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経済

日本のFTA戦略


2.EPA/FTAを締結する具体的メリット

(1) 経済上のメリット

(イ) 貿易創造・市場拡大効果

 一般的な経済効果としてEPA/FTAの締結により双方に残存する関税・非関税措置が取り除かれるとともに、サービス・資本の更なる自由化、投資の促進、基準認証や競争政策の共通のルールを含めた幅広い市場の一体化が達成され、輸出入市場の拡大が期待できる*5。さらに域内市場の拡大はその経済のダイナミズムの拡大を通じて域外国との経済関係の増大をも期待できる*6。

(ロ) 競争促進・経済活性化効果

 グローバル化に対応するための構造改革は、一国のみでは十分な実現が困難な面もあるが、EPA/FTAを通じ安価で良質なモノ・サービスの輸入促進や域内での企業間の競争や提携の促進が実現される結果、より効率的な産業構造への転換、規制改革を含む構造改革等を促し、効率的な分業がもたらされるとの効果が期待できる。ただし、このような効果は、後述するように日本がEPA/FTAを締結して今後の相互依存関係の深化による構造改革を進めるという明確な戦略ビジョンの下で行うものでなければ、大きな効果は期待できない。

(ハ) 争条件の改善(貿易転換効果への対応)

 EPA/FTAは原則的に域外に対しては差別的な枠組みであり、これに参加しない国には利益が自動的には共有されず、また貿易転換(ダイバージョン)も起こり得る。WTOのグローバルな自由化交渉により、EPA/FTAの拡大により生じる差別的特恵マージンを減殺することが正攻法であるが、これが不十分な場合や特定の国・地域の場合(とりわけメキシコのように、メキシコが第三国と結んだEPA/FTAにより日本企業が不利な状況に置かれる度合いが高い場合)、日本とある程度以上の経済関係にある国についてはEPA/FTAによりこのような差別効果を減少していく必要がある*7。

(ニ) ルールに基づく紛争処理(政治摩擦の最小化)

 EPA/FTAにより、自由化の阻害要因を撤廃するのみならず、幅広い分野でのルールに基づく紛争処理が実現することを通じ、個々の経済問題が政治・外交問題化することを最小化する効果が期待できる。貿易分野の紛争処理は基本的にWTOのルールに基づくとしても、特にWTOがカバーしない分野や当該国特有の経済・市場条件に基づいた分野についてEPA/FTAによる紛争処理メカニズムを構築することが有益であろう。

(ホ) 制度の拡大・ハーモナイゼーション

 EUは、途上国とのEPA/FTA締結に際し、EU市場の開放を通じて途上国産品の参入を受け入れると同時にEUのルール、制度への調和を求める形でルールの普及に努めている。EUはさらにそれをWTOを通じて世界全体へ拡大することも視野に入れている。このように、EPA/FTAを通じて近代的経済制度を日本と経済取引関係の大きい諸国に普及させていくことが可能であり、右は地域全体の制度改革を促す上で有効である。

(2) 政治外交上のメリット

(イ) 経済分野での外交政策遂行上の戦略的柔軟性の確保

 EPA/FTAはWTOを補完するとの位置付けであるが、WTO交渉に比し、交渉相手が限られているので機動的な取組が可能となる面がある。WTO交渉は長期間に亘る可能性があり、また、結果が当初日本が想定していたものより限定されたものとなる場合もあるので、EPA/FTA交渉を並行して行うことは、WTO交渉における交渉力を増大させる面があるのみならず、EPA/FTA交渉の結果もたらされる自由化及びルール創設をWTOへ広げていくことで、WTOの交渉を加速化させることが可能である。例えば、投資ルールは途上国において慎重論が依然が強く、WTOにおける多国間ルールの策定の是非につきコンセンサスが出来ていないが、EPA/FTAにより一定のルールのもつメリットについての理解が途上国により深まれば、これを普遍化する多角的ルールへと転換していく過程がより容易になる面もあろう。現に二国間の枠組みであれば投資ルールを受け入れても良いと考える途上国は多い。限定的局面から徐々に新しい制度に成熟していくというアプローチは、新しいルールをより小さい抵抗でもって導入することを可能とする。演繹的アプローチに抵抗がある場合でも経験的アプローチには抵抗の少ない面もあると考えられるのである。

