第2節 世界経済の調和的発展への貢献
1. 75年において,世界経済は戦後最大とも言うべき景気後退を経験した。また前年の異常なインフレには改善がみられたものの,なお根強いものがあり,国際収支の面においても非産油開発途上国の経常収支の大幅赤字を中心に国際的不均衡が続いた。
このような経済困難の世界的波及により,各国家間の相互依存関係の深まりと国際協調の一層の強化の必要性とが再認識され,各国は,世界経済の丙復,また,その将来にわたつての安定的拡大の基盤づくりのために,貿易・通貨・エネルギー・開発途上国問題の諸分野において,国際的努力を重ねた。わが国も,インフレ克服と景気回復の努力を続けるとともに,これらの国際的努力に積極的に参加した。
2. 75年に行われた国際的協力活動の中でも,同年11月15日から3日間にわたりパリ郊外のランブイエ城において開催された先進主要国首脳会議は,戦後初めて出米,英,西独,仏,伊6カ国の首脳が一堂に会し当面の世界経済の諸問題,更には自由主義経済体制の直面している試練につき意見交換を行うという画期的意義を有するものであつた。
この会議において,各国首脳は,参加国が自由で民主的な社会の維持に責任を有していることを確認するとともに,インフレの再燃を避けつつ速やかに景気を回復し,持続的な成長を求めていくこと等国際経済上の諸問題の取組み方につき合意を得,各国間の協力の精神を謳つた「ランブイエ宣言」を採択した。
わが国は,アジアからの唯一の参加国として,特に現在の世界経済全体において開発途上国,とりわけ非産油開発途上国が抱えている諸困難の重要性を指摘した。
3. また,同年12月パリにおいて,先進国,産油国,非産油開発途上国27カ国を集め開催された国際経済協力会議も,国際協力の重要な動きであつた。本会議は,そもそも1973年の石油危機後,産油国と消費国の間の対話実現を目指す動きに端を発したものである。当初,産消対話の取り進めふりについて先進国側と産油国を含む開発途上国側との間に対立があり,75年4月に開かれた準備会合も一時中断し,その実現がみられずにいた。しかし,同年後半に至り,各国の努力の結果南北間の対話のための雰囲気が醸成され,10月の準備会合において,エネルギー問題のみならず一次産品,開発及び金融の諸問題をも取り上げ,広く南北問題全般に関する討議の場を設けることに合意をみ,12月16日から19日まで本会議が開催された。同会議はその下にエネルギー,一次産品,開発及び金融の4委員会を設置することを決め,各委員会は76年2月以降活動を開始している。
わが国は当初から一貫して産消対話と国際協調の推進を強く支持してきており,エネルギー問題のみならず南北間の問題を広く取り上げることとなつたこの国際経済協力会議においても,米国・ECとともに4委員会の全てに参加し,一次産品委員会については共同議長国を務める等諸活動に積極的に取り組んでいる。
4. ランブイエ主要国首脳会議・国際経済協力会議の開催は世界経済の安定的拡大を目指す諸国間の対話と協力の重要な動きであるが,これらの動きは貿易,通貨等の諸分野においてもいくつかの重要な進展をもたらした。その主要なものは次のとおりである。
(1) 貿易の分野においては,各国とも,世界的な景気と貿易の停滞の中にあつて1国の国内経済の困難を他国の犠牲において解決せんとするいわゆる近隣窮乏化政策を極力回避すべきであるとの認識を一にし,輸出の人為的促進や安易な輸入制限的措置を自制すべく努力してきた。
かかる決意は,75年5月のOECD閣僚理事会において,前年5月の閣僚理事会で採択された「貿易制限自粛宣言」を向こう1年間更新することが決定されたことや,11月の主要国首脳会議において,同宣言が再確認されたことに端的に現れている。これらの動きはガットにおける間断なき諸努力等と相俟つて,世界貿易を安定的拡大への道に導いていくものとして評価される。
とりわけ,75年においては,懸案であつた新国際ラウンドの実質的交渉が2月の貿易交渉委員会を皮切りに開始され,また11月の主要国首脳会議においてこのような多角的貿易交渉を1977年中に完了することを目途とすることが合意され,今後の進展が期待されている。
(2) 通貨の面においては,1975年を通じてIMF暫定委員会等の場において,為替相場制度,金の取扱い,IMF増資等の諸問題に関して議論が続けられた。また,11月の主要国首脳会議において,通貨の安定が国際経済の安定的発展に不可欠であるとの認識が確認された。これらの動きの結果,当面の通貨問題についての大筋の合意が成立し,76年1月にジャマイカで開かれたIMF暫定委員会において,IMF協定の改正の骨格として固まつた。ここにおいて73年2~3月以降主要国通貨がフロ一トし,スミソニアン体制が事実上崩壊して以来進められてきた国際通貨制度改革のための検討はひとまず終了した。