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日本のFTA戦略


5.EPA/FTAの戦略的優先順位(如何なる国と如何なるタイミングでEPA/FTAを結ぶのか)

(1) 判断基準

 以上述べてきたような、EPA/FTAの今日的意義、メリット、留意すべき点、交渉の対象(目指すべき姿)を踏まえて、日本としての戦略的優先順位を考えていく必要がある。その際の判断基準としては、以下が含まれよう。

(イ) 経済的基準(日本との貿易・経済関係がEPA/FTAによってどの程度伸び得るか、相手国の経済規模や発展段階、相手国の経済状況)

日本経済界からの要望への対応
他国のEPA/FTA構築による日本企業の不利益の解消
双方の経済活性化
国内構造改革・規制緩和へのインパクト
自由化が遅れている国への対応

(ロ) 地理的基準

(a) アジア域内の関係強化

地域の経済統合及びそれによる安定性強化
EU(及びEUのEPA/FTAネットワーク)及び米州自由貿易圏(EPA/FTAA)への対応

(b) 他の経済地域・国との戦略的関係強化

(ハ) 政治外交的基準

経済関係強化による友好関係強化
経済関係の外交戦略的活用(相手国との戦略的関係の変化による可能性を含む)
政治的安定性、統治能力、民主化の程度

(ニ) 現実的可能性による基準

予備的検討の熟度
センシティヴ品目の貿易量に占める割合
相手国の熱意
日本国内の要請

(ホ) 時間的基準

日本の交渉処理能力
WTO交渉との関係
政治・外交、経済的関係、実現可能性の変化
他国(地域)間におけるEPA/FTAの進捗状況

(2) 日本のEPA/FTA戦略~具体的検討課題~

 それでは、上記(1)の種々の基準を勘案した場合、日本として、具体的に如何なる国・地域とEPA/FTAを締結すべきなのであろうか。政治・外交及び経済の両面から考察する必要がある。政治・外交的には相互依存関係が深まっていながら、欧州、米州に比べ地域的なシステムの整備が遅れている東アジアにおいて、日本が主導する形で、地域の経済システムの構築整備を図ることが、日本及び東アジア地域の安定的発展にとり重要であることは論を待たない。また、経済的に見ても、東アジアの優先度が高いことは自明と言える。この関連で考えねばならないのは、EPA/FTAに様々な形態があろうとも、「実質的にすべての貿易」について関税等の撤廃を含まないEPA/FTAは考えられない、という点である。現在、日本は東アジア*15、北米、欧州の3地域を主要な経済パートナーとしており、この3地域が日本の貿易の8割を占めている。*16この3地域を比較すると、先進国同士の関係である北米、欧州に比べ、東アジアとのEPA/FTAが、更なる自由化を通じ最も大きな追加的利益を生み出すと言える。便宜的に自由化の度合いを計る目安として、関税率をとって見ても、日本製品に課せられる関税の額という観点からこの3地域を比較すると、大きな違いがあることが浮かび上がる。すなわち、これら地域・国の単純平均した関税率は、米国が3.6%、EUが4.1%なのに対し、中国は10%、マレイシアは14.5%、韓国は16.1%、フィリピン25.6%であり、インドネシアに至っては37.5%となっており、日本の産品は最も貿易額の多い東アジア地域において最も高い関税を課されているのである*17

 日本の製造業は既にASEANや中国との競争に晒され、多くはその生産拠点を人件費の安い東アジアを中心とした地域に移している。海外展開している企業の部品、資本財の日本からの調達を容易にする上でも、また、国内で活動を継続する企業、特に最終製品や部品等を同地域に輸出する企業の立場に立っても、東アジアの自由化を進めることは円滑な企業活動に資する。関税率をはじめ、貿易上の障害の除去はWTO交渉を通じた多国間の枠組みにおいても実現を図るものであるが、現実的には、多国間の枠組みのみをもって早急且つ大幅に引き下げを達成することは容易ではない。そして、ここに関税の撤廃に代表される貿易自由化を通じた経済規模の拡大というFTAの本来の趣旨が生きるのである。

