第4節 援助に関する国際的な動き

  開発途上国への援助を行うにあたっては、国際社会の連携と協調がますます必要になっています。世界の援助需要は膨大であり、各援助国・機関の強みをいかしてミレニアム開発目標(MDGs)等の開発目標を達成するには、国際社会で議論を行い、経験と目標を共有することが重要です。近年、先進国を中心とした援助国・機関による議論だけではなく、被援助国もこのような国際的な議論に参加することによって、被援助国の声や政策を尊重したより実践的、効果的な援助が行われるようになっています。
  本節では、最近の援助に関する国際的な議論を紹介します。

< 経済協力開発機構開発援助委員会(OECD-DAC)での議論 >

  経済協力開発機構開発援助委員会(OECD-DAC)における最近の主な議論としては、援助効果向上に関する課題、安全保障関連活動の政府開発援助適格性の問題、DAC以外の援助供与国との協力関係の構築などが挙げられます。

→ 援助効果向上については、第I部のこちらも参照してください

  伝統的な考え方では、軍事関連活動と政府開発援助は明確に分けるべきとされてきましたが、治安維持活動が増加・多様化するに従い、そのうち非軍事的な活動については政府開発援助として認めるべきであるという意見が多くなってきました。DACでは、2005年、「児童兵雇用防止」、「治安維持のための市民社会の強化」、「小型武器対策」などについて、政府開発援助の適格性を認めることに合意しました。また、国連の平和維持活動(PKO)については分担金の6%(注1)を政府開発援助計上することで合意され、これが2005年DAC実績から政府開発援助に含まれることになりました(注2)
  また、OECDに加盟しているがDACには未加盟の援助国(韓国、トルコなど)や、新規欧州連合(EU)加盟国(バルト三国など)、新興援助国(中国、インドなど)との協力が進められています。2005年6月には、DACとそれ以外の諸国・機関との関係構築のための「DACアウトリーチ戦略」を採択しました。短期的には統計分野での協力を進め、中期的には援助実施の好事例の共有を進めること、長期的には恒常的な政策対話に向けた方策を検討することを定め、活動を進めています。

→ 新興援助国に関しては、第I部のこちらも参照してください

< 世界銀行、アジア開発銀行の動き >

世界銀行(注3)
  世界銀行(以下、世銀)は、近年のグローバリゼーションの進展を踏まえ、2007年10月の世銀・国際通貨基金(IMF)合同開発委員会で、ゼーリック世銀総裁から長期戦略のビジョンとして「貧困層に配慮した持続可能なグローバリゼーション(Inclusive and Sustainable Globalization)」を示し、さらにビジョンを実現するための6つのテーマ((1)アフリカを中心とした貧困削減および持続的成長の実現、(2)ぜい弱国家のガバナンス向上、(3)中所得国の個別のニーズにこたえる支援、(4)気候変動をはじめとする国際公共財への関与の強化、(5)アラブ社会の開発と機会創出、(6)開発活動を通じた知識の集積と新たな支援手法の開発)を発表しました。
  また、世銀は気候変動について、アフリカ等におけるエネルギー・アクセスの向上、低炭素経済への移行、適応を3つの柱とする「クリーンエネルギー投資枠組み」の在り方を検討しており、検討結果を2008年のG8北海道洞爺湖サミットに報告する予定です。2007年9月には気候変動対策の一環として森林カーボンパートナーシップ基金(FCPF)、カーボンパートナーシップ基金(CPF)の設置を決定し、日本はFCPFに最大1,000万ドルを拠出することとしています。
  さらに、世銀グループで最貧国への支援を行う国際開発協会(IDA)は、貸付の約半分をアフリカに振り向ける等アフリカへの支援を強化しており、世銀は、2008年に日本が開催するTICAD IVの共催者にも名を連ねています。

アジア開発銀行
  2007年5月、京都で第40回アジア開発銀行年次総会が行われました。日本での開催は1997年の第30回総会に続いて4回目です。日本からは、尾身財務大臣(当時)が出席し、アジア太平洋地域の力強い経済成長を持続させていく上での「投資の促進」、「気候変動への対応」、「科学技術における協力の促進」の重要性について発言しました。また、投資の促進、省エネルギーの促進を目的とした、日本とアジア開発銀行との協力枠組みとして「アジアの持続的成長のための日本の貢献策(ESDA (注4))」を発表し、アジア開発銀行とJBICとの協調融資を促進するとともに、同分野の支援のための基金を設立することとしています。