(ロ) 経済的相互依存と政治的連携の強化

 欧州が市場統合を深化・拡大させ、また米州において米国を中核にNAFTA、さらには中南米へと経済連携を拡大させている背景には、単に市場統合による経済的利益のみならず、相互の経済的相互依存を強化することによって、政治的連帯と信頼を増進させ、もって地政学的ないし戦略的な意味での一体感を形成する効果があるからである。つまり経済的連帯と政治的連帯とは表裏の関係にあるのであり、経済的相互依存を深めるためには相手を信頼する政治的基礎がなければならず、また、経済的相互依存を深めていくアプローチを志向することによって政治的な信頼感も生まれてくると言える。多くの地域協力の序章が経済面での協力(法的枠組みとしては貿易・投資の自由化のレジーム)に始まる傾向が強いことは、歴史の示すとおりである。日本にとり、特に近隣の政治・経済パートナーとのEPA/FTAが地域の政治・安全保障環境を改善・強化する上で大きな意味を持ち得るのはこのような観点からである。

(ハ) グローバルな外交的影響力・利益の拡大

 欧州や米国が近隣の諸国とのEPA/FTAを越えて、地理的に遠隔なところにある一部途上国とのEPA/FTAを志向するのは、決して気まぐれからではない。米国が米州地域を超えてイスラエルやヨルダンとのEPA/FTAを結び、またいくつかのアジア、アフリカ地域とのEPA/FTAを探求したりしていること、あるいは欧州が東方へのEUの拡大と途上国とのEPA/FTA網の両方を構築を進めてきた背景には、これらの国の間の歴史的なつながりに加え、経済上の利益追求だけではなく、政治的・戦略的な考慮に基づく外交政策という面がある。日本としても、日本の安全と繁栄に重大な影響を持つ地域の発展に、安定的な経済発展の制度の構築を通じて貢献することで、国際的影響力及び発言力の強化を検討すべきである。

 また、そのような努力は、日本が、今後グローバルに、開発途上国に対し、ODA、貿易、投資の三位一体の開発戦略を今後展開していくとすれば、EPA/FTAもまたそのような開発戦略の中での重要な手段となり得る点も指摘されよう(詳細4.(3))。




*5     例えば、日メキシコFTAのインパクトについては、以下のような試算がなされている(出典:日メキシコ共同研究会報告書)。

○経済産業研究所(川崎博士)
 :日メキシコFTAによる関税引き下げの効果(単位:百万米ドル)
     日本    メキシコ
・輸出 +637.4(+0.13%) +1939.4(+1.68%)
・輸入 +1092.9(+0.26%) +1733.2(+1.70%)
・実質GDP +0.03% +1.08%
・資本蓄積 +0.05% +1.40%

○日本経済研究センター(2001年)
 :日メキシコFTAによる関税引き下げの効果
     日本    メキシコ
・実質GDP +0.10% +4.20%
・国民所得 +0.21% +5.36%

*6     例えば、日シンガポール経済連携協定の締結により、米国は16億ドル、EU/EFTAは12億ドルの経済厚生(貿易自由化から消費者が得る利益と定義)の向上といった副次的恩恵を受けるとの試算もある(なお、その際、日本は109億ドル、シンガポールは18億ドルの経済厚生の向上を享受するとの試算)。(ロバート・スターン=遠藤正寛 「日本の通商政策オプションの経済的評価と採用可能性」『エコノミックス』7, 2002年

*7     NAFTAやEUメキシコFTAの日本の経済的利益及び雇用に与える影響については、5.(2)(ロ)中南米諸国とのFTA/EPAの可能性を参照。



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