第2節 保健・教育新政策の展望
保健、教育両分野の新政策の下で次のような取組を行っていきます。
1. 保健新政策
日本はこれまで、人間の安全保障に直結する地球規模課題として保健医療分野での取組を重視し、保健システム(人々に予防や治療サービスを組織的に提供する仕組み)の強化などに関する国際社会での議論の先頭に立ってきました。
近年では、2010年9月のMDGs国連首脳会合の機会に菅総理大臣から「国際保健政策2011-2015」を発表し、保健関連MDGsの達成に貢献することを目的として、2011年からの5年間で50億ドル(世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)への当面最大8億ドルの拠出を含む)の支援を行うことを表明しました。
この新政策では、<1>母子保健、<2>三大感染症対策(HIV/エイズ・結核・マラリア)、<3>新型インフルエンザやポリオを含む公衆衛生上の緊急事態への対応を3つの柱とし、特にMDGsの達成に向けた取組が遅れている母子保健分野については、EMBRACEモデル*(注10)に基づいた支援を実施していくことを目指しています。
日本はこの新政策の下で、これまで、ガーナやバングラデシュなどの国において、国際機関などとの間で相互に補い合う形の連携を行い、開発途上国が保健関連のMDGsを達成していくための課題解決に向けた支援を行ってきました。特に三大感染症対策については、左で述べたように、世界基金に対する資金的貢献と合わせ、世界基金による支援を日本の二国間支援と補完させることで、効率的かつ効果的な支援を目指しています。
また、日本はGAVIアライアンス(ワクチン予防接種世界同盟)*(注11)に新たに拠出を行い、途上国での予防接種の普及に向けた支援が最大の成果を得られるよう目指しているほか、ゲイツ財団等とも協力して、有償資金協力を通じたポリオ撲滅のための支援も実施していきます。(保健医療についてはこちら、感染症についてはこちらを参照)
シリアで、村民の血糖値を測定し、健康管理を行う保健師の青年海外協力隊員(写真提供:高橋克彰)
用語解説
*EMBRACEモデル
妊産婦に対し、産前から産後まで切れ目のない手当てを確保するための支援。妊産婦の定期検診、機材と人材の整った病院での新生児の手当て、病院へのアクセス改善、ワクチン接種などが行われるよう国際社会と協力して支援を行う。
*GAVIアライアンス(ワクチン予防接種世界同盟)
56か国の開発途上国を対象として、子どもへの予防接種普及に取り組む資金援助プログラム。加盟国政府、関連国連機関に加え、製薬業界、民間財団、NGOが連携して運営する。
注10 : EMBRACEモデル: Ensure Mothers and Babies Regular Access to Care
注11 : GAVIアライアンス: the Global Alliance for Vaccines and Immunization
2. 教育新政策
青年海外協力隊理数科教員が指導する教員養成校で理科実験に取り組むガーナ人の学生たち(写真提供:青木哲平)
教育はすべての人が享受すべき権利であり、日本は人間の安全保障を推進する上で不可欠である教育分野の支援を重視しています。2002年発表の「成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN)」(注12)に続き、2010年9月のMDGs国連首脳会合の際、MDGsおよび「万人のための教育(EFA)」*(注13)の達成に貢献するため、菅総理大臣は「日本の教育協力政策2011-2015」を発表し、2011年から5年間で35億ドルの支援を行うことを表明しました。
新政策の3つの柱は、<1>基礎教育支援、<2>ポスト基礎教育(初等教育修了後の中等教育、職業訓練、高等教育)支援、<3>紛争や災害の影響を受けた脆弱国の教育支援です。学校・コミュニティ・行政により包括的に学習環境を改善する基礎教育支援モデル「スクール・フォー・オール」具体化のため、<1>質の高い教育(アフリカにおける理数科教員訓練など)、<2>安全な学習環境の提供(栄養・衛生面などの改善)、<3>学校運営改善(ニジェールにおけるコミュニティ参画型学校運営プロジェクトなど)、<4>地域に開かれた学校(成人識字教育など)、<5>インクルーシブ教育(極端な貧困、障がいなどにより就学が困難な子どもへの対応)に関する支援を行い、初等教育普及のための国際的枠組み「EFAファスト・トラック・イニシアティブ(EFA-FTI)」*(注14)への支援も強化します。ポスト基礎教育では職業訓練校の強化、高等教育ネットワーク構築(アジアやアフリカ地域の高等教育プロジェクト(AUN/SEED-NetやE-JUST))(注15)、留学生受入れ・交流を促進し、脆弱国では国際機関などとも連携し支援を実施していきます(UNICEF経由のアフガニスタンにおける学校建設など)。(教育についてはこちらを参照)
ニジェール「住民参画型学校運営改善計画(みんなの学校プロジェクト)」自分たちで学校補修を行うコミュニティ住民(写真提供:上村裕之)
用語解説
*万人のための教育(EFA)
全ての人々に基礎教育の機会提供を目指す国際的取組。主要関係5機関(国連教育科学文化機関UNESCO(ユネスコ)、世界銀行、国連開発計画UNDP、国連児童基金UNICEF(ユニセフ)、国連人口基金UNFPA)のうち、UNESCOがEFA全体を主導する。EFAの下に、EFA-FTI等のイニシアティブがある。
*EFAファスト・トラック・イニシアティブ(EFA-FTI)
EFAダカール行動の枠組みやMDGsに含まれている「2015年までの初等教育の完全普及」の達成のため、2002年に世界銀行主導で設立された国際的な支援枠組み。2011年11月、FTIは「教育のためのグローバル・パートナーシップ(Global Partnership for Education)」という名称に変更された。
注12 : 成長のための基礎教育イニシアティブ BEGIN:Basic Education for Growth Initiative
注13 : 万人のための教育 EFA: Education For All
注14 : EFAファスト・トラック・イニシアティブ EFA-FTI:EFA Fast Track Initiative
注15 : アセアン工学系高等教育ネットワーク AUN/SEED-Net:ASEAN University Network/ Southeast Asia Engineering Education Development Network
エジプト日本科学技術大学 E-JUST:Egypt-Japan University of Science and Technology