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(3)地球的規模の問題への取組
地球的規模の問題への取組も重点課題の1つと位置づけました。20世紀後半の人間の経済諸活動の高度化・拡大に起因する地球温暖化、オゾン層の破壊等の地球環境問題や、途上国における人口増加、グローバル化の進展に伴う武器、薬物の密輸をはじめとする国際組織犯罪、テロ、そしてHIV/AIDS等の感染症といった国境を越える問題が深刻化する中で、一国では対処できないこれら地球的規模の問題に対する取組強化の重要性が認識されるようになりました。新しいODA大綱では、こうした地球的規模の問題は、国際社会が直ちに協調して対応を強化すべき問題であり、日本としても「ODAを通じてこれらの問題に取り組む」と位置づけました。以下では、地球的規模の問題について、日本のODAを通じた取組について説明します。
■環境問題
地球的規模の問題の代表格である環境問題は、1970年代から国際的に議論されてきていますが、1992年の国連環境開発会議「地球サミット」とその10年後の2002年のWSSDに至る議論を通じて、環境、経済と社会の3つの要素からなる持続可能な開発という概念が定着するに至りました。日本としても、環境問題は全人類的課題と位置づけ、これまでも重点的に取り組んできましたが、日本は、2002年のWSSDに合わせ「持続可能な開発のための環境保全イニシアティブ(EcoISD:Environmental Conservation Initiative for Sustainable Development)」を策定し、経済発展に伴う環境汚染への対応や、環境問題の根源にある貧困の解決、さらには地球規模の環境問題への対応のための支援を行っています。
■人口、食料、エネルギー
人口問題等の地球的規模の問題は、旧ODA大綱でも重点事項として掲げられていましたが、新しいODA大綱でも引き続き重要な分野として位置づけられています。増加の一途にある世界の人口は、1999年に60億人に達し、国連の推計では、2050年には約89億人に達すると予測されています(注)。このような人口の増加は、既述した地球環境の破壊、世界で約8億人が慢性的な栄養不足であるという食糧不足の悪化、エネルギー資源の逼迫などの問題を通じて経済開発の阻害要因となっています。日本としては、人口分野と同時に基礎的保健医療や基礎教育、女性の地位向上への支援など包括的な取組のほか、食料生産力を高める途上国自身の努力に対する協力を進めています。また、エネルギー分野への協力は民生向上や貧困対策のための地域電化や送配電施設の整備といった案件が増えており、比較的規模が大きく、経済効果も高いことから、有償資金協力(円借款)による支援が中心となっています。また、日本が培ってきた省エネルギー技術を用い、発電や配電の段階におけるエネルギー効率を改善させ、化石燃料の使用量削減、地球温暖化防止にも貢献しています。
■災 害
近年、世界的異常気象等により自然災害が多発しており、その被害も大規模化する傾向が見られます。日本は、地震、台風、洪水、火山噴火等による多くの自然災害を経験していますが、そうした経験を通じて培ってきた様々な教訓、知識、技術、人材を活用して、災害予防、災害復興の両面で質の高い協力を実現し、国際社会において積極的に貢献しています。
例えば、自然災害が発生した場合には、被災国への国際緊急援助隊の派遣、緊急援助物資の供与及び緊急無償資金協力により、日本の経験を生かした迅速かつ機動的な支援を行っています。
また、日本は、阪神淡路大震災から10年目にあたる2005年1月に国連防災世界会議を日本で開催するよう招請することについて、閣議了解による国内の意思決定を行うとともに、国連の場で、関係各国の支持を求め外交努力を行った結果、2003年12月、第58回国連総会において国連として同会議を日本で開催することが正式に決定されました。
■感染症
HIV/AIDS、マラリア、結核に代表される感染症は、途上国において将来の国づくりを担う人材を失うことで、現在、経済・社会発展を阻害する大きな要因となっており、貧困削減の観点からもその取組は重要となっています。このため、日本は2000年以来、沖縄感染症対策イニシアティブを推進しこれまでに20億ドル以上の支援を行ってきたほか、国際社会の主要な取組である世界エイズ・結核・マラリア対策基金へも積極的に貢献してきています(世界基金については第II部1章3-(2)-(イ)参照)。また、感染症等は、グローバル化の進展にともない人の移動が容易になったことなどから、容易に国境を越えて先進国にも拡がる可能性があり、地球的規模の問題として国際社会が協力して対処することが求められています。このため、日本はUNICEF、WHO、UNAIDSなどの国連機関や、米国など他の援助国と連携して、感染症対策を行っています。例えば、2003年には、アジアを中心にSARSが集団発生しましたが、日本はWHO等による国際機関を通じた支援を行うとともに、ベトナム、中国への緊急援助隊専門家チームの派遣及び緊急無償資金協力の実施を含め二国間の感染症対策に積極的に取り組みました。
■テ ロ
テロは、国境を越えて行われ、途上国のみならず、先進国を含めた国際社会全体に直接影響を及ぼす重大な地球的規模の問題です。途上国の中には、出入国管理、テロ資金対策などテロに対処するための能力が必ずしも十分でない国もあり、テロリストに安住の地を与えないという観点から、日本としても、これら諸国のテロ対処能力の向上を重視しています。これまでもアジア太平洋地域諸国を中心に、主に研修・セミナーを通じて、テロ対処能力の向上に向けた支援を行ってきましたが、今後ともテロ対策関連機材の供与などを含め、この分野での協力を積極的に行っていく方針です。
■麻薬、組織犯罪
麻薬等の薬物問題は地球的規模の深刻な問題であり、国際社会が協調して対応を強化しなければならない問題です。日本は、薬物対策に関し、これまで二国間援助、国際機関への拠出などを通じて積極的な取組を行っています。
二国間援助では、薬物関連犯罪の防止や取締能力向上への支援を行っているほか、薬物問題の背景に貧困問題があることを踏まえ、住民が薬物栽培に頼らず生活できるようにするため、代替作物栽培への支援や、NGOを通じた支援などを実施しています。
国際組織犯罪の中でも最近深刻化している人身取引、密入国ほう助等については、対策強化のためのセミナー等を開催したり、国際機関の取組を支援しています。
■国際的な規範づくりへの参画
また、日本は、日本の知見と経験を生かしつつ、気候変動枠組条約及び京都議定書の策定、同議定書の発効に向けた更なるルール作りへの取組に見られるように、国際社会においてこれら諸問題の解決を図るために進められている国際的な規範づくりを推進し、その策定及び履行過程においても積極的に関与していく考えです。こうした努力は、ODAを通じた協力と合わせて、地球的規模の問題に対する取組をより一層効果的にするものであると考えています。