2. 近年の援助の潮流

  このように援助における成果重視の高まりや、援助主体の増加、多様化といった、援助を取り巻く環境の変化の中で、援助側もその変化に応じて援助の実施方法を改善していく必要に迫られています。こうした状況に対応するため、以下のような新しい取組が活発化してきました。

(1) 援助量の拡大~援助資金拡大に向けた取組の強化~
  MDGsは、2015年までに開発・貧困撲滅を実現するための国際社会共有の目標として設定されましたが、国連・世界銀行からは、MDGs達成のためには当時年間500億ドルであった政府開発援助の倍増(年間1,000億ドル)が必要であるとの試算が発表されました。このような開発資金の不足を補うため、2002年3月にモンテレー開発資金国際会議が開催され、中長期的な支援に対する新たな約束が援助国・機関に求められたほか、2005年のG8グレンイーグルズ・サミットをはじめとする様々な国際場裡で、MDGs実現に向けた援助資金の増加に関する約束が求められるようになりました。このように、援助資金の増加に関する国際的な取組が強化されていることが近年の傾向の一つとして挙げられ、その結果、DAC加盟国による政府開発援助の総額は2001年の524億ドルから、5年間で倍増し、2005年には過去最高の1,068億ドルを記録するに至っています。
  しかしながら、開発途上国の膨大な開発課題を克服していくための援助資金の不足は通常の政府開発援助予算の増加努力だけでは確保できないという現状認識から、伝統的な政府開発援助の枠組みを超えて、追加的に開発資金を増加させる方法が検討されるようになりました。このような国際的な取組の一つとして、保健分野を中心として援助資金拡大のための新たな仕組みの導入が始められています。「革新的資金メカニズム」と呼ばれるこうした動きには、以下のような事例があります。

航空券連帯税
  中長期的に安定的な開発資金を確保することを目的として、航空券に航空券連帯税という新たな税を課すという方法が、フランスを中心に提唱され、その導入が進められています。この制度の導入により、フランスでは、年間約2.1億ユーロの援助資金が確保できると試算されています。航空券連帯税により得られた資金を配分するユニットエイドによれば、フランス、チリ、コートジボワール、韓国等の8か国が航空券連帯税を実施しており、それ以外に、ブラジル等15か国が実施を準備しています。日本は、現在政府開発援助を含む歳出削減に取り組んでおり、航空券連帯税については、新たな税を創設することについて国民の理解を得ることは困難であることから、その導入には慎重な立場をとっています。

予防接種のための国際金融ファシリティ(IFFIm (注3)
  国際金融ファシリティ(IFF)は、援助国による長期的な資金拠出に対する約束を担保に債券を発行することにより、政府開発援助を前倒しして開発資金を調達する仕組みです。2005年11月に、英国は、IFFのパイロット事業としてIFFImを立ち上げ、第1回目の債権を発行しました。IFFImにより、今後10年間で40億ドルの資金が調達される予定であり、その収入は、「ワクチンと予防接種のための世界同盟(GAVI (注4))」を通じてワクチン開発および予防接種促進に活用されることとなっています。
  IFF構想については、政府開発援助の前倒し調達を行う結果として2015年以降の政府開発援助が急減することや、既存の国際機関の活動との重複が生ずることなどの問題の克服が課題となっています。そのため、G8諸国では、英国(提案国)・フランス・イタリアが支持を表明する一方、日本・米国・カナダは慎重な立場をとっています。

(2) 援助配分の見直し~アフリカ重視~
  開発途上国はそれぞれに異なる多様な開発課題を抱えており、開発援助は各国の課題に応じて幅広く実施されてきました。しかし、MDGsにより、貧困削減を中心とする国際的な開発目標が設定されたことや、各国がそれに沿った貧困削減戦略文書(PRSP)を作成するようになったことなどから、これらの目標を達成するために、援助資金の集中と選択を図る努力が行われるようになってきました。こうして、どの国のどの分野に重点的に援助すべきかという援助資金の配分についての援助主体側の意識と議論が高まってきたことが、近年の傾向の一つとして挙げられ、特に、アフリカに対する支援強化を打ち出すイニシアティブが顕著になっています。世界で50か国ある後発開発途上国(LDC)のうち、34か国があるアフリカの国々は、長期にわたる経済の低迷を受けて、1960年代には韓国、マレーシアと同じレベルにあった人口一人当たりの所得水準は現在、当時よりも低い水準にとどまっています。サハラ以南のアフリカ地域の人口の約4割は、一日1ドル以下で生活する絶対的貧困の状態にあり、HIV/エイズ、マラリアなどの感染症がまん延するなど、アフリカの貧困はより深刻なものとなっています。このように、アフリカではMDGsの達成が困難な状況にあることなどから、同地域に対して重点的に援助を配分していく国際的な機運が高まっており、協調した努力が進められています。日本が主催した2000年のG8九州・沖縄サミットでは、初めてアフリカ諸国首脳を招き、主要国首脳との対話の機会を設けました。また、2005年のG8グレンイーグルズ・サミットでは、アフリカへの開発資金の増額の見通しが立てられ、G8サミットが一層強くアフリカを支援していくことで一致しました。同会議において、日本は、対アフリカ政府開発援助を3年間で倍増することや、引き続きアフリカの自助努力を支援していくことを表明しています。こうした努力の結果、サハラ以南アフリカ向けの援助は急増しており、2001年の849.91百万ドルから、2006年の2,544.54百万ドルとなっています。

(3) 援助の質の改善~援助効果向上に向けた取組~
  MDGsや、国別のPRSPなどの共通の開発目標の達成のためには、援助の量を増加するだけでなく、質的にも向上させ、より効果的な援助を行う必要があります。援助を国家の開発に有効利用していくためには、被援助国自身が自助努力の意識を持って援助を有効活用していくことが最重要です。一方、援助主体が増加したために、被援助国に過度の負担がかかっていることなどから、援助側には、被援助国の開発戦略の優先順位に沿って、可能な限り協調した形で援助を行い、受入国の負担を少なくすることが求められています。こうした点を含め、援助効果向上に対する意識は年々高まっており、2003年2月にローマ、2005年3月にはパリにおいて、援助国・機関および被援助国の閣僚級の参加者が集い、援助効果向上に関するハイレベル・フォーラムが開催されました。2005年のパリのハイレベル・フォーラムで採択された「援助効果向上に関するパリ宣言(パリ宣言)(注5)」では、援助の質を向上するために必要な取組について、援助側と被援助国それぞれが守るべき56の約束事項がとりまとめられました。現在では、このパリ宣言が援助効果向上のために必要な援助の規範として広く認知され、国際的な実施促進が行われています。
  援助効果向上の取組においては、新しい援助環境に合うよう、これまでの援助側の慣行の見直しと新たな課題への対応が求められています。例えば、複数の援助主体と共通の分野別戦略・実施・モニタリング枠組みで実施する「セクターワイド・アプローチ」による援助を増加すること、援助の予測性を高めるために複数年の援助予測を示すこと、援助の実施にあたっては、被援助国の財政・調達・監査制度を利用することなどがパリ宣言において求められています。こうした取組は、これまでの日本の援助の制度では対応できないものも多く、また、国別に様々な状況がある中で、必ずしもすべての国に同じ原則を適用することは困難ですが、日本は援助を巡る新しい環境に対応して援助の実施方法を改善しつつ、援助効果向上に関する国際的な取組に貢献しています。


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