外交」の段階に緩やかに前進しているが、ARFが予防外交に本格的に取り組むためにはARFの機能強化が重要であることが各国から指摘されている。このような問題意識から、ARF議長の役割強化のため、第14回ARF閣僚会合においては「ARF議長フレンズ(注2)の付託事項」が採択された。


ARFの3段階アプローチ

ARFの3段階アプローチ


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(注1) 非国家主体への大量破壊兵器等の拡散を防止することを目的としており、その内容は、すべての国連加盟国に、大量破壊兵器等の拡散を禁ずるための法的措置をとり、 厳格な輸出管理を制定することなどを求めるもの。
(注2) ARF議長フレンズ:特定の案件につき、議長国を他の特定国が補佐する仕組み

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