 冒頭の問いかけへの答えはここにある。即ち、日本がEPA/FTAを進めていく際、考慮すべきは、地域システムの構築による広い意味での政治的・経済的安定性の確保であり、かつ、緊密な経済関係を有しつつも、比較的高い貿易障壁の存在故に日本経済の拡大の障害の残る国・地域とのEPA/FTA締結の優先性である。そしてかかる観点からは、言うまでもなく、東アジアが有力な交渉相手地域となり、さらに「現実的可能性による基準(上記(1)(ニ))」や「政治外交的基準(上記(1)(ハ))」にかんがみれば、韓国及びASEANがまず交渉相手となる(詳細は以下(イ))

 同時に、FTAを考える場合上述のような特定地域との総合的政治・経済関係の強化が唯一の基準ではない。特定の国との政治的な配慮による関係強化の手段としてのEPA/FTA、経済的な不利益の解消の手段としてのEPA/FTAも検討すべきである。この点に立てば、メキシコは、同国がNAFTA及びEUとのFTAを締結したが故に、日本企業は相対的に高い関税を支払わされていること、メキシコのNAFTAにおいて占める地位にかんがみれば、早急な対応が求められる対象と言える。

(イ) 日中韓+ASEANが中核となる東アジアにおける経済連携

(a) 基本的認識

 上述したとおり、日本周辺の東アジア諸国・地域を最も戦略的に優先度の高い目標とすべきは疑いのないところである。

 とりわけ、中国の経済発展に伴う中国への投資の増加や中国産品の国際競争力の向上といった現実を踏まえ、中国が東アジアの経済システムに調和的に統合され、日本をはじめ韓国やASEAN諸国との国際的分業体制の中で、東アジア全体のダイナミックな発展に積極的に貢献していくような体制の構築が重要である。このため、如何にして、どのような時間的枠組みとアプローチで、日中韓+ASEANを中核とし、さらには大洋州を視野に入れた東アジアにおける経済連携を実現していくか十分な検討を行うことが必要となっている。日本としては、東アジア全体の枠組みを最終的な目標として念頭に置きつつ、「現実的可能性による基準(上記(1)(ニ))」や「政治外交的基準(上記(1)(ハ))」にのっとり、先ずは韓国及びASEANとのEPA/FTAを追求し、しっかりとした経済関係を構築していくことが重要である。そして中長期的には、そうした土台の上に、中国を含む他の東アジア諸国・地域とのEPA/FTAにも取り組んでいくことが適切である。

(b) 韓国

 韓国*18は隣国として、その政治的重要度、幅広い国民的接触に加え、EPA/FTAを通じた深い経済の相互依存関係を構築する必然性は大であり*19、相互の市場の開放による国内の活力の増進や企業の連携等、揺るぎない日韓関係の発展のためにも早期の交渉開始を目指すべきである。日韓FTAについては、両国シンクタンクにより共同研究が行われた後、両国財界人によるビジネス・フォーラムにより包括的な経済連携協定を目指すべきとの共同提言が出されている。また、日本経団連も日韓産業協力検討会を設置し、取り組んでいる。既に投資協定は署名済みであり、日本産業界からの要望も踏まえ立ち上がった産官学の共同研究会においては、具体的EPA/FTAのあり方につき突っ込んだ議論が行われている*20。共同研究を早期に終了し、明年の韓国新政権発足後、できる限り早く交渉に移行すべきである。

 また、今後、日中韓を中心とした東アジアの経済関係を如何に進展させるかにつき共通のビジョンを韓国と十分議論すべきである。とりわけ、日韓EPA/FTAの締結が実現した後の中長期的課題として、日中韓三国間の経済連携の可能性や東アジアにおける経済連携に向けた方策等につき議論を進めるべきである。

(c) ASEAN

 ASEANとの関係強化は日本の対アジア外交の基本の一つである。日本とASEANとの経済関係は貿易・投資や産業協力等の分野において重層的な関係として発展してきており、このような日ASEAN関係を一層強固なものとし、グローバル化の中で然るべく位置付けることは重要な政策課題である。中国もASEANとのEPA/FTAを締結すべく交渉を行っているが、日本としては、ASEANの経済的安定は東アジアの安定にとって不可欠の要因であるとの認識の下、ASEAN経済とのバランスのとれた関係をEPA/FTAを通じて図っていくべきである。東アジア全体の経済連携を達成するためにも、日ASEANのEPA/FTAは、東アジアにおける経済連携の中核となるべきなのである。

