2. 保健

(1)3つの保健関連の開発目標

国際保健の問題は、今や一国の問題ではなく、国際社会が一丸となって取り組まねばならない地球規模の課題です。疾病による死亡や障害が増えれば、働き手を失った家族の経済的負担はもちろんのこと、病人を抱える家族にとって、治療費は大きな負担となります。それがさらなる貧困を生み、栄養や衛生状況が不十分な中、疾病や感染症が一層まん延するという悪循環を生みます。このような状況は国の労働力の低下をもたらし、国の発展の妨げとなると同時に、テロや紛争などに結び付き、地域の治安にも影響を与えるものです。

ミレニアム開発目標(MDGs)においては、2015年までに達成すべき保健分野の目標として、乳幼児死亡率の削減、妊産婦の健康の改善、HIV/エイズ、マラリア、そのほかの疾病のまん延防止が掲げられています。しかしながら、乳幼児死亡率の削減は、サブ・サハラ・アフリカで最も遅れており、1,000人中157人の子どもが5歳の誕生日まで生き延びることができません(2006年現在)。また、毎年50万人の女性が、妊娠中または出産中に、治療または予防可能な原因により亡くなっています。その数はとりわけサブ・サハラ・アフリカで多く、先進国では7,300出産中1人であるのに対して、サブ・サハラ・アフリカでは22出産中1人です(2006年現在)。また、開発途上国全体においてHIVの感染者数は横ばいなのに対して、サブ・サハラ・アフリカに限ってみると、エイズによる死亡者数は増加しています。

(2)包括的保健医療の支援

こうした状況の中、日本は2000年7月のG8九州・沖縄サミットで、サミット史上初めて開発途上国の感染症問題を主要議題の一つとして取り上げるとともに、「沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)」を発表しました。このサミットは、2002年の「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」の設立につながることになりました。

2007年11月、高村外務大臣(当時)は、2008年の第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)とG8北海道洞爺湖サミットを念頭に、「国際保健協力と日本外交―沖縄から洞爺湖へ―」と題する政策演説を行い、保健システム強化、母子保健の向上、感染症対策への包括的な取組の必要性を訴えるとともに、国際社会が共有する行動指針の策定に向けて各国・国際機関・経済界・学界・市民社会などすべての関係者の協力を呼びかけました。

それを受けて、2008年5月のTICAD IVでは、アフリカ開発の方向性について活発な議論が行われ、保健の課題も取り上げられました。今後5年間のアフリカにおける日本をはじめとする関係国・関係機関による具体的取組を表明した横浜行動計画では、保健システム強化、母子保健の向上、感染症対策のそれぞれの分野での取組が発表されました。日本の取組としては、今後5年間で40万人の子どもの命を救うこと、10万人の保健医療の人材を育成すること、HIV/エイズ、結核、マラリアとの闘いを支援するため、世界基金に対して2009年以降、当面5.6億ドルの拠出をすることなどが取り上げられています。

(3)国際保健に関する行動指針

日本はまた、G8北海道洞爺湖サミットにおいても、国際保健を主要な議題の一つとして取り上げ、「国際保健に関する洞爺湖行動指針」を発表しました。この行動指針は、日本が立ち上げたG8保健専門家会合によって、2008年2月、4月、6月と3回にわたる会合を経て作成されたもので、G8首脳への提言の形式をとっており、G8北海道洞爺湖サミット首脳宣言で歓迎されました。同宣言では、保健分野については、主に以下の内容が盛り込まれました。

  1. 感染症対策、母子保健、保健システム強化への包括的取組を示す「洞爺湖行動指針」を提唱したG8保健専門家会合報告書を歓迎。
  2. 2007年のG8ハイリゲンダム・サミットで合意された保健分野支援のための600億ドル供与を、今後5年間で供与するとの目標に向けて取り組む。
  3. アフリカにおいて保健従事者を人口1,000人当たり2.3人までに増やすよう、アフリカ諸国と協力して取り組む。
  4. マラリア対策に関し、ほかの諸国などと協力して、2010年までに蚊帳1億張りを提供することを目指す。