1. |
米国 |
(1) |
日米同盟関係 |
イ |
日米首脳・外相間の取組 |
日米両国間では、首脳レベルをはじめ、あらゆるレベルで相互の信頼関係の強化と緊密な政策協調が行われている。2007年4月に安倍総理大臣が訪米した際には、ブッシュ大統領との間で「かけがえのない日米同盟」を確認し、日米同盟に立脚して東アジアの諸課題に対処すること及び幅広い分野における協力を強化することで一致した。安倍総理大臣はペローシ下院議長をはじめとする米国連邦議会指導部の議員と会談を行い、出席した議員は一致して、日米同盟の重要性については、米議会において党派を超えてコンセンサスがあるとの趣旨を述べた。また、G8ハイリゲンダム・サミット及びシドニーAPECの際に行われた日米首脳会談においても、安全保障や経済をはじめとする幅広い分野において「かけがえのない日米同盟」を一層強化し、北朝鮮、気候変動、「テロとの闘い」等に取り組んでいくことで一致した。
9月に就任した福田総理大臣は、所信表明演説において、日米同盟は日本外交の要であり、両国の信頼関係の一層の強化を図ることを強調した。福田内閣が発足したその日に高村外務大臣が訪米し、ライス国務長官と会談を行ったことは、こうした福田内閣の方針を示すものであった。ライス国務長官からは、日米関係はこれまでも良好であったが、過去と比べても一番良い状態であると感じている旨の発言があった。
11月には、福田総理大臣は、東アジア首脳会議(EAS)等への参加に先立ち、総理大臣就任後の初の外遊先として米国を訪問した。ブッシュ大統領との首脳会談では、日米同盟は、日米両国がアジア外交を展開する際の要であるとともに、日米がグローバルな諸課題に対処していく上で、不可欠の役割を果たしているとの認識を共有し、この同盟を一層強化していくことで一致した。また、日米同盟とアジア政策の「共鳴」について、福田総理大臣より、強固な日米同盟をよりどころにする積極的なアジア外交によって実現されるアジアの発展は日米共通の利益である旨述べ、ブッシュ大統領から賛同を得た。G8北海道洞爺湖サミット及び第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)に向けて気候変動等に関して協力関係を更に強化するとともに、北朝鮮への対処、「テロとの闘い」について引き続き緊密に連携していくことで一致した。さらに、福田総理大臣は日米交流強化のためのイニシアティブを表明し、福田総理大臣主催の日米交流懇談会が開催された。
ロ |
日米二国間の課題への対処 |
日米両国は幅広い分野において緊密に協調・協力している。日米二国間の課題としては、在日米軍再編、弾道ミサイル防衛(BMD)(第3章第1節1.「日米安全保障体制」を参照)、米国産牛肉輸入問題(本節1.(2)「日米経済関係」を参照)等が挙げられる。
ハ |
地域・国際社会が直面する課題への共同の取組 |
(イ) | 戦略対話を含む日米間の政策協調 |
日米両国は、地域・国際社会の直面する諸課題について、中長期的観点からの情勢認識や共通戦略のすり合わせの場として、戦略対話を行っている。7月及び12月にはワシントン及びキャンベラにおいて日米戦略対話高級事務レベル協議を開催し、北朝鮮を含むアジア情勢、イラン、「テロとの闘い」、パキスタン、国連安保理改革等について議論を行うとともに、引き続き本協議を行っていく重要性を再確認した。
またその機会に、アジア太平洋地域における平和と安定の促進という共通の戦略的利益を有する日米豪3か国による日米豪戦略対話高級事務レベル協議を開催し、3か国の連携と協力の拡大に努めた。
(ロ) | 北朝鮮問題に対する取組 |
北朝鮮問題については、2006年12月の第5回六者会合第2セッションの休会後、日米が緊密に連携・協力したこともあり、2007年2月の第3セッションにおいて初期段階の措置に関する成果文書が採択された。2月に来日したチェイニー副大統領との間では、この合意は正しい方向に向けた第一歩であり、今後とも日米の緊密な連携が重要であることで一致した。4月の安倍総理大臣の訪米では、六者会合を通じて北朝鮮の核兵器・核計画の完全な放棄を実現することを首脳レベルで確認した。6月のG8ハイリゲンダム・サミットの際の日米首脳会談で、北朝鮮に対する強いメッセージを出す必要があることで一致し、同サミットの議長総括にも反映された。11月に訪米した福田総理大臣は、ブッシュ大統領との間で六者会合共同声明を全体としてバランスよく実施することが重要であるとの点で一致し、引き続き日米で緊密に連携していくことを確認した。また、拉致(らち)問題については、米国からは首脳レベルを含め一貫して日本政府に対する支持が示されている。
