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(2)持続的成長
重点課題の2つ目は持続的成長です。途上国の安定と発展にとって、持続的成長は不可欠な要素であり、また、経済成長を通じて貧困削減を達成するというアプローチも重要であることから、日本としては、途上国の持続的成長に向けた努力を積極的に支援していく考えです。そのためにも日本は、以下で説明するように、「開発途上国の貿易、投資及び人の交流を活性化し、持続的成長を支援するため、経済活動上重要となる経済社会基盤の整備とともに、政策立案、制度整備や人づくりへの協力も重視」します。
また、新しいODA大綱は、ODA、貿易、そして投資が「有機的関連を保ちつつ実施され、総体として開発途上国の発展を促進するよう努める」としています。世界全体の途上国への資金の流れを見ると、ODA以外の資金は全体の約4分の3を占めています。つまり、途上国に流れる資金の中でODAが占める割合は約25%にすぎず、効果的な開発援助を進めるには、残り約75%を占めるODA以外の資金の流れを見据え、それぞれの資金の性質を踏まえた役割分担と連携を図ることが必要不可欠です。したがって、新しいODA大綱にも明記されたとおり、「ODAと貿易保険(注)や輸出入金融などODA以外の資金の流れとの連携の強化にも努めるとともに、民間の活力や資金を十分活用しつつ、民間経済協力の推進」を図っていく考えです。
■経済社会基盤の整備
開発援助の世界では、貧困層に直接影響が及ぶような貧困対策や社会開発に注目が集まっていますが、日本は、貧困削減のためには、そういった支援のみならず、持続的成長が不可欠であるとの立場から、途上国の発展の基盤となる交通網や通信網の整備・構築といった経済社会基盤(インフラ)分野の支援も重視しています。インフラの整備は、日本や東アジア諸国の経済開発の経験から、産業発展や貿易を促し、雇用・所得の機会を増大させるという長期的な貧困削減効果とともに、人々の日常生活に関わる水・電気・衛生・道路などの基礎的なサービスの提供を通じた直接的な貧困削減効果も期待されます。
なお、インフラ分野の事業は通常巨額の資金を必要とすること、耐用年数が長く長期にわたり経済的な便益が見込まれるものが少なくないことから、有償資金協力(円借款)の比重が高くなっています。他方、後発開発途上国(LDCs:Least Developed Countries)等に対しては無償資金協力によるインフラ整備も行われています。
コラムI-4 貧困削減に役立つインフラ案件(スリランカ)
■政策立案、制度整備
日本は、途上国の政策・制度づくりなどソフト面への支援需要に応えるため、政策アドバイザーなどの専門家派遣、諸制度を整備するため研修員の受入や開発調査を活用した支援を行っています。
インドネシアを例にとってみると、2001年9月の日本・インドネシア首脳会談の了解に基づき「経済政策支援プログラム」を立ち上げ、同国にとり重要な政策課題(マクロ経済運営、銀行セクター改革、民間投資拡大、中小企業振興、地方分権、及び民主化)について、日本側6名の有識者(大学教授)とインドネシア側主要閣僚等との政策対話を通じ、同国の改革努力を支援しています。2002年3月以来、5回の会合を行い(全体会合5回のほか、必要に応じ課題毎に会合を実施)、特に「財政の持続可能性」及び「国際競争力の強化」を課題に共通のテーマとしてインドネシア側に政策提言を行っております。

インドネシア経済政策支援
最近では、2003年末の同国のIMF融資プログラム(注)卒業に向けて、経済政策支援プログラムの日本側のチームは、大使館を中心とする現地ODAタスクフォースとの連携を図りつつ、ジャカルタ・ジャパン・クラブ(JJC:Jakarta Japan Club、現地日系企業の団体)とも協議を行い、インドネシアの経済戦略とも言える「IMF卒業前後の「経済政策パッケージ」」の策定及び実施にあたっての助言を行いました。同パッケージは2003年9月に大統領令により発表され、その内容は国際社会でも概ね評価されています。今後は、そこに記載されている施策の達成に向けて、この経済政策支援プログラムを通じ、引き続きインドネシア側に種々提言を行っていく予定です。
■貿易・投資の促進
貿易・投資の促進は、雇用の増大、民間セクターの活性化、新規技術の開発・流入をもたらし、経済の発展に重要な役割を果たすことから、途上国に対する貿易・投資関連の協力は持続的な経済成長に資するものです。日本は貿易・投資促進分野に対する支援として、インフラ整備等を通じた支援のほか、知的財産権の適切な保護、基準認証制度の整備、物流の効率化といった貿易・投資円滑化のための制度整備を進めるとともに、人材育成やWTO加盟支援等を重視して実施しています(貿易・投資の促進に関する日本の具体的な取組については第II部2章2節3参照)。
■情報通信技術(ICT:Information and Communication Technology)の分野における協力
ICT(以下ITと表記)は持続的成長の項目として盛り込まれていますが、日本は先進国と途上国の間の情報格差(デジタル・ディバイド)に対応するため、2000年の九州・沖縄サミットに先立ち「国際的な情報格差問題に対する包括的協力策」を発表したほか、2003年7月には、内閣総理大臣を本部長とし、閣僚及び各界有識者より構成されるIT戦略本部により、日本のIT分野に対する基本戦略としてe-Japan戦略IIが策定されました。このe-Japan戦略IIでは、ITを軸とした新たな国際関係の展開を基本理念の1つとしており、アジア・ブロードバンド計画(2003年3月策定)、及びアジアITイニシアティブ(AITI:Asia IT Initiative)(2003年6月内閣官房にタスクフォースを設置)の推進等により、IT分野における国際協力を進めることを掲げています。2003年度において、アジア・ブロードバンド計画では、ASEAN諸国や中国等との間で本計画推進に関する合意を形成し、各種共同研究プロジェクト、政策対話、ODA案件等を実施、AITIでは東南アジア諸国への政府ミッションの派遣、政策対話を実施し、3か国(注)と包括プログラムの推進に関する共同宣言を発出するなど、2004年度以降の具体的な案件の推進を図っています。
コラムI-5 アルジェリア地震災害への国際緊急援助隊の派遣
2003年12月にはジュネーブにおいて世界情報社会サミット(WSIS:World Summit on the Information Society)が開催され、日本はICT重視と国際貢献を強く表明するとともに、既存の協力メカニズムを有効活用すべきことを主張し、その旨はWSISにおいて採択された情報社会構築の原則に関する宣言及び行動計画に反映されました。