 なお、日本のASEAN諸国全体との貿易額は、米国との貿易額に次いで日本貿易相手として第2位に位置し、その95%は、シンガポール、タイ、フィリピン、マレイシア及びインドネシア(ASEAN5)が占めている*21。こうした事情は、日本の対ASEAN投資についても妥当している。この観点から、日本は、究極的にはASEAN全体との経済連携強化を視野に入れつつも、既にシンガポールとの間に先進的で包括的なEPAを締結していることから、先ずは日本との二国間EPA/FTAに積極的関心を示している主要なASEAN諸国(タイ、フィリピン、マレイシア、インドネシア等)との間で、日シンガポール経済連携協定の枠組みをベースにして、個別に連携の取組のための作業を早急に進めていくべきである。そして、二国間のEPA/FTAの仕上がり具合を勘案しながら、加入条項を含める形で何れかの時点からASEAN全体へと協定を拡大するプロセスに早急に入るべきであろう*22

 以上のような考え方から、カンボディア、ラオス、ミャンマー、ヴィエトナムに対しては、ASEAN統合イニシアティブへの支援や貿易関連キャパシティ・ビルディング支援等を引き続き積極的に行うことで、ASEANの一体性に十分な考慮を払うとともに、これら諸国との間で将来的に先進的な内容のEPA/FTAを締結できるよう下準備をしておくべきであろう。

(d) 中国・香港

 小泉総理がボアオ・アジア・フォーラムに際し述べられたとおり、中国のダイナミックな経済発展は日本にとって「挑戦」、「好機」である。日中両国は、その発展段階の違いに着目した建設的な相互補完関係を構築することが可能であり、また、日本の産業の高度化を図る上での機会をもたらすものである。中国はWTOに加盟したばかりであり、当面はWTO協定に整合的な国内体制を整備するための経済改革に専念することが優先的課題であると考えられる。日本もそのための協力をすべきである。

 したがって、中国については、究極的には日中韓+ASEANを中核とする東アジアにおける経済連携を形成するとの観点(「地理的基準(上記(1)(ロ))」・「政治外交的基準(上記(1)(ハ))」)から将来的にはEPA/FTAの可能性を視野に入れつつも、当面はWTO協定の履行状況、中国経済の動向を含む日中関係全体の状況、また、WTO新ラウンドやASEAN、韓国とのEPA/FTA交渉の結果及び現実的可能性による基準((上記(1)(ニ))」)等を総合的に勘案し、方針を定めるべきものと思われる。

 香港は、極めて開放的な貿易・投資体制を有している。日本は既に投資保護協定を締結している。以上を踏まえ、日本の対外経済関係に占める重要な位置及び中国と香港の経済貿易関係にかんがみ*23、日中間の経済相互依存関係を展望するプロセスの中で、経済連携強化の方途についてEPA/FTAの可能性も排除することなく検討していくべきであろう。

(e) 台湾

 台湾は、WTO協定上、独立関税地域であり、他のWTO加盟国との間でWTO協定に規定される純粋な物品・サービスの貿易障壁の撤廃という形のFTAの締結の可能性は理論的・法技術的には検討の対象となり得るが、台湾の関税率(単純平均)は、全産品で6.1%、非農産品で4.8%であり、例えば仮にFTAを通じた関税撤廃を行ったとしても、かかる取組から双方が得られる利益はそれほど大きいとは言えない状況にある。したがって、そのようなFTAの締結を進めるよりも、むしろ、民間経済界の要望を踏まえつつ、幅広い経済関係を視野に入れながら、具体的な分野に即して経済関係の強化を図るべく検討していくことがより適当である。

(f) 豪・NZ

 豪州、NZは、日中韓+ASEANを中核とする東アジアの経済連携を拡大して「共に歩み共に進むコミュニティ」(2002年1月のシンガポールにおける小泉総理のスピーチより)を形成していくとの観点から、検討すべき国である。両国との関係では、農産物の扱いが極めてセンシティヴな問題として存在するが、両国が広義の東アジアにおける先進国であって、多くの点でわが国と価値観や利害関係を共有していることも事実である。

