6.科学技術分野の国際協力

科学技術は国防力・経済力・産業力などの国力の源泉であり、また環境・気候変動、経済危機、エネルギー問題等に日本と国際社会が対応する上でも、その重要性と国際協力の必要性はますます高まっている。科学技術は、イノベーションと生産性向上等を通じた経済成長及び、豊かで安心・安全な暮らしを可能にし、環境・気候変動、エネルギー・食糧需要の急増、感染症等の地球規模の課題に対する理解と洞察を深め、時に解決策を提供し得るからである。基礎研究から環境・省エネ技術、宇宙技術、ロボット技術まで、「科学技術創造立国」を目指す日本の科学技術に対する国際社会の関心と期待は高く、日本のソフト・パワーの源泉の一つともなっている。

日本は、主に先進国との科学技術協力を一層推進するための法的枠組みとして、10月にニュージーランドと、11月にECとの科学技術協力協定に署名したほか注1、締結済みの科学技術協力協定に基づき、二国間会合を開催し注2、政策や協力の現状確認、意見・情報交換及び今後の方向性や協力のあり方等を協議した。また、日本と開発途上国との間で地球規模課題に関する共同研究を進めるためのODA注3を拡充した。さらに毎年秋に京都で開催されている「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム)」に、各国からノーベル賞受賞者や科学技術担当大臣が多数参加する機会をとらえ、国際科学技術関係大臣会合を主催した。

巨大科学国際協力としては、日本はEUとともに熱核融合実験炉を建設・運用するイーター(ITER)計画を主導しており、気候変動とエネルギー問題が顕在化する中で究極のエネルギー源と期待されている。日本は池田要ITER機構長を支援しつつ、6月に同理事会を水戸で開催した。30年以上に及ぶ本計画では、参加7か国・地域による技術面、政治・財政面における協力が必要である。

今日の経済・社会生活にとって不可欠となっている宇宙開発利用分野では、1月に世界初の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」の打ち上げに成功した。気候変動のより精緻な観測・分析への貢献が期待される。また、国際宇宙基地協力協定に基づき、米国、欧州、ロシア、カナダとともに参加している国際宇宙ステーション(ISS)計画では、日本初の有人実験施設「きぼう」を完成させたほか、2010年に予定される米国のスペースシャトル退役以後ISSに大型機器を運ぶ唯一の補給機となる宇宙ステーション補給機(HTV)の打上げに成功した。ISSには若田宇宙飛行士が4か月以上滞在したほか、野口宇宙飛行士がロシアの宇宙船ソユーズで約5か月の滞在に向けて飛び立ち、日本人が定期的に宇宙に滞在する時代となった。なお、日本は国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)に参加して国際的な規範づくりを推進し、また、アジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)を主導して地域協力を推進している。

以上のような「科学技術外交」・「宇宙外交」の積極的な展開は、総合科学技術会議による提言や6月に決定された宇宙基本計画においてもうたわれている。外務省としても、そのための基盤・体制強化の一環として、東京及び主要海外都市における日本の関係機関による連絡会の開催、在外公館の科学技術担当官の指名、海外の科学技術関係機関・研究者等との関係構築等を積極的に推進している。

国際宇宙ステーション(ISS)で活躍する若田宇宙飛行士(左)(写真提供:NASA/JAXA)
国際宇宙ステーション(ISS)で活躍する若田宇宙飛行士(左)(写真提供:NASA/JAXA)

(注1)日本は、45の国・機関と科学技術協力協定を締結又は署名している。 

(注2)2009年には、スイス、英国、フランス、スウェーデン、ブラジル、ベトナム、韓国、ドイツ、ノルウェーとの間で会合を開催した。

(注3)地球規模課題対応国際科学技術協力ODA事業:開発途上国のニーズに基づき、環境・エネルギー、生物資源、防災、感染症対策などの分野で、外務省、(独)JICA、文部科学省、(独)科学技術振興機構(JST)、(独)日本学術振興会(JSPS)の連携により、対象国の大学・研究機関と共同研究や能力向上支援を実施する。共同研究は2008年度12件、2009年度21件を採択。