< G8関連 >

G8開発大臣会合
  2007年3月末、ベルリンで、G8およびEU等の開発大臣が集まり、ドイツのG8議長下での開発分野の重点事項について議論を行いました。
  日本からは、岩屋毅外務副大臣(当時)が出席し、同会合に先立って、自ら議長を務めたケニア(ナイロビ)で行われた「TICAD持続可能な開発のための環境・エネルギー閣僚会議」の議論を紹介し、日本のアフリカ、環境・気候変動への積極的な取組について発言しました。
  同会合では、後述するG8ハイリゲンダム・サミットに向けて、G8としてアフリカの好調な経済成長や、平和の定着・民主化での前向きな動きを後押しすることができました。また、新興経済諸国およびアフリカの地域機関・国際機関との対話では、新興経済国が対外援助の透明性を高め、ガバナンスへの配慮、「援助効果向上に関するパリ宣言」等の国際的なルールを尊重すべきことが指摘されました。アフリカの地域機関からは、開発の前提としての紛争解決の重要性が強調されるとともに、気候変動対策は平和と安全にもかかわる問題であるとの切実感が示されました。

→ パリ宣言については第I部のこちらも参照してください

G8ハイリゲンダム・サミット
  33回目を迎えた主要国首脳会議(G8サミット)は、6月6日から8日までドイツのハイリゲンダムにて開催されました。
  G8ハイリゲンダム・サミットでは、議長国ドイツが提示した「成長と責任」のテーマの下、「世界経済」、「アフリカ」が主要議題となりました。世界経済の分野では、気候変動が大きなテーマとなり、政治・安全保障分野では、北朝鮮、イランの核問題を含む不拡散等について議論が行われ、「議長総括」に加え、世界経済、貿易、アフリカ、不拡散、テロ対策、スーダンの成果文書が発出されました。また、今回のサミットには、ブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカの新興経済諸国およびその他のアフリカ諸国、さらに関係国際機関の長が招待されました。
  開発問題については、G8としてこれまでの約束を着実に実施することが重要であり、アフリカにとって信頼できるパートナーであることを示す必要性が共有されました。また、アフリカ諸国同士による、政治、経済、民間企業活動におけるガバナンスに関する、相互評価、経験共有のためのメカニズム(APRM (注5))を支持していくことや、中国など新興援助国が建設的役割を果たすよう対話を行っていくこと等が指摘されました。さらに、世界エイズ・結核・マラリア対策基金への拠出促進、蚊帳供与を含むマラリア対策、エイズ対策への普遍的なアクセスに向けた努力を強化し、G8で少なくとも600億ドルを今後とも提供する努力を継続することが合意されました。
  アフリカ諸国(注6)との対話においては、アフリカ連合(AU)やアフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD (注7))とのパートナーシップを通じて、ガバナンスの向上を支援していく必要性等も指摘されました。安倍晋三総理大臣(当時)から、2008年5月にTICAD IVを開催する予定であり、アフリカにおける貿易・投資の促進を支援するため、後発開発途上国(LDC (注8))の産品に対する無税無枠措置拡充や一村一品運動などの取組を推進している旨が紹介されました。
  気候変動については、安倍総理大臣からサミットに先立ち発表した提案である「美しい星50」を紹介し、この提案を軸に議論が行われました。その結果、「G8として2050年までに世界全体の排出量を少なくとも半減することなどを含む、EU、カナダおよび日本による決定を真剣に検討すること」の旨が首脳文書に盛り込まれました。

→ 気候変動については、第I部のこちらも参照してください

  世界貿易機関(WTO)ドーハ・ラウンドについては、早期妥結を呼びかけるとともに、「貿易のための援助」の重要性を強調する独立の声明が発出されました。
  このほか、今回のサミットにおいて、G8とブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカの5か国との間で、今後2年間、ハイレベル対話プロセス(ハイリゲンダム・プロセス)を実施することが合意されました(注9)。この対話の成果は、2008年G8北海道洞爺湖サミットに中間報告として、2009年イタリアでのサミットに最終報告として提出されることが予定されています。