 特に豪州については、鉄鉱石、石炭、アルミ等の資源の大口供給国であり、政治的にも経済的にも重要なパートナーである。また、先進国同士であるため、先進的な経済連携のあり方を模索できるパートナーでもある。具体的には、2002年5月の日豪首脳会談の結果を踏まえて、両国間のより深い経済的繋がりのためのあらゆる選択肢を探求すべく政府間で経済協議を行っているところであるが、両国の経済界が提言しているように、包括的なEPA/FTAの締結を中長期的課題として検討しつつも、短期的には、相互に利益のある分野における連携強化を図るという二段階方式も一案だと思われる。

(ロ) メキシコ

 メキシコは、約1億人の人口を抱え、そのGDPはASEAN10に匹敵する大国であり、日本企業にとっては米州市場へのゲート・ウェイと位置付けられる。他方、メキシコはEPA/FTAによる選択的な特恵関係の構築を対外貿易政策の基本に据えているためにEPA/FTA締結済みの米・EUの企業に比較し、日本企業は不利な状況にある*24。したがって、EPA/FTA未締結による明白な不利益を抜本的に解消するためにも早急な交渉の開始が求められる*25

(3) その他の国・地域に関する予備的考察

(イ) 中南米諸国

(a) チリ

 チリは、1970年代より自由経済主義に基づく開放的な経済政策を推進しており、中南米諸国の中では貿易依存度が高い国である*26。このため、同国はWTOにおいて多国間のプロセスを推進すると共に、カナダやメキシコを始めとする米州諸国(計7カ国)とFTAを締結し、EUとも締結交渉を終えるなど積極的なEPA/FTA戦略も同時に進めている。従って、EUに続いて米国、韓国ともEPA/FTAを締結した場合、一定の貿易転換効果が生じる可能性は否定できない。また、中南米で最も政治経済の安定したチリと経済面を含め関係強化を図ることは日本の対中南米外交の観点から有益であることは言うまでもない。

 他方、チリの関税構造(原則、全産品一律7%のフラットな関税構造)及び2003年までには6%まで下げるとの方針にかんがみれば、上記のような貿易転換効果は限られたものになると見込まれる。また、日本とチリとの間の貿易額(35億ドル、第35位)、チリの主要輸出品(第1位の銅を除けば、加工食品、木材・チップ、果物、魚粉など農林水産品が中心)、我が方の交渉処理能力上の制約を考慮に入れれば、チリとのEPA/FTAを具体的に検討することは、中長期的な課題ではあるが、喫緊の最重要課題であるとは言いがたい。

 したがって、EUとのFTA及び米・韓との交渉の動きに然るべく対応すべく、どのような形でチリとの経済連携の強化を図ることが最も効率的か、例えば投資やサービスといった分野を中心とするのか、今後研究を開始していくことが適当と考える。

(b) メルコスール*27

 メルコスールは、その市場規模及び中南米地域における経済統合の牽引役であるとの観点から、日本にとって無視できない存在である*28。FTAA創設に向けた動き、開始済みのEUとのEPA/FTA交渉等にかんがみれば、日本企業が将来メルコスール諸国との間で、現在メキシコで直面しているような状況に陥り得る前に、メルコスールとのEPA/FTAの必要性を検討することには一定の意義がある。

 他方、かかる検討を行うに当たっては、ブラジル、アルゼンチンという域内二大経済国の経済政策及び経済情勢の推移を見ていくと共に、同地域にはアルゼンチン、ウルグアイのような農牧業への依存度の高い国が含まれていることも考慮に入れる必要がある。

(ロ) ロシア

 北東アジアにおける経済連携強化を図る上ではロシアも視野に入り得るが、同国との経済関係は未だ十分に活発な水準にはなく、サハリンから日本へのガス供給構想のような注目すべき個別プロジェクトはあるものの、当面、EPA/FTAのような包括的な経済関係協定の締結は時期尚早であり、個別案件を通じた関係を強化した後の検討課題であろう。EPA/FTAを通じロシアとの経済関係の強化を図るに際しては、ロシア国内における市場改革の進展やWTO加盟を実現した後、国内経済がどのように改革されるか、また長期的に日本との経済貿易関係がどのように発展していくか、東アジア経済の中でロシア経済がどう位置付けられるか、経済分野以外の分野での日ロ関係の状況等の要素を踏まえて検討していくことが前提となろう。

