第3章 > 第1節 > 6 テロ対策
【総論】
2001年9月11日の米国同時多発テロ以降、テロは国際社会全体の平和と安定にとって大きな脅威であることが再認識され、テロとの闘いに向け、国際社会は連帯を強めてきた。それは、アフガニスタン内外での米国を始めとする各国の軍隊によるテロリスト掃討作戦にとどまらず、情報面での協力、テロを防止するための国際的な法的枠組みの強化、テロ資金対策、出入国管理の強化等、幅広い分野にわたっている。このような国際的な取組の強化の結果、アフガニスタンにおいては、テロリストを養成する訓練キャンプの破壊、多くのアルカイダ構成員の拘束等の成果が上がっている。また、アフガニスタン及びその周辺地域におけるアルカイダの残存勢力は完全に除去されるに至っていないものの、各国法執行当局の協力の下、世界各地でアルカイダ構成員の摘発・拘束が行われている。
国際テロ対策は着実に進展しているが、2002年も、インドネシア・バリ島における爆弾テロ事件(10月12日、日本人2名が死亡)、フィリピンのミンダナオ島・サンボアンガ市における爆弾テロ事件(10月17日)、ロシア・モスクワにおける劇場占拠事件(10月23日)、ケニア・モンバサ近郊における爆弾テロ事件(11月28日)を始め、テロ事件が頻発した。(注1)また、このほかにも、イスラエル、パキスタン、コロンビア等でもテロ事件が頻発している。さらに、2002年10月以降同年末までに、3回(10月6日、10月14日及び11月12日)にわたり、アルカイダの指導者であるウサマ・ビンラディンの名前による声明が発出され、米国及びその同盟国に対する更なるテロを示唆している。このように、アルカイダを始めとするテロ組織によるテロの脅威は依然として深刻であり、国際社会は、引き続きテロの防止・根絶のために一致団結して、幅広く息の長い取組を行うことが必要である。日本は、テロを自らの安全保障上の問題ととらえ、引き続き国際社会と協力して積極的にテロ対策を推進していく考えである。
【国際社会の取組の進展】
2002年を通じ、国際社会は、多国間、地域間及び二国間における協力を通じ、国際テロ対策を強化してきた。
G8では、米国同時多発テロ発生後の2001年9月19日に発出されたG8首脳声明を受け、外相を始めとする関係閣僚が専門家会合等を通じて、テロ対策を強化するための具体的な措置の検討を進めてきた。6月12日及び13日にカナダ・ウィスラーで開催されたG8外相会合では、米国同時多発テロ以降の国際社会によるテロ対策をまとめた「テロ対策に関する進捗状況報告」が発表され、また、今後のテロ対策の指針となる新たな「テロ対策に関するG8勧告」(注2)が発表された。また、6月26日及び27日に開催されたG8カナナスキス・サミットにおいては、テロリスト等による大量破壊兵器の取得・開発を防止することを目的とした「大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップ」、人やモノの効率的な流れを促進しつつも、テロ対策の観点から、その安全性を向上させるための行動について定めた「交通保安に関するG8協調行動」(注3)等が採択された。
また、国連では、2001年9月28日に、テロ行為のための資金供与等の犯罪化、テロリストの資産の凍結、テロ資金供与防止条約(注)を始めとするテロ防止関連条約の締結促進等、テロと闘うための包括的な措置の実施を加盟国に求める安保理決議1373が採択され、2002年を通じ、同決議は着実に実施されてきた。例えば、1999年に国連で採択されたテロ資金供与防止条約については、2001年9月の時点では、その締約国は4か国にとどまっていたが、現在では64か国に達している(2003年1月1日現在)。また、同決議に基づいて国連安保理に設置されたテロ対策委員会(CTC)は、各国による同決議の履行状況を監視し、各国が必要とするテロ対処能力向上(キャパシティ・ビルディング)のための支援を調整している。また、1989年のアルシュ・サミットにおいて、国際的な資金洗浄(マネーロンダリング)対策の推進を目的に召集された金融活動作業部会(FATF)(注1)は、米国同時多発テロの発生を受け、2001年10月に同作業部会の活動の対象を拡大し、テロ資金対策に関する特別勧告を策定するなど、テロ資金対策にも取り組むことになった。FATFは、世界銀行や国際通貨基金(IMF)と協力しつつ、テロ資金対策の不十分な国に対する技術支援等を含む国際的な対策と協力の推進に指導的な役割を果たしている。さらに、陸上、海上及び航空輸送の分野についても、国際民間航空機関(ICAO)、国際海事機関(IMO)、世界税関機構(WCO)等の各国際機関において保安の向上を推進する取組が強化されている(注2)。
また、2002年9月にデンマークで開催された第4回アジア欧州会合(ASEM)首脳会合において、テロとの闘いのためにアジアと欧州との間の協力を強化することを内容とする首脳宣言が発出された。10月には、メキシコで第10回アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が開催され、テロ対策に関する首脳声明等が発表された。
2002年に発生したテロ事件等の例
テロ防止関連条約
(コラム:バリ爆弾テロ事件について)
【日本の取組】
日本は、テロの防止・根絶には、幅広い分野において国際社会が一致団結し、息の長い取組を継続することが必要であると考えており、上述してきた国際的な努力に積極的に参加している。
アフガニスタン内外での米国を始めとする各国の活動に関しては、テロ対策特別措置法(2001年11月2日施行)に基づき、自衛隊による米英軍に対する艦船用燃料の補給や米軍物資の空輸等の支援を実施してきた。さらに、テロとの闘いが継続していることから、自衛隊の派遣期間を2003年5月19日まで延長するなどの措置をとった。
また、日本は、国境を越えて活動するテロリストに安住の地を与えないとの観点から、すべての国でテロ対策を強化していくことが重要であると考えており、テロ対策に関する国際的な基準を強化していくためのG8の取組等に積極的に参加している。また、国連(特にCTC)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、APEC、ASEM等の多国間の枠組み及び二国間の枠組みを活用しつつ、各国に対しテロ対策の強化を呼びかけている。ARFに関しては、10月1日及び2日に東京において、韓国及びシンガポールとの共催で第2回ARFテロ対策ワークショップを開催した。 同ワークショップでは、同年に開催されたワールドカップ・サッカー大会におけるテロ対策の知見等を踏まえ、大規模行事テロ対策において参考となる良い事例集(ベストプラクティス・ペーパー)を作成・採択した。また、FATFの取組に関連し、日本は既にテロ資金対策に関する特別勧告を基本的に履行し、テロ資金対策が不十分な国に協力し、その対策強化を呼びかけている。
さらに、日本は、開発途上国のテロ対処能力向上(キャパシティ・ビルディング)のための支援にも取り組んでいる。具体的には、国際協力事業団(JICA)等を通じ、
テロ資金対策、
出入国管理、
航空保安、
税関協力、
輸出管理、
警察・法執行機関の協力、の6分野において、開発途上国から研修員の受け入れを積極的に行っており、2002年度には約250名の研修員を受け入れた。
なお、日本の国際テロ対策協力の一層の推進を目的として、2001年12月に外務省総合外交政策局内に国際テロ対策協力室を設置し、2002年3月には、新たに国際テロ対策担当大使を任命した。
日本の国際テロ対策協力