第3章 > 第1節 > 5 紛争への包括的取組
【総論】
冷戦終了後も、宗教・民族等に根ざした紛争が頻発しているが、このような紛争を恒久的に解決するためには、紛争の終結した地域を再び紛争に後戻りさせず、地域の安定を確保し、さらに、発展につなげることが重要である。そのためには国際社会が一致して、
和平プロセスの促進、
国内の安定・治安の確保、
人道・復旧支援を通じた「平和の配当」の実現に向け、迅速かつ切れ目のない形で支援を行い、「平和の定着」に向けた努力を推進していくことが必要である。川口外務大臣は、2002年5月のアフガニスタン訪問に先立ち、このような「平和の定着」の重要性を指摘し、その後も一貫して「平和の定着」が今後の日本の国際協力の重要な柱であることを強調している。また、小泉総理大臣は、同じく5月、シドニーにおいて、「平和の定着と国造り」への取組を強化し、日本の国際協力の柱とするために必要な検討を行うことを表明した。このような観点から、日本は開発途上国における紛争の予防・再発防止を目的とするプログラムに対し、2002年度に新設した「紛争予防・平和構築無償」による支援を開始したほか、これまでも「平和の定着」に向けて多岐にわたる支援を行ってきた。このように日本が「平和の定着」を日本の国際協力における重要な柱と位置づけ、これを推進していくことは、国際社会による紛争に対する包括的取組に大きく貢献するものである。
また、近年、国連やG8を始めとする国際社会においては、紛争を終結させる「紛争解決」だけでなく、紛争の原因を事前に摘み取り、紛争が発生した場合にはこれが拡大することを防ぎ、さらに、紛争の早期終結を導く、そして、和平合意が成立した場合には紛争で疲弊した社会の安定・復興を通じ、紛争の再発を防止するという包括的な「紛争防止(conflict prevention)」の重要性が広く認識されるようになった。こうした問題意識を背景に、現在、武装解除、動員解除及び元兵士の社会復帰(DDR)(注)を始め、紛争防止のための具体的な方法について検討が行われている。
【紛争防止】
日本は、世界各地で発生し、又は継続している紛争について、和平の促進、紛争地域の安定・治安の確保、そして人道・復興支援という「平和の定着」を支える三つの要素に重点を置いた支援を行うことにより、これら地域における平和の定着を推進し、紛争の包括的解決に努めている。2002年1月には、日本は、米国、欧州連合(EU)、サウジアラビアと共に東京でアフガニスタン復興支援国際会議を開催した。同会議では、暫定政権発足後間もないアフガニスタンの復興支援に向けた国際社会の政治的なメッセージが発出されるとともに、各国・機関より総額45億米ドルにのぼる支援の約束が表明された。日本は、アフガニスタンにおける元兵士の社会復帰の分野でG8の主導国を務めている。また、日本は、東ティモールにおける国連平和維持活動(PKO)に690名の自衛隊施設部隊等を派遣し、同国の国造りに協力している。さらにインドネシアのアチェにおける分離・独立を目指す武力紛争が和平達成に向けて大詰めの段階にあることを踏まえ、和平達成後に当事者間で敵対行為が行われないようにするための監視や、アチェの社会・経済復興に対する国際社会の支援を表明するために、12月に米国、EU及び世界銀行と共に、東京において「アチェにおける和平・復興に関する準備会合」を開催した。フィリピンのミンダナオ地域においても、イスラム反政府勢力との和平に向けた取組が進められており、12月のアロヨ大統領訪日の際に、日本は「平和と安定のためのミンダナオ支援パッケージ」を発表し、継続的にミンダナオ地域の貧困からの脱却と平和の定着に向けた支援を行うことを表明した。また、スリランカにおける和平プロセスが進展する中、10月に明石元国連事務次長を政府代表に任命し、明石政府代表は、現地でスリランカ政府及び反政府勢力関係者と意見交換を行うなど積極的に取り組んでいる。日本は、2003年3月に、スリランカ政府と反政府勢力との第6回和平交渉を箱根で、また、6月には復興開発会議を東京で開催する予定である。
G8では、2000年の日本議長国の下で発出された「紛争予防のためのG8宮崎イニシアティブ」以後、紛争防止に関し、様々な地域紛争に共通して見られる事項につき考え方をまとめてきた。2002年のカナダ議長国の下では、宮崎イニシアティブにおいて特定された5分野のうちの一つである「紛争と開発」の具体例として、紛争の再発生を防ぐための措置としてのDDRのあり方、水資源をめぐって紛争が発生することを防ぐための諸提案につき、G8としての見解をまとめ公表した。今後は、紛争防止のためにG8がまとめた各種提言が、具体的な紛争の防止に向けて効果的に活用されることが期待されている。
ダイヤモンド原石が不法に採取・取引され、その資源が反政府勢力の資金源に充てられる、いわゆる「紛争ダイヤモンド」は、2000年のG8宮崎イニシアティブで指摘された分野の一つである。2001年以降「紛争ダイヤモンド」を規制するための国際的枠組み作りが本格化し、2002年11月に完成、2003年1月より国際的に実施されるようになったことは成果の一つである。また、G8における取組を二国間で具体化した初めての例として、日本は英国と協調してシエラレオネにおけるDDRを支援するために、紛争予防・平和構築無償を通じて、支援を行うことを決定した。シエラレオネでは、国連シエラレオネ・ミッション(UNAMSIL)の支援を得て、2002年1月までに約5万人の兵士の武装解除を完了し、武装解除終了宣言が行われた。