(ハ) 南アジア

 世界第二の人口を有するインドとの経済関係の強化は、その潜在的な市場規模から、日本として当然無視できない存在である。他方、潜在力がありながら、インドが内向的な体質をもった経済である点も考慮する必要がある。インドはWTOにおける自由化に慎重であることを考慮すると、包括的な自由化交渉に向けて準備が整っているとは言えない面がある。したがって当面は、インドとASEANとの経済関係の強化のように、インドがより近接した、また、発展段階も似通っている地域とどのような動きをするのか、その結果インドが国際経済にどのように統合されていくか注目していく中で、連携のあり方を考えることが適当と思われる。

(ニ) アフリカ支援

 4.(4)で記述のとおり、EPA/FTAを途上国支援の方途として用いることは理論的には可能であるが、仮にかかる協定の締結を考える場合には、当然ながら、日本企業にとっての利益(相手国市場の規模、貿易転換効果の有無等)の有無も考慮に入れる必要がある。したがって、アフリカとのEPA/FTAを具体的検討課題として検討するためには、まず南部アフリカ開発共同体(SADC)の様に一定の市場規模を持ち、且つ既に第三国(EU)とEPA/FTAを締結している地域との間で、具体的な経済関係の強化のあり方を検討し、さらにアフリカ連合(AU)が全体として関税同盟まで昇華した場合にAUとの間で如何なる協力が適当か考えるということであろう。

(ホ) 北米・EUとのEPA/FTAの可能性

 経済界の中には日米EPA/FTAを期待する声もある。日米関係は日本外交の機軸であり、日米EPA/FTAが実現すれば、かかる関係の更なる強化に貢献することになる。また、東アジアにおけるEPA/FTAを優先課題として追求する日本や東アジア諸国に対する無用の懸念を米など他の国に持たれないようにするという意味でも、日米間の更なる経済関係の強化は重要なポイントとなり得る。

 また、日・米・EUでバランスの取れた関係を構築するとの観点からは、EUとの間でEPA/FTAを通じた経済連携の強化を図るべきとする考えもあり得よう。特に、こうした姿勢は、日本における東アジア経済圏形成に向けた取組が、閉鎖的な経済ブロック作りではないことをEU等に示す上で有益である。
 カナダの産業界の一部には日本とのEPA/FTA締結を希望する声もあり、これに如何に応えるかは、中長期的な北米市場との関係のマネージメントという観点から、検討すべき課題である。

 結論として、米、カナダ、EUとのEPA/FTAは、農林水産物の取扱い等、相当困難な課題があるのが現実であり、当面の課題とし得る状況にはない(少なくとも、我が方が、一方的に農業分野を開放するとの選択肢は考えられず、日本として、かかる協定の締結を通じ相当の犠牲を払ってでも得られる代替利益としてどのようなものがあるのかきちんと検討する必要がある)。また、日米FTAについては、それが実現した場合、貿易転換効果があまりにも大きく、域外国にとっては負の効果が出やすいといった試算もなされていることから、かかるFTAを検討するに当たっては世界貿易全体の厚生といった側面も考慮に入れる必要があろう*29

 何れにせよ、日本のEPA/FTA戦略において日米関係、日EU関係を如何に位置付けるかは、WTOにおける交渉の推移も見据えながら東アジアEPA/FTA(特に日中韓+ASEAN)後の長期的な課題とし位置付けるべきであり、当面の間は、特定分野(例:相互承認)における枠組み作りや更なる規制改革対話等を通じた関係強化を図ることが有益と考えられる。




*15     本稿では便宜上、日本の貿易相手としての「東アジア」を以下の国・地域と位置付ける。
中国、韓国、香港、台湾、シンガポール、タイ、マレイシア、フィリピン、インドネシア

