第3章 > 第1節 > 7 軍備管理・軍縮・不拡散
【総論】
2001年9月11日に発生した米国同時多発テロを一つの契機に、国際社会において、テロ組織が大量破壊兵器等を取得・使用することの危険性が強く認識されるようになった。その結果、特に不拡散の分野における取組を強化する必要性が高まり、従来から行われてきた国際約束等の策定や強化といった取組に加え、不拡散を推進していく具体的な事業を実施していくことが重要になった。このような中、2002年6月のカナダでのG8カナナスキス・サミットにおいて、G8首脳は、テロリスト等による大量破壊兵器の取得・使用を防止するため、まずロシアにおける具体的な事業に協力していくことを目的とした「大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップ」に合意し、日本も積極的に協力することを表明した。この関連で、日露両国は、2003年1月に行われた日露首脳会談において、極東ロシアの退役原子力潜水艦解体事業(「希望の星」)を協力して推進することで一致した。
また、2002年には、イラクの大量破壊兵器等の開発・保有疑惑、北朝鮮の核兵器開発問題等を契機に、核兵器不拡散条約(NPT)を始めとする既存の不拡散関連の多国間条約の遵守を改めて確保していくこと、さらに、遵守状況を監視していくための検証措置を維持・強化していくことの重要性が再認識された。また、2002年11月に、弾道ミサイルの拡散防止を目的とする「弾道ミサイルの拡散に立ち向かうための国際行動規範(ICOC)」(注1)が立ち上げられた。この「行動規範」は、法的拘束力をもたない政治的文書ではあるが、冷戦後、急速に進行した弾道ミサイルの拡散に対抗するための国際的ルールが新たに形成されたという点で意義深い。
日本としては、引き続き、核兵器を始めとする大量破壊兵器及びその運搬手段である弾道ミサイルの軍縮・不拡散体制を強化することに重点を置きつつ、紛争終結後の復興・人道支援を阻害する大きな要因ともなっている小型武器や地雷等の通常兵器の軍縮にも積極的に取り組んでいく考えである。
ロシアの退役原子力潜水艦解体現場を視察する新藤外務大臣政務官(11月)
【NPT】
2002年4月、2005年のNPT運用検討会議(注2)の第1回準備委員会がニューヨークの国連本部で開催された。日本は、NPT体制を堅持し、一層強化していくべきであると考えており、2005年NPT運用検討会議に向けた準備過程を円滑に進めていくことを確保するとの立場で会合に臨んだ。その結果、同委員会の終了にあたり、議長が発表した議長総括(サマリー)では、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効、同条約発効までの核実験停止(モラトリアム)の継続、カットオフ条約交渉の即時開始、国際原子力機関(IAEA)の保障措置を強化するための追加議定書の締約国を増やしていくことの重要性等が明記された。また、日本は、様々な機会をとらえ、NPTの締約国を増やしていくことの必要性を訴えてきた。こうした外交活動の成果もあり、11月4日、キューバがNPT締約国となり、これで締約国は188か国となった。日本は、引き続き非締約国に対して早期加入を呼びかけていく考えである。
【CTBT】
2002年5月ごろより、日本、オーストラリア、オランダの3か国が中心となって、CTBT発効を促進するための活動に積極的な国々から構成される「CTBTフレンズ」の活動を開始した。9月には、その活動の大きな成果として、川口外務大臣やオーストラリアやオランダの外相を中心とするCTBT批准国の外相が、ニューヨークの国連本部において、CTBTフレンズ外相会合を開催した。同会合では、CTBTをできる限り速やかに署名・批准すること、また、核実験停止(モラトリアム)を継続することを要請する共同声明を発表し、現在まで、英国、フランス、ロシアの3核兵器保有国を含む50か国以上の賛同を得た。同会合の開催及び声明の発出は、発効要件国を含むCTBTの未署名・未批准国に対して、改めてCTBTの早期発効を求める国際社会の強い政治的意思を示し、2003年に開催が見込まれる第3回CTBT発効促進会議への橋渡しとなった。また、日本は、二国間会談や多国間の枠組みを通じ、CTBTの早期署名・批准を働きかけてきたほか、国際監視制度(IMS)(注)の整備の一環として、2002年以降、日本国内に10か所の監視施設の建設を順次始め、CTBTの国内での運用体制が立ち上げられた。
大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップ
【核軍縮・不拡散】