< 国連関連の動き >

  国際連合(以下、国連)において、「開発分野」への取組は、国際の平和や安全の維持と並ぶ国連の大きな目的の一つです。国連総会および国連経済社会理事会で開発に関する議論を取り扱っており、両機関は、加盟国や開発問題に携わる関係専門機関に勧告を行っています。
  2008年は、ミレニアム開発目標(MDGs)達成期限の折り返し点であり、国連においても、MDGs進ちょく状況や、開発に関する国連システムの活動の見直しが行われました。

国連経済社会理事会
  国連経済社会理事会(以下、経社理)は、国連会議・G8サミットで合意された国際開発目標を実施するための主要な組織(注10)として、その機能を強化しています。2007年の経社理実質会期から「年次閣僚級レビュー」が開催され、理事国および国連機関代表者との間での経験・情報の共有を目的に、MDGs達成計画および達成状況に関する各国による発表等が行われました。また、アフリカにおける食料増産技術、「良い統治」の必要性や政府開発援助の傾向等について討論されました。2008年以降も、MDGsにあわせたテーマの下、毎年レビューが行われます。

国連総会
  国連総会においては、2007年は「国連開発システム三か年事業活動政策レビュー」という3年に一度の見直しの年であり、国連開発システムによる開発途上国支援の有効性、効率性の評価および見直しが行われます。今回の見直しの中では、能力開発、南南協力、ジェンダーの主流化等について討議されています。
  このほか、国連諸機関の活動の一貫性を確保する観点から、2006年2月には、国連事務総長が15名から構成される有識者パネル「開発・人道支援・環境分野の国連システムの一貫性に関するハイレベル・パネル」を設置しました。日本からは、武見敬三参議院議員(当時)がメンバーに入りました。同パネルは、2006年11月に開発・人道支援・環境分野における国連システムの改革に関する具体的勧告を含む報告書を国連事務総長に提出しました。国連総会では、2007年6月から同報告書でとりあげられているジェンダー、人道支援、人権、資金、国レベルの「一つの国連」等のテーマ別に改革の具体案について協議を実施しました。最終的な結論は、第62回会期国連総会で引き続き協議されますが、国際開発目標の達成に向け、国連システムの強化および効率性の改善が目指されています。

国連開発計画(UNDP
  国連開発計画(UNDP)は、「持続可能な人間開発」を開発の基本理念に掲げ、貧困削減、民主的ガバナンス、エネルギーと環境、危機予防・復興の4分野に活動の重点を置いています。また、ミレニアム開発目標(MDGs)を開発戦略の最重点課題と位置付け、各国のMDGs進ちょく状況のモニタリングやキャンペーン活動等を行っています。
  日本は、専門性と経験を有するUNDPを重要なパートナーと位置付けています。例えば日本の国際協力が平和構築への取組を強化する中で、コソボ、パレスチナ、東ティモール、アフガニスタン、イラク等において、UNDPは紛争後の復興・開発分野で日本の支援を受けた多くの案件を実施し成果を上げています(注11)。また、UNDPが気候変動等環境分野で有する知見が、2008年に開催される第四回アフリカ開発会議(TICAD IV(注12))やG8北海道洞爺湖サミットで活用されることが期待されています。

< アジア太平洋経済協力(APEC(注13)

  アジア太平洋経済協力(APEC)は、アジア太平洋地域の持続可能な発展を目的とし、域内の全主要国・地域が参加するフォーラムです。
  2007年9月にオーストラリアのシドニーで行われたAPEC首脳会議では、主要議題として気候変動とエネルギー安全保障について議論されました。会議に参加した安倍総理大臣(当時)は、広くAPECメンバーの英知と意思を結集していく必要を呼びかけ、参加した首脳の賛同を得ました。これらの議論を受け、首脳レベルで「気候変動、エネルギー安全保障およびクリーン開発に関するシドニーAPEC首脳宣言」を採択し、(1)2030年までに域内のエネルギー効率を少なくとも2005年比で25%向上させる、(2)2020年までに域内の森林面積を少なくとも2,000万ヘクタール増加させる-という数値目標を含む行動指針に合意しました。WTOドーハ・ラウンドについても独立の声明が発出され、2007年内に交渉が最終局面に入ることを確保するとの政治的な意思が首脳レベルで表明されました。
  また、今後の地域経済統合の在り方に指針を与える「地域経済統合に関する報告書」が承認されたほか、テロ対策、緊急事態や自然災害への備え、感染症対策等人間の安全保障に係る課題につき一層の協力の緊密化で意見の一致を見ました。

(C)三井昌志
(C)三井昌志

<< 前頁   次頁 >>