4. 平和の定着

(1)見えてきた平和のきざし

サブ・サハラ・アフリカにおいては、人為的な国境線の画定、国家基盤のぜい弱性などを背景に、貧困、民族・宗教対立、経済的利権、独立問題などの複雑な要素が絡み合い、冷戦終結後、政府と反政府勢力間の権力・資源争い、部族の対立、国家間の対立による紛争が増加しました。これらの紛争は、多くの犠牲者や大規模な難民・国内避難民を生み出したばかりでなく、経済の停滞、インフラの破壊、さらなる貧困などの悪循環を生み、感染症のまん延など人間の安全保障上の問題を多く生み出しました。

しかしながら、近年は、アフリカ諸国やアフリカ連合(AU)および西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)や南部アフリカ開発共同体(SADC)などの地域経済共同体(RECs)など、アフリカが自らの手により紛争の予防・解決に積極的に取り組む自助努力の傾向が見られます。その成果として、シエラレオネの内戦終結(2002年)、コンゴ(民)における大統領選挙の実施(2006年)、コートジボワールにおけるワガドゥグ合意の成立(2007年)、アンゴラにおける国会議員選挙の実施(2008年)など、多くの地域において平和のきざしが見えてきています。また、紛争終結後、難民・避難民の帰還・再定住、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)、不発弾処理を含む地雷対策および小型武器回収など、再び紛争に逆戻りせず平和を定着させるための取組が進展しつつあります。

(2)アフリカ自身の平和維持能力向上支援

2008年1月、福田総理大臣(当時)は、日本が世界の平和と発展に貢献する「平和協力国家」として国際社会において責任ある役割を果たしていく考えを表明しましたが、これは、今後とも日本がアフリカを含む地域の平和の定着を支援していくことを示す決意の表れです。

2003年の第3回アフリカ開発会議(TICAD III)では、日本は「平和の定着」支援を柱の一つに掲げましたが、2008年5月までの5年間にTICAD IIIで約束した事項をすべて実現し、約7.6億ドルの「平和の定着」支援を実施してきました。2008年のTICAD IVにおいても、アフリカにおける平和の定着を重点事項の一つとして挙げ、以下の諸点が重要であることを主張しました。

第一に、平和構築には、紛争予防や、人道・復興支援、治安の維持・回復、民主的統治の実現といった多くのプロセスがあり、この様々なプロセスを援助諸国や国際機関が一体となって継ぎ目なく、かつ不可逆的に進めることが大切であること。

第二に、紛争予防や万一紛争が発生したときに備えて被害を最小限にとどめる工夫が重要であること。紛争予防の観点からは、貧富の格差、水や土地、資源を巡る争いなど、紛争の潜在的要因を取り除くことも重要であること。

第三に、平和を素早く回復するために、紛争の影響を受けた人々の早期の自立が重要であること。この観点から、コミュニティの再建や職業訓練を通じた個人およびコミュニティのエンパワーメントや自立支援、社会的弱者への特別な配慮、被害者の社会復帰や社会再統合といった視点も考慮に入れるべきこと。

最後に、アフリカ自身の平和維持能力向上を支援することが重要であること。特に最後の点に関しては、2008年、日本は国連開発計画(UNDP)と協力してアフリカ各国のPKO訓練センター支援を開始し、UNESCO(ユネスコ)とも協力してNGOの人材育成も始めました。加えて、日本自身も平和構築分野の人材育成事業を立ち上げ、アフリカなど世界の平和構築の現場で活躍できる文民専門家を育成しています。

しかしながら、こうして得られた平和も、良い統治(グッド・ガバナンス)がなければ永続しません。近年、「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」の柱、アフリカにおける相互審査メカニズム(APRM)(注8)の重要性がアフリカ大陸に浸透しており、参加国が増えています。日本はAPRMによる審査の結果得られた国別行動プログラムの実施が重要であると考えており、APRMによる審査を最初に終了させたガーナでこの実施を支援するプロジェクトを開始しました。