日本は、核兵器のない平和で安全な世界を一日も早く実現することを目指して、現実的、漸進的に核軍縮・不拡散に取り組んできた。具体的には、日本は、1994年以来毎年、国連総会に核軍縮に関する決議案を提出し、国際社会の圧倒的支持を得ている。2002年11月には、国連総会において日本が提出した「核兵器の全面的廃絶への道程」決議案が、圧倒的多数(賛成156、反対2(米国・インド)、棄権13)の支持を得て採択された。このことは、国際社会が、日本の核廃絶に向けた取組を強く支持していることを表しており、日本は今後とも、核軍縮・不拡散分野での外交努力をより一層強化していく考えである。
軍縮・不拡散のための国際的枠組み
【米露核軍縮交渉(ABM条約、モスクワ条約)】
2001年12月13日、ブッシュ米大統領は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散といった脅威に効果的に対処するため、ミサイル防衛(MD)を推進することを念頭に、対弾道ミサイル・システム制限(ABM)条約の規定に基づき、同条約から脱退することをロシアに対して正式に通告した。米国は、6か月後の2002年6月13日に正式に脱退し、米ソ冷戦期以来、相互確証破壊(MAD)(注)という概念に立脚してきた米露間の戦略的な安定を維持する枠組み(核兵器管理の枠組み)が変更されることになった。米露両国は、5月24日、モスクワで行われた米露首脳会談において、2012年までの10年間で、米露の戦略核弾頭を各々1,700~2,200発に削減することを定めた、戦略攻撃能力(戦略核兵器)の削減に関する条約(モスクワ条約)への署名を行った。
米露の戦略核弾頭数の推移及びSTART諸条約上の上限との比較
【カットオフ条約とジュネーブ軍縮会議】
核軍縮・不拡散を進める具体的な措置として、日本は、核実験を禁止するCTBTの早期発効と並んで、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)の作成交渉が即時に開始されることが必要であると考えている。しかし、同条約の交渉を行っているジュネーブ軍縮会議(CD)は、2002年も、宇宙の軍備競争防止や核軍縮をめぐってメンバー国間の対立が解消されず、停滞が続いた。日本は、同条約の成立の必要性を強く訴える演説を行うなど積極的な議場外交を展開している。
【生物兵器】
生物兵器禁止条約(BWC)(注1)は、締約国が条約を遵守しているかどうか検証するための手段を欠いていることから、制度をいかに改善し条約を強化していくかが課題となっている。BWC締約国は、検証手段を導入するための議定書を作成する交渉を6年以上にわたって行ってきたが、米国の拒否もあり、2001年11月に開催された第5回運用検討会議(注2)では、何ら具体策を打ち出せないまま中断し、1年後に再開されることになった。2002年11月に再開された会議では、今後の作業計画を全会一致で採択し、次の運用検討会議が開催される2006年まで毎年、病原菌の安全管理や感染症対策に関する国際協力等5分野(注3)について議論することになった。2002年、日本は、同作業計画の採択に向け、精力的に各国との調整を行うなど実質的な貢献を行ってきた。
【化学兵器】
化学兵器禁止条約(CWC)(注4)は、化学兵器の開発・生産・保有等を包括的に禁止するとともに、既存の化学兵器の全廃を定めていることから、一つのカテゴリーの大量破壊兵器を完全に禁止するのみならず、締約国による条約の義務の遵守を実効的な検証制度で確保する初めての条約である。CWCの実施にあたる化学兵器禁止機関(OPCW)(注5)は、前事務局長が、財政管理など組織運営上の問題から、2002年4月に行われた締約国会議において解任された。その後、7月に選出された新事務局長の下で、OPCWは、財政の立て直しと締約国との信頼回復に努めており、10月の締約国会議で財政再建に向けた予算を通過させ、機関の活動を軌道に乗せつつある。同会議では、また、世界最大の化学兵器保有国であるロシアの化学兵器廃棄計画の中間目標延期(注6)についても、原則的合意が得られた。
【原子力の平和利用:IAEAによる保障措置の強化・効率】
NPT締約国は、IAEAとの間で、保障措置協定(注7)を締結する義務を負っている。IAEAは、同協定に基づいて、平和目的で用いられている核物質が軍事転用されないことを確保するため、査察を含む保障措置を実施している。IAEAでは、イラク、北朝鮮による秘密裏の核兵器開発活動を検知できなかったとの反省から、1997年には保障措置を強化するための「追加議定書」のモデルが採択された。追加議定書(注1)は、67か国が署名し、日本を含め28か国が締結している(2003年2月現在)。日本は、締約国の拡大を目指し、2001年6月にアジア太平洋地域を対象とした追加議定書締結の促進に向けた国際シンポジウムを主催したのを皮切りに、中央アジア、中南米、中東欧及びアフリカ地域で開催された同様の会合に対し、財政的・人的支援を行ってきた。また、12月には、日本は、IAEAと協力して、これまでの保障措置の強化の取組を集大成するための国際会議を東京で主催し36か国の参加を得た。