(ハ) | 「テロとの闘い」に対する取組 |
「テロとの闘い」についても、日米は、引き続き緊密に連携している。「テロとの闘い」は国際社会の最重要課題であり、日本自身の国益にかかわるとの認識の下、日本はインド洋における補給支援活動を通じてその一翼を担ってきた。11月の日米首脳会談において、両首脳は、アフガニスタンを再びテロの温床にしてはならないとの認識の下、引き続き「テロとの闘い」に取り組んでいくことで一致し、その際、ブッシュ大統領は、これまでの日本による国際社会の「テロとの闘い」に対する支援への謝意と同月1日に中断した補給活動の再開への期待を表明した。
このほか、日米両国は、出入国管理・交通保安体制の強化、国際的法的枠組みの強化、テロ資金対策等のテロ対策に関する協力の継続を行っている。
(ニ) | イラク復興支援に対する取組 |
イラクの復興は、中東地域のみならず国際社会全体の平和と安全にかかわる問題であるとともに、エネルギー供給の確保及び「テロとの闘い」の観点からも国際社会にとって重要な課題であり、日米両国はイラクの復興支援においても主導的な役割を果たしてきた。日本は、約50億米ドルのODA支援の着実な実施、約60億米ドルの債務救済、航空自衛隊による輸送支援の継続、国民融和の促進の取組等を行ってきた。米国は、1月に対イラク政策の見直しを発表し、治安回復支援のため約2万人の追加派兵を実施した。この結果、一部地域に治安の改善が見られるようになった。また、11月にはイラクとの長期的協力・友好関係に関する原則宣言を発表し、イラクとの一層の関係の強化で一致した。日米は、こうした努力を行う中で、様々なレベルで情報共有と政策協調を行い、緊密に連携してきている。4月の日米首脳会談においては、日本はイラク復興に向けた米国の努力を理解・支持する旨表明し、米国は日本の貢献に高い評価をする旨述べている。
(ホ) | 気候変動問題に対する取組 |
気候変動問題については、4月以降に行われた日米の首脳・閣僚級の対話のすべてにおいて主要議題としてとりあげられた。日本からは、2013年以降の枠組みについて、[1]すべての主要排出国が参加、[2]柔軟かつ多様性のある枠組み、[3]経済成長と環境対策の両立という3つの原則に基づいて構築すべきである旨を説明した。米国は、京都議定書を批准していないが、気候変動対策には経済発展、エネルギー安全保障及び環境対策を統合したアプローチが必要であり、そのために特に革新的技術開発及び原子力の平和的利用が重要であるとの立場をとっている。日米両首脳の間では、温室効果ガス濃度の安定化に向けた具体的方途を両国が共に検討し、対話の強化と対話を通じて、実効性のある国際的枠組みの構築に向けて日米で協力し、2008年のG8北海道洞爺湖サミットで具体的成果を目指すことで一致した。こうした協力や国際的な関心の高まりが背景となり、最近の米国の積極的な取組が見られるようになっている。
ライス・米国国務長官(右)と会談する高村外務大臣(左)(9月27日、米国・ワシントン) |
(2) |
日米経済関係 |
近年の日米経済関係は、摩擦に象徴される関係から、建設的な対話を通じた協調の関係へと変ぼうを遂げてきた。
4月の日米首脳会談の際には、新興経済諸国の台頭が世界経済にもたらす影響を念頭に置きつつ、エネルギー、知的財産権、安全かつ円滑な貿易等のグローバルな経済課題での協力を強化することで一致し、「グローバル貿易、エネルギー及び環境に関する課題に対処するための日米協力」を発表、世界の貿易機会の拡大やエネルギー安全保障、気候変動対策の促進のために協力していくことを確認した。また、11月の日米首脳会談においては、経済成長を維持しつつ、地球温暖化防止とエネルギー安全保障を両立させるために、革新的技術開発の推進及び原子力の平和的利用を可能とするために協力していくことで一致した。
グローバルな経済課題に関する具体的な協力の現状は以下のとおりである。
