(1) 調和化の促進と目に見える援助
MDGsで設定されているような開発目標を達成するために複数の援助国・機関が共通の目標や戦略を設定して、共同で取り組むといった新しい形の援助協調は、必然的に「顔の見える援助」とのジレンマを生じることとなります。一方、こうした援助協調においては、国家開発戦略策定やそれを実践するための各種行政制度の改善に対しての共同支援を行うことも多く、こうした支援に協力することによって、各国が単独で行う援助に比べて、開発に対してより大きなインパクトを与えることができます。こうした国家の基礎制度づくりを支援する共同作業に参加し、援助側の経験や考え方を被援助国や他の援助主体に示し、被援助国の国づくりに反映することは、援助国の存在感を示す新たな方法となっています。特に、援助協調が盛んで、かつ、相対的に日本の援助量が少ないアフリカ等においては、援助協調への参画は、物理的な「顔の見える援助」とともに、日本の存在感を示すために重要であることから、今後も積極的に取り組んでいく必要があります。
(2) 一般財政支援の意義
これまで、日本は、道路・橋りょう建設などのインフラ整備への資金協力においても、また、感染症予防などの技術協力においても、プロジェクトの計画に沿って一定期間内に決められた成果を出すプロジェクト型の援助を中心に政府開発援助を実施してきました。こうしたプロジェクト型の協力は、相手国の自助努力を重視し、プロジェクト終了後は、被援助国が予算を確保し、維持継続を行うことを前提として行われてきました。このような措置は、被援助国が援助依存に陥ることなく、援助実施後は自助努力によって発展していくべきという日本の援助理念に基づいたものです。しかし、近年、世界銀行を中心に行われている被援助国の財政収支や公共支出に関する調査等では、貧困国であればあるほど財政収入が限定的であり、途上国政府が独力で開発に必要な経常経費を確保することは事実上困難で、財政面での支援が必要であることが指摘されてきました。これは、プロジェクト実施後の経常経費を自助努力で賄うことができなければ、例えば、教育機会を拡大するために学校建設の協力を行っても、その学校のために教師を雇って給料を支払ったり、教科書を配布したりするために必要な経常経費に対する協力なしには、十分な開発成果が得られない場合があるからです。こうしたことから、開発途上国の開発計画を支援するために、プロジェクトの初期投資にも、また、その後の経常経費にも使用できる「財政支援」(注6)の形態で援助を要請する被援助国がサハラ以南のアフリカ諸国を中心に増えてきています。こうした状況を受けて、国際機関をはじめ英国や北欧を中心とする援助国は財政支援を主要な援助形態として位置付け、積極的に支援を行うようになっています。
サブ・サハラ・アフリカ諸国を中心に、多くの被援助国が日本に対しても財政支援を要望している中で、日本は被援助国の自助努力を支援するという援助理念を前提としつつも、開発途上国の実情に合った形で援助をより効果的に行うために、必要な場合には、財政支援による援助を行うこととしています。これまでにインドネシア、ベトナム、カンボジア、ラオス、タンザニアでの支援実績があります。また、2007年度から貧困削減戦略支援無償の制度を導入し、開発途上国が貧困削減戦略文書(PRSP)に沿って貧困削減に向けた事業を実施する際に財政支援による協力を行っています(注7)。
(3) 被援助国の自主性の尊重と日本国民への説明責任
援助の効果を向上するためには、被援助国が主体性を持って開発計画を策定し、その実施に取り組むことが不可欠であり、そのための人材、組織・制度の能力強化が重要な課題となっています。この観点から、援助を実施する際には、被援助国の財政制度や調達制度を利用することによって、その制度を強化し、被援助国の自立を促進することが国際的な努力目標となっています。こうして被援助国の制度を利用することは、援助を受け入れる際の負担を軽減するという観点からも有効とされ、パリ宣言では、援助国・機関が取り組むべき重要項目として、定期的なモニタリングの対象となっています。
一方、被援助国の国内制度に沿って援助資金を管理する場合、援助国側の財政制度や監査で求められる予算管理の必要手続きを満たせない場合が出てくることがあります。また、被援助国政府の制度や人材の能力が不十分な場合は、援助資金が適正に執行管理されず、援助国側の国内における説明責任が十分に果たせなくなる可能性があります。このように、日本は援助効果向上に向けた国際的な取組課題を果たしていく中で、日本国民への説明責任とのジレンマという簡単には解決できない問題を抱えています。日本の援助は、資金の適正な執行と国民への説明責任を果たすことを前提条件として実施していますが、リスクがあっても被援助国の主体性を尊重し、被援助国の制度を利用して援助を行うべきと考える援助国・機関が多数を占めているのが実状です。これを一例として、援助効果向上のために必要な取組は何かということについては、各国の価値観や援助理念によって意見が異なっています。こうした異なる理念を持つ諸国と協調して援助効果向上に取り組むことは日本として必ずしも容易ではない場合がありますが、責任ある援助国の責務として、また、援助コミュニティや被援助国における存在感を示す意味でも、こうした援助効果向上の取組を今後も積極的に行っていく必要があります。
その観点から、日本は、2005年のパリのハイレベル・フォーラムにおいてパリ宣言を実施促進するための「援助効果向上に関する日本の行動計画」(行動計画)を独自に発表し、これに基づいてより効果的な援助を実施するための努力を行っています。例えば、同行動計画の目標の一つとして、日本の比較優位が認められる分野においては、途上国が策定した開発のプログラムに従って、各国と調整しながら支援を行っていくことが挙げられており、これまでに、日本は20か国、41分野においてそのような取組に参加しています。また、組織の効率化、取引費用の削減の関係では、2008年にJICAとJBICの円借款部門が統合して発足する新JICAは、技術協力、有償資金協力、および無償資金協力の3つの援助手法を一元的に実施します。これにより、案件形成や実施の段階で援助手法間の連携が強化されるほか、手続きの合理化が促進されることで、パリ宣言という国際的な基準も踏まえつつ、より効果的な援助の実施が期待されます。