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バリ爆弾テロ事件について


 バリ島の爆弾テロ事件は死者が200人を超える大惨事になりました。祈るような気持ちで捜索した日本人の中からも、残念ながら2名の死亡者が確認されました。1998年のスハルト大統領退陣に伴う騒乱の真っただ中にあっても、民族衣装を纏〔まと〕った人々が毎日の祈りを欠かさずに、デモ隊ですら村の祭礼の行列に気を使っていた平和な島がこの事件で一変してしまいました。テロの脅威は私たちのすぐ傍〔かたわ〕らを徘徊していると感じざるを得ません。

 事件は10月12日深夜に発生しました。私は、急報を受けてバリ島に急行、現地対策本部を立ち上げました。現地駐在官事務所の館員が事件直後から市内の病院を駆け回り、夜明け前に重傷の日本人を発見していましたので、その支援がまず大きな課題でした。現地の病院はどこも多数の重体・重傷者で混乱状態にあったことや現地の医療水準などを考えると、一刻も早く負傷者を見つけて、適切な治療と医学的な判断を提供することが極めて重要でした。ご家族との連絡も緊密にとることができ、迅速に緊急移送の手続きができたのは不幸中の幸いでした。

 対策本部にとって、日本人被害者の発見とその支援と並んで緊急を要する作業は、日本人の安否確認でした。対策本部では、300軒以上の宿泊施設に対して日本人宿泊者の安全確認を行いましたが、家族や友人からの安否照会も200件を超えました。その多くは、宿泊先、帰国日、帰国フライトが不明というもので、確認作業は難航しました。数年前にバリに住んでいたらしいが音信不通で心配、という照会もありました。緊急を要する事態では、自分の所在を複数の家族や友人が知っているかどうかが、その後の対応の成否を左右しかねないと改めて実感した次第です。

 現在、交通手段の発達により、ほとんど緊張感なく国境を越えることができる時代になりましたが、慣習や宗教、そして現地官憲の対応の違いなどからいまだに思わぬトラブルはなくなりません。また、いつ、どこでテロに遭遇するかもしれないという心配も加わりました。今回の事件ではバリ在住の日本人の方々からも多大な協力をいただき、総領事館として、海外渡航をされる日本人の安全確保のために、さらに体制を整備する必要があると改めて痛感しました。


執筆:在スラバヤ日本総領事館

総領事 城田 実



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