第2章 国際的な援助潮流と日本の取組

アフガニスタンの学校で女子児童に対する持ち帰り食糧としてWFPから配給されたレンズ豆
アフガニスタンの学校で女子児童に対する持ち帰り食糧としてWFPから配給されたレンズ豆 (写真提供:WFP / Ebadullah Ebadi)

第1節 国際的な援助の動向

1. 変化する援助環境

(1) 援助における成果重視の定着
  日本を含む先進国からの政府開発援助(ODA)は、1992年の605億ドルをピークとして、2001年の524億ドルまで、10年近くにわたって低下傾向にありました。2001年以降、政府開発援助が再び増加に転じた背景には、米国の同時多発テロに起因する国際社会情勢の変化等、複合的な要因があったと考えられますが、この期間の開発援助の世界での変化を特徴付ける要因としては、1999年9月の世界銀行・国際通貨基金総会で貧困削減戦略文書(PRSP)の策定が合意されたことと、2001年9月の国連事務総長報告書でミレニアム開発目標(MDGs)が発表されたことが挙げられます。長年にわたり援助を続けているにもかかわらず、目に見える効果が現れていないのではないかという停滞感から先進国が援助疲れに陥る中、MDGsは、貧困削減という万人が共有できるテーマの下、測定可能な国際的な共通の開発目標を提示することで、援助に対する意識と動機付けを高めることに貢献しました。PRSPは、MDGs達成のための国別の基本戦略として位置付けられ、途上国政府は先進国や国際機関との緊密な対話に基づいて、一定の援助資金を前提とした貧困削減のための中期計画を作成するようになっています。
  MDGsがもたらした重要な貢献の一つとして、援助の世界に成果重視の考え方を定着させたことがあります。これまで、一般的な援助の目標として使われてきた尺度は、援助総額や国民総生産(GDP)の何%の援助を行うかといった、「投入」に関する議論であり、援助の結果、どれだけ被援助国の所得が増えたか、また、どれだけ識字率が上がったかという援助の成果については、専門家以外の人に議論されることは余りありませんでした。MDGsは、援助の成果に焦点を当て、「2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を半減させる」、「2015年までに、すべての子どもが男女の区別なく初等教育の全過程を修了できるようにする」といった分かりやすい成果指標を立てることで援助の目標を明確化し、国際援助コミュニティに成果重視の考え方を定着させたといえます(注1)

(2) 新たな援助主体の台頭
  2001年以降、世界全体の援助量が増加傾向に転じていますが、開発援助委員会(DAC)加盟国のような先進国以外の国や主体による援助が急増していることもその一因です。例えば、1960年代には被援助国1か国で活動する援助国・機関の数は平均して12でしたが、2001~2005年には33に増加しています。現在は230以上もの国際機関、基金、プログラムが存在しているといわれており、特に、保健分野においては、援助国、国際機関、NGO、民間財団などを含め、主なものだけでも100以上の主体が国際的な援助活動を行っています。このように、新しい援助主体による活動が増加し、その構成が多様化・複雑化してきたことも近年の援助環境の特徴の一つとなっています。
  その中でも近年注目を集めているのは、「ワクチンと予防接種のための世界同盟(GAVI)」や「国際エイズ・ワクチン推進構想(IAVI)」等、2002年1月に設立されたエイズ・結核・マラリア対策世界基金のように、特定の開発課題に対し、地球規模で援助を行う財団や基金による援助が増加していることです。世界基金は、2007年10月現在、三大感染症(エイズ・結核・マラリア)対策に特化して、136か国における450件以上の事業に対し約86億ドルを上限とする無償資金供与を承認しており、世界中で支援されているこれらの三大感染症対策のための資金のうち、HIV/エイズ対策で21%、結核で67%、マラリアで64%を世界基金による支援が占めるに至っています。
  また、民間の財団による支援も増加してきており、開発援助における重要性が高まっています。例えばマイクロソフト社の共同創設者であるビル・ゲイツ氏が創設したビル&メリンダ・ゲイツ財団は、独自の資金に加えて、2006年に投資会社バークシャー・ハサウェイの最高経営責任者であるウォーレン・バフェット氏から300億ドル相当の寄付を受けるなど、民間セクターからの豊富な資金力を背景に、2006年には保健や教育分野を中心に年間16億ドルの協力を行う援助主体となっています(米国内の貧困救済事業等を含む)。
  さらに重要な点として、BRICs(注2)を中心とする新興援助国が台頭し、その影響力を強めていることも近年の新しい特徴の一つとなっています。これらの新興援助国の援助に関する情報は十分に明らかになっていませんが、例えば、2004年のラオス政府の援助報告によると、中国の援助は対ラオス二国間援助の第2位を占めています。また、2006年に開催された「第3回中国・アフリカ協力フォーラム」において、中国は2009年までにアフリカ諸国に対する援助規模を2006年の2倍にすることや、中国企業の対アフリカ投資支援のために50億ドルの「中国・アフリカ発展基金」を設立することを発表し、国際的な注目を集めています。このような新興援助国の台頭に関する国際社会の関心は高まっており、2007年のG8ハイリゲンダム・サミットでも、アフリカの開発において新興経済国が果たしうる役割を肯定し、責任ある利害関係者(ステークホルダー)として関与することを促していくことが合意されました。また、新たに設けられた、G8諸国と主要新興経済5か国(ブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカ共和国)との対話プロセスであるハイリゲンダム・プロセスでは、開発問題についても2009年までの2年間でハイレベルの対話を行っていくこととされました。
  こうした新たな援助主体の台頭は、援助資金の増加という利益をもたらす反面、それぞれの主体が独自の援助手続きや条件を被援助国に課すことにより、開発途上国政府に過度の負担がかかるという負の側面ももたらしています。例えば、1990年代半ばのタンザニアでは、40を超える援助国・機関が2,000ものプロジェクトを相互の調整なく実施していたことが報告されています。その結果、タンザニア政府に過度の負担がかかり、政府の担当官はその対応に忙殺され、全体の援助が非効率になるといった、援助構造の複雑化がもたらす新たな問題が指摘されるようになりました。
  また、一部の財団や基金は、被援助国の開発優先分野や、各セクターの開発戦略とは調整されない形で、特定の分野に対して特定の形態の援助を実施するため、国別の開発戦略の下で協調を進めている援助国・機関の援助と整合性がとられていないという問題も指摘されるようになっています。

図表I-8 DAC諸国から開発途上国と国際機関への政府開発援助供与実績の推移

図表I-8 DAC諸国から開発途上国と国際機関への政府開発援助供与実績の推移


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