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日本のFTA戦略


1.なぜEPA/FTAか?

(1) 外交・安全保障と自由貿易体制

 冷戦終了後、経済のグローバル化がIT化とともに急速に進展する中で、各国経済は、従来にも増して厳しい競争に直面することとなった。各国は発展段階や政治・社会的条件による課題の違いはあれ、いずれもそのような競争に対応し得る効率的で強靱な開放的経済構造に転換していく必要に直面している。世界は「改革競争」の時代に入ったのである。そしてこのような状況に的確に国家として対処することは、国家・国民の繁栄を維持すると同時に、外交・安全保障上の力を最大限に発揮する上でも重要な要素となっている。

 他方、富める国とそうでない国との乖離が拡大し、冷戦時代における南北問題とは異なる形での南北の問題が再浮上している。これをこのまま放置すれば、世界の平和と安全にとっての不安定要因になり得る点も指摘されよう。テロを生む温床としての貧困の問題も深刻な課題として浮上している。したがって、グローバリズムの進展により開発途上地域に経済の悪化や貧困層の拡大による不安定要因が発生しないよう、経済面では開発援助、貿易、投資の三位一体となった包括的取組が、途上国経済の発展を図る上で益々重要となっている。この取組を考えるに当たって、どの国・地域に力点を置くかは、その国を取り巻く状況により当然異なってくる。その意味で、互恵的関係を戦略的に構築していくことは新時代の国際安全保障政策の重要な一環である。

 このような世界的レベルでの経済の構造改革と南北協力戦略を追求していくための基本的視座は、自由貿易体制の維持・強化でなければならない。そして、その中核となるのが、WTOの下での多角的自由貿易体制の強化とこれを補完する二国間ないし地域的EPA/FTAの下での自由化の実現である。

(2) WTOの補完としてのEPA/FTA

 戦後、日本は多角的貿易体制の下、世界貿易の自由化による拡大のメリットを最大限活用して大きな経済発展を遂げてきた*1。対外貿易の日本経済に占める重要性から見ても、これは新世紀においても変わることのないメリットである。多角的貿易体制を通じたグローバルなルールの維持・強化の下での貿易の拡大は引き続き日本の最重要外交課題の一つである。

 同時に、WTOが「重たい組織」になってきたことにも留意しておかねばならない。WTOは、その成功故に、多くの途上国・移行国が加盟を希望し、今や加盟国が144カ国を数え、途上国の影響力が飛躍的に増大している。特に先進国主導でこれまで進んできたグローバル経済の進展が、必ずしも自分たちにとり有利なものではなかったとの不満をもつ途上国は、自由化に対する消極的姿勢を強めつつある。加えてWTOがウルグアイ・ラウンドの結果、そのカバーする分野を飛躍的に拡大したこともあり、加盟国間の利害調整が複雑化し、新たな課題やルール策定に迅速に対応することが困難となりつつある。

 また伝統的に貿易交渉の対象であった市場開放の分野においても、GATT時代には、貿易障壁の高低が関税率という数値指標で表示できるため、各国間の比較が容易であり、多数国間であっても交渉をまとめやすかった事情があるが、現在では、各国経済の相互依存関係の深まりと交渉対象の拡大という主として2つの理由から、例えばサービス貿易に典型的に見られるとおり、交渉対象となる貿易上の障壁が各国の制度に内在したものとなり、その障壁の高低の比較がより困難になってきていると言える。

 世界経済のブロック化を避け、共通のシステムの上に立った経済運営をしていく上でWTOの果たす役割は依然として大きい。他方、各国間の経済関係には自ずと濃淡がある。WTOを巡る前記のような状況を踏まえ、特定の国、或いは地域と日本の経済、政治関係の特性に着目して、WTOで実現できる水準を超えた、或いはWTOではカバーされていない分野における連携の強化を図る手段としてFTA又はEPA/FTAを結ぶことは、日本の対外経済関係の幅を広げる上で意味は大きい。日本にとって好ましい対外経済関係を構築するとの目的を達成する上で、WTOと地域的なFTA又はEPA/FTAは相互に補完しあう関係にある。日本としてどのような場合にFTA又はEPA/FTAを結ぶのか。そのもつ意義を明確にし、活用すべきである。

(3) 世界におけるEPA/FTAの潮流

 FTA網の拡大が1990年代以降顕著である。世界における状況を見れば、WTOに通報されているもので約140あり、そのうち実に90以上が90年代、30近くが2000年以降と加速度的に増加している。そして、これらの多くが優れて経済上及び戦略上の利益から推進されていることに留意する必要がある。実際FTA或いは関税同盟という地域貿易協定内の貿易量・額は、例えばEU、NAFTA、AFTAのそれぞれの域内貿易だけでも合計で世界貿易全体の33.6%を占めるに至っているという事実に着目する必要がある*2

