第3節 南北問題解決への寄与
1. 75年において,開発途上諸国は,74年末の世界的不況及びインフレ,貿易の縮小,石油価格の高騰,通貨不安,食糧問題等により,深刻な打撃を受けた。これら諸国は,累積債務,一次産品,工業化,技術移転等それぞれの問題分野について先進国に対する要求を強めるのみならず,既存の国際経済体制の根本的改変を目指す「新国際経済秩序」の樹立を求めるに至つている。この状況の下で南北問題の解決は,国際社会にとり一層緊急な課題となつた。
わが国は,国際社会の重要な一員であり,また,エネルギー・食糧・資源その他の面で他の先進国に比べ開発途上諸国とより密接な関係にあるので,南北問題の解決のために積極的に努力を払う必要がある。わが国は,南北間において相互依存に基づく公正かつ衡平な関係を維持・発展させ,もつて国際社会の安定と発展を目指すことを基本的姿勢としている。また,このために南北間の対話と協調に基づき漸進的な改善策をとつていくことが必要であると考えるものである。
2. 1975年に焦点をあて南北問題の現状を略述すれば次のとおりである。
ここ数年間非産油開発途上国のGNPの伸びは,年平均にして4%であり,1人当り所得はなんらの実質的改善をみていないが,特に75年においてはGNPは1.4%の伸びで,また1人当り所得の伸び率は,-1.0%になつたと推定されている(世銀)。
また,1974年には275億ドルに達した非産油開発途上国の国際収支(公的移転を除く経常収支)の赤字は,75年には350億ドルにも達した。この巨大な経常収支の赤字は,外貨準備の取り崩し,輸入の削減,開発計画の修正をもたらしているほか,赤字ファイナンスのためにとり入れられた外部資金がこれら諸国の累積債務問題を一層深刻化させている。
開発途上国全体の債務残高は,1974年末には1,200億ドルと推定されており,同年中に行われた債務支払い額は150億ドルであつた。この内OECD諸国に対して支払われたものは,87億ドル(政府借款にかかる債務支払いは13億ドル,その他債務にかかる支払い分は74億ドル)であつた。同年におけるOECD諸国の援助の粗支出総額が125億ドルであつたことから,開発途上国側は援助受取額の10%(民間債務の支払いをも含めた全債務支出額については70%)をすぐ債務返済にまわしたことになる。75年においては,このような深刻な状況を踏まえ,累積債務問題につき開発途上国側より政府借款にかかる債務のキャンセレーションあるいはモラトリアム,商業債務のりスケジューリング等の自動的包括的な救済を要求する動きが強くなつてきている。
開発途上国の経済発展のため貿易の果たす役割は極めて大きい。74年においてOECD諸国が開発途上国に供与した政府ベース援助の総額は94億ドルであつたのに対し,非産油開発途上国の輸出収入はその約10倍の910%億ドルであつた。特に一次産品は,非産油開発途上国の輸出の63.5%を占めているが,その価格は73年のブームから74年には暴落し,75年においても低落を続けた。
このような状況を背景として,開発途上国側は一次産品の価格の安定を図り,実質的な輸出所得の安定的拡大を図ることを要求し,さらに,個別産品別に検討するという従来の取組み方では不十分であるとする立場から,主要一次産品の問題を一括して扱ういわゆる「総合プログラム」の構憩をかかげて,先進国に対して強い要求を行うに至つている。このように一次産品問題は債務問題とならび,南北問題の当面の最重要の課題となつている。
工業化と技術移転は,開発途上国の経済発展と先進国の経済とが安定的かつ発展的に推移していくための前提となる重要な問題である。この問題については,開発途上国側は,今世紀末までに世界の工業生産に占める開発途上国のシェアを25%以上とすることをはじめ,先進国から開発途上国に移転する技術に関する法的拘束力のあるコード作りを行うこと等種々の要求を強めている。このような状況下にあつて,工業化とこれに伴う先進国との産業補完関係のあり方は,今後の大きな課題となる傾向にある。
以上のような種々の問題はその各々についての対処のみでは不十分であり,基本的には新しい経済体制が打ちたてられる必要があるというのが開発途上国側の根本的な要求である。このような要求は,1974年4月の第6回国連特別総会における「新国際経済秩序樹立に関する宣言」及び行動計画,1974年9月の第29回国連総会の「経済権利義務憲章」,1975年3月の第2回国連工業開発機構総会における「工業開発協力に関する宣言と行動計画」(リマ宣言)の中に反映されるに至つた。
このような開発途上国側の原則論に基づく要求は,そのまま先進国側の受け入れ得るものではないが,75年5月の「開発途上国との関係についてのOECD宣言」,更には11月の主要国首脳会議共同宣言において南北間の対話を求めていく旨の決意表明を行い,先進国側としても,問題の具体的な解決に取り組む姿勢を示している。また,世界的な不況の深刻化の中で,世界経済の相互依存性が再確認され,開発途上国側においてもより着実な問題解決の可能性を求める態度が見られるようになつた。9月の第7回国連特別総会及び12月の国際経済協力会議等の一連の会議は,このような「対話と協調」を基調として進められてきており,今後の南北問題解決にあたつての好ましい環境づくりに資するものと考える。
3. わが国は,南北問題に対する前述の基本姿勢に基づき,1975年においても,引き続きこの問題解決のために積極的な協力を行つてきたが,これを貿易面及び経済協力の面について見れば次のとおりである。
まず貿易面を通ずる協力としては,一次産品及び製品につき,関税の引下げ,自由化品目の拡大,商品協定への参加,開発途上国側の輸出拡大のためのマーケッティング等の面への協力,輸出市場安定化のための国際的協力への参加,一般特恵制度の改善などにより,開発途上諸国の輸出収益の安定化及び増大などに寄与してきている。
次に経済協力面については,まず開発途上国に対する経済協力(資金の流れ)総額は2,890百万ドル(支出純額ベース,以下同じ)であり,総額の対GNP比においては0.59%となり,74年の0.65%に比し,若干減少した。また資金の流れ総量のうち政府開発援助(ODA)は,74年の1,126百万ドルに対し,75年には1,148百万ドルとなり対前年比1.9%の増加を示した。しかしその対GNP比は,0.24%であり前年の0.25%に比べわずかながら後退した。
わが国はまた,先進諸国との協調をはかりつつ産消対話準備会合,第7回国連特別総会,国際経済協力会議等の一連の南北間の対話に積極的に参加し,先進諸国と開発途上諸国間の建設的な協力関係の維持・増進に努力を重ねた。