アフリカにおける経済成長が、幅広く草の根レベルの国民、地域住民に共有され、持続可能なものとなるためには、個人および地域社会(コミュニティ)レベルでの経済成長が重要です。日本は、人間の生命、生活および尊厳に対する様々な脅威から人々を守り、自身の持つ可能性を十分に実現できるように能力強化が図られる社会を構築するという人間の安全保障の理念に基づき、コミュニティの需要に応じて様々な支援を行ってきました。例えば、アフリカの地方農村部における能力強化を図るため、「アフリカン・ビレッジ・イニシアティブ(AVI)」(注3)を発表し、学校建設と同時に井戸の掘削や学校給食を提供するなど、地域社会全体を対象とした保健サービスの提供などを実施しています。また、人間の安全保障基金を通じ、国連開発計画(UNDP)などが実施する「アフリカン・ミレニアム・ビレッジ(AMV)」(注4)事業を支援しています。日本は、これら二つの地域社会開発事業を調和させ、より効果的な支援を行っていく方針です。さらに、保健、教育といった、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に直結すると同時に、人間の安全保障の確立にとって極めて重要な分野についても、支援を促進していくこととしています。
TICAD IVにおいては、コミュニティ開発およびコミュニティレベルでの能力強化が、地方・農村部および都市部の両方において、人間の安全保障の強化に必要不可欠な要素であること、コミュニティ開発において女性が重要な役割を占めていることから、ジェンダーの視点が不可欠であること、コミュニティを基盤としたアプローチが移行期における平和の定着にとって欠かすことができないことなどが指摘されました。また、TICADプロセスが今後5年間にとるべき具体的行動を示した横浜行動計画においては、前述の「アフリカン・ビレッジ・イニシアティブ」や「アフリカン・ミレニアム・ビレッジ」の経験を活かし、総合的なコミュニティ開発を支援していくことのほか、特に若年層に対し、相当程度の雇用創出を行うため、技術支援やマーケティング、小規模融資(マイクロ・ファイナンス)支援などを行うこと、一村一品プロジェクトを拡大することなどが掲げられました。このうち、総合的なコミュニティ開発に関しては、学校および地域の教育施設において、基礎教育に加え、水、衛生、学校給食、応急手当およびレファラルサービス(注5)、識字教育および生活習慣を含む包括的なサービスを提供すること、教育および学習の成果へのアクセスをしやすくし、現地生産された作物による学校給食を含む地域経済とのつながりを強めるため、地域住民による学校運営の参画を促進することとされました。
日本では、一村一品運動を通じてコミュニティの自主的な取組を尊重し、行政が技術支援やマーケティングなどの側面支援を行い、地域の潜在的可能性を引き出し、特産品を育てる「人づくり」「地域づくり」を行ってきた経験があります。日本国内で始まった一村一品運動の取組は、タイ、ベトナム、カンボジアなどのアジア諸国を中心に広がっており、これはアフリカにおいても貧困削減につながる手法として活用可能なものです。一村一品運動の目的は、コミュニティのキャパシティ・ビルディングと所得創出を組み合わせることにより、コミュニティを基礎とする持続的な経済成長に結び付けることにあります。このような目的を持った運動の展開を図るには、その地域にある商品に着目し、その可能性を見出すとともに、安定した生産・流通を確保し、輸出可能なものは輸出していくことを目指す観点から、開発援助を所掌する機関だけでなく、貿易促進を所掌する機関とも連携することが重要です。そして、それぞれの実施を円滑にするためには、コミュニティ開発と同時に、行政機関の組織強化、人材育成が必要です。特に、一村一品運動は、コミュニティ開発がそのコミュニティにとどまらず、国全体の経済成長にもつながっていくという概念であることから、最終的には、関係省庁との連携を視野に入れた政府全体の人材育成も必要となります。
アフリカにおいては、既にマラウイやガーナで日本が協力を行った事例もあります。マラウイでは、一村一品運動を経済発展を通じた貧困削減を達成するための国家プロジェクトと位置付けており、地方自治・地域開発省内に設置された一村一品事務局を通じ、中央政府と地方政府が協力しながら、一村一品の認定や資金融資、運動のコンセプトの普及、技術支援、販売促進活動を行っています。国際協力機構(JICA)はこのマラウイ政府の事業に対し、2005年以降、技術協力を行っています。また、ガーナでは、青年海外協力隊とNGOが連携してシアバターを生産する女性農民に技術支援を行うと同時に、地場産業振興のための調査を実施しました。また、日本貿易振興機構(JETRO)と連携し、民間企業による商品化を進め、JETROが運営している成田、関西国際空港のマーケットにて展示・販売を行っています。これらの事例に対し、ほかのアフリカ諸国からも、自国で応用できる開発の新戦略として、高い期待が寄せられています。
日本の具体的な取組として、JICAは、コミュニティの能力強化(エンパワーメント)に視点を置き、かつ、支援対象国の政府内に一村一品事務局を設立し生産グループを支援することにより、一村一品運動の一つのモデル形態を確立しました。また、JETROは、輸出可能な産品という観点から、シアバター、コーヒー、紅茶、切り花に着目しつつ、協力を実施していますが、今後、新しい視点として、日本企業による提案公募型の開発輸入産品への企画事業を実施していくこととしています。
日本は、マラウイでのコミュニティの産品づくり、ガーナでのシアバター作りなどにおいて一村一品運動を展開した実績を活かし、今後は、国際機関とも連携しながら、これをそのほかのアフリカ各国へ展開する方針です。その一環として、2008年1月22日から24日まで、マラウイにおいて、一村一品運動の理念や仕組み、日本やマラウイでの実施例を紹介し、各国における一村一品運動の展開を円滑にすることを目的として、「アフリカ一村一品国際セミナー」を開催しました。アフリカ12か国、アジア1か国、マラウイ関係者、JICAを含めたドナー関係者から計120名が参加し、自国における一村一品運動の展開に向けて、活発な意見交換が行われました。