わ が 外 交 の 近 況
上 巻
1976年版(第20号)
外 務 省
昭和51年版「わが外交の近況」の刊行にあたつて
1975年はインドシナ情勢の急変によつてアジアの国際関係に一大転機がもたらされた年でありました。この年は,また,インドシナの新情勢に対応して東南アジアで新たな安定を求める域内諸国の自主的な動きが活発となつたのをはじめ,国際情勢一般についてみても,中東のシナイ新協定が成立し,国際経済協力会議の開催等南北間の具体的対話が緒につき,また,ランブイエ会議等によつて先進民主主義国間の提携も深まるなど,対話の精神に基づいて安定と協調を目指す国際的努力が新たな進展を示した年でありました。
米ソ間,あるいは東西欧州間においては相互の対立点や不信感が表面化し,関係が停滞する局面も見られていますが,対話は維持されており,また,米中間でも両国関係改善のための接触が続けられています。
このように国際関係を安定化させる努力は種々の曲折を経ながらも各方面で続けられております。
もとより東西間の対立,南の北に対する不満,アラブ・イスラエル間の反目など従来からの国際的不安定要因には根深いものがあります。朝鮮半島における南北の対立も依然続いております。その上各国のナショナリズムが高まり,各国それぞれの国益追求の主張が強まるにつれて,新たな不安定要因が生れる現象も見られます。
近年,世界では一方において各国の動きが多様化するとともに,他方において諸国間の相互依存関係がとみに深まる傾向がみられます。したがつて国際関係の安定化を図るためには,従来以上に幅広い視野をもつて国際社会の現実を把握しなければならず,各国が公正・互譲の精神の下に相互関係を調整し発展させることが益々重要になつております。また,紛争を防止するための国際的枠組を維持強化する努力も引き続き必要であります。このようにして国際社会全体の安定した発展のため国際的協力を進めていくことが,今日の世界の課題であります。
わが国は平和憲法の下で平和国家としての道に徹することを国是としております。すなわち,わが国は自ら軍事力を対外政策の手段とすることなく,平和的に対外関係を維持発展させるという大事業に取り組んでいるのであつて,そのためには世界の平和を確保することが必要であり,かつ,世界の平和がそのままわが国の国益に一致するという事情にあります。またこの難事業を成功裡に続けていくためには,米国をはじめとする先進民主主義諸国との提携の維持増進に努めるとともに,現実の力関係に対する鋭い洞察と優れた均衡感覚を持つことが必要であることも強調されるべきでありましょう。
わが国の国力の増大と対外関係の拡大に伴つてわが国の動向が国際社会に与える影響も増大しつつあります。わが国が今後とも平和国家としての外交を堅持し,対話と協調を進めることによつて平和で豊かな世界の建設に力をつくすことは,わが国自らの国益を確保しつつ,国際社会全体の福利に寄与する所以に他なりません。
このようなわが国外交の針路を今日の国際情勢の流れの中でとらえるならば,それは「多様性と相互依存の時代における平和と協調のための外交」と呼ぶことができるでありましょう。国際的相互依存が深まり,国内問題が国際問題といよいよ密接に結びつきつつある今山外交の諸施策について広く国民の理解と支持を得る必要性は益々大きくなつております。
本書では1975年を中心にわが国を取り巻く国際環境を概観し,わが外交の歩みをとりまとめて記すとともに,わが外交の基本的課題についても概述しました。国民各位の御参考になれば幸いであります。
昭和51年10月
外務大臣 小 坂 善 太 郎
本 書 の 構 成 と 内 容
本書は,主として1975年1月から12月に至る期間における世界の情勢とわが国が行つた外交活動の概要を取りまとめたものである。但し,重要な出来事については,本年3月頃までの動きも織り込んである。上巻は,第1部総説,第2部各説及び年表からなり,下巻は,資料編として資料及び統計類を収録している。
第1部総説では,第1章において現段階の国際関係の主要な特徴を見直すとともに,1975年を中心に世界の情勢を概観し,第2章ではそのような情勢の下でわが国が行つた主要な外交努力を説明し,さらに第3章では,これらを踏えてわが国のおかれた国際的立場とわが外交の基本的課題について述べている。
第2部各説では,まず世界の諸地域ないし諸国の情勢及びわが国とこれら諸地域・諸国との関係について述べ,次にわが国の関係する重要な国際的問題について事項別に具体的に説明している。
第1部 総 説
第1章 わが国をとりまく国際環境
第2章 わが国の行つた外交努力
第2部 各 説
第1章 各国の情勢及びわが国とこれら諸国との関係
第2章 国際経済関係
第3章 経済協力の現況
第4章 国連における活動とその他の国際協力
第5章 情報文化活動
第6章 邦人の渡航・移住及びその保護
第7章 その他の活動