第3節 社会全体にあまねく広がる成長の実現に向けて
経済成長は、社会開発に必要な資金を生み出し、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成を後押しするものです。しかし、すべての経済成長が貧困削減に貢献する訳ではありません。急速な経済成長を実現しようとすれば社会にひずみが生じ得ます。成長の果実やグローバル化(政治、経済、文化など様々な分野において国境を越えて地球規模で人、物、資本、情報、技術等がやりとりされること)の利益がより広く平等に社会全体に行きわたるよう、すべての人に成長のプロセスに参加する機会を与え、社会から置き去りにされることなく(包摂(ほうせつ)的で)(注16)、誰もが等しく恩恵を受けられる(衡平(こうへい)な)成長が必要とされています。
包摂的で衡平な成長を達成するためには、成長によって生み出された富が貧困層や社会的弱者に基礎的社会サービスを通じて再分配されることが重要です。たとえば、安価で良質な保健医療サービスにより、人々は健康な生活を送りながら経済活動へ参加することが可能になります。また、日本の高度経済成長の経験からも明らかなように、質の高い教育を広く普及させることで、より多くの人が経済成長へ参加できるようになります。労働市場で活躍する人材を育成するための職業訓練や能力構築も必要です。
成長によって生み出された富が、貧困層に行きわたるようにするために、累進課税を含む、より衡平な税制の確立や条件付現金給付(CCT)*(注17)の取組も注目されます。また、汚職や腐敗は、経済社会格差を拡大させるだけでなく、社会的不平等感を生み、公正で衡平な社会の実現を阻むものです。途上国の行政システム、行政能力、制度等の強化を通じたグッド・ガバナンス(良い統治)の実現も重要です。
2011年6月に東京で開催されたMDGsフォローアップ会合では、持続的で包摂的かつ衡平な経済成長についても議論が行われました。同会合においては、近年、高い経済成長を達成している新興国や途上国が、どのようにして成長をなしとげたかや、衡平性確保のための取組について経験を共有しました。途上国側からは、そのような経済成長を達成するための国際社会からの貢献として、資金ギャップを埋めるだけではなく、知識・経験の格差を埋めるための支援にも期待が寄せられました。
用語解説
*条件付現金給付(CCT)
妊産婦の定期検診のような保健サービスの利用、学校の出席率といった一定の条件が満たされた場合にのみ、貧困家庭に現金を給付するもの。
青年海外協力隊員が活動するモロッコの知的障がい者施設(写真提供:久野真一/JICA)
マラウイの職業訓練盲学校、生徒が点字の学習をしている(写真提供:佐藤浩治/JICA)
注16 : 包摂性とは、異なる社会や文化的背景、障がいを含む個人的特性などを理由にして起こる排斥や区別を排し、誰もが対等な関係でかかわり合い、社会や組織の一員として参加できる機会を提供すること。特に、社会的弱者や社会から疎外された集団に対して参加を容易にさせること
注17 : 条件付現金給付 CCT:Conditional Cash Transfers