【ミサイルの不拡散】
核兵器、生物・化学兵器等の大量破壊兵器が、極めて短時間で目標に到達する弾道ミサイルと結びついた場合、脅威は一層大きなものとなる。弾道ミサイルが世界的に拡散傾向にあることは、国際社会の平和と安定に対する深刻な脅威となっている。特に、北朝鮮が、日本のほぼ全域を射程下におく弾道ミサイルを有していることは、日本の安全保障上の重大な問題となっていることもあり、日本は、従来から、弾道ミサイル不拡散のための国際的な取組に積極的に貢献してきた。
ミサイルの国際的規制としては、これまで、G7が中心となって発足したミサイル及び関連物資・技術の不拡散を目的とするミサイル技術管理レジーム(MTCR)(注2)において、輸出管理を通じた国際協調が行われてきた。しかし近年、自主開発や、開発国同士の協力、調達活動の巧妙化等が見られるようになり、MTCRを通じた輸出管理に加えて、弾道ミサイル拡散を防ぐためのルール作りの必要性が指摘されるようになった。こうした認識の高まりを受け、弾道ミサイルの拡散を防ぐための国際的ルール作りに関心を有する国々の間で作業が進められ、2002年11月、「弾道ミサイルの拡散に立ち向かうための国際行動規範(ICOC)」がオランダのハーグにて、93か国の参加を得て採択された。
ICOCは、これまで国際社会全体のルールが存在しなかったミサイル拡散分野での新たなルールとして、日本を含む各国が行っている種々の努力を補完し、強化することが期待されており、日本としても、ICOCが更に幅広い支持を得て普遍的なものとなるよう努めていく考えである。
また、国連では、2001年以降、ミサイル問題について議論を行ってきたミサイル専門家パネルが、2002年の国連総会に報告書を提出したが、具体的な勧告などは盛り込まれなかった。今後、国連の場でミサイルをめぐる問題がどのように扱われていくか注目していく必要がある。
【小型武器】
近年、紛争の解決に向けて、紛争の予防、あるいは紛争終了後の再発の防止への努力が重要視されるようになってきた。国際社会には、過剰なまでの小型武器が存在しており、紛争の激化・長期化、被害の拡大、紛争終了後における治安の悪化、紛争の再発等を助長する原因の一つとなっており、国家や社会の復興の大きな障害になっている。こうした問題に取り組むため、国際社会は、小型武器の非合法な取引の防止、国際支援と協力等を盛り込んだ行動計画を策定した。日本は、行動計画の具体化の一環として、2002年1月、小型武器東京フォローアップ会合、2003年1月には太平洋諸国を対象としたセミナーをそれぞれ開催した。また、日本が南アフリカ、コロンビアと共同で国連総会に提出し、採択された小型武器の非合法取引に関する決議案に基づき、2003年には、行動計画の実施状況について議論を行う国連小型武器中間会合が予定されており、猪口軍縮代表部大使が、同会合の議長に内定している。
【地雷問題】
対人地雷問題について、日本は、国際社会において、広く実効的に対人地雷を禁止することを実現するとともに、地雷除去活動と犠牲者の支援を強化していくことを車の両輪とする包括的な取組を推進していく考えである。日本は、1998年から向こう5年間をめどに、100億円程度の支援を行うことを表明しており、2002年10月末に100億円の支援を達成した。特に、アフガニスタンにおいては、2002年1月のアフガニスタン復興支援国際会議で、小泉総理大臣は、復興の前提となる安全の確保のため、地雷・不発弾の除去に力を入れていくことを表明し、1月には約20億円、10月には約6億円を地雷除去等の支援のため国連機関等に対して拠出した。
国際社会において、広く実効的に対人地雷を禁止していくことを実現するためには、より多くの国が対人地雷禁止条約(オタワ条約)(注)を締結することが重要である。日本は、主にアジア太平洋の未締結諸国に対し、条約締結の働きかけを行っている。また、9月にジュネーブにおいて行われた第4回締約国会議では、日本はカンボジアとともに2002年~2003年会期における地雷除去等常設委員会の共同報告者(ラポルトゥール)に就任することになった。
【国連軍備登録制度】
1992年、日本や欧州連合(EU)のイニシアティブにより発足した国連軍備登録制度は、国連加盟国が毎年、戦車・戦闘用航空機等の7種類の主要な兵器の輸出入等を国連に報告する制度である。2001年には、初めて報告国が100か国を超えた。2002年は、国連軍備登録制度10周年にあたり、登録国の拡大に向け、ガーナ、ナミビア、ペルーにおいて啓蒙セミナーを開催し、10月には国連本部において10周年記念シンポジウムを開催した。日本は、同制度に未参加の国々に対して参加を積極的に働きかけており、その強化のために大きな役割を果たしている。