[1]知的財産権:模倣品・海賊版の世界的な拡散は、日米両国の深刻な懸念事項であり、日米は協調してアジア等における模倣品・海賊版対策を促進するための取組を進めている。高いレベルの国際的な法的枠組みである「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)(仮称)」構想について、日米共同イニシアティブとして議論をリードし、早期実現に向けて取り組んでいる。
[2]エネルギー安全保障:気候変動への対応としても重要な、クリーン技術を含む革新的技術開発や原子力エネルギー分野を含むエネルギー源の多様化や、省エネ・エネルギー効率向上に関する二国間の協力や国際的枠組みにおける協力を進めている。
[3]安全かつ円滑な貿易:2001年9月の米国同時多発テロ以降、米国がセキュリティー対策を強化した結果、適法な貿易にまで効率性の低下やコスト上昇といった影響が及ぶようになった。このため、貿易の安全性向上と円滑な物流を両立させるべく、日米両国は7月にスタディ・グループを立ち上げ、様々な協力を推進している。また、セキュリティー関連制度の相互認証に向けた協議を開始し(6月)、メガポート・イニシアティブ(世界の主要港に放射線物質探知施設を設置する取組)の下での日米協力につき協議中である。
また、「成長のための日米経済パートナーシップ」(注1)の枠組みの下では、日米両国が双方向の対話を原則として「規制改革及び競争政策イニシアティブ」に取り組んでいる。2007年も各作業部会(注2)や次官級の上級会合を開催、6月の日米首脳会談にあわせて日米両首脳に対する第6回報告書をとりまとめ、公表した。10月には7年目の対話に関する日米の要望書の交換を行った。
また、12月の次官級経済対話(注3)では、二国間経済関係強化の在り方に加えて、両国が協力して対処すべき地域的課題やグローバル経済における課題について、両国の経済関係省庁の次官級が一堂に会し、率直な意見交換を行った。
二国間の個別案件として、米国産牛肉輸入問題については、2006年1月20日、輸入の認められていない特定危険部位(脊柱(せきちゅう))の含まれた子牛肉が日本に到着したことから、すべての米国産牛肉の輸入手続きを停止したが、同年7月27日、輸入手続きを再開するに至った。その後、2007年5月の国際獣疫事務局(OIE)総会において、米国の牛海綿状脳症(BSE)のステータスが「管理されたリスク国」と認定されたことを踏まえ、米国政府は現在の対日輸出条件の緩和を要求している。これを受け、米国産牛肉に関する日米間の技術的な会合を6月と8月に開催し、米国におけるBSE対策措置について意見交換を実施した。この会合の報告書をまとめて公表した後、輸入条件を見直す場合には、食品安全委員会に諮問することとなるが、政府としては、食の安全と消費者の信頼確保を大前提に、科学的知見に基づいて対応していくことが重要である。
(3) |
米国情勢 |
イ |
政治 |
ブッシュ大統領は、1月の一般教書演説において、民主党が多数となった議会との協調を呼びかけ、均衡財政、社会保障・医療保険改革、移民法改正等を求めるとともに、ガソリン使用量削減、代替燃料の導入推進、戦略石油備蓄の倍増等のエネルギー政策を打ち出した。また、外交政策関連部分のほとんどを「テロとの闘い」及びイラク政策にあて、これらが米外交の最重要課題であることを強調するとともに、イラクでの失敗はテロリストを勢いづかせ中東地域全域への紛争の拡大を招くとして、一般教書演説に先立って発表したイラク駐留米軍増派を含む新たなイラク政策への理解を強く求めた。さらに、イラク、イラン、中東和平、アフガニスタン、北朝鮮を含む重要な外交課題への対応を、諸外国と協力しながら進めていることを強調した。中東和平については、11月にアナポリスにおいて中東和平国際会議を主催し、キャンプ・デービッド交渉以来7年ぶりにイスラエルとパレスチナの間で、和平交渉を再開し、2008年末までに両者間で和平条約を締結すべくあらゆる努力を尽くすことに合意した。