国連でも、紛争防止に向けて様々な取組が行われている。アナン国連事務総長は、2001年に武力紛争の防止のための包括的な事務総長報告を発出した。同報告書では、効果的な紛争の防止と平和構築のために、国連の諸機関や専門機関、非政府組織(NGO)などの各主体が行うべき事柄につき、いくつかの勧告が提示されている。2003年には、事務総長からの勧告に関する検討が本格化することになっている。日本は、この議論を進めるリーダー国グループの一員となっており、2003年前半にも、国連の限られた資源を有効に活用して、効果的に国連の活動が行われることを目的とする決議案が採択できるよう国連加盟国間や事務局における検討を促していく考えである。
「平和の定着」を目指す日本の支援
国際平和協力法に基づく国際平和協力業務の仕組み
国際平和協力懇談会による提言
【国連の平和維持活動と国際平和協力】
PKOは、冷戦期及び冷戦後を通じ、国際社会の平和と安全のための国連の活動として重要な役割を担ってきた。最近になって、例えば、アフガニスタンを始めとする様々な地域紛争での経験を通じ、強制行動を伴ういわゆる多国籍軍が主たる責任を負うことが望ましい状況も存在することが明らかとなったが、国連PKOが引き続き国際社会の平和と安全に対する取組の中で、主要な役割を担っていることに変わりはない。国連PKOが国際社会から期待される役割を一層効果的に果たすため、近年、ブラヒミ報告(注1)を契機とする一連の取組が行われているが、このような努力が継続される必要がある。
国連PKOに加えて、人道的な国際救援活動、国際的な選挙監視活動に対する日本の人的協力を可能にする国際平和協力法(注2)が成立して既に10年が経過した。この間、日本は多くの活動に参加し、日本の活動は国際社会からも高い評価を得ている。また、国際平和協力に対する国内の理解も深まってきた(注3)。2001年には、法改正を通じて国連平和維持隊(PKF)の本体業務(自衛隊の部隊等が実施する停戦監視等の業務)への参加が可能になり、また、武器使用の範囲が拡大され(注4)、より広範で円滑な活動が可能となった。さらに、2002年には、東ティモールのPKOに対して、過去最大規模の自衛隊部隊を派遣するなど、日本のPKO協力は新たな段階に入っている。
日本は、2002年2月から、国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET)及び5月の東ティモール独立後これを引き継いだ国連東ティモール支援団(UNMISET)に対し、自衛隊を派遣しており、現地では、過去最大規模の自衛隊施設部隊と司令部要員の計690名が活動を行っている。日本部隊の主な任務は、道路・橋梁〔きょうりょう〕の維持・補修等であるが、5月20日の独立式典に際しては、式典会場の設営を行うなど、国連PKOの活動を支援するとともに、これを通じて東ティモールの国造りに協力している。また、施設部隊は、民生支援業務(注5)として、学校などの公共施設の造成・整備も行っている。さらに、余暇を利用して、積極的に地元住民や他国部隊との交流(注6)も行っている。
また、日本は東ティモール以外にも、1996年以来、国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)に自衛隊輸送部隊と司令部要員計45名を派遣している。UNDOFは、イスラエルとシリア両国の軍事的なにらみあいが続くゴラン高原の安定を守ることによって、中東和平に重要な役割を果たしている。
2002年12月に発表された国際平和協力懇談会の報告書(注)は、日本の国際平和協力の改善・強化に向け、PKO分野を含め数多くの提言を行い、日本がこの分野でもより一層重要な役割を果たしていくことが必要であると指摘している。これらの提言には外務省が以前から提起していたものも含まれており、今後、関係省庁とも協議の上、実現に向けてできる限り協力を行っていく考えである。
PKOの現状
(コラム:国際平和協力活動隊員として感じたこと)
【難民支援】
民族・宗教等を背景とする紛争や対立の頻発に伴い、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)及び国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の保護や支援の対象となっている難民・国内避難民等の数は、約2,370万人に達している(2002年1月1日現在)。このような世界各地における難民・国内避難民等の存在は、人道上の問題であると同時に、関係地域のみならず、国際社会全体の平和と安定に影響を及ぼしかねない問題となっている。
日本は、人間の安全保障の観点から、難民・国内避難民等に対する人道支援を国際貢献の重要な柱の一つと位置づけており、UNHCR、世界食糧計画(WFP)、赤十字国際委員会(ICRC)等の国際機関の活動に対して積極的に支援を行ってきている。
また、大島賢三氏が国連人道問題担当事務次長に就任しているほか、アフガニスタン、アンゴラ等における厳しい勤務状況の下で、UNHCR、WFP等の国際人道機関で日本人職員が活躍しているなど、日本は人的貢献も行っている。
アフガニスタンにおける難民問題に関して、2002年6月、緒方アフガニスタン支援総理大臣特別代表が、難民・避難民の現状を視察するためアフガニスタンを訪問した。帰国後の小泉総理大臣及び川口外務大臣に対する報告の中で、緒方特別代表は、深刻化する難民・避難民問題を解決するため、難民・避難民の帰還及び地域への再定住を支援していくべきであるとの提言を行った。この提言を受け、7月に、日本は、複数の国際人道機関による難民・避難民支援プログラム(「地域総合開発支援計画」)を発表し、総額約2,700万米ドルの支援を行った。
また、アフガニスタンにおいては、難民・国内避難民の受け皿となる地域自体の復旧が急務であり、同計画への第2段階として、日本は、カンダハル、ジャララバード、マザリシャリフの三都市を中心とする地域において、緊急所得創出事業、労働の対価としての食糧配布等を行うため、2002年10月に、UNHCR、WFP、国連児童基金(UNICEF)等に対し、総額約4,120万米ドルの支援を行った。