第2節 課題別の取組

ODA大綱では、貧困削減、持続的成長、地球規模課題への取組、および平和の構築の4つを重点課題として掲げています。本節では、これらの課題について最近の日本の取組を紹介します。

1. 貧困削減

(1)教育

教育は、貧困削減のために必要な経済社会開発において重要な役割を果たします。また個人個人が持つ才能と能力を伸ばし、尊厳を持って生活することを可能にし、他者や異文化に対する理解を育み、平和の礎となります。ところが、世界には学校に通うことのできない子どもが約6,700万人もいます。最低限の識字能力(簡単で短い文章の読み書きができること)を持たない成人も約8億人にのぼり、その約3分の2は女性です(注6)。このような状況を改善するために、国際社会は「万人のための教育(EFA)」(用語解説参照)を実現しようとしています。

< 日本の取組 >

日本は従来から、「国づくり」と「人づくり」を重視して、開発途上国の基礎教育や高等教育、職業訓練の充実などの幅広い分野において教育支援を行っています。2002年に「成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN)」(注7)を発表し、日本は、<1>教育を受ける機会の確保、<2>教育の質の向上、<3>教育行政・学校運営方法の改善を重点項目に、学校建設などのハードや教員の養成などソフトの両面を組み合わせた支援を行ってきています。

セネガルの小学校で青年海外協力隊員が折り紙を教える(写真提供:斎藤健介)

セネガルの小学校で青年海外協力隊員が折り紙を教える(写真提供:斎藤健介)

2010年に日本は、2011年からミレニアム開発目標(MDGs)の達成期限である2015年までの間の新教育協力政策として「日本の教育協力政策 2011-2015」を発表しました。(MDGsについては図版参照)新政策では、<1>基礎教育の支援、<2>基礎教育後の支援(初等教育終了後の中等教育、職業訓練、高等教育等)、<3>紛争や災害の影響を受けた脆弱国への支援の3つに力を注ぎ、2011年からの5年間で35億ドルの資金的支援を約束しています。日本は、質の高い教育環境を整えることを目指し、疎外された子どもや脆弱国など支援が届きにくいところにも配慮し、初等教育の修了者が継続して教育を受けられるような支援を行っていきます。この支援によって少なくとも700万人の子どもに質の高い教育環境を提供します。また、この新政策において日本は、基礎教育支援モデルとして、すべての子どもたちに教育の機会を提供することを目指す「スクール・フォー・オール」を提案し、学校・地域コミュニティ・行政が一体となって、<1>質の高い教育(教師の質)、<2>学校運営の改善、<3>貧困層、女子や障がい児など就学が困難な状況の子どもたちへの取組、<4>安全な学習環境(学校施設整備や栄養・衛生面)など様々な面での学習環境の改善に取り組んでいきます。

2011年6月に東京で開催したMDGsフォローアップ会合の教育分科会では、教育の質の改善等をテーマとして議論を行い、効果的な取組例をまとめた文書を作成しました。

また、2015年までに初等教育を完全普及することを目指す国際的な枠組みである「ファスト・トラック・イニシアティブ(FTI)」(用語解説参照)に関しては、2008年1月から日本はG8議長国として共同議長および運営委員を務め、FTIの議論および改革への取組に積極的に参加してきています。そして、FTIの関連基金に対して、2007年度から2010年度までに総額約550万ドルを拠出しました。

バングラデシュで青年海外協力隊員が環境教育を行う小学校を訪問する山花郁夫外務大臣政務官

バングラデシュで青年海外協力隊員が環境教育を行う小学校を訪問する山花郁夫外務大臣政務官

2008年4月、日本は、「万人のための教育(EFA)」の自立と持続可能性に関する国際シンポジウムにおいて、質・量両面における基礎教育のさらなる充実、基礎教育を超えた多様な教育段階における支援の強化、教育と他分野との連携、内外を通じた全員参加型の取組を重視すべきとのメッセージを発信しました。その具体的な取組として、2008年からの5年間で、アフリカにおいて約40万人の子どもに役立つ約5,500教室から構成される小中学校1,000校を建設し、約10万人のアフリカの理数科教員(全世界で約30万人)の能力を向上し、アフリカにおける学校運営改善の取組を1万校まで拡大することを表明し、着実に実施しています。