 歴史的には地域貿易協定はベネルックス(ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ)のような地理的に接しており、国境貿易を含めて、人や財の移動が一国内と同様に行われている地域的に限定されたものであった。GATTで当初想定されていたのも、そのようなものである。しかしながら、EC(その後のEU)の形成とその拡大、NAFTAの形成を経て、大型の地域貿易協定が登場するに及び、地域貿易協定がGATT・WTO体制そのものに影響を与える存在となった。また前項で記述したようなWTOを巡る状況の変化も影響して、地域貿易協定をWTOにおける貿易政策を補完するもの、或いは双方を使って自国にとって最も有利な形で、貿易政策上の目的を達成しようとする国が増大していることが近年のEPA/FTA等の世界的拡大の背景にある。途上国の中には、WTOにおいて最恵国待遇を与える形で踏み込んだ自由化をすることを嫌い、むしろEPA/FTA等を通じて、特恵的な形で選択的に自由化をする政策を採っている国も登場してきた。

 EUは、欧州経済共同体が6カ国で発足して以来、加盟国を拡大するとともに、いくつかの同心円を描く形で、EUに対する経済依存度の高い、周辺の途上国、或いは旧植民地と地域貿易協定の網を形成し、一つの大きなシステムを作って来た。さらに、中南米に対し、米国の動きに対抗し、或いは牽制する意味からEPA/FTA交渉を展開した。EUは、今次ラウンド交渉期間中は現状以上のEPA/FTA網の拡大は考えていないと述べているが、EU自身の東方拡大に伴い、ロシアとの関係については、ラウンド後も見据えつつ、連携の強化を検討している。実に、ECは世界最大のEPA/FTA締結主体である(WTO通報ベースで31)。

 米国は、国境を接している加メキシコ両国とのNAFTAの締結を別とすれば、政治的配慮もあり対象国の経済の安定を図ることを主眼に結んだイスラエル、ヨルダンを別として、EPA/FTAについての動きはEUに比べれば、長い間限られたものであった。これは一つにはGATT体制下においては、多角的貿易体制の中で相当程度米の意向を反映した交渉を実現できてきたからである。しかしながら、そのような状況に変化が見られる。貿易促進権限法(TPA)を取得した米政府は、中南米全域を対象とした米州自由貿易圏(FTAA)交渉をはじめ、WTOを中心とする多国間の取組とEPA/FTAによる二国間の取組を組み合わせた積極的対外政策をこれまで以上に強く推進する姿勢を見せており、FTAAに加え、チリ、シンガポール、豪州、南部アフリカ関税同盟諸国(SACU:南ア、ボツワナ、ナミビア、レソト、スワジランド)、モロッコといった国々とのEPA/FTA確立を目標に掲げている。

 このような世界の潮流の中で、東アジアにおけるEPA/FTAの動きはこれまで極めて緩慢であった。しかし、遅ればせながら域内の自由化(AFTA)を進めるASEAN諸国を中心にASEANと日本、中国、韓国、豪、NZとのEPA/FTAの動きが始まっている。日本はシンガポールに続いて、ASEAN全体との経済連携を視野に入れつつ、「日・ASEAN包括的経済連携構想」の枠組みの中で、タイ、フィリピン等のASEAN諸国とEPA/FTAの可能性を探る協議を進めている。また、メキシコとは近くEPA/FTA交渉を開始する見込みであり、韓国とは今後の交渉を念頭において研究を行ってきている。日本に対しては、この他、香港、台湾、豪州等のアジア太平洋地域のみならず、スイスや欧州自由貿易協定(EFTA)からもEPA/FTA締結の希望が寄せられている。

(4) EPA/FTAの日本にとっての戦略的意義

 EUが東方への第一陣の拡大の実現を、域内の締結のための手続も含めて2004年を目指して進めていること、米が交渉しているFTAAの期限が2005年であることと、WTOの新ラウンドの交渉期限が2005年1月1日であることは偶然ではない。EU、米は自国を中心とした大規模な地域経済貿易網の構築とWTOの交渉の両方を睨んだ政策を追求している。今回の新ラウンドはこのような、大規模地域統合がEU、米を中心に構築される前の最後の多角的貿易交渉と言える。EU、米に次ぐ経済規模を持つ日本として、そのような世界的経済貿易体制の構築の動きの中で、単にWTO交渉のみならず、EPA/FTAの動きも視野に入れた対外経済関係の強化を、当然考えなければならない。