*16     日本の米国、EU、東アジアとの貿易(2000年)
(単位:億ドル)
  米国 EU 東アジア うち中国 全体
輸出 1429(29.7%) 785(16.3%) 1909(39.7%) 304( 6.3%) 4807
輸入 724(19.0%) 470(12.3%) 1508(39.6%) 443(14.5%) 3811
貿易額 2153(25.0%) 1255(14.6%) 3417(39.6%) 857( 9.9%) 8618
財務省『貿易統計』(通関ベース)

*17     単純平均の場合、日本の関税率は2.9%。
 なお、非農産品に対する関税率で比較した場合、単純平均で以下の通り。
 日本(2.3%)、米国(3.2%)、EU(3.9%)
 シンガポール(6.3%)、中国(9.1%)、マレイシア(14.9%)、フィリピン(23.4%)
 タイ(24.2%)、インドネシア(36%)、

*18     日本の韓国との貿易(輸出及び輸入)は、2000年の統計で512億ドル(第4位)。

*19     前述のスターン=遠藤(2002)によれば、日韓FTAの結果として、日本側に274億ドル、韓国側に32億ドルの経済厚生がもたらすと試算されている。

*20     『日韓FTAビジネス・フォーラム報告書』(2002年1月)

*21     日本の貿易相手先としては、往復(2000年版『通商白書』)で、マレイシア(7位)、シンガポール(8位)、タイ(9位)、インドネシア(10位)、フィリピン(13位)となっているが、これら5カ国の往復貿易額の総額は、米国に次ぐ第二位に位置し、韓国(4位)との貿易の約2.4倍、メキシコ(20位)との貿易の約16倍となっている。

*22     日ASEAN包括的経済連携構想を推進するに当たっては、北アメリカ自由貿易協定(NAFTA)も参考例とすることが出来る。すなわち、NAFTAとは、米加自由貿易協定を雛型としつつも、譲許の部分等詳細では各国間で異なる米加FTA、米メキシコFTA、加メキシコFTAの集合体であるが、対外的イメージとしては、あくまで「NAFTA」という経済圏であり、米加メキシコの個別の協定の集合体とは捉えられていない。

*23     日本の香港との貿易(輸出及び輸入)は、2001年の統計で約339億ドル(日本にとって香港は第6位、香港にとって日本は第3位)。

*24     NAFTAやEUメキシコFTAの日本の経済的利益及び雇用に与える影響については、以下のような推計がなされている(出典:『日メキシコ共同研究会報告書』(pp.11-12))。

(a) NAFTA発効以後のメキシコの輸入における日本のシェアは低下しており、NAFTA締結時のシェアが現在も維持されていた場合に比べ、約3,951億円相当の輸出が逸失したと計算され、これは日本国以内の総生産6,210億円分の現状、国内雇用31,824人分の喪失につながると推計される。
(b) FTAがないための関税負担により日系企業はメキシコにおける発電プラント・プロジェクトの受注が事実上困難となり、この結果、今後年間1,210億円が逸失すると計算され、これは日本国内の総生産1,966億円分の減少、10,571人分の雇用喪失につながると推計される。
(c) メキシコに進出している某日系メーカーは2000年より部品130億円分の調達先を日本からNAFTAに切り替えたが、これは日本国内の総生産330億円分の減少、1,381人分の雇用減少につながると推計される。

*25     前述のスターン=遠藤(2002)によれば、日メキシコFTA締結の結果として、日本側に63億ドル、メキシコ側に19億ドルの経済厚生がもたらすと試算されている。

*26     貿易総額の対GDP比は約5割。

*27     メルコスール(南米南部共同市場):ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイの4カ国から構成される関税同盟。

*28     メルコスール全体との貿易総額は、2000年の統計で約70億ドル(全体の約0.8%、21位のベルギーに次ぐ額)であり、さほど大きいとは言えないが、国民総所得(GNI)では4カ国合計で約9100億ドルと、ASEAN全体(約5400億ドル)の約1.6倍、韓国(約4200億ドル)の約2.1倍となっており、市場の潜在的規模は大きいと言える。

*29     田秀次郎・日本経済研究センター編『日本のFTA戦略』 p.64



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