連邦議会では、2007年1月から、それまでの共和党に代わって上下両院で多数党となった民主党が議会指導部及び委員会の委員長ポストをすべて占め、イラク政策や国内問題を巡ってブッシュ政権と議会が対立した。特にイラク戦費と米軍のイラク駐留について、民主党側がイラク戦費の歳出法案に米軍のイラクからの撤退時期を記した条項の附帯をたびたび試みているのに対し、ブッシュ大統領は拒否権の行使により、撤退時期の明記を拒否した。また、ヘルスケア関連法案及び移民法案等の内政課題についてもブッシュ大統領と議会との立場の相違が指摘されている。
現在の米国民の政治的関心の中心は、2008年11月の大統領選挙へと移っている。今回の大統領選挙には、現職ブッシュ大統領は憲法の三選禁止規定により出馬できず、チェイニー副大統領も不出馬の意向を示しており、現職の正副大統領が予備選挙及び本選挙に出馬しない選挙としては80年ぶりとなる。こうしたこともあり、例年より早く両党候補者の選挙をにらんだ動きが活発化した。同時に、州ごとに行う予備選挙の日程が全般的に前倒しされた。多くの州が同日に予備選挙を行い、そこで両党候補者の大勢が判明するいわゆる「スーパー・チューズデー」が2008年2月5日となり、その後各州での予備選挙を経て、8月下旬及び9月上旬には民主・共和両党の全国党大会が開催され、代議員投票により、各党の正副大統領候補者が選出される。11月4日には、有権者の一般投票に基づいて各州で大統領選挙人が選出され、事実上、新大統領が決定する。12月の大統領選挙人による投票の後、2009年1月6日に上下両院合同会議で開票が行われ、正式に新大統領が決定する。2009年1月20日には、新正副大統領の就任式が行われる。
ロ |
経済 |
米国経済は、2003年第2四半期以降、堅調な個人消費、民間設備投資の持続等により、2006年第1四半期までほぼ一貫して年率3%以上の成長を記録してきた。しかし2007年は、前年後半以降の原油等エネルギー価格の上昇等による一部個人消費の陰りや、インフレ対応として実施された金利の引上げ等による住宅市場の冷え込みにより、経済成長は以前の力強いペースからは緩やかなものとなっている。住宅価格の下落を引き金にして、サブプライムローン(低所得層向け住宅ローン(注4))の貸倒率が高まり、8月にはサブプライムローン関連の金融商品が大量に格下げとなり、それを発端にして、金融市場の逼迫という悪循環に陥った。経済成長の先行きについても、金融資本市場の変動等により不透明感が見られる。
金融面では、フェデラルファンド(FF)レート目標値は、1年近く5.25%に据え置かれていた。連邦準備制度理事会(FRB)は、原油を中心としたエネルギー価格が高止まりし、他の財サービス価格にも一部波及しつつあること等から、インフレ圧力を警戒しているものの、サブプライムローン問題を発端に金融市場が逼迫し大手金融機関も巨額の損失を計上する中、混乱を収拾するため、2007年9月から5回にわたり、計2.25%の利下げを行った。また、12月、FRBは欧州中央銀行(ECB)、スイス国立銀行(SNB)等、欧米の各国中央銀行と協調し、流動性を供給することで一致した。さらに大手金融機関にも中東の政府系投資会社から出資を仰ぐ等、資本増強の動きも出てきている。貿易面では、2007年度の商品貿易赤字(国際収支ベース)は、8,156億米ドル(前年比2.7%減)となり、6年ぶりに縮小した。このうち対日赤字は前年同月比6.5%減の828億米ドルとなり、4年ぶりに減少した。財政面では、2007年度(2006年10月から2007年9月)の財政収支は6年連続の赤字となったが、赤字額は、景気拡大に伴う税収増により歳入が2兆5,680億米ドル(前年度比6.7%増)と過去最大となったことから、前年度比34.2%減の1,630億米ドル(対GDP比1.9%)となった。なお、2009年までに財政赤字を2004年度財政赤字の当初見込み5,210億米ドル(対GDP比4.5%)から半分にするとの大統領公約は2006年度に前倒しで達成済みである。一方、イラクでの軍事費、景気対策、メディケア処方薬給付の増加や戦後ベビーブーム世代の高齢化による社会保障費の急増等、財政収支改善にとって否定的な要因も存在することに留意する必要がある。
雇用情勢は数年来堅調を維持してきたが、2007年後半から悪化してきており、2008年1月の雇用者数は1.7万人と、53か月ぶりに減少した。2007年通年では約113.7万人の雇用が創出(月平均約9.5万人増)された。
日米経済関係に関するデータ