また、アフガニスタンでは、約30年間にわたる内戦の影響を受け、非識字人口が約1,100万人(人口の4割程度)と推定されており、アフガニスタン政府は、これに対して2014年までに約360万人へ識字教室を提供することを目標としています。日本は、2008年から国連教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ))(注8)を通じた総額約33億円の無償資金協力により、国内18県100郡で計約60万人のための識字教育を支援し、アフガニスタンの識字教育の推進に貢献しています。

ガーナの小学校で活動する青年海外協力隊員(写真提供:森昭子)

ガーナの小学校で活動する青年海外協力隊員(写真提供:森昭子)

ブータンの教室は狭くて暗いため、ときどき青空の下で授業を行う(写真提供:関健作/JICA)

ブータンの教室は狭くて暗いため、ときどき青空の下で授業を行う(写真提供:関健作/JICA)

近年では、国境を越えた高等教育機関のネットワーク化の推進や、周辺地域各国との共同研究等を行っています。また、「留学生30万人計画」に基づく日本の高等教育機関への留学生受入れなど多様な方策を通じて、開発途上国の人材育成を支援していきます。さらに、日本国内の大学が持つ「知」(研究成果や高度人材育成機能)を活用して、国際協力の質的な向上を目指す「国際協力イニシアティブ」事業を実施しました。その主な取組としては、日本の教育研究関係者が持つ知識と経験をもとに国際協力に役立つ教材やガイドライン(指針)などを作成すること、それらを広く活用できるよう公開することなどが挙げられます。

また、「青年海外協力隊現職教員特別参加制度」を通じて現職教員が青年海外協力隊に参加しやすくなるよう努めています。開発途上国へ派遣された現職教員は、現地において教育や社会の発展に尽くし、帰国後は国内の教育現場で現地での経験を活かしています。

エクアドルの養護学校で青年海外協力隊として活動する現職教員。子どもたちがたたいているタンバリンは日本の人から贈られたもの(写真提供:飯島ちづる)

エクアドルの養護学校で青年海外協力隊として活動する現職教員。子どもたちがたたいているタンバリンは日本の人から贈られたもの(写真提供:飯島ちづる)

用語解説

基礎教育

生きていくために必要となる知識、価値そして技能を身につけるための教育活動。主に初等教育、就学前教育、成人識字教育などを指す。

青年海外協力隊現職教員特別参加制度

文部科学省がJICAに推薦した教員は、一次選考の技術試験が免除され、日本の学年に合わせて、派遣前訓練開始から派遣終了までの期間を4月から翌々年の3月までの2年間(通常2年3か月のところ)とするなど、現職教員が参加しやすい仕組みとなっている。


注6 :(出典)UNESCO「EFAグローバル・モニタリング・レポート2011」

注7 : 成長のための基礎教育イニシアティブ BEGIN:Basic Education for Growth Initiative

注8 : 国連教育科学文化機関ユネスコ UNESCO:United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization

 

●南スーダン

「南部スーダン理数科教育強化プロジェクト」
技術協力プロジェクト(2009年11月~実施中)

南スーダンでは、就学者数の増加に対して教員数が不足している上に、教員の約65%が必要な研修を全く受けていないため、教育の質の確保が大きな課題となっています。日本は、国の発展に重要な小中学校の理数科教育を協力対象に定め、教員向け研修の指導者の育成や、体系的な研修実施のためのモデルづくりを支援し、小中学校教員の理数科指導力の向上、および理数科教育全体の質の向上を積極的に支援しています。日本が行う研修を受けた教員が、さらに各州で講師となって同様の研修を行うことにより、南スーダン全体で、1,000人から1,500人の教員が育成されることが期待されています。(南スーダンについてはこちらを参照

未来の国作りを支える人材を育てる(写真提供:JICA)

未来の国作りを支える人材を育てる(写真提供:JICA)


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