 その際、既に述べたように、WTOを通じて世界全体を対象に追求して行くべき対象と、特定国・地域との関係の特性に着目して、より高度な経済関係を構築すべき対象を分けて考える必要がある。また、EPA/FTAという形での経済連携の枠組みを構築することが最も効果的である対象と、少なくとも当面はそれとは異なる形での経済関係の強化を追求する対象とを分ける必要もある。さらにEPA/FTAの締結交渉が多大な労力を伴うものであり、同時に多くの国とは進められないこと、またEPA/FTAの締結が日本の経済にも影響を与えるものであることから、時間的な優先順位も当然考えなければならない。FTAを考える際、日本にとり最も重要なパートナーの一つであり、既に包括的かつ緊密であり、同時に成熟した経済関係を有する米、EUとの関係をどう考えるかも重要なポイントである*3

 EPA/FTAを考える場合は、以下を検討すべきである。

(イ) まず第一に、これが互恵的なものとなるためには、対象とすべき主たる相手は、日本の経済と既に深い相互依存、補完関係にある国・地域であること。同時にEPA/FTAが双方向で作用する形で構造調整を促し、より効率的経済を築くことを目指すものである以上、対象となる国において国内的に準備が整っている状況にあることが求められる。同時に対象を選ぶ際には、単に、経済的に安定し、予見性を与える枠組みの形成を目指すということだけではなく、EUの例を見ても明らかなように、EPA/FTAを通じ、地域の政治的安定性を達成することを念頭に置くことも重要である。

(ロ) EPA/FTAの主たる目的は経済活性化効果、貿易創出効果を通じた経済の拡大である。EPA/FTAがそれを可能にするのは、より自由化された、より規模の大きな経済を提供するからである。自由化された一定規模以上の経済の実現は、周辺諸国が、それへの参加に利益を見いだすという過程を通じて、更なる規模の拡大をもたらし、それにより規模の経済のメリットを得ることが出来るからである。そのような経済関係となることを目指すべきである。

(ハ) EPA/FTAは互いの経済改革を促し、競争力強化に資する制度を構築することを制度的に促進する効用もある。

(ニ) 前述のように地域統合が世界の流れになりつつある中で、国際場裏では、地域の総意としての発言が、一カ国の発言より政治的重みを増しているという現実がある。そのような現実を踏まえれば、国際社会の議論の流れに偏向が生じた際にそれを正す上で地域の総意を背景にもつことは国際的発言力の強化につながることも、EPA/FTAを考える際重要な要素である。

(ホ) 以上のような能動的な機能に加えて、FTAによる特恵的関係の構築を貿易政策の中心においている国に対しては、日本の国民、企業が不利益を被らないようにFTAを結ぶ必要性も考えなければならない。このような防御的FTAについても、その必要性、緊急性を踏まえて対象を判断していく必要がある。

(へ) さらには、日本経済との統合を進める中で、日本にとり重要な途上国の経済基盤の強化を図ることも考慮に値する要素である。

 以上のような基準を念頭に置いた場合、特に重要なのは東アジア地域である。日本の安全保障にとって大洋州を含めた東アジアの安定と発展は極めて重要な課題である。同時に、東アジアとの経済関係の深さに鑑みれば*4、EPA/FTA等による幅広い連携の強化を通じ経済の統合・調和を図ることは、地域の安定にも繋がり、日本にとって大きな利益となる。

 これまで東アジア地域の経済発展は主として日本を中心とし、これにNIES、ASEAN諸国が加わった貿易、直接投資をはじめとする経済の相互依存関係の中で達成してきた。しかし、アジアの経済危機によるアジア各国・地域の経済の停滞や、高い経済成長を続ける中国及び台湾のWTO加盟という新たな状況が生じる中、日本として、如何に東アジアに相互に安定的かつ開放志向の近代的な経済体制を構築し、同地域の安定と繁栄のための制度的連携を早期につくり上げて更なる発展につなげていくかは、対アジア外交上の重要且つ緊急の課題と言っても過言ではない。




*1     WTOの統計によれば、世界貿易の額は1948年の3040億ドルから2000年の6兆6270億ドルへ年平均6.1%の伸びがあった。

*2     浦田秀次郎=日本経済研究センター編『日本のFTA戦略』日本経済新聞者、2002年、p.14 図表1-4

*3     なお、米、EUとは、お互いの経済の規模の大きさに鑑み、日本として、これらの経済との特恵的(である以上排他的側面を含む)EPA/FTA締結が世界経済に及ぼす影響に鑑みれば、EPA/FTAを考えるよりは、二国間の協力の枠組み、或いはWTOでの協力を通じて世界全体のシステムの強化につき、協力をしていくべきであると考える(詳細5.)

*4     詳細については5.